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第14話「2022/10/08 ⑦」
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「ぼくはコヨミが好きだよ」
そう言って、ぼくは彼女にキスをした。
コヨミの大きな瞳から大粒の涙がこぼれ、
「うれしい」
ぼくはその涙を指で拭い、もう一度、彼女の唇にキスをした。
「わたしもずっとイズくんのことが大好きだった」
本当にコヨミのことが愛おしかった。
ぼくたちは唇が少し腫れてしまうほど、それから何度もキスをした。
それがただ性欲にまかせただけの行為であったなら、ぼくはそのまま彼女を押し倒して抱いてしまっていただろう。
そうすることが簡単にはできないほど、ぼくは彼女が好きだということに気づいてしまった。
もし今、コヨミと離ればなれになって過ごした中学時代の3年間や、再会してからの学校や駅からの登下校の時間しか会えなかった一年半を、もう一度やり直せと言われたら、ぼくにはもう無理だった。
きっとコヨミのことが恋しくて頭がどうにかなってしまう。
お互いに唇が腫れて少し痛くなり始めた頃、コヨミのお腹がぐぅと鳴った。
ぼくたちは正午に駅で待ち合わせをしていたのに、昼食を取ることをすっかり忘れていたのだ。
加速した時の中ではすでに8時間以上が経過していたから、実際には昼の一時前でも夕食を取る時間だとしても遅いくらいだった。
「こんなときにごめんね」
恥ずかしそうに頬を赤らめるコヨミはかわいらしく、愛らしかった。
「コヨミは悪くないよ。気がきかないぼくが悪い」
ぼくには、何かを食べて美味しいと感じたり、空腹という感覚があまりよく理解できないから配慮にかけていたな、と反省した。
ぼくひとりなら、いつも通り冷蔵庫に入っているゼリータイプやブロックタイプの栄養補助食品で済ませているところだった。
「わたし、何か作るね。キッチン借りてもいい?
こう見えてもわたし、結構料理得意なんだよ。冷蔵庫にある食材で大抵何でも……」
冷蔵庫を開けたコヨミは、そこに並んだ栄養補助食品を見て絶句した。
「そういえば、学校でもイズくんが食堂でご飯食べてるの一度も見たことないけど……」
コヨミは冷蔵庫の中身に、ちょっと、というか、かなり引いた様子で指さした。
「うん、学校でもいつもそれ」
ため息をつかれてしまった。
「イズくん? ちゃんとご飯は食べなきゃだめだよ?」
お母さんが子どもに言い聞かせるような口調だったし、ロリコがぼくにいつも言うような口調でもあった。
コヨミは、ぼくの手を引き部屋を出て、学生寮を出た。
8時間以上ふたりで部屋の中で過ごしていたのに、太陽はまだ空の真ん中にあり、加速した時の中にいるからだと頭ではわかっていても、何だか不思議だった。
「まずはどこかでご飯を食べよ?
その後スーパーに行って、お米とかお肉とか野菜とか買おうね。
わたしがレンジでチンするだけでいいように、一週間分作り置きしてあげるから」
「うち、炊飯器ないんだ。お鍋とかフライパンとか包丁とかも」
「わかった。うん、じゃあ、ご飯を食べたら、スーパーじゃなくてショッピングモールに行こうね?」
生活能力のない、手がかかる男だと思われていやしないか不安になったが、コヨミの今にも腕まくりをしそうなくらい張り切っている顔を見て少しだけ安心した。
けれど、一人暮らしをしている以上、いつまでも彼女に料理を作ってもらうわけにはいかない。これからぼくも少しずつ料理を覚えていかなければと思った。
コヨミは今は生活能力のないぼくを、しずかちゃんがのび太を結婚相手に選ぶように、わたしがどうにかしてあげなきゃと思ってくれているかもしれない。だけど、たぶんそれはいつまでも続かないし、いずれ彼女にとって負担にしかならなくなるのは目に見えていた。
彼女の気持ちに甘え続けていてはいけないと思った。
しかし、その日は結果として、外食をすることもショッピングモールやスーパーで買い物をすることも出来なかった。
そう言って、ぼくは彼女にキスをした。
コヨミの大きな瞳から大粒の涙がこぼれ、
「うれしい」
ぼくはその涙を指で拭い、もう一度、彼女の唇にキスをした。
「わたしもずっとイズくんのことが大好きだった」
本当にコヨミのことが愛おしかった。
ぼくたちは唇が少し腫れてしまうほど、それから何度もキスをした。
それがただ性欲にまかせただけの行為であったなら、ぼくはそのまま彼女を押し倒して抱いてしまっていただろう。
そうすることが簡単にはできないほど、ぼくは彼女が好きだということに気づいてしまった。
もし今、コヨミと離ればなれになって過ごした中学時代の3年間や、再会してからの学校や駅からの登下校の時間しか会えなかった一年半を、もう一度やり直せと言われたら、ぼくにはもう無理だった。
きっとコヨミのことが恋しくて頭がどうにかなってしまう。
お互いに唇が腫れて少し痛くなり始めた頃、コヨミのお腹がぐぅと鳴った。
ぼくたちは正午に駅で待ち合わせをしていたのに、昼食を取ることをすっかり忘れていたのだ。
加速した時の中ではすでに8時間以上が経過していたから、実際には昼の一時前でも夕食を取る時間だとしても遅いくらいだった。
「こんなときにごめんね」
恥ずかしそうに頬を赤らめるコヨミはかわいらしく、愛らしかった。
「コヨミは悪くないよ。気がきかないぼくが悪い」
ぼくには、何かを食べて美味しいと感じたり、空腹という感覚があまりよく理解できないから配慮にかけていたな、と反省した。
ぼくひとりなら、いつも通り冷蔵庫に入っているゼリータイプやブロックタイプの栄養補助食品で済ませているところだった。
「わたし、何か作るね。キッチン借りてもいい?
こう見えてもわたし、結構料理得意なんだよ。冷蔵庫にある食材で大抵何でも……」
冷蔵庫を開けたコヨミは、そこに並んだ栄養補助食品を見て絶句した。
「そういえば、学校でもイズくんが食堂でご飯食べてるの一度も見たことないけど……」
コヨミは冷蔵庫の中身に、ちょっと、というか、かなり引いた様子で指さした。
「うん、学校でもいつもそれ」
ため息をつかれてしまった。
「イズくん? ちゃんとご飯は食べなきゃだめだよ?」
お母さんが子どもに言い聞かせるような口調だったし、ロリコがぼくにいつも言うような口調でもあった。
コヨミは、ぼくの手を引き部屋を出て、学生寮を出た。
8時間以上ふたりで部屋の中で過ごしていたのに、太陽はまだ空の真ん中にあり、加速した時の中にいるからだと頭ではわかっていても、何だか不思議だった。
「まずはどこかでご飯を食べよ?
その後スーパーに行って、お米とかお肉とか野菜とか買おうね。
わたしがレンジでチンするだけでいいように、一週間分作り置きしてあげるから」
「うち、炊飯器ないんだ。お鍋とかフライパンとか包丁とかも」
「わかった。うん、じゃあ、ご飯を食べたら、スーパーじゃなくてショッピングモールに行こうね?」
生活能力のない、手がかかる男だと思われていやしないか不安になったが、コヨミの今にも腕まくりをしそうなくらい張り切っている顔を見て少しだけ安心した。
けれど、一人暮らしをしている以上、いつまでも彼女に料理を作ってもらうわけにはいかない。これからぼくも少しずつ料理を覚えていかなければと思った。
コヨミは今は生活能力のないぼくを、しずかちゃんがのび太を結婚相手に選ぶように、わたしがどうにかしてあげなきゃと思ってくれているかもしれない。だけど、たぶんそれはいつまでも続かないし、いずれ彼女にとって負担にしかならなくなるのは目に見えていた。
彼女の気持ちに甘え続けていてはいけないと思った。
しかし、その日は結果として、外食をすることもショッピングモールやスーパーで買い物をすることも出来なかった。
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