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【第五部 異世界転移奇譚 NAYUTA 2 - アトランダム -(RENJI 5)】もしもしっくすないんしてる途中で異世界転移しちゃったら。

第72話 プロローグⅡ

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「神の子と呼ばれた私が言うのも何だけど、私が知る限り預言者や神の子、あるいは現代で私や仏陀の転生体を名乗る者は、大体虚言癖の持ち主かシャブ山シャブ子だよ。
 特に仏陀は輪廻の輪から既に解脱している。
 それに、私の転生体を名乗る者の中には、私をモデルにした架空の人物に過ぎない者の転生体でもあると明言している者もいるのだろう?」

「えぇ、初代から十数代の王と同じく実在しなかったとして、今では偽りの歴史の教科書からさえもその存在が消された者の転生体であるなど、あまりに歴史を知らなすぎる。実に浅はかです」


「厩戸王(うまやとおう)」という者は確かに日本の歴史に存在したが、彼が生きた時代に行われた数々の施策を誇大評価し、それらの偉業すべてに関与した人物として、棗の傍らにいる者をモデルに作り上げられたのが「聖徳太子」であった。

「その者は自らを全宇宙で最も偉大な存在であるとし、まぁもっとも日本にはそのような存在が何十人もいるのですが、18年前には、カーズウィルスによるパンデミックを、オンライン・イニシエーションによって収束させようとしました」

「何の力も持っていないことが明らかになるだけだというのに、実に愚かだね。
 それに、未だに私の教えを信じる者の半数ほどは進化論を否定していると知ったときには、さすがの私も呆れたよ。
 インフルエンザウィルスですら毎年進化しているというのに」

 まぁ、仏陀くんと私がルームシェアしている漫画は面白いけどね、と彼は言った。麻衣やヤマヒトとは漫画の趣味が合わないが、君が集める漫画は面白い、と。

「少し話が脱線してしまったね。
 アトランティスについては、君の戯使遣いとしての役割からは対象外になるんじゃないのかな。
 それとも、アトランティスも日本の真実の歴史と関わりがあるのかい?」

「私は戯使遣いであると同時に、108回の輪廻転生と109回の主への裏切りを貴方に宿命づけられた者でもありますから」

「なるほど。今回はそちらの宿命を果たしてくれるわけだね。
 かぐや姫が集めることができなかった五つの宝やムー大陸が、リバーステラではなくテラに存在したように、アトランティスもまたこの世界ではなく、あちらの世界に存在するというわけだ」

 ムー大陸は、テラにラ・ムー大陸として存在した。
 そこに文明は存在しなかったが、大陸自体が結晶化したエーテルで構成されており、誰かが魔法を込めたのか、あるいは大陸自体がそうすることを選んだのか、インビジブルの魔法によって光学迷彩のようにその姿を隠し続けていた。

 そしてアトランティスもまた、アトランダム島として、テラの様々な場所を常に、その名の通りアトランダムに移動し続けていた。


「アトランダム帝国の帝王、ラプラス・シュレディンガーは、戯使遣いとしての私と同じくアカシックレコードによって産み出された存在です」

「つまりは、歴史の観測者、レコーダーのひとりというわけだね」

「雨野ナユタらによって、あの世界自体が世界の理を変える力の干渉を受けない特異点となってしまったために、雨野ムスブがこの宇宙から戦争という概念を消しても、あの世界では戦争という概念は消えていません」

「まもなく、アカシックレコード自体がテラへ転移してくるということだね」

 棗は頷いた。

「ようやく、私が一体何者であるのか、誰が宇宙を作ったのか、宇宙誕生以前の無とは何なのか、そのすべてが明らかになるわけか……」

 彼はずっとそれを願っていたはずだった。
 だが、嬉しさよりも寂しさの方が大きかった。

 棗は数ヶ月前、邪馬台国の歴史さえ明らかにすればその役割を終えるはずだった。
 だが、それによって彼が持つ偽史倭人伝には、その冒頭に空白のページが大量に追加されてしまった。
 神話や異世界に彼が求める真実の歴史があることが判明したからだ。

 だが、棗はそのとき喜んでいた。

 なるほど、と彼は思った。

 目的を果たしてしまえば、達成感はあるだろうが、虚無感も訪れる。
 虚無感から逃れるためには、新たな目的を見つけなければいけなくなってしまう。
 それは今を生きる棗も、魂と力だけの存在になった自分も同じだった。

 だったら永遠に目的など果たされなくても良いのかもしれない。

 彼はそう思った。
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