上 下
9 / 104

第9話「2022/10/08 ②」

しおりを挟む
 ぼくがロリコに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまったのには理由があった。

 ぼくの住む学生寮に遊びに来るだけとはいえ、ぼくは制服以外には女の子を駅まで迎えに行けるような服を持ってはいなかったのだ。
 そのことに気づいたのは、朝起きてすぐのことだった。
 だからぼくは朝から結構大変な思いをしていた。
 女の子を駅まで迎えに行けるような服を持っていないということは、おしゃれな服を買いに行く服がない、ということと同義だったからだ。

 そのため、県内通貨で支払い可能な市内のショッピングモールの通販サイトを開いてはみたものの、どんな服が一般的な高校生の私服かわからず、まずはファッション雑誌の電子書籍から読み込む必要があった。
 ようやく流行をおさえ、通販サイトのカートにデート用の服を数着入れ、支払い画面に進んだときにはすでにコヨミとの約束の1時間前だった。

 ぼくが今着ている服は、ロリコが一年以上も前から少しずつ、ぼくに似合いそうなものを集めてくれていたものだった。
 流行の洋服がログインボーナスとして配布される曜日があったらしい。
 いつかこんな日が来るかもしれないと、ぼくに内緒で、自分が受け取れない代わりに寮の管理人さんが宅配業者から受け取れるようにして、管理人室の奥に段ボールのまましまっていてくれるようにお願いしてくれていたのだ。

 先程、ぼくの趣味に合わせてきてくれたであろうコヨミに対して、ぼくはといえば、とぼくは自分が着ている服を非常に無難な格好だと表現したが、ロリコがいてくれなければ、ぼくは今頃高校の制服かジャージでここに立っていたことだろう。
 ロリコには感謝しかなかった。
 だからこそ申し訳ない気持ちになった。
 あとでちゃんとお礼をしないとな、とぼくは思った。

「かわいい子だよね、ロリコちゃん。本当に昔のわたしみたい。イズくんのこと、いつもひとりじめしようとしたりするところとか」

 言われてみるとそうだった。ぼくとコヨミは、施設ではいつも一緒にいた。

「シヨタくんもなかなかいい男だと思うぞ」

 そんな自画自賛を互いに言い合うと、ぼくとコヨミは、正午ちょうどにエクスのホーム画面に表示されていた、1日を47時間にする、土日祝日限定のログインボーナスを使った。

 24時間ある1日のうちの1時間を、エクスの超拡張現実機能が24時間分の体感時間に変換する。
 1日を47時間にするチケットとは、そういうものだとコヨミからは聞いていたが、どんなものかは正直よくわからなかった。

 チケットを使用した瞬間、ぼくはすぐにそれを体感することになった。

 駅前のロータリーを走る車が止まって見えた。歩道を歩く人たちの足もまた。
 まるで静止した時の中にいるようだった。
 だがよく見ると、車も人も、わずかずつではあるがゆっくりと動いていた。

 ぼくたちだけが加速しているのだ。

 1時間を24時間にしているのだから、おそらくぼくたちは今、超拡張現実機能によって24倍に加速された時の中にいるのだろう。

 ぼくたち以外の人が見れば、加速したぼくたちは24倍の速さで歩いているように見えただろう。
 だが、加速された時の中にいるぼくたちが通常の24倍の速さで歩けるというわけではなかった。
 ただまわりがゆっくりと動いているように見えるだけで、歩く速度はいつもと変わらなかった。
 だから、駅から学生寮まではいつも通りの時間がかかった。

 今日コヨミがアルジャーノンを連れてきていなかったのは、こうなることがわかっていたからなのだろう。
 ぼくやコヨミの時が加速しても、アルジャーノンの時は加速しない。
 ただでさえぼくのことが嫌いなあの頭のいいハムスターは、きっとぼくたちが加速したらパニックに陥ってしまうだろう。

 学生寮のぼくの部屋にロリコ以外の女の子が入るのははじめてのことだった。

「テレビとかインテリアとか、そういうの全然ないんだね」

 と、ぼくの部屋を見てコヨミは言った。

「イズくんらしいって言えばらしいけど、なんだかすごく寂しい部屋だね」

 彼女はいつの間にか透過型ディスプレイを切っていたのだろう。
 ぼくが見ている部屋とは全く違う、実際のぼくの部屋を見ていたのだ。
 ぼくも透過型ディスプレイを切ることにした。

 久しぶりに見たぼくの部屋は、殺風景で無機質で、本当に寂しい部屋だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

イノリβ

山橋雪
ファンタジー
 これは一体……確実に僕は死んだはずなのに――。  友人のセリナに巻き込まれる形でビルから転落した主人公コウタは、自身が不死になっていることに気付く。  自らの不死の謎を解き日常に戻るため、コウタはセリナの知人が営む霊障コンサル事務所に転がり込むが、妖しく暗い欲望渦巻くイノリの世界に飲み込まれていく。  陰鬱陰惨、じめじめと。けれど最後はそれらを吹き飛ばす怒涛の展開。  オカルトテイストなファンタジー。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...