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【第五部 異世界転移奇譚 NAYUTA 2 - アトランダム -(RENJI 5)】もしもしっくすないんしてる途中で異世界転移しちゃったら。

第101話

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小学校を卒業式の日が、ちょうどリサの誕生日だった。
だから、卒業のお祝いに、兄の童貞をもらおうと思っていた。
処女をもらってもらおうと思っていた。

でも、そんな何ヵ月も先はやだな。

来月のクリスマスがいいな。

11月に入ると、リサはすぐに街のイオンにあるダイソーでミニスカサンタのコスプレ衣装を買った。
サンタの帽子だけじゃなくフードもあったし、エプロンもあったから、裸エプロンもいいな、と思った。男の人は裸エプロン好きなんだよね?
ミニスカトナカイもあったからそれも買った。たしか兄はけものなんとかってアニメが好きだった。

けれど、兄はある日突然行方不明になった。

親子二代で神隠しにあった呪われた家だとマスコミが家にやってくるようになった。
雨野という知らない家の人たちがいきなり現れて、マスコミから匿ってくれた。
父や兄は異世界にいると教えてくれた。

異世界? 何それ? と思った。

その人たちも異世界に行っていて、帰ってきたらしかった。

お父さんは帰ってきてないの?
と言われた。
帰ってきてるはずだよ、と。

お兄さんも、ぼくたちのすぐあとに帰ったはずだ、と。

だから、きっとふたりとももうすぐ帰ってくるはずだよ、と言った。

マスコミは怖かったから、匿ってもらえるのはうれしかった。
だけど雨野家にいたら、兄が帰ってきたときに、いつものように出迎えてあげられない。
でも、スマホにきっと電話をくれるよね。
そしたら迎えに行ってあげなきゃ。

兄は、クリスマスになっても帰って来なかった。
父も帰って来なかった。

バレンタインまでには帰ってきてくれるかな。
バレンタインにチョコの代わりに、処女をあげようかな。

だけどやっぱり兄は帰って来なかった。

バレンタインから少し過ぎた頃に、父と、兄の小学生の頃の友達のショウゴという人が帰ってきた。
父は携帯電話を持っておらず、ショウゴはリサたちが雨野家にいることを知らなかった。
だから、リサも雨野家の人たちも、ふたりが帰ってきたことを知ったのは、ニュースなどでたびたび顔写真が出ていた父の目撃情報がツイッターなどに盗撮した写真つきでアップされはじめてからだった。

ふたりともこの町で行方不明になったのに、帰ってきたのは伊勢神宮だった。
雨野家の人は、行方不明になったのは自宅で、普通に自宅に帰ってきたそうだった。

ふたりを迎えに行ってくれたのは、ショウゴの、まだ中学生の妹だった。

帰ってきた父から、兄はもう戻ってこないと告げられた。

父のことは正直どうでもよかった。
ショウゴのことはさらにどうでもよかった。

兄が帰ってきてくれないなら、本当に何の意味もなかった。

その何ヵ月かあとに、ピノアという異世界人までやってきた。
お前じゃない。と思った。
どうしてお前がうちに、しかもお兄ちゃんの部屋で当たり前のように暮らすんだ。
殺してやろうかと思った。

でも、仲良くしてあげることにした。
殺すとか、喧嘩するとか、そんなことに時間を割くくらいなら、仲良くして異世界のことを聞き出そうと思った。
兄のところへ行く方法が見つかるかもしれないからだった。

兄が帰ってきたのは、それから17年も後のことで、リサは29歳になっていた。
もう処女でもなければ、社会人でアラサーだ。
お兄ちゃんお兄ちゃんと甘えられる年じゃなかった。
兄は結婚し、子どももいた。
だから、兄が異世界に帰るとき、リサはついていけなかった。


でも、今は、兄とふたりきりだ。
しかも身体は17歳に戻れたし、処女だった。
ピノアからいろいろ話を聞いておいて本当によかった。
魔人になることができた。これ以上年をとることはない。

ラ・ムー大陸のことも聞いていた。
大陸すべてを構成する結晶化したエーテルは、凝縮の逆のこと、つまりは、膨張させてやれば、結晶化する寸前に戻せるだろうとわかっていた。
それに、自分の血を二、三滴混ぜるだけで、巨大な大陸を構成するだけのエーテルがすべて自分の血と同じように、脳が発する微弱な電気信号で形状を変化させられる。

兄と自分だけの王国を作るための城は、すぐに作れた。

きっとステラやサクラ、ピノアたちが、兄を取り返しにくるだろう。
この世界に、おかしなことが起きていることにも気づいていた。
だから、誰も大陸に侵入することすらできないような大量破壊兵器による自動迎撃システムを用意した。

リサの血の鎖で縛られたままの兄が目を覚ましたとき、兄は一体何が起きているのかわからないという顔をした。

「お兄ちゃんは確かにわたしにさびしい思いをいっぱいさせたけど、兄貴失格だなんて思わなくていいよ。
だって反省してくれたんだもんね?
これからは、ずっとわたしだけを見ててくれるんだよね?」

どうせ、どうしてこんなことをするんだ、とか、つまらないことを聞いてくるだろうから、しゃべれないように血で作った猿ぐつわを口にかませていた。

「お兄ちゃん、わたしが17のときは22だよね?
すぐに、その頃の身体にしてあげるね」

リサは、時の精霊の魔法を使ってみることにした。
オロバスとかいうピノアのことが大好きな、女の趣味が悪い精霊の許可を取らなければいけない魔法だと聞いていたが、使うことができた。

あぁ、女の趣味が悪いとか言ったらだめか。
兄もピノアを愛していた。
ステラを妊娠させてしまったから、ステラにしただけだったっけ。
だったら、わたしも妊娠しよう。

この世界にかつて存在したダークマターは、精霊の許可を取る必要はなく、精霊に力を無断拝借されていることすら気づかせないものだったという。

それの応用だ。

エーテルがどのような構成の魔素なのかは、魔人の目で見れば分子レベルでわかる。
魔法の触媒となる分子だけを残し、精霊との繋がりとなる分子を切り離せばいい。

「34歳のお兄ちゃんもかっこいちけど、22歳のお兄ちゃんが見れると嬉しいな。
わたしも、お兄ちゃんが大人になるのを、ずっとそばで見たかった。
こんなかっこいいお兄ちゃんを独り占めしてたあのステラとかいう女、ほんとにお兄ちゃんの良さを理解してるのかな?」


お兄ちゃんも魔人にしてあげる。
わたしも魔人になったから。
ふたりとも、もう年を取らないようにしようね。

リサは、凝縮したエーテルをいくつも作り出すと、兄の身体に無理矢理押し込んだ。

本当にかっこいいね、と22歳になったレンジを見てリサは言った。
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