もしも、えっちなことをしてる途中で異世界転移しちゃったら。【異世界転移奇譚 NAYUTA 1~】

雨野 美哉(あめの みかな)

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【第五部 異世界転移奇譚 NAYUTA 2 - アトランダム -(RENJI 5)】もしもしっくすないんしてる途中で異世界転移しちゃったら。

第92話

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父サトシや母ハルミはいなかったし、いまだ中二病全開の眼帯包帯女子高生が、本当に妹のリサかどうかは怪しいものであったが、レンジにステラ、ピノア、リサ、千古、それにサクラ、世界をまたいだ家族が揃い、数ヵ月ぶりの家族団欒の時間を過ごせることは、レンジにとってもステラにとっても嬉しいことだった。

父や母の代わりに、イルルやサタナハマアカがいてくれたし、ナユタもいた。

リサの高校時代の担任であり、レンジの担任でもあった棗という日本史教師のことや、リサが彼から、レンジとステラに伝えるように言われたというアカシックレコードの話は気になったが、とりあえずは久しぶりの皆での食事を楽しみたかった。

女王の間を円卓の間へと切り替え、城で働いてくれている人たちに用意してもらった食事は、特別豪華なものではなかった。
ステラもレンジも女王や王配という立場ではあるが、衣食住の住こそ城を使ってはいるものの、食事や衣類はエウロペの人々と変わらない生活をしていたからだ。

無論、他国から王族を招く際や招かれた際には、それ相応の食事や衣類を用意する。
だがそれ以外のときは、常に人々と同じ水準の暮らしをしていなければ、同じ目線に立つことができないというのが、ステラやレンジだけでなく皆の考えだった。

ステラは、確かにエウロペの王族の血を引いていた。だから、自ら退位した前国王から女王に選ばれた。
だが、彼女はテンス・テラのエウロペの前国王が、三賢者と呼ばれる三姉妹の末の妹を強姦し孕ませた子であるブライ・アジ・ダハーカの娘に過ぎず、イレブンス・テラのエウロペの王族とは、遺伝子的には血の繋がりがあっても、生まれた世界自体が違う。

レンジもまた、母がエイス・テラのジパングの女王であったが、国だけでなく、やはり生まれた世界が違う。

自分たちは聖書の最後の預言にある救厄の聖者ではあるが、所詮は魔法使いや戦士に過ぎない。
英雄や勇者と呼ばれることもあるが、ひとりひとりが自分のことをそんな大層な者ではないと認識していた。
国政に正解はない。
常に目の前のことだけで精一杯だ。
それに、戦争で手柄を立てた英雄や軍人が王となっても、ろくな国政を行えないのはリバーステラの歴史を見れば明らかだった。
だからこそ、おごることがないように身の丈にあった暮らしをすることを皆で選んだ。

つい先ほど、レンジがリサを呼びに行ったバルコニーは、女王の間と繋がっていた。
そこにはいなかったはずのサクラが、なぜかそこから、しかも翡翠色の髪と瞳の姿になり現れたときには、皆が大変驚かされた。

先の戦いでステラやレンジがエウロペの人々とリバーステラに転移した直後に現れた翡翠色のサクラのイミテーションの話は聞いていたが、ふたりには間違いなくサクラだとわかった。
かつて戦った自身やショウゴ、サトシのイミテーションは遺伝子から記憶までも何もかもが同じであり、すっかり騙されてしまったが、見分け方をふたりはすでに知っていた。

魂だ。

イミテーションは魂までは再現できないのだ。

ナユタはただただ唖然としていた。

リサは何が起きているのかわからないという顔をしていたが、リサの頭の中にだけサクラの声が聞こえていた。

(リサさんと同じことサクラもしてみた。
お母さんとピノアちゃんとイルルさんには、リサさんが魔人になったこと、すぐばれちゃうから。
しばらくはわたしが三人の気を引いておくね)

サクラの優しさにリサは甘えることにした。
彼女は、そのことが全く頭になかったから正直助かった。
本当にいい子だな、と思った。お兄ちゃんとステラさんの子どもだもんな、と。
自分はステラだけではなく、この子からも兄を自分のためだけに奪うのか、と。
そう思うと、胸がチクリと傷んだ。

神聖りさりさ皇国(仮)をどこに作るかまで、彼女はもう決めていた。


「また出てきたの? この性欲お化け!!」

「やれやれ、イミテーションを作るのは『我々』や『アンサー』だけにしてもらいたいものだね」

翡翠色のサクラに苦い思い出のあるピノアとイルルは、サクラを見るやいなや臨戦態勢を取ったが、

「ピノアお姉さまにイルル様、こちらのサクラ様は、正真正銘本物のサクラ様のようですよ」

同様に苦い思い出があるサタナハマアカにそう諭され、構えを解いた。


「私も以前騙されましたが、イミテーションは、どれだけ本物に似せていても、魂が違いますから。
どうやらサクラ様は、自ら魔人になる方法を編み出されたようですね」

「サタナハマアカはさすがだね。
サクラのこと何でもわかっちゃうんだね」

(リサさんのことも気づいてるんだよね?
うまくごまかしてあげてほしいな)

「当然です。
私はサクラ様を愛しておりますから。
今ではステラ女王様よりもピノアお姉さまよりも、サクラ様を愛おしく思っております」

(お安いご用です。魔人が魔人であることをまわりから隠す魔法がありますので。
サクラ様のお祖父様が、幼い頃のステラ女王様やピノアお姉さまのために編み出された魔法です。お使いにはなられなかったようですが。それを使い、リサ様が魔人になられたことをうまく隠してみせます)

ふたりの声は、リサにも聞こえていた。
本当に申し訳ない気持ちになった。

「ちょっと! わたしよりもってどういうこと!?」

「ピノアお姉さまにはナユタ様がいらっしゃるから別にいいじゃないですか」

ピノアの抗議を、さらりと受け流すすべまでサタナハマアカは今では持っていた。

「ありがとう。サクラも大好きだよ」

「ありがたいお言葉です……
録音させていただきましたので、毎晩リピート再生して寝ます」

「そんな風に言われたら、いっぱい大好きって言いたくなっちゃう……
大好きだよ、サタナハマアカ……」

「いやいやサクラ、ストーカーっぽかったからね!? さっきの発言!!」

「ピノアお姉さまは、私がサクラ様に夢中だからやきもちをやいてらっしゃるのですか?」

「わたしを落としたときのナユタみたいなこと言うなー!!」


スープを飲んでいる途中で突然巻き込み事故にあったナユタは盛大に咳き込むことになった。

「お兄ちゃん、大丈夫ですか?
千古がお背中なでなでしますね。
あと、お口のまわりのスープ、ペロペロしてあげます」

「それはだめ!! ナユタもニヤニヤしないの!!!」

「まったく、いつまでたってもピノアお姉さまは変わりませんね。
まぁ、そこがお姉さまの魅力なのですが」

「わ、わかってるなら、別にいいけど……」

「あ、でも、サクラ様が一番ですけど。
むしろオンリーワンです」

「ぐぬぬぬ……今度はわたしがナユタに言った言葉みたいなことを……」

サタナハマアカは、楽しそうに笑っていた。
そして、本当にサクラに対して恋愛感情を抱いていた。
彼の魔法人工頭脳は、もはや完全に人と同じように様々な感情を有するようになっていた。

「おそらく以前、アンサーがかぐや様を利用して産み出したイミテーションは、サクラ様の持つ未知の可能性までをも再現したものだったのでしょうね。
人工的に産み出された魔人は、かつてお三方いらっしゃいましたが、自ら魔人となられたのはサクラ様がはじめてですから。
イミテーションのサクラ様も、ステラ女王様やピノアお姉さまやイルル様よりも強大な力を持っていましたが、今のサクラ様からはそれ以上の力を感じます」

サクラは、にひひ、と笑った。

「イルルさんは知ってるけど、サクラはこの何ヵ月か、魔法をいっぱい勉強したからね」

その場にいたレンジとステラ以外の全員が、きっと媚薬の魔法を自分に使ってみたかったんだな、と思った。
それがわかったので、イルルは思わず吹き出してしまった。

サクラはなぜイルルが吹き出したのかわからなかったが、

「みんなでごはん食べるの久しぶりだからうれしいね」

本当に心から嬉しそうに笑った。

サタナハマアカは、そんなサクラの笑顔を本当に愛おしく思った。
そして、17年前、匣の持つ膨大な情報や技術に魅了され、破壊されても文句を言えないような過ちをおかしかけた自分を、破壊しないでくれた彼女の父レンジに本当に感謝した。

レンジは、彼の世界にいたペッパーやロビという、サタナハマアカのような存在が好きだったという。
だから、人が間違いを犯しても、その罪を償い、更正や成長することで許されるように、自分にも人と同じ機会を与えてくれたのだ。

だから今の自分がある。
レンジを裏切るまねはしないと決めていた。
生涯、彼が愛する人々や世界のために生きようと思っていた。

だが、まさか自分が恋をし、彼の娘を愛することになるとは夢にも思わなかった。

彼は、サクラ以上の力を、リサから感じていたが、そのことはレンジにもサクラにも黙っておくことにした。

リサもまたレンジやサクラが愛する人のひとりだったからだ。

彼女は、何の目的もなく、なりたかったから、なれる方法に気づいたから、魔人になったというわけではおそらくないだろう。
その目的がどんなものであるかはまだわからない。
たとえレンジが愛する人や世界や、サクラに危険が及ぶことになったとしても、自分が彼女を止めればいい。

そのために自分の存在はある。
魔法人工頭脳や魔痩躯のバックアップをすでにいくつも用意してある。
ひとりでは無理なら、バックアップをひとつだけ残し、すべてを起動させるだけだ。

だが、バックアップをそのように用意できてしまう存在であることは悲しかった。

彼はサクラと同じ人間になりたかった。



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