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第2話「2022/10/07 ②」
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ロリコという名前は、ぼくが名付けたわけではなく、彼女自身がぼくにそう名乗った。エクスが名付けたのかもしれなかった。
「大丈夫。ぼくは食事を摂るという行為に、あまり意味や価値を見出していないから」
身体や脳を動かす必要最低限のエネルギーが得られれば、ぼくはそれでよかった。
だから冷蔵庫の中はいつも、ゼリータイプやブロックタイプの栄養補助食品とペットボトルの水でいっぱいだった。
デバイスとは、ぼくたちが常日頃使っているパソコンやタブレット、スマートフォン、それらと接続して使う装置の総称だ。
エクスは、そういったデバイスのうちのひとつであるスマートフォンに、高度な拡張現実機能を組み込んだものだった。
現実世界の視覚映像と、透過型ディスプレイに表示されるデジタル情報を組み合わせることで、その使用者に肉眼だけでは得ることができない新たな現実を作り出すことができる、超拡張現実スマホだ。
部屋を出て寮を出て、街に出たぼくのそばにもロリコはいた。
制服の内側のポケットの中にエクスを入れているため、彼女は街の中でもぼくのそばにいることができるのだ。
試したことはなかったが、ぼくがエクス本体の半径100メートル以内にいれば、彼女はぼくのそばにいられるらしかった。
だから、ぼくは彼女と毎朝並んで歩き、最寄り駅へと向かい、一緒に電車に乗って通学する。
この街に引っ越してきて正解だったと思うことが、ロリコの他にもうひとつある。
「そういえば、今日のログインボーナスは何?」
「県内通貨10万円です」
「じゃあ、いつものように決済アプリに入れておいて」
「そう仰ると思って、すでに入れておきました」
この街では、毎朝エクスからログインボーナスがもらえるということだった。
この日は県内でのみ使える通貨が10万円分だったが、曜日によってログインボーナスの内容は異なっている。
不必要なログインボーナスを県内通貨に換金することもできるため、この街に住みエクスを所有するだけで、最低でも毎週10万円、月に40万円もの不労所得を得ることができた。
県内通過は他県では使うことができない代わりに、税金を取られることはない。
街には大型ショッピングモールがあり、手に入らないものはなかったし、公共交通機関や病院などの設備も充実していた。
この街に来て早一年半、ぼくはこの街から一度も出たことがなかった。その必要性を全く感じたことがなかったのだ。
ぼくは高校を卒業したらこの街にある大学に進学する予定だ。大学を卒業するまではこの街から出るつもりはなかった。大学卒業後もこの街にある企業に勤めるつもりだった。
ロリコだけがぼくの家族だった。
ぼくには親や親戚はいなかったからだ。
両親は生きているのか死んでいるのかもわからない。生きていたとしても一生会うことはないだろう。
ぼくの名前は葦原イズモ(あしはら いずも)という。
その名前も、施設で付けられた名前であり、児童養護施設の前に棄てられていたぼくは、本名を知らなかった。
もしかしたら、ぼくにはそんなものすらなかったかもしれない。
中学卒業と同時に児童養護施設からも出なければいけなかったぼくにとって、この街の私立高校に特待生として入学できたことは幸いだった。
入学金や学費を全額免除され、学生寮の家賃や光熱費も免除されていたから、生活に必要な最低限度の出費だけで済み、県内通貨は決済アプリにどんどん貯蓄されていた。
ぼくが高校入学と同時に引っ越してきたミハシラ市は、トツカ県という、軌道エレベーター建造のために海を埋め立てて作られた48番目の都道府県の中にあった。
通学に使うミハシラ市内を走る環状トリフネ線、そのリニアモーターカーの車窓からは、建造途中の軌道エレベーターが、市の中心にそびえ立っているのが見えた。
建造途中でもトーキョーにあるスカイタワーよりも遥かに高かったが、宇宙にまで届くような高い塔を早く見てみたいな、と思った。
「大丈夫。ぼくは食事を摂るという行為に、あまり意味や価値を見出していないから」
身体や脳を動かす必要最低限のエネルギーが得られれば、ぼくはそれでよかった。
だから冷蔵庫の中はいつも、ゼリータイプやブロックタイプの栄養補助食品とペットボトルの水でいっぱいだった。
デバイスとは、ぼくたちが常日頃使っているパソコンやタブレット、スマートフォン、それらと接続して使う装置の総称だ。
エクスは、そういったデバイスのうちのひとつであるスマートフォンに、高度な拡張現実機能を組み込んだものだった。
現実世界の視覚映像と、透過型ディスプレイに表示されるデジタル情報を組み合わせることで、その使用者に肉眼だけでは得ることができない新たな現実を作り出すことができる、超拡張現実スマホだ。
部屋を出て寮を出て、街に出たぼくのそばにもロリコはいた。
制服の内側のポケットの中にエクスを入れているため、彼女は街の中でもぼくのそばにいることができるのだ。
試したことはなかったが、ぼくがエクス本体の半径100メートル以内にいれば、彼女はぼくのそばにいられるらしかった。
だから、ぼくは彼女と毎朝並んで歩き、最寄り駅へと向かい、一緒に電車に乗って通学する。
この街に引っ越してきて正解だったと思うことが、ロリコの他にもうひとつある。
「そういえば、今日のログインボーナスは何?」
「県内通貨10万円です」
「じゃあ、いつものように決済アプリに入れておいて」
「そう仰ると思って、すでに入れておきました」
この街では、毎朝エクスからログインボーナスがもらえるということだった。
この日は県内でのみ使える通貨が10万円分だったが、曜日によってログインボーナスの内容は異なっている。
不必要なログインボーナスを県内通貨に換金することもできるため、この街に住みエクスを所有するだけで、最低でも毎週10万円、月に40万円もの不労所得を得ることができた。
県内通過は他県では使うことができない代わりに、税金を取られることはない。
街には大型ショッピングモールがあり、手に入らないものはなかったし、公共交通機関や病院などの設備も充実していた。
この街に来て早一年半、ぼくはこの街から一度も出たことがなかった。その必要性を全く感じたことがなかったのだ。
ぼくは高校を卒業したらこの街にある大学に進学する予定だ。大学を卒業するまではこの街から出るつもりはなかった。大学卒業後もこの街にある企業に勤めるつもりだった。
ロリコだけがぼくの家族だった。
ぼくには親や親戚はいなかったからだ。
両親は生きているのか死んでいるのかもわからない。生きていたとしても一生会うことはないだろう。
ぼくの名前は葦原イズモ(あしはら いずも)という。
その名前も、施設で付けられた名前であり、児童養護施設の前に棄てられていたぼくは、本名を知らなかった。
もしかしたら、ぼくにはそんなものすらなかったかもしれない。
中学卒業と同時に児童養護施設からも出なければいけなかったぼくにとって、この街の私立高校に特待生として入学できたことは幸いだった。
入学金や学費を全額免除され、学生寮の家賃や光熱費も免除されていたから、生活に必要な最低限度の出費だけで済み、県内通貨は決済アプリにどんどん貯蓄されていた。
ぼくが高校入学と同時に引っ越してきたミハシラ市は、トツカ県という、軌道エレベーター建造のために海を埋め立てて作られた48番目の都道府県の中にあった。
通学に使うミハシラ市内を走る環状トリフネ線、そのリニアモーターカーの車窓からは、建造途中の軌道エレベーターが、市の中心にそびえ立っているのが見えた。
建造途中でもトーキョーにあるスカイタワーよりも遥かに高かったが、宇宙にまで届くような高い塔を早く見てみたいな、と思った。
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