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【第五部 異世界転移奇譚 NAYUTA 2 - アトランダム -(RENJI 5)】もしもしっくすないんしてる途中で異世界転移しちゃったら。
第78話 シスター・ピノアちゃんとシスター・千古ちゃんは、とにかくナユタとせっくすしたい。③
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「でも、この字、女の子の字だよね?」
その秋月文書の表紙には、そのタイトルよりも太いマジックで、黒歴史、封印、大魔王封じ、見たら殺す、呪い殺す、いやわたしが死ぬ、マジで死ぬ、見るなよ絶対に見るなよ、などといった呪詛の言葉なのか見てほしいのかよくわからない言葉が、かわいい字で並んでいた。
「リサの字だよ。リサはJCとかJKとかのころ、勉強するふりして何か必死で書いてたからさ、たぶんそのときのやつ。
わたし、その前にも一回、レンジの部屋に住むようになったばかりの頃に、押し入れを藤岡弘探検隊してたから、リサはわたしがもう一回、押し入れをあるある探検隊するとは思わなかったんだろうね」
ちなみにその頃のリサの写真がこれ、とピノアはスマホの画面にJK時代のリサの写真を表示させて見せてくれた。
眼帯をしていた。
「リサさん、目の病気してたの?」
「ううん、してないよ」
目の病気をしてないのに眼帯……どういうことだろうか? コンタクトレンズを片方なくしたとか? 使い捨てレンズで、たまたま度数が左右同じで、一ヶ月分を二ヶ月使おうとした? いやいや、ないない。それはない。
「腕とか脚とか、あちこちに包帯してるね。痛そうだな……」
包帯には血がにじんでおり、ナユタだけでなく千古も、見るだけで自分まで同じ箇所が痛いように感じるほど痛々しい写真だった。
「ピノアちゃん、リサお姉ちゃんは、昔、事故か何かにあったのですか?」
千古にとっては、ナユタがお兄ちゃんで、リサがお姉ちゃん、ピノアはあくまでお友達のピノアちゃんで、ナユタの彼女というのはオプションで一時的にお兄ちゃんを貸しているだけ、というポジションらしかった。
かわいいな、千古。
「ううん、事故どころか、怪我ひとつしてないよ」
「じゃあ、この血は?」
「血糊」
全く意味がわからなかった。
「演劇部だったとか?」
「帰宅部だったよ。
あと、この首とか胸元にあるタトゥーみたいなのは、リサに描いてって言われたから、わたしがマジックで描いてあげたやつ」
背中とか、服で隠れているところのほとんどに、ピノアは謎の文字や記号や絵を描かされたという。
「ついでに、わたしが好きで観ながらよくおなにーしてたえろ動画の女の子みたいに、あそこの近くに『公衆便所』って矢印つきで書いたんだけど、それは違ってたみたい。
リサのやつ、あのとき、ステラくらい全力で何発も往復ビンタしてきたなぁ……」
ピノアは遠い目をしていた。
よくわからないけど、公衆便所は絶対違うし絶対ダメだろ。
全く意味がわからなかったが、ナユタは秋月文書を手に取り、読んでみることにした。
それは、ピノアやサトシ、ナユタの父や叔母から聞いた異世界の話をまとめたものだった。
だが、それは最初だけで、秋月文書の大半は、まるでリサもまたピノアたちのような特別な存在であるかのように書かれており、レンジとリサが「真の父母」となり「王の王」として、ふたつの世界の神になっていた。
それが、10冊近くある秋月文書の第一巻だった。
「二巻は、一巻までの話が旧約聖書だとしたら新約聖書みたいな感じかな。
今から2000年後くらいの世界では、この時代のことが神話になってて、レンジとリサを二柱の神とする、りさりさ教っていう宗教が世界中で信仰されてるみたい」
ナユタより先に千古がブフーッと吹き出した。
ピノアもニヤニヤしながら話していた。
「ちなみに、りさりさ教の教えはひとつだけ。
よく寝て、よく食べて、よく寝ます」
やっべー。リサさん、かわいすぎるだろ。
ピノアが先ほどまでシスターになりきってしていた新興宗教の勧誘コントは、秋月文書とその後に判明したことなどをピノアがアドリブで追加したもののようだった。
リサはナユタの中では、なんというか、雨野家と親交のあるや秋月家や山汐家、大和兄妹の中では、比較的まともな人だった。
一番やばいのがピノアで、二番目が叔母のミカナだ。三番目は大和妹だろう。
リサは彼女たちに似ているところもあったが、母や山汐メイ、それにサトシのようにしっかりした印象だった。
だから意外だった。
きっとリサは、レンジやサトシ、そしてピノアに強い憧れがあったのだろう。
そして、もしかしたらミカナが無自覚にテラの世界の理を変えてしまったように、自分にもそのような力があったなら、と夢想したのだ。
だが彼女は何の力もなく、異世界にさえ行ったことがない。
産まれてすぐ、父親がある日突然いなくなり、兄もまた彼女が小学六年のときにいなくなった。
ふたりが異世界に迷いこんでしまっていたことがわかったのは、兄が行方不明になった三ヶ月後に父が帰還したからだ。
そして彼女は母が異世界人であったことを知った。
ピノアが異世界から来て、兄の部屋に住むようになった。
彼女は、ただの小学生から、ただの女子中学生になり、ただの女子高生になり、ただの女子大生になり、そしてただの社会人になった。
社会人としてちゃんと働き、給料をもらう。
それはとてもすごいことだ。
実家を離れた者は家賃を払いながら一人で生活していけるだけの月給がなければいけない。
実家で暮らしていれば生活はだいぶ楽になるだろう。だが、生活費を親に渡したり、将来のために貯金をしたりなどしていかなければならない。
大人なら出来て当たり前だとされているけれど、本当にちゃんと出来ている大人は一体何割いるのだろうか。
自分はちゃんとした大人になれるだろうか?
ピノアを幸せにできるだろうか?
父やサトシやレンジのように。
一度だけだが世界の危機を救ったナユタにとっては、できてしまったことより、自分にできるかどうかまだわからない社会に出るということの方が、はるかに難しいことに思えた。
その秋月文書の表紙には、そのタイトルよりも太いマジックで、黒歴史、封印、大魔王封じ、見たら殺す、呪い殺す、いやわたしが死ぬ、マジで死ぬ、見るなよ絶対に見るなよ、などといった呪詛の言葉なのか見てほしいのかよくわからない言葉が、かわいい字で並んでいた。
「リサの字だよ。リサはJCとかJKとかのころ、勉強するふりして何か必死で書いてたからさ、たぶんそのときのやつ。
わたし、その前にも一回、レンジの部屋に住むようになったばかりの頃に、押し入れを藤岡弘探検隊してたから、リサはわたしがもう一回、押し入れをあるある探検隊するとは思わなかったんだろうね」
ちなみにその頃のリサの写真がこれ、とピノアはスマホの画面にJK時代のリサの写真を表示させて見せてくれた。
眼帯をしていた。
「リサさん、目の病気してたの?」
「ううん、してないよ」
目の病気をしてないのに眼帯……どういうことだろうか? コンタクトレンズを片方なくしたとか? 使い捨てレンズで、たまたま度数が左右同じで、一ヶ月分を二ヶ月使おうとした? いやいや、ないない。それはない。
「腕とか脚とか、あちこちに包帯してるね。痛そうだな……」
包帯には血がにじんでおり、ナユタだけでなく千古も、見るだけで自分まで同じ箇所が痛いように感じるほど痛々しい写真だった。
「ピノアちゃん、リサお姉ちゃんは、昔、事故か何かにあったのですか?」
千古にとっては、ナユタがお兄ちゃんで、リサがお姉ちゃん、ピノアはあくまでお友達のピノアちゃんで、ナユタの彼女というのはオプションで一時的にお兄ちゃんを貸しているだけ、というポジションらしかった。
かわいいな、千古。
「ううん、事故どころか、怪我ひとつしてないよ」
「じゃあ、この血は?」
「血糊」
全く意味がわからなかった。
「演劇部だったとか?」
「帰宅部だったよ。
あと、この首とか胸元にあるタトゥーみたいなのは、リサに描いてって言われたから、わたしがマジックで描いてあげたやつ」
背中とか、服で隠れているところのほとんどに、ピノアは謎の文字や記号や絵を描かされたという。
「ついでに、わたしが好きで観ながらよくおなにーしてたえろ動画の女の子みたいに、あそこの近くに『公衆便所』って矢印つきで書いたんだけど、それは違ってたみたい。
リサのやつ、あのとき、ステラくらい全力で何発も往復ビンタしてきたなぁ……」
ピノアは遠い目をしていた。
よくわからないけど、公衆便所は絶対違うし絶対ダメだろ。
全く意味がわからなかったが、ナユタは秋月文書を手に取り、読んでみることにした。
それは、ピノアやサトシ、ナユタの父や叔母から聞いた異世界の話をまとめたものだった。
だが、それは最初だけで、秋月文書の大半は、まるでリサもまたピノアたちのような特別な存在であるかのように書かれており、レンジとリサが「真の父母」となり「王の王」として、ふたつの世界の神になっていた。
それが、10冊近くある秋月文書の第一巻だった。
「二巻は、一巻までの話が旧約聖書だとしたら新約聖書みたいな感じかな。
今から2000年後くらいの世界では、この時代のことが神話になってて、レンジとリサを二柱の神とする、りさりさ教っていう宗教が世界中で信仰されてるみたい」
ナユタより先に千古がブフーッと吹き出した。
ピノアもニヤニヤしながら話していた。
「ちなみに、りさりさ教の教えはひとつだけ。
よく寝て、よく食べて、よく寝ます」
やっべー。リサさん、かわいすぎるだろ。
ピノアが先ほどまでシスターになりきってしていた新興宗教の勧誘コントは、秋月文書とその後に判明したことなどをピノアがアドリブで追加したもののようだった。
リサはナユタの中では、なんというか、雨野家と親交のあるや秋月家や山汐家、大和兄妹の中では、比較的まともな人だった。
一番やばいのがピノアで、二番目が叔母のミカナだ。三番目は大和妹だろう。
リサは彼女たちに似ているところもあったが、母や山汐メイ、それにサトシのようにしっかりした印象だった。
だから意外だった。
きっとリサは、レンジやサトシ、そしてピノアに強い憧れがあったのだろう。
そして、もしかしたらミカナが無自覚にテラの世界の理を変えてしまったように、自分にもそのような力があったなら、と夢想したのだ。
だが彼女は何の力もなく、異世界にさえ行ったことがない。
産まれてすぐ、父親がある日突然いなくなり、兄もまた彼女が小学六年のときにいなくなった。
ふたりが異世界に迷いこんでしまっていたことがわかったのは、兄が行方不明になった三ヶ月後に父が帰還したからだ。
そして彼女は母が異世界人であったことを知った。
ピノアが異世界から来て、兄の部屋に住むようになった。
彼女は、ただの小学生から、ただの女子中学生になり、ただの女子高生になり、ただの女子大生になり、そしてただの社会人になった。
社会人としてちゃんと働き、給料をもらう。
それはとてもすごいことだ。
実家を離れた者は家賃を払いながら一人で生活していけるだけの月給がなければいけない。
実家で暮らしていれば生活はだいぶ楽になるだろう。だが、生活費を親に渡したり、将来のために貯金をしたりなどしていかなければならない。
大人なら出来て当たり前だとされているけれど、本当にちゃんと出来ている大人は一体何割いるのだろうか。
自分はちゃんとした大人になれるだろうか?
ピノアを幸せにできるだろうか?
父やサトシやレンジのように。
一度だけだが世界の危機を救ったナユタにとっては、できてしまったことより、自分にできるかどうかまだわからない社会に出るということの方が、はるかに難しいことに思えた。
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