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第11話「2022/10/08 ④」
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「わたしとしたいこと、見つかった?」
ぼくがコヨミとしたいことが、コヨミがぼくとしたいことだと彼女は言ってくれていた。
だから昨晩ぼくは、明け方まで彼女と何がしたいか考えていた。
一応の結論が出た頃、コヨミを駅まで迎えに行く服を持っていないことに気付き、昼まで大慌てになっていたから、ぼくは一睡もしていなかった。
ぼくは一応思春期の真っ只中の男子だから、コヨミとしたいことではなく、コヨミにしたいことはいくらでもあった。
だが、それはぼくの欲望でしかなかったし、ぼくたちはまだ付き合ってはいないから違うと思った。
考えに考えた末、ようやく見つけ出したぼくの答えは、
「昔みたいにコヨミと手を繋いだりしたい。いっしょに昼寝したり、宿題を教えあったりとか」
小学生の頃、当たり前にしていたのに、高校生になって再会してから出来なくなってしまっていたことが、ぼくがコヨミとしたいことだった。
「昔はよく手をつないでお昼寝したね」
コヨミは小さな手でぼくの手を握ると、懐かしそうに微笑んだ。
「イズくんの手は今でもあったかいんだね」
「コヨミの手が冷たすぎるんだよ。夏にはちょうどいいけど」
「暑いときとか、わたしをクーラーや扇風機の代わりによく使ってたもんね」
「クーラーとか扇風機は言い過ぎ。保冷剤くらいだよ。
コヨミだって冬にぼくの手で暖をとってたろ?」
手を繋いだだけで、まるで小学生の頃に戻ったかのようだった。
コヨミはぼくの顔を覗き込むと、
「イズくん、ゆうべ眠れなかったんでしょう?」
繋いだ手とは反対の手の指先で、ぼくの目の下をなぞり、
「目の下に隈が出来てるよ。わたしとおうちデートするのが楽しみで眠れなかったの?」
意地悪そうに笑った。
「コヨミの宿題が難しくて眠れなかった」
ぼくが正直に答えると、
「一緒にお昼寝しよっか」
と、コヨミは言った。
「ソファーで?」
「イズくんのベッドで」
ぼくはまたからかわれているのだと思った。
一緒に昼寝をしたいと言ったのはぼくだったし、一睡もしていなかったから眠くて仕方がなかったが、コヨミとのはじめてのデートですぐに昼寝というのは気が引けた。
いくら加速した時の中で、24時間一緒にいられるとはいえ、それは彼女に失礼だと思ったのだ。
何よりぼくたち以外には誰もいない部屋のベッドでふたりで寝ることが、ぼくは怖かった。
理性を保てる自信がなかった。
「もう子どもじゃないだぞ」
ぼくがたしなめるように言うと、
「イズくんが、本当にわたしとしたいことをしていいんだよ?」
コヨミは女の子の顔ではなく、女の顔をしてそう言った。
はじめて見るその顔は、ぼくもコヨミも本当にもう子どもじゃないんだと思わされた。
心臓が早鐘のように鳴っていた。
早鐘は、火事など、火急の事件を知らせるために、激しく続けて打ち鳴らす鐘のことだけれど、ぼくの心臓を打ち鳴らしているのはコヨミなのだろうか。それともぼく自身なのだろうか。
ぼくはコヨミを抱きしめると、
「本当にいいの?」
と訊ねた。
はじめての相手がぼくでいいのか、という意味だった。
コヨミは手は冷たかったが、体はとても温かかった。
「イズくん以外の男の子となんて、考えたことないよ。イズくんはわたしじゃ嫌?」
「嫌じゃない。嫌じゃないけど」
うまく出来る自信がなかった。
こういうとき、怖いのは女の子だけだと思っていた。
でも違った。
本当に好きな女の子とするときは、男だって怖いのだ。不安になるのだ。
「嫌じゃないけど、今のわたしより、昔のわたしとか、ロリコちゃんの方がいい?」
「違うよ。ぼくもコヨミとしかしたくない。
コヨミのことがずっと好きだった。
これからもきっとずっと好きだよ」
「じゃあ、しよ?」
ぼくは頷くと、コヨミにキスをしようとした。
唇と唇が触れ合う直前、
『ご主人様、だめーー!!』
『貴様、お嬢様に何をするつもりだ?』
ロリコとシヨタに邪魔された。
ぼくがコヨミとしたいことが、コヨミがぼくとしたいことだと彼女は言ってくれていた。
だから昨晩ぼくは、明け方まで彼女と何がしたいか考えていた。
一応の結論が出た頃、コヨミを駅まで迎えに行く服を持っていないことに気付き、昼まで大慌てになっていたから、ぼくは一睡もしていなかった。
ぼくは一応思春期の真っ只中の男子だから、コヨミとしたいことではなく、コヨミにしたいことはいくらでもあった。
だが、それはぼくの欲望でしかなかったし、ぼくたちはまだ付き合ってはいないから違うと思った。
考えに考えた末、ようやく見つけ出したぼくの答えは、
「昔みたいにコヨミと手を繋いだりしたい。いっしょに昼寝したり、宿題を教えあったりとか」
小学生の頃、当たり前にしていたのに、高校生になって再会してから出来なくなってしまっていたことが、ぼくがコヨミとしたいことだった。
「昔はよく手をつないでお昼寝したね」
コヨミは小さな手でぼくの手を握ると、懐かしそうに微笑んだ。
「イズくんの手は今でもあったかいんだね」
「コヨミの手が冷たすぎるんだよ。夏にはちょうどいいけど」
「暑いときとか、わたしをクーラーや扇風機の代わりによく使ってたもんね」
「クーラーとか扇風機は言い過ぎ。保冷剤くらいだよ。
コヨミだって冬にぼくの手で暖をとってたろ?」
手を繋いだだけで、まるで小学生の頃に戻ったかのようだった。
コヨミはぼくの顔を覗き込むと、
「イズくん、ゆうべ眠れなかったんでしょう?」
繋いだ手とは反対の手の指先で、ぼくの目の下をなぞり、
「目の下に隈が出来てるよ。わたしとおうちデートするのが楽しみで眠れなかったの?」
意地悪そうに笑った。
「コヨミの宿題が難しくて眠れなかった」
ぼくが正直に答えると、
「一緒にお昼寝しよっか」
と、コヨミは言った。
「ソファーで?」
「イズくんのベッドで」
ぼくはまたからかわれているのだと思った。
一緒に昼寝をしたいと言ったのはぼくだったし、一睡もしていなかったから眠くて仕方がなかったが、コヨミとのはじめてのデートですぐに昼寝というのは気が引けた。
いくら加速した時の中で、24時間一緒にいられるとはいえ、それは彼女に失礼だと思ったのだ。
何よりぼくたち以外には誰もいない部屋のベッドでふたりで寝ることが、ぼくは怖かった。
理性を保てる自信がなかった。
「もう子どもじゃないだぞ」
ぼくがたしなめるように言うと、
「イズくんが、本当にわたしとしたいことをしていいんだよ?」
コヨミは女の子の顔ではなく、女の顔をしてそう言った。
はじめて見るその顔は、ぼくもコヨミも本当にもう子どもじゃないんだと思わされた。
心臓が早鐘のように鳴っていた。
早鐘は、火事など、火急の事件を知らせるために、激しく続けて打ち鳴らす鐘のことだけれど、ぼくの心臓を打ち鳴らしているのはコヨミなのだろうか。それともぼく自身なのだろうか。
ぼくはコヨミを抱きしめると、
「本当にいいの?」
と訊ねた。
はじめての相手がぼくでいいのか、という意味だった。
コヨミは手は冷たかったが、体はとても温かかった。
「イズくん以外の男の子となんて、考えたことないよ。イズくんはわたしじゃ嫌?」
「嫌じゃない。嫌じゃないけど」
うまく出来る自信がなかった。
こういうとき、怖いのは女の子だけだと思っていた。
でも違った。
本当に好きな女の子とするときは、男だって怖いのだ。不安になるのだ。
「嫌じゃないけど、今のわたしより、昔のわたしとか、ロリコちゃんの方がいい?」
「違うよ。ぼくもコヨミとしかしたくない。
コヨミのことがずっと好きだった。
これからもきっとずっと好きだよ」
「じゃあ、しよ?」
ぼくは頷くと、コヨミにキスをしようとした。
唇と唇が触れ合う直前、
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ロリコとシヨタに邪魔された。
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