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第48話 愚者か、子どもか。
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「誰を呼ぶつもりだったのか知らないが、自分が置かれている状況をよく理解した方がいいと思うぜ。存在を消されたくはないだろ?」
力というものは、人をここまで傲慢にさせてしまうのか、とイルルは思った。
この男は愚者だ。
いや、まるで子どもだ。
イルルは、前の世界に生まれた自分、ライト・リズム・エブリスタとリード・ビカム・エブリスタという双子の魔法使いであった頃を思い出してしまった。
ただの人でありながらも、天才と呼ばれるにふさわしいだけの優れた才能を持っており、その才能に見合う努力以上の努力をけっして怠ることのなかった自分は、魔人であるステラを超えていると勝手に思い込み、アルビノの魔人であるピノアだけを一方的にライバル視していた。
それは恋をしたばかりの男の子が、好きな女の子にどう接していいかわからず、いじわるをするようなものでもあり、どれだけ努力をしてもピノアにはかなうことはないと気づいていながらも、たとえ追い越すことはできなくても並び立ちたい、認められないという気持ちから来るものであった。
目の前にいる青年は、あのころの13歳の自分よりも愚かに見えた。子どもに見えた。
「なぜナユタとピノアを呼ばなければならないのかがよくわからなかったからね。
おそらくナユタは君の弟だろう? ピノアは君にとっても大事な、家族に等しい存在じゃないのかい?」
イルルは、ピノアが自分をクソガキと呼んでいた気持ちがよくわかった。
こんな子どもの相手などしていられるか、と思った。
だから、迦具夜にこう伝えることにした。
(ジパングのふたりの女王や、ニーズヘッグやアルマたち、それにサクラが無事なら、キミの力で彼を除く全員を今すぐエウロペの女王の間へ転移させてくれ)
迦具夜なら、それが可能なはずだった。
すぐにこの雨野ムスブという男が追いかけてくるだろうが、今は迦具夜を彼から放すこと、ピノアたちと合流することが先決だった。
情けない話だが、自分たちだけではこのままではムスブに存在を消されるだけだ。
「嫉妬ですね。あなたにあるのは。
あなたはピノアお姉さまやミカナ様、タカミ様や真依様に愛されたかった。
ですが、皆様から愛を受けたのは、おそらくナユタ様だけだった。あなたはそう思ってらっしゃる。
あなたはちゃんと愛されていたのに愛されていなかったと思い込んでいる」
サタナハマアカは言った。そして同時に、
(サクラ様たちの安否は確認しました。マヨリ様とリサ様が、みなさんの存在をこの者から隠して下さっています。
私が時間を稼ぎます。最悪、カラビ・ヤゥの力でこの者と共に余剰次元の彼方に向かいます。
私の魔痩躯と魔法人工頭脳のバックアップはすでに取ってあります。
私がシャットダウンすれば、エウロペにあるバックアップの私が自動的に起動するようになっておりますので、ご心配なく)
イルルがしたように、彼女と迦具夜の脳に直接語り掛けてきていた。
こいつは全くすごい奴だな、とイルルは思った。
17年前の戦いのとき、サタナハマアカは産まれたばかりであったために多くの過ちを犯した。
だが、それを糧にして成長し、今では人と変わらない心を持っている。
魔法使いとしての実力も一流だ。
それだけでなく、自らの身体の利点をちゃんと把握し、いざというときのために備えていてくれていたというわけだ。
「お前みたいな人形に愛がわかるのか?」
「あなたよりは理解しているつもりです。
あなたは人を愛するということを知らない。
愛している気になっているだけです。
ピノアお姉さまを手に入れることができるなら、ナユタ様の命を奪うことや存在を消すことなど、なんとも思っていない」
(急いでください。
ピノアお姉さまとナユタ様のおそばには、月の審神者の千古様と馬岐耳様、それに私のデータにはない方がおふたりいらっしゃいます。
ナユタ様と千古様は、ピノア様が持つ特異点の力を世界規模に拡大しようとしてらっしゃいます。
私のデータにないお二方は、迦具夜様がお持ちの五つのものを使って、この者を倒すために、より強い『無量大数の力』を手にされるおつもりのようです)
そこまでわかるのか、とイルルだけではなく迦具夜もまた感心した。
常にアカシックレコードにアクセスした状態にあった迦具夜には、サタナハマアカがアカシックレコードよりも最新の情報を手にしていることがわかったから、本当に驚かされた。
「あなたは、聖書のカインのように愚かだ。
そして、力に溺れた選民意識の塊でもある。
前の世界の聖書のアベルのように。
すべてのテラのカインやアベル、そして、大厄災を起こした者たちと同じように、本当に愚か」
「黙れよ」
雨野ムスブは、サタナハマアカを木っ端微塵に吹き飛ばした。
「くそっ、こんな木偶人形相手に……」
ムスブは彼にすべてを見抜かれてしまっていることが、本当に不快だった。
「迦具夜、もういい。
ナユタやピノアのところには、お前の力で連れていってくれ」
そして、ムスブは、サタナハマアカがただ自分の注意を引き付け、時間稼ぎをしていただけであったことに気づかされた。
ラ・ムー大陸には、彼以外にはもう誰もいなかった。
彼が迦具夜たちの移動先をなんとか特定し、瞬間移動しようとしたときには、世界の理を変える力はすでに使えなくなっていた。
力というものは、人をここまで傲慢にさせてしまうのか、とイルルは思った。
この男は愚者だ。
いや、まるで子どもだ。
イルルは、前の世界に生まれた自分、ライト・リズム・エブリスタとリード・ビカム・エブリスタという双子の魔法使いであった頃を思い出してしまった。
ただの人でありながらも、天才と呼ばれるにふさわしいだけの優れた才能を持っており、その才能に見合う努力以上の努力をけっして怠ることのなかった自分は、魔人であるステラを超えていると勝手に思い込み、アルビノの魔人であるピノアだけを一方的にライバル視していた。
それは恋をしたばかりの男の子が、好きな女の子にどう接していいかわからず、いじわるをするようなものでもあり、どれだけ努力をしてもピノアにはかなうことはないと気づいていながらも、たとえ追い越すことはできなくても並び立ちたい、認められないという気持ちから来るものであった。
目の前にいる青年は、あのころの13歳の自分よりも愚かに見えた。子どもに見えた。
「なぜナユタとピノアを呼ばなければならないのかがよくわからなかったからね。
おそらくナユタは君の弟だろう? ピノアは君にとっても大事な、家族に等しい存在じゃないのかい?」
イルルは、ピノアが自分をクソガキと呼んでいた気持ちがよくわかった。
こんな子どもの相手などしていられるか、と思った。
だから、迦具夜にこう伝えることにした。
(ジパングのふたりの女王や、ニーズヘッグやアルマたち、それにサクラが無事なら、キミの力で彼を除く全員を今すぐエウロペの女王の間へ転移させてくれ)
迦具夜なら、それが可能なはずだった。
すぐにこの雨野ムスブという男が追いかけてくるだろうが、今は迦具夜を彼から放すこと、ピノアたちと合流することが先決だった。
情けない話だが、自分たちだけではこのままではムスブに存在を消されるだけだ。
「嫉妬ですね。あなたにあるのは。
あなたはピノアお姉さまやミカナ様、タカミ様や真依様に愛されたかった。
ですが、皆様から愛を受けたのは、おそらくナユタ様だけだった。あなたはそう思ってらっしゃる。
あなたはちゃんと愛されていたのに愛されていなかったと思い込んでいる」
サタナハマアカは言った。そして同時に、
(サクラ様たちの安否は確認しました。マヨリ様とリサ様が、みなさんの存在をこの者から隠して下さっています。
私が時間を稼ぎます。最悪、カラビ・ヤゥの力でこの者と共に余剰次元の彼方に向かいます。
私の魔痩躯と魔法人工頭脳のバックアップはすでに取ってあります。
私がシャットダウンすれば、エウロペにあるバックアップの私が自動的に起動するようになっておりますので、ご心配なく)
イルルがしたように、彼女と迦具夜の脳に直接語り掛けてきていた。
こいつは全くすごい奴だな、とイルルは思った。
17年前の戦いのとき、サタナハマアカは産まれたばかりであったために多くの過ちを犯した。
だが、それを糧にして成長し、今では人と変わらない心を持っている。
魔法使いとしての実力も一流だ。
それだけでなく、自らの身体の利点をちゃんと把握し、いざというときのために備えていてくれていたというわけだ。
「お前みたいな人形に愛がわかるのか?」
「あなたよりは理解しているつもりです。
あなたは人を愛するということを知らない。
愛している気になっているだけです。
ピノアお姉さまを手に入れることができるなら、ナユタ様の命を奪うことや存在を消すことなど、なんとも思っていない」
(急いでください。
ピノアお姉さまとナユタ様のおそばには、月の審神者の千古様と馬岐耳様、それに私のデータにはない方がおふたりいらっしゃいます。
ナユタ様と千古様は、ピノア様が持つ特異点の力を世界規模に拡大しようとしてらっしゃいます。
私のデータにないお二方は、迦具夜様がお持ちの五つのものを使って、この者を倒すために、より強い『無量大数の力』を手にされるおつもりのようです)
そこまでわかるのか、とイルルだけではなく迦具夜もまた感心した。
常にアカシックレコードにアクセスした状態にあった迦具夜には、サタナハマアカがアカシックレコードよりも最新の情報を手にしていることがわかったから、本当に驚かされた。
「あなたは、聖書のカインのように愚かだ。
そして、力に溺れた選民意識の塊でもある。
前の世界の聖書のアベルのように。
すべてのテラのカインやアベル、そして、大厄災を起こした者たちと同じように、本当に愚か」
「黙れよ」
雨野ムスブは、サタナハマアカを木っ端微塵に吹き飛ばした。
「くそっ、こんな木偶人形相手に……」
ムスブは彼にすべてを見抜かれてしまっていることが、本当に不快だった。
「迦具夜、もういい。
ナユタやピノアのところには、お前の力で連れていってくれ」
そして、ムスブは、サタナハマアカがただ自分の注意を引き付け、時間稼ぎをしていただけであったことに気づかされた。
ラ・ムー大陸には、彼以外にはもう誰もいなかった。
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