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第1話「2022/10/07 ①」
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『おはようございます、ご主人様』
ロリコの声で、今日もぼくは目を覚ました。
ロリコはぼくのメイドだ。
平日は毎朝7時に必ず、1秒もずれることなく、ぼくを起こしてくれる。
ぼくがスマートデバイスのアラーム機能を使い、そう設定したからだ。
『ご主人様? 起きてください、ご主人様』
眠りからは覚めたものの、ぼくの頭はまだ寝ぼけていて、目を開けることはできなかった。
『ご主人様~~~!!』
彼女の少し舌足らずな甘い声が、一度目を覚ましたぼくをまた眠りに誘う。
『起きないと、また学校に遅刻してしまいますよ?』
その言葉を聞いて、ぼくはようやく目を開いた。
美しく整った顔をした彼女が、長いまつげに縁取られた大きな瞳で、ぼくの顔を覗きこんでいた。
透き通るような白い肌と、ツインテールの黒髪とのコントラストはいつ見ても美しかった。その頬はいつもほんのりと赤かった。
彼女は一応、高校2年のぼくより年上の設定(はず)だが、舌足らずな声や童顔のせいか、中学生か下手したら小学生に見える。背もぼくよりだいぶ低く、胸もぺたんこだ。
今日もロリコはかわいいな、とぼくは思った。口には出さないけれど。
彼女に毎朝こうやって起こしてもらえるだけで、この街に引っ越してきて正解だったと思えるほどだった。
「おはよう、ロリコ」
ぼくはベッドの上でゆっくりと体を起こすと、ぼくだけのメイドに朝の挨拶をした。
彼女は、球体関節人形のようなヒト型のアンドロイドで、スクール水着とセーラー服を掛け合わせたような服を着ており、ニーハイを履いていた。
関節が自由に動く美少女フィギュアを等身大サイズにしたような感じだ。
ランドセルを背負っており、頭にヘッドドレスをつけていること以外、その衣装にメイドらしさはあまり感じない。
そのヘッドドレスも、よく見ると猫耳のヘッドフォンなんだけど。
「大丈夫、今日は遅刻しないよ」
ぼくはベッドから降りると、ハンガーラックにかけてあったブレザーの制服に着替え始めた。
『安心しました。また二度寝して遅刻をしたら、今度こそ3日は口を聞かないつもりでしたから』
「そんなことを言ってたって、明日の朝にはまた起こしてくれるじゃんか」
『今日は金曜日ですよ?』
学校が休みの土日の間は、彼女はぼくを無視し続けるつもりだったというわけだ。
『それに月曜は祝日で、明日からは三連休です』
「それ、祝日入れたら丸4日はぼくと口を聞かないつもりだったってこと?」
ぼくがそう訊ねると、ロリコはかわいい顔で意地悪そうに微笑んだ。
制服に着替え終わり、洗面所で歯を磨き、髪を手ぐしで整える間も、ロリコはぼくのそばから離れることはなかった。
学生寮の部屋を出る前、ぼくは冷蔵庫から朝食の代わりにゼリータイプの栄養補助食品を取り出した。
『ロリコが毎朝朝食を作ってあげられればいいのですが……』
そんなぼくを見て、彼女は悲しそうに寂しそうに言った。
ロリコは現実には存在しない女の子だった。
だから、彼女はぼくのメイドだけれど、料理や洗濯、掃除といったことはできなかった。
現実には存在しないが、ぼくにだけは彼女の姿が見え、その声を聞くことができた。
そんなことを言うと、まるで彼女はぼくの妄想が産み出した空想のお友達のように聞こえるかもしれないが、そういうわけではなかった。
透過型ディスプレイに表示される彼女は、ホログラム映像のようなものだった。
彼女はこの街の住人だけに与えられるスマートデバイス「エクスペリメンツ」、通称エクスに搭載された人工知能が産み出した存在だ。
神はアダムの肋骨からイブを作ったというが、エクスはぼくの脳を読み取り、ぼくが理想とする女性を形作って産まれたのがロリコという存在だった。
ロリコの声で、今日もぼくは目を覚ました。
ロリコはぼくのメイドだ。
平日は毎朝7時に必ず、1秒もずれることなく、ぼくを起こしてくれる。
ぼくがスマートデバイスのアラーム機能を使い、そう設定したからだ。
『ご主人様? 起きてください、ご主人様』
眠りからは覚めたものの、ぼくの頭はまだ寝ぼけていて、目を開けることはできなかった。
『ご主人様~~~!!』
彼女の少し舌足らずな甘い声が、一度目を覚ましたぼくをまた眠りに誘う。
『起きないと、また学校に遅刻してしまいますよ?』
その言葉を聞いて、ぼくはようやく目を開いた。
美しく整った顔をした彼女が、長いまつげに縁取られた大きな瞳で、ぼくの顔を覗きこんでいた。
透き通るような白い肌と、ツインテールの黒髪とのコントラストはいつ見ても美しかった。その頬はいつもほんのりと赤かった。
彼女は一応、高校2年のぼくより年上の設定(はず)だが、舌足らずな声や童顔のせいか、中学生か下手したら小学生に見える。背もぼくよりだいぶ低く、胸もぺたんこだ。
今日もロリコはかわいいな、とぼくは思った。口には出さないけれど。
彼女に毎朝こうやって起こしてもらえるだけで、この街に引っ越してきて正解だったと思えるほどだった。
「おはよう、ロリコ」
ぼくはベッドの上でゆっくりと体を起こすと、ぼくだけのメイドに朝の挨拶をした。
彼女は、球体関節人形のようなヒト型のアンドロイドで、スクール水着とセーラー服を掛け合わせたような服を着ており、ニーハイを履いていた。
関節が自由に動く美少女フィギュアを等身大サイズにしたような感じだ。
ランドセルを背負っており、頭にヘッドドレスをつけていること以外、その衣装にメイドらしさはあまり感じない。
そのヘッドドレスも、よく見ると猫耳のヘッドフォンなんだけど。
「大丈夫、今日は遅刻しないよ」
ぼくはベッドから降りると、ハンガーラックにかけてあったブレザーの制服に着替え始めた。
『安心しました。また二度寝して遅刻をしたら、今度こそ3日は口を聞かないつもりでしたから』
「そんなことを言ってたって、明日の朝にはまた起こしてくれるじゃんか」
『今日は金曜日ですよ?』
学校が休みの土日の間は、彼女はぼくを無視し続けるつもりだったというわけだ。
『それに月曜は祝日で、明日からは三連休です』
「それ、祝日入れたら丸4日はぼくと口を聞かないつもりだったってこと?」
ぼくがそう訊ねると、ロリコはかわいい顔で意地悪そうに微笑んだ。
制服に着替え終わり、洗面所で歯を磨き、髪を手ぐしで整える間も、ロリコはぼくのそばから離れることはなかった。
学生寮の部屋を出る前、ぼくは冷蔵庫から朝食の代わりにゼリータイプの栄養補助食品を取り出した。
『ロリコが毎朝朝食を作ってあげられればいいのですが……』
そんなぼくを見て、彼女は悲しそうに寂しそうに言った。
ロリコは現実には存在しない女の子だった。
だから、彼女はぼくのメイドだけれど、料理や洗濯、掃除といったことはできなかった。
現実には存在しないが、ぼくにだけは彼女の姿が見え、その声を聞くことができた。
そんなことを言うと、まるで彼女はぼくの妄想が産み出した空想のお友達のように聞こえるかもしれないが、そういうわけではなかった。
透過型ディスプレイに表示される彼女は、ホログラム映像のようなものだった。
彼女はこの街の住人だけに与えられるスマートデバイス「エクスペリメンツ」、通称エクスに搭載された人工知能が産み出した存在だ。
神はアダムの肋骨からイブを作ったというが、エクスはぼくの脳を読み取り、ぼくが理想とする女性を形作って産まれたのがロリコという存在だった。
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