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【第五部 異世界転移奇譚 NAYUTA 2 - アトランダム -(RENJI 5)】もしもしっくすないんしてる途中で異世界転移しちゃったら。

第120話

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 秋月リサがラ・ムー大陸に作り出した城と大量破壊兵器による自動迎撃システムは、大陸を構成する結晶化したエーテルに魔人となった自らの血を混ぜることにより液体金属とした、ヒヒイロカネを超える新たな物質によって産み出したものだった。

 大陸そのものが、彼女の血のように脳が発する微弱な電気信号によって自由に形状を変えるだけでなく、あらゆる元素へと変化する。
 大量破壊兵器すら、その設計図さえ頭の中に入っていれば、産み出せてしまうのだ。

 その設計図は、いずれ役に立つ日が来るかもしれないと、高校生時代にリサがナユタの父であるタカミのパソコンから、盗み見ていたものだった。

 タカミのパソコンになぜそのようなものがあったのかといえば、彼がゲーム会社を企業するよりもはるか昔、90年代後半に、シノバズというハッカーネームを名乗り、警察に捜査協力をするきっかけとなった事件が関係していた。

 タカミは当時14歳で、警察の公安部よりも先に、国家転覆を目論むテロ組織の存在に気づき壊滅させていた。

 そういえば、その組織の名も確か「天禍天詠」だったな、とリサは思った。
 リーダーは確か、小久保晴美という女だった。

 天禍天詠の小久保晴美は、戦後唯一、非核三原則を破り、大量破壊兵器を日本に持ち込んだ者だった。
 そして、タカミのハッカーとしての師匠のような存在であり、片思いの初恋の相手だった。

 当時はインターネットの黎明期で、携帯電話は普及しておらず、PHSどころかポケベルの時代だった。
 ウィンドウズ95の発売日に行列が出来ていたような時代だった。

 新世紀エヴァンゲリオンがテレビで放映され、女子高生らの援助交際という名の売春が問題視されはじめていた。
 小説家の村上龍が援助交際を題材にして書いた小説は、エヴァの庵野秀明監督によって実写映画化された。

 当時援助交際をしていた少女たちが、当たり前のように親になり、2010年代後半にはその子どもたちの世代がパパ活をしていた。
 2020年に起きたカーズウィルスによるパンデミックにより、遺伝子に犯罪因子を持つ者はすべてリバーステラから淘汰された。その中には当然パパ活少女達もいただろう。
 だが、犯罪因子はただ遺伝するだけでなく、隔世遺伝もするのか、2038年の今ではさらにその子どもたちの世代が別の言葉をわざわざ産み出してまで売春をしていた。
 だが、買う者がいるから売る者が現れるのだ。需要がなければ供給は成り立たないからだ。
 人は本当に愚かだなと思う。
 犯罪因子だけでなく、人の遺伝子そのもののせいだとしかリサには思えなかった。

 タカミと小久保晴美という女は、メル友という関係だったらしい。
 2010年代には、無料通話アプリが当たり前の時代になり、メル友などということばはすでに死語となってしまっていたから、2021年に生まれたナユタはきっと知らないだろう。リサも使ったことがなかった。

 チャットサイトで知り合ったふたりは、お互いに顔も声も、本当の名前も知らないまま、メールのやり取りを続けた。
 その一方で、タカミは初恋が故の過ちを犯した。

 彼女から教わったハッキング技術を使い、彼女の住所や氏名、電話番号を特定したのだ。
 そして、彼女が世紀末に終末の予言を実行しようとするテロ組織のリーダーであることを知ってしまった。

 預言の実行とは、首都東京をはじめ日本の六大都市に大量破壊兵器を落とした後、警察や自衛隊を制圧し新たな国家を作るという荒唐無稽な計画であった。
 だが、実際に大量破壊兵器が持ち込まれたことにより、荒唐無稽な計画は現実味を帯びてしまった。
 実際に起きてしまったら、同じテロでもその数年前に起きた地下鉄サリン事件やさらにその数年後の9.11とは比べ物にならないものだ。
 タカミはテロを未然に阻止するために、小久保晴美のパソコンからテロ組織へのパソコンへと、さらにはそれに繋げられていた大量破壊兵器をハッキングし、不発の核弾頭とした。

 さすがのリサも、不発の核弾頭という言葉がボキャブラ時代の爆笑問題のキャッチコピーだということは知らなかったが、彼女が目にしたのはそのときの大量破壊兵器の設計図だった。

 常人ならその構造や核融合の仕組みを理解することもできなければ、一目見ただけでは記憶することもできないその設計図を、リサは一瞬で写真をとるように目に焼き付け記憶した。
 彼女は、将棋や囲碁のプロが棋譜をすべて記憶することができるように、直感像素質という才能を持っていたからだった。
 タカミのパソコンにその設計図が2020年代後半になっても残っていたのは偶然であったが、その設計図に彼女がたどり着くことができたのは、その才能故に彼の見よう見まねで手に入れたハッキング技術だった。

 設計図を手に入れることができても、無論理解は出来なかった。
 だが、いずれ自分が異世界に行き、自ら魔人となる日が来れば、記憶した設計図を脳内で画像表示させることによって、理解できるようになるだろうということはわかっていた。

 理解さえできれば、あとは脳の電気信号が勝手にエーテルを必要な物質に変換し、設計図通りに大量破壊兵器を作ってくれる。

 ピノアがふざけたことを書いてくれたりもしたが、腕や胸元や首筋にピノアに書かせたタトゥーのようなものにもちゃんと意味があった。包帯で隠していたことにも。
 それは無意味な絵や記号ではなく、リサが作った古代文字ならぬ秋月文字だった。
 胸には彼女が愛する兄の名前を。
 右腕には彼女から兄を奪った女と兄の代わりに兄の部屋を当たり前のように使っていた女の名前を。いつか必ず殺すと決めていた者の名前を自ら書かせた。
 左脚には彼女がこの世界で成すことを、すべて書かせた。どんなに年を重ねても必ず若返り魔人となり、兄もまた若返らせ魔人とする。障害となるものはすべて壊し、すべて殺す。

 世界を滅ぼすことになっても、兄と自分さえ生き残ればそれでいい。むしろそれが彼女の望みだった。
 たとえ第三次魔導大戦が起きたとしても兄と自分だけは生き残れるよう、核シェルターを兼ねた城と百を超える核による自動防衛迎撃システムを作った。

 アカシックレコードやアトランダムらの存在は想定外だったが、第二次魔導大戦を終結に導いた九頭龍 天禍天詠は真っ先に排除すべきだと考えていた。
 兄の体はまだ魔人になってはいなかったが、若返らせることはできた。

 計画は順調だった。

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