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第9話「2022/10/08 ②」
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ぼくがロリコに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまったのには理由があった。
ぼくの住む学生寮に遊びに来るだけとはいえ、ぼくは制服以外には女の子を駅まで迎えに行けるような服を持ってはいなかったのだ。
そのことに気づいたのは、朝起きてすぐのことだった。
だからぼくは朝から結構大変な思いをしていた。
女の子を駅まで迎えに行けるような服を持っていないということは、おしゃれな服を買いに行く服がない、ということと同義だったからだ。
そのため、県内通貨で支払い可能な市内のショッピングモールの通販サイトを開いてはみたものの、どんな服が一般的な高校生の私服かわからず、まずはファッション雑誌の電子書籍から読み込む必要があった。
ようやく流行をおさえ、通販サイトのカートにデート用の服を数着入れ、支払い画面に進んだときにはすでにコヨミとの約束の1時間前だった。
ぼくが今着ている服は、ロリコが一年以上も前から少しずつ、ぼくに似合いそうなものを集めてくれていたものだった。
流行の洋服がログインボーナスとして配布される曜日があったらしい。
いつかこんな日が来るかもしれないと、ぼくに内緒で、自分が受け取れない代わりに寮の管理人さんが宅配業者から受け取れるようにして、管理人室の奥に段ボールのまましまっていてくれるようにお願いしてくれていたのだ。
先程、ぼくの趣味に合わせてきてくれたであろうコヨミに対して、ぼくはといえば、とぼくは自分が着ている服を非常に無難な格好だと表現したが、ロリコがいてくれなければ、ぼくは今頃高校の制服かジャージでここに立っていたことだろう。
ロリコには感謝しかなかった。
だからこそ申し訳ない気持ちになった。
あとでちゃんとお礼をしないとな、とぼくは思った。
「かわいい子だよね、ロリコちゃん。本当に昔のわたしみたい。イズくんのこと、いつもひとりじめしようとしたりするところとか」
言われてみるとそうだった。ぼくとコヨミは、施設ではいつも一緒にいた。
「シヨタくんもなかなかいい男だと思うぞ」
そんな自画自賛を互いに言い合うと、ぼくとコヨミは、正午ちょうどにエクスのホーム画面に表示されていた、1日を47時間にする、土日祝日限定のログインボーナスを使った。
24時間ある1日のうちの1時間を、エクスの超拡張現実機能が24時間分の体感時間に変換する。
1日を47時間にするチケットとは、そういうものだとコヨミからは聞いていたが、どんなものかは正直よくわからなかった。
チケットを使用した瞬間、ぼくはすぐにそれを体感することになった。
駅前のロータリーを走る車が止まって見えた。歩道を歩く人たちの足もまた。
まるで静止した時の中にいるようだった。
だがよく見ると、車も人も、わずかずつではあるがゆっくりと動いていた。
ぼくたちだけが加速しているのだ。
1時間を24時間にしているのだから、おそらくぼくたちは今、超拡張現実機能によって24倍に加速された時の中にいるのだろう。
ぼくたち以外の人が見れば、加速したぼくたちは24倍の速さで歩いているように見えただろう。
だが、加速された時の中にいるぼくたちが通常の24倍の速さで歩けるというわけではなかった。
ただまわりがゆっくりと動いているように見えるだけで、歩く速度はいつもと変わらなかった。
だから、駅から学生寮まではいつも通りの時間がかかった。
今日コヨミがアルジャーノンを連れてきていなかったのは、こうなることがわかっていたからなのだろう。
ぼくやコヨミの時が加速しても、アルジャーノンの時は加速しない。
ただでさえぼくのことが嫌いなあの頭のいいハムスターは、きっとぼくたちが加速したらパニックに陥ってしまうだろう。
学生寮のぼくの部屋にロリコ以外の女の子が入るのははじめてのことだった。
「テレビとかインテリアとか、そういうの全然ないんだね」
と、ぼくの部屋を見てコヨミは言った。
「イズくんらしいって言えばらしいけど、なんだかすごく寂しい部屋だね」
彼女はいつの間にか透過型ディスプレイを切っていたのだろう。
ぼくが見ている部屋とは全く違う、実際のぼくの部屋を見ていたのだ。
ぼくも透過型ディスプレイを切ることにした。
久しぶりに見たぼくの部屋は、殺風景で無機質で、本当に寂しい部屋だった。
ぼくの住む学生寮に遊びに来るだけとはいえ、ぼくは制服以外には女の子を駅まで迎えに行けるような服を持ってはいなかったのだ。
そのことに気づいたのは、朝起きてすぐのことだった。
だからぼくは朝から結構大変な思いをしていた。
女の子を駅まで迎えに行けるような服を持っていないということは、おしゃれな服を買いに行く服がない、ということと同義だったからだ。
そのため、県内通貨で支払い可能な市内のショッピングモールの通販サイトを開いてはみたものの、どんな服が一般的な高校生の私服かわからず、まずはファッション雑誌の電子書籍から読み込む必要があった。
ようやく流行をおさえ、通販サイトのカートにデート用の服を数着入れ、支払い画面に進んだときにはすでにコヨミとの約束の1時間前だった。
ぼくが今着ている服は、ロリコが一年以上も前から少しずつ、ぼくに似合いそうなものを集めてくれていたものだった。
流行の洋服がログインボーナスとして配布される曜日があったらしい。
いつかこんな日が来るかもしれないと、ぼくに内緒で、自分が受け取れない代わりに寮の管理人さんが宅配業者から受け取れるようにして、管理人室の奥に段ボールのまましまっていてくれるようにお願いしてくれていたのだ。
先程、ぼくの趣味に合わせてきてくれたであろうコヨミに対して、ぼくはといえば、とぼくは自分が着ている服を非常に無難な格好だと表現したが、ロリコがいてくれなければ、ぼくは今頃高校の制服かジャージでここに立っていたことだろう。
ロリコには感謝しかなかった。
だからこそ申し訳ない気持ちになった。
あとでちゃんとお礼をしないとな、とぼくは思った。
「かわいい子だよね、ロリコちゃん。本当に昔のわたしみたい。イズくんのこと、いつもひとりじめしようとしたりするところとか」
言われてみるとそうだった。ぼくとコヨミは、施設ではいつも一緒にいた。
「シヨタくんもなかなかいい男だと思うぞ」
そんな自画自賛を互いに言い合うと、ぼくとコヨミは、正午ちょうどにエクスのホーム画面に表示されていた、1日を47時間にする、土日祝日限定のログインボーナスを使った。
24時間ある1日のうちの1時間を、エクスの超拡張現実機能が24時間分の体感時間に変換する。
1日を47時間にするチケットとは、そういうものだとコヨミからは聞いていたが、どんなものかは正直よくわからなかった。
チケットを使用した瞬間、ぼくはすぐにそれを体感することになった。
駅前のロータリーを走る車が止まって見えた。歩道を歩く人たちの足もまた。
まるで静止した時の中にいるようだった。
だがよく見ると、車も人も、わずかずつではあるがゆっくりと動いていた。
ぼくたちだけが加速しているのだ。
1時間を24時間にしているのだから、おそらくぼくたちは今、超拡張現実機能によって24倍に加速された時の中にいるのだろう。
ぼくたち以外の人が見れば、加速したぼくたちは24倍の速さで歩いているように見えただろう。
だが、加速された時の中にいるぼくたちが通常の24倍の速さで歩けるというわけではなかった。
ただまわりがゆっくりと動いているように見えるだけで、歩く速度はいつもと変わらなかった。
だから、駅から学生寮まではいつも通りの時間がかかった。
今日コヨミがアルジャーノンを連れてきていなかったのは、こうなることがわかっていたからなのだろう。
ぼくやコヨミの時が加速しても、アルジャーノンの時は加速しない。
ただでさえぼくのことが嫌いなあの頭のいいハムスターは、きっとぼくたちが加速したらパニックに陥ってしまうだろう。
学生寮のぼくの部屋にロリコ以外の女の子が入るのははじめてのことだった。
「テレビとかインテリアとか、そういうの全然ないんだね」
と、ぼくの部屋を見てコヨミは言った。
「イズくんらしいって言えばらしいけど、なんだかすごく寂しい部屋だね」
彼女はいつの間にか透過型ディスプレイを切っていたのだろう。
ぼくが見ている部屋とは全く違う、実際のぼくの部屋を見ていたのだ。
ぼくも透過型ディスプレイを切ることにした。
久しぶりに見たぼくの部屋は、殺風景で無機質で、本当に寂しい部屋だった。
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