ぼくの人生には、ログインボーナスはもういらない。

雨野 美哉(あめの みかな)

文字の大きさ
上 下
11 / 104

第11話「2022/10/08 ④」

しおりを挟む
「わたしとしたいこと、見つかった?」

 ぼくがコヨミとしたいことが、コヨミがぼくとしたいことだと彼女は言ってくれていた。
 だから昨晩ぼくは、明け方まで彼女と何がしたいか考えていた。
 一応の結論が出た頃、コヨミを駅まで迎えに行く服を持っていないことに気付き、昼まで大慌てになっていたから、ぼくは一睡もしていなかった。

 ぼくは一応思春期の真っ只中の男子だから、コヨミとしたいことではなく、コヨミにしたいことはいくらでもあった。
 だが、それはぼくの欲望でしかなかったし、ぼくたちはまだ付き合ってはいないから違うと思った。

 考えに考えた末、ようやく見つけ出したぼくの答えは、

「昔みたいにコヨミと手を繋いだりしたい。いっしょに昼寝したり、宿題を教えあったりとか」

 小学生の頃、当たり前にしていたのに、高校生になって再会してから出来なくなってしまっていたことが、ぼくがコヨミとしたいことだった。

「昔はよく手をつないでお昼寝したね」

 コヨミは小さな手でぼくの手を握ると、懐かしそうに微笑んだ。

「イズくんの手は今でもあったかいんだね」

「コヨミの手が冷たすぎるんだよ。夏にはちょうどいいけど」

「暑いときとか、わたしをクーラーや扇風機の代わりによく使ってたもんね」

「クーラーとか扇風機は言い過ぎ。保冷剤くらいだよ。
 コヨミだって冬にぼくの手で暖をとってたろ?」

 手を繋いだだけで、まるで小学生の頃に戻ったかのようだった。

 コヨミはぼくの顔を覗き込むと、

「イズくん、ゆうべ眠れなかったんでしょう?」

 繋いだ手とは反対の手の指先で、ぼくの目の下をなぞり、

「目の下に隈が出来てるよ。わたしとおうちデートするのが楽しみで眠れなかったの?」

 意地悪そうに笑った。

「コヨミの宿題が難しくて眠れなかった」

 ぼくが正直に答えると、

「一緒にお昼寝しよっか」

 と、コヨミは言った。

「ソファーで?」

「イズくんのベッドで」

 ぼくはまたからかわれているのだと思った。

 一緒に昼寝をしたいと言ったのはぼくだったし、一睡もしていなかったから眠くて仕方がなかったが、コヨミとのはじめてのデートですぐに昼寝というのは気が引けた。
 いくら加速した時の中で、24時間一緒にいられるとはいえ、それは彼女に失礼だと思ったのだ。

 何よりぼくたち以外には誰もいない部屋のベッドでふたりで寝ることが、ぼくは怖かった。
 理性を保てる自信がなかった。

「もう子どもじゃないだぞ」

 ぼくがたしなめるように言うと、

「イズくんが、本当にわたしとしたいことをしていいんだよ?」

 コヨミは女の子の顔ではなく、女の顔をしてそう言った。

 はじめて見るその顔は、ぼくもコヨミも本当にもう子どもじゃないんだと思わされた。

 心臓が早鐘のように鳴っていた。
 早鐘は、火事など、火急の事件を知らせるために、激しく続けて打ち鳴らす鐘のことだけれど、ぼくの心臓を打ち鳴らしているのはコヨミなのだろうか。それともぼく自身なのだろうか。


 ぼくはコヨミを抱きしめると、

「本当にいいの?」

 と訊ねた。

 はじめての相手がぼくでいいのか、という意味だった。

 コヨミは手は冷たかったが、体はとても温かかった。

「イズくん以外の男の子となんて、考えたことないよ。イズくんはわたしじゃ嫌?」

「嫌じゃない。嫌じゃないけど」

 うまく出来る自信がなかった。
 こういうとき、怖いのは女の子だけだと思っていた。
 でも違った。
 本当に好きな女の子とするときは、男だって怖いのだ。不安になるのだ。

「嫌じゃないけど、今のわたしより、昔のわたしとか、ロリコちゃんの方がいい?」

「違うよ。ぼくもコヨミとしかしたくない。
 コヨミのことがずっと好きだった。
 これからもきっとずっと好きだよ」

「じゃあ、しよ?」

 ぼくは頷くと、コヨミにキスをしようとした。

 唇と唇が触れ合う直前、

『ご主人様、だめーー!!』

『貴様、お嬢様に何をするつもりだ?』

 ロリコとシヨタに邪魔された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

The Last Night

泉 沙羅
ホラー
モントリオールの夜に生きる孤独な少女と、美しい吸血鬼の物語。 15歳の少女・サマンサは、家庭にも学校にも居場所を持てず、ただひとり孤独を抱えて生きていた。 そんな彼女が出会ったのは、金髪碧眼の美少年・ネル。 彼はどこか時代錯誤な振る舞いをしながらも、サマンサに優しく接し、二人は次第に心を通わせていく。 交換日記を交わしながら、ネルはサマンサの苦しみを知り、サマンサはネルの秘密に気づいていく。 しかし、ネルには決して覆せない宿命があった。 吸血鬼は、恋をすると、その者の血でしか生きられなくなる――。 この恋は、救いか、それとも破滅か。 美しくも切ない、吸血鬼と少女のラブストーリー。 ※以前"Let Me In"として公開した作品を大幅リニューアルしたものです。 ※「吸血鬼は恋をするとその者の血液でしか生きられなくなる」という設定はX(旧Twitter)アカウント、「創作のネタ提供(雑学多め)さん@sousakubott」からお借りしました。 ※AI(chatgpt)アシストあり

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

御院家さんがゆく‼︎

涼寺みすゞ
ホラー
顔はいい、性格もたぶん。 でも何故か「面白くない」とフラれる善法の前に、ひとりの美少女が現れた。 浮世離れした言動に影のある生い立ち、彼女は密教の隠された『闇』と呼ばれる存在だった。 「秘密を教える――密教って、密か事なんよ? 」 「普段はあり得ないことが バタン、バタン、と重なって妙なことになるのも因縁なのかなぁ? 」 出逢ったのは因縁か? 偶然か?

田舎のお婆ちゃんから聞いた言い伝え

菊池まりな
ホラー
田舎のお婆ちゃんから古い言い伝えを聞いたことがあるだろうか?その中から厳選してお届けしたい。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...