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【第五部 異世界転移奇譚 NAYUTA 2 - アトランダム -(RENJI 5)】もしもしっくすないんしてる途中で異世界転移しちゃったら。
第103話
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ゆらぎは、ナユタを飲み込んだ。
「やらせない……絶対に……ピノアちゃんにそんなこと……」
だが、彼はその場から消えることはなかった。
ナユタはもはや、かつて手にしていた那由他の力を失っているだけでなく、その力によって使えていたシャーマニズムや陰陽道も使えなくなっていた。
何の力もない、リバーステラの高校生に過ぎなかった。
だから、それはありえないことだった。
ピノアが産み出したゲートに飲み込まれたにも関わらず、元の世界に戻されることなくその場に居続ける力は彼にはなかった。
執念だった。
そして、彼に力を貸している者がそこにはいた。
「先生、加藤さんの持つ『無量大数の力』で、ステラさんはどうにかなるはずだろ?」
「言ったはずですよ。前回はたまたま利害関係が一致していただけだと」
「先生は、今回はぼくらの味方じゃないってことか……」
棗はレコーダーだからだ。
秋月リサをこの世界に転移させたのは棗だ。
彼女がこの世界に来たらどういう行動を取るか、棗は知っていたに違いなかった。
リサは自分の意思で行動を起こしているが、その行動は棗と利害関係が一致しているのだ。
アカシックレコード側の人間である棗は、リサを使いレンジとステラを離ればなれにすること、それによってステラにレンジを追わせ、衰弱させ、ステラをそのまま死なせるか、ピノアに身体を差し出させることによってピノアを消滅させるか、そのどちらかが狙いなのだ。
そして、ピノアならばステラのために身体を差しだし、ナユタをもとの世界に帰そうとするであろうことも、読んでいたに違いなかった。
いや、本当にそうだろうか?
アベノ・セーメーの話が本当なのだとしたら、アトランダムを破壊するだけの力を棗が彼に与え、彼の身体さえも治癒させたということになる。
九頭龍 天禍天詠は、おそらくレムレスやギガラニカにもいるだろうレコーダーの敵となるはずだった。
ナユタは数ヵ月前に、棗がレコーダーであることを知りながらも、信じられると思った。
那由他の力を使って敵に回ることがないようにすることができたが、そうはしなかった。兄には甘いと言われた。
棗はレコーダーのひとりではあるが、レコーダーを敵と認識している。
だが、味方ではない。
一体どういうことだろうか?
棗そのものが新たな脅威なのだろうか?
執念によってナユタはその場にとどまり続けていたが、限界がきた。
このままではゆらぎに飲み込まれてしまう。
ピノアと永遠に会えなくなってしまう。
嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。
だが、消えたのはナユタではなく、ゆらぎの方だった。
「付き合ってらんねーな」
日本の侍のような甲冑とモンゴル衣装を混ぜ合わせたような格好をした、魂と力だけの存在が両手の日本刀でゆらぎを斬っていた。
その存在は、棗の戯使だった。
「私を裏切るのおつもりですか? 義経公。いや、チンギス・ハン殿」
その名を呼ばれた源義経は、
「お前は今、俺が認めた戯使遣いの棗弘幸じゃねーみたいだからな。
イスカリオテのユダの108回目の転生体としての役割を果たそうとしてるだけだ」
ナユタのそばで、棗に刀を向けていた。
「それにレコーダーの役割も同時に果たそうとしているのであろう?」
寺の住職のような男もまた、ナユタのそばにいた。
「あなたも私を裏切りますか、天海……明智光秀公」
光秀と呼ばれた坊主は、棗から偽史倭人伝を奪っていた。
そして、それをナユタに渡した。
「ナユタと言ったな?
今から私たちはそなたに力を貸す。
あの男には愛想が尽きた。
戯使遣いには、そなたがなれ。
雨野の家に生まれたそなたには、その素質がある」
棗は、やれやれという顔をしていた。
ナユタは、身体に力が溢れてくるのを感じた。
那由他の力を手放すまでに感じていた龍脈の力だ。
シャーマニズムと陰陽道、そして、すべての戯使の力だ。
「月読迦具夜比売命(つくよみのかぐやひめのみこと)、
千古乃命(ちふるのみこと)、
馬岐耳乃命(まきみのみこと)」
そして、その力で月の審神者の三姉妹を召喚した。
その場には三姉妹がいたにも関わらず、月に封印され魂と力だけの存在となっていたころの彼女たちだった。
「世界の理を変える阿僧祇(あそうぎ)の力と、恒河沙(ごうがしゃ)の力、極(ごく)の力で、ステラさんを助けてもらえる?」
ナユタの言葉に、三姉妹は魂と力だけの彼女たちも、肉体を持った彼女たちも、二組とも表情を暗くした。
「ナユタくん、君は大切なことを忘れていますよ」
棗の言葉の意味に、ナユタは気づかされた。
この世界すべてが、数ヵ月前に世界の理を変える力の干渉を受けない特異点となっているということだった。
「やらせない……絶対に……ピノアちゃんにそんなこと……」
だが、彼はその場から消えることはなかった。
ナユタはもはや、かつて手にしていた那由他の力を失っているだけでなく、その力によって使えていたシャーマニズムや陰陽道も使えなくなっていた。
何の力もない、リバーステラの高校生に過ぎなかった。
だから、それはありえないことだった。
ピノアが産み出したゲートに飲み込まれたにも関わらず、元の世界に戻されることなくその場に居続ける力は彼にはなかった。
執念だった。
そして、彼に力を貸している者がそこにはいた。
「先生、加藤さんの持つ『無量大数の力』で、ステラさんはどうにかなるはずだろ?」
「言ったはずですよ。前回はたまたま利害関係が一致していただけだと」
「先生は、今回はぼくらの味方じゃないってことか……」
棗はレコーダーだからだ。
秋月リサをこの世界に転移させたのは棗だ。
彼女がこの世界に来たらどういう行動を取るか、棗は知っていたに違いなかった。
リサは自分の意思で行動を起こしているが、その行動は棗と利害関係が一致しているのだ。
アカシックレコード側の人間である棗は、リサを使いレンジとステラを離ればなれにすること、それによってステラにレンジを追わせ、衰弱させ、ステラをそのまま死なせるか、ピノアに身体を差し出させることによってピノアを消滅させるか、そのどちらかが狙いなのだ。
そして、ピノアならばステラのために身体を差しだし、ナユタをもとの世界に帰そうとするであろうことも、読んでいたに違いなかった。
いや、本当にそうだろうか?
アベノ・セーメーの話が本当なのだとしたら、アトランダムを破壊するだけの力を棗が彼に与え、彼の身体さえも治癒させたということになる。
九頭龍 天禍天詠は、おそらくレムレスやギガラニカにもいるだろうレコーダーの敵となるはずだった。
ナユタは数ヵ月前に、棗がレコーダーであることを知りながらも、信じられると思った。
那由他の力を使って敵に回ることがないようにすることができたが、そうはしなかった。兄には甘いと言われた。
棗はレコーダーのひとりではあるが、レコーダーを敵と認識している。
だが、味方ではない。
一体どういうことだろうか?
棗そのものが新たな脅威なのだろうか?
執念によってナユタはその場にとどまり続けていたが、限界がきた。
このままではゆらぎに飲み込まれてしまう。
ピノアと永遠に会えなくなってしまう。
嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。
だが、消えたのはナユタではなく、ゆらぎの方だった。
「付き合ってらんねーな」
日本の侍のような甲冑とモンゴル衣装を混ぜ合わせたような格好をした、魂と力だけの存在が両手の日本刀でゆらぎを斬っていた。
その存在は、棗の戯使だった。
「私を裏切るのおつもりですか? 義経公。いや、チンギス・ハン殿」
その名を呼ばれた源義経は、
「お前は今、俺が認めた戯使遣いの棗弘幸じゃねーみたいだからな。
イスカリオテのユダの108回目の転生体としての役割を果たそうとしてるだけだ」
ナユタのそばで、棗に刀を向けていた。
「それにレコーダーの役割も同時に果たそうとしているのであろう?」
寺の住職のような男もまた、ナユタのそばにいた。
「あなたも私を裏切りますか、天海……明智光秀公」
光秀と呼ばれた坊主は、棗から偽史倭人伝を奪っていた。
そして、それをナユタに渡した。
「ナユタと言ったな?
今から私たちはそなたに力を貸す。
あの男には愛想が尽きた。
戯使遣いには、そなたがなれ。
雨野の家に生まれたそなたには、その素質がある」
棗は、やれやれという顔をしていた。
ナユタは、身体に力が溢れてくるのを感じた。
那由他の力を手放すまでに感じていた龍脈の力だ。
シャーマニズムと陰陽道、そして、すべての戯使の力だ。
「月読迦具夜比売命(つくよみのかぐやひめのみこと)、
千古乃命(ちふるのみこと)、
馬岐耳乃命(まきみのみこと)」
そして、その力で月の審神者の三姉妹を召喚した。
その場には三姉妹がいたにも関わらず、月に封印され魂と力だけの存在となっていたころの彼女たちだった。
「世界の理を変える阿僧祇(あそうぎ)の力と、恒河沙(ごうがしゃ)の力、極(ごく)の力で、ステラさんを助けてもらえる?」
ナユタの言葉に、三姉妹は魂と力だけの彼女たちも、肉体を持った彼女たちも、二組とも表情を暗くした。
「ナユタくん、君は大切なことを忘れていますよ」
棗の言葉の意味に、ナユタは気づかされた。
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