もしも、えっちなことをしてる途中で異世界転移しちゃったら。【異世界転移奇譚 NAYUTA 1~】

あめの みかな

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第54話 再会、母と。妹と。祖父母と。

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「ぼくたちは、ピノアをテラに帰してから、世界の理を変える力の存在自体をなくすつもりだったけど、その前にやらなきゃいけないことがあった」

「カーズウィルスによる世界規模のパンデミックをどうにかすることですか?」

 レンジは尋ねた。

 2020年のはじめからパンデミックを引き起こしていたそのウィルスは、感染し発症した際の致死率が100%であるだけでなく、発症時には身体中の穴という穴から血液や体液を撒き散らす人間噴水となり、半径数十メートル内にいる人すべてに感染し、一年足らずで人類の半分を間引いた、呪いを意味する名にふさわしい恐ろしいウィルスだった。

 しかし、感染しても発症する者と発症しない者がいた。
 発症するのは、遺伝子に犯罪因子と呼ばれるものを持つ者だけだった。

 人間関係や金銭問題など、人が抱えるさまざまな問題で、どうにもならないほどに追い詰められた際、堪え忍ぶことを選択する者と犯罪を犯してでも状況を打開する選択をする者がいる。
 後者が遺伝子に持つのが犯罪因子であり、犯罪因子を持つ者はいじめやセクハラ、パワハラ、モラハラ、DVを日常的に行う傾向にあるらしい。
 本当にそのようなものが存在するのかどうかはわからないが、発症する者としない者がいたのは確かだった。

 犯罪因子を持つ人間だけを間引くため、同時にエネルギー問題や食糧危機といった問題を解決させるため、カーズウィルスは人工的に産み出され、パンデミックも人為的に起こされたものだった。

 軌道エレベーターやスペースコロニーの建造、月や火星のテラフォーミングなどには膨大な時間と金がかかる。
 先にエネルギーや食糧が尽き、世界中が貧困に苦しむことが目に見えていた。

 ならば、はるかに低予算で産み出せるウィルスで、はるかに短時間で人類を間引き、尚且つ犯罪因子を持つ者だけを間引くことによって平和な世界を作ることを、リバーステラの王を気取る「我々」という組織は選んだ。
 そんなことを思いつき実行してしまう者こそが、最も強い犯罪因子を持っていたわけだが、彼らは自らを神だと思い込んでいたから、パンデミックは神話の大洪水と方舟の再現のような感覚であったのだろう。

「そうだね、ぼくと真依は、カーズやこの世界が抱えるさまざまな問題を解決しようとした。
 そして、それからピノアをテラに帰し、力の存在を消すつもりだったんだ」

「でも、この世界が抱える問題があまりに多すぎて、わたしたちは力を使い果たしてしまったの。
 だからピノアを帰してあげることもできなくて、力も存在したままになってしまった。
 その結果、ムスブが産まれもっていた力にまだ気づいていなかったわたしたちは、ムスブの持つ力を消すことができなかった。
 だから、ムスブはナユタを殺そうとしてしまったの」

「ピノアが封印できたのは、ムスブの身体と記憶や力の一部だけだったようなんだ。
 魂や力のほとんどは、封印されなかった。
 そして、すべてを知ったムスブは、テラに行ってしまった」


 タカミたちの顔は皆暗かった。

 だが、彼らは何も間違ってはいなかった。
 彼らが正しいと信じることをした。

 レンジやステラが同じ立場であったなら、きっと同じことをしただろう。

 ただ、想定外のイレギュラーがあまりに多すぎただけだ。
 タカミは誰よりも頭がいい。常に二手三手どころか千手先を見据えて行動を起こしている。
 彼ですら想定外の出来事を想定することは、人にはもはや不可能だろう。


「タカミさんも真依さんもミカナさんも、誰も何も間違ったことはしていないと思います。
 だから、父さんが言ったように、自分のことを責めないでください。
 ぼくたちも、自分たちがしたことが正しかったのかどうか、正直わからないんです」

「そういえば、君たちはどうしてこっちの世界に?」

「ぼくたちが、エウロペの人々ごと、こちらの世界に転移せざるを得なかったのは、月の審神者という存在がテラに現れたからなんです」

 レンジはテラで起きたことについて話し始めようとしたが、

「レンジ……? レンジなの?」

「お兄ちゃん? ほんとにお兄ちゃん?」

 母と妹が、そして祖父母が、ショウゴと共にやってきていた。

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