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第6話「2022/10/07 ⑥」
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明日から三連休だというのに、嬉しさは特に感じなかった。
ロリコはずっとそばにいてくれるが、彼女がいくらぼくに忠実なメイドであり、いくら魅力的な女の子であっても、彼女はぼくが好きなコヨミではないからだ。おまけに実体もない。目に見えても触れることができない。
「イズくん、なんだか浮かない顔してる」
コヨミは、ロリコがぼくにするようにぼくの顔を覗き込んでいた。それは幼い頃からぼくにだけする彼女の癖のようなものだった。同じ癖をロリコも持っていた。
ぼくはコヨミに3日間も会えないことを寂しいと感じていた。
それを彼女に直接伝えることはぼくには出来なかった。
ぼくたちは付き合ってはいなかったからだ。
これから進学先や就職先だけでなく、結婚相手まで任せて、と言ってくれている彼女に、ぼくはそれ以上何も望んではいけない気もしていた。
それに、コヨミの言うぼくの結婚相手とは、彼女以外の誰かという意味なのだろう。ぼくは彼女の結婚相手にはなれないし、きっと恋愛対象にも見なされていないのだ。
ぼくはおそらくコヨミにとって、同じ施設で育ち仲が良かったが、自分と違って里親が見つからなかった、かわいそうな弟のような存在でしかなくなってしまったのだろう。
たとえ付き合っていたとしても、きっとぼくは彼女にそんな女々しいことは言わないだろう。
だけど、それを察してくれるのが比良坂コヨミという女の子であり、ぼくはそんな彼女にいつも甘えていた。
依存していたと言ってもいい。
「明日からの三連休、わたしたちのエクスのログインボーナスが変わることは知ってる?」
コヨミはぼくを元気付けようとしてくれた。
今夜、赤いエクスにだけ大型のアップグレードがあるのだという。
「1日は24時間しかないけど、そのうちの1時間だけ、体感時間を24時間に拡張できるようになるチケットが配布されるの」
ぼくには彼女が言っていることがよくわからなかった。
「つまり、赤いエクスを持っている人間だけが土日や祝日だけ1日を47時間に拡張できるログインボーナスがもらえるようになるの」
超拡張現実スマートフォン「エクスペリメンツ」は、その「実験」を意味する名前の通り、アップグレードを繰り返すことで拡張現実はどこまで現実を拡張することが可能かという実験を行っていたが、とうとうそんなことまでできるようになったのか、とぼくは驚かされた。
「そのチケットを、あ、チケットって言っても、エクスのホーム画面にアプリのアイコンみたいなものが出てくるだけなんだけどね、わたしとイズくんが同じ時間にそのチケットを使えば、現実ではほんの1時間でしかないけど、わたしたちだけの24時間が過ごせるようになるんだよ。それも三連休ずっとだよ」
何をしたいかとか、どこに行きたいかとか考えておいてね、と言ったコヨミの顔は、ぼくと過ごす三連休が楽しみでしかたがないという顔をしていた。
エクスの大型アップグレードの話を聞いてしまったぼくは、とてもじゃないけれど授業に集中できるような状況ではなくなってしまっていた。
コヨミと再会してからの一年半、毎朝ハバキリ駅で待ち合わせ、一緒に登校し、同じクラスで半日を過ごした後、一緒に下校していたが、ぼくたちはデートというものを一度もしたことがなかったからだ。
コヨミとだけではなく、ぼくは女の子とデートをしたことが一度もなかった。
ロリコはずっとそばにいてくれるが、彼女がいくらぼくに忠実なメイドであり、いくら魅力的な女の子であっても、彼女はぼくが好きなコヨミではないからだ。おまけに実体もない。目に見えても触れることができない。
「イズくん、なんだか浮かない顔してる」
コヨミは、ロリコがぼくにするようにぼくの顔を覗き込んでいた。それは幼い頃からぼくにだけする彼女の癖のようなものだった。同じ癖をロリコも持っていた。
ぼくはコヨミに3日間も会えないことを寂しいと感じていた。
それを彼女に直接伝えることはぼくには出来なかった。
ぼくたちは付き合ってはいなかったからだ。
これから進学先や就職先だけでなく、結婚相手まで任せて、と言ってくれている彼女に、ぼくはそれ以上何も望んではいけない気もしていた。
それに、コヨミの言うぼくの結婚相手とは、彼女以外の誰かという意味なのだろう。ぼくは彼女の結婚相手にはなれないし、きっと恋愛対象にも見なされていないのだ。
ぼくはおそらくコヨミにとって、同じ施設で育ち仲が良かったが、自分と違って里親が見つからなかった、かわいそうな弟のような存在でしかなくなってしまったのだろう。
たとえ付き合っていたとしても、きっとぼくは彼女にそんな女々しいことは言わないだろう。
だけど、それを察してくれるのが比良坂コヨミという女の子であり、ぼくはそんな彼女にいつも甘えていた。
依存していたと言ってもいい。
「明日からの三連休、わたしたちのエクスのログインボーナスが変わることは知ってる?」
コヨミはぼくを元気付けようとしてくれた。
今夜、赤いエクスにだけ大型のアップグレードがあるのだという。
「1日は24時間しかないけど、そのうちの1時間だけ、体感時間を24時間に拡張できるようになるチケットが配布されるの」
ぼくには彼女が言っていることがよくわからなかった。
「つまり、赤いエクスを持っている人間だけが土日や祝日だけ1日を47時間に拡張できるログインボーナスがもらえるようになるの」
超拡張現実スマートフォン「エクスペリメンツ」は、その「実験」を意味する名前の通り、アップグレードを繰り返すことで拡張現実はどこまで現実を拡張することが可能かという実験を行っていたが、とうとうそんなことまでできるようになったのか、とぼくは驚かされた。
「そのチケットを、あ、チケットって言っても、エクスのホーム画面にアプリのアイコンみたいなものが出てくるだけなんだけどね、わたしとイズくんが同じ時間にそのチケットを使えば、現実ではほんの1時間でしかないけど、わたしたちだけの24時間が過ごせるようになるんだよ。それも三連休ずっとだよ」
何をしたいかとか、どこに行きたいかとか考えておいてね、と言ったコヨミの顔は、ぼくと過ごす三連休が楽しみでしかたがないという顔をしていた。
エクスの大型アップグレードの話を聞いてしまったぼくは、とてもじゃないけれど授業に集中できるような状況ではなくなってしまっていた。
コヨミと再会してからの一年半、毎朝ハバキリ駅で待ち合わせ、一緒に登校し、同じクラスで半日を過ごした後、一緒に下校していたが、ぼくたちはデートというものを一度もしたことがなかったからだ。
コヨミとだけではなく、ぼくは女の子とデートをしたことが一度もなかった。
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