45 / 123
第45話 戯使遣い・棗弘幸
しおりを挟む
千古と馬岐耳の前に現れた男の顔は、どう見てもジパングの民の者であった。
だが、驚くほど背が高かった。
彼女たちの時代では、ジパングの男はどれだけ背が高くても160センチほどしかなかった。
彼女たちは140センチほどしかなかったが、ジパングの女はせいぜい150センチほどだった。
だが、その男は180センチほどはあった。
2メートルを優に超えていたジパングの先住民族である山人ほど背が高くはなかったが、いつの間にジパングの民はこれほど背が高くなったのだろう、と思った。
あまりに背が高いため、後ろにもうひとり少女がいることが、少女が顔を覗かせるまでわからなかったほどだった。
かわいい女の子だった。
「1800年前に、月からあなたを見てたわ。こんなに背の高い人だったのね。
あのときはありがとう。
あなたのおかげで、邪馬台国はあのとき戦を起こさずにすんだ」
千古は、その男にずっと礼が言いたかった。
ようやく、それがかなった。
「礼には及びません。
私はただ、私に与えられた役割を果たしているに過ぎないのですから。
その役割の中に、たまたま貴女方の存在があり、今回はたまたまこの世界の危機に居合わせただけ……」
「あなたの役割……? この人、千古ちゃんの知り合いなの?」
「わたしはただ月から見てただけ。
こうして直接会うのははじめてよ。
ねえ、あなたのことを教えてくれる?」
千古の言葉に男はうやうやしく頭を垂れた。
「千古様、馬岐耳様、お初にお目にかかります。
私は、戯使遣い・棗弘幸。
リバーステラにおけるジパング、日本という国に、西暦1981年に産まれた者です」
「戯使遣い? 西暦? なぁにそれ?」
「西暦とは、リバーステラの暦です。
リバーステラにおけるアンフィス・バエナ・イポトリル、イエス・キリストが産まれた年を元年としています。
もっとも、キリストが産まれたのは、その四年ほど前だと言われていますが。
私は、雨野ナユタくん同様、西暦2038年からこの世界に来ました」
つまり、目の前の男は57歳ということだった。
だが、どう見ても30歳前後にしか見えなかった。
リバーステラには魔人は存在しないはずだ。存在したとしても、身体の成長が終わり老化が始まる二十歳前後のままのはずだった。
ただ若く見えるだけ、ということだろうか。
「戯使遣いについては、ご説明するよりも、実際に見て頂いた方が早いでしょう。
卑弥呼様と和多流様は今、戯使という存在として、私と共にいらっしゃいますので」
棗という男のそばに、卑弥呼と和多流が現れた。
肉体を持たず、魂と力だけの存在であったが、千古と馬岐耳にはそれが間違いなく姉と兄だとわかった。
「本当にこの子たちに会えるだなんて……」
卑弥呼は涙を流していた。
「千古、馬岐耳」
和多流もまた、ふたりに声をかけた。
「彼はね、リバーステラの真実の歴史を探求する者なんだ。
歴史は、時の権力者によって、歪められ、ねじ曲げられて後世に伝わる。
それは、テラにおいても、リバーステラにおいても変わらないらしい」
「リバーステラにおいて、後世に伝わることのない歴史は、偽史と呼ばれます。
偽史に貶められた方々は、戯使と呼ばれる魂と力だけの存在となります。
私に与えられた役割は、偽史を回収、管理、管轄すること。
そして、戯使となってしまった方を使役するのではなく、私の身体を使って頂くことにより、偽史を回収するお手伝いをして頂いています。
この『偽史倭人伝』にすべての偽史を正しい歴史として記録し、真実の歴史を紡ぐこと、それが私の役割なのです」
棗という男が持つ偽史倭人伝は、千古らが生きた時代、フギにあった邪馬台国の歴史が記されたものと同じ名前であった。
「リバーステラには、邪馬台国やぼくたちについて記された書物は、ひとつしかないらしい。
それは、魏志倭人伝と呼ばれるもので、彼が持つ偽史倭人伝とは異なるものだ。
そして、卑弥呼や壱与については記されていても、ぼくについては名前が記されておらず、迦具夜や千古、それに馬岐耳については名前どころかその存在自体が記されていない」
だが、驚くほど背が高かった。
彼女たちの時代では、ジパングの男はどれだけ背が高くても160センチほどしかなかった。
彼女たちは140センチほどしかなかったが、ジパングの女はせいぜい150センチほどだった。
だが、その男は180センチほどはあった。
2メートルを優に超えていたジパングの先住民族である山人ほど背が高くはなかったが、いつの間にジパングの民はこれほど背が高くなったのだろう、と思った。
あまりに背が高いため、後ろにもうひとり少女がいることが、少女が顔を覗かせるまでわからなかったほどだった。
かわいい女の子だった。
「1800年前に、月からあなたを見てたわ。こんなに背の高い人だったのね。
あのときはありがとう。
あなたのおかげで、邪馬台国はあのとき戦を起こさずにすんだ」
千古は、その男にずっと礼が言いたかった。
ようやく、それがかなった。
「礼には及びません。
私はただ、私に与えられた役割を果たしているに過ぎないのですから。
その役割の中に、たまたま貴女方の存在があり、今回はたまたまこの世界の危機に居合わせただけ……」
「あなたの役割……? この人、千古ちゃんの知り合いなの?」
「わたしはただ月から見てただけ。
こうして直接会うのははじめてよ。
ねえ、あなたのことを教えてくれる?」
千古の言葉に男はうやうやしく頭を垂れた。
「千古様、馬岐耳様、お初にお目にかかります。
私は、戯使遣い・棗弘幸。
リバーステラにおけるジパング、日本という国に、西暦1981年に産まれた者です」
「戯使遣い? 西暦? なぁにそれ?」
「西暦とは、リバーステラの暦です。
リバーステラにおけるアンフィス・バエナ・イポトリル、イエス・キリストが産まれた年を元年としています。
もっとも、キリストが産まれたのは、その四年ほど前だと言われていますが。
私は、雨野ナユタくん同様、西暦2038年からこの世界に来ました」
つまり、目の前の男は57歳ということだった。
だが、どう見ても30歳前後にしか見えなかった。
リバーステラには魔人は存在しないはずだ。存在したとしても、身体の成長が終わり老化が始まる二十歳前後のままのはずだった。
ただ若く見えるだけ、ということだろうか。
「戯使遣いについては、ご説明するよりも、実際に見て頂いた方が早いでしょう。
卑弥呼様と和多流様は今、戯使という存在として、私と共にいらっしゃいますので」
棗という男のそばに、卑弥呼と和多流が現れた。
肉体を持たず、魂と力だけの存在であったが、千古と馬岐耳にはそれが間違いなく姉と兄だとわかった。
「本当にこの子たちに会えるだなんて……」
卑弥呼は涙を流していた。
「千古、馬岐耳」
和多流もまた、ふたりに声をかけた。
「彼はね、リバーステラの真実の歴史を探求する者なんだ。
歴史は、時の権力者によって、歪められ、ねじ曲げられて後世に伝わる。
それは、テラにおいても、リバーステラにおいても変わらないらしい」
「リバーステラにおいて、後世に伝わることのない歴史は、偽史と呼ばれます。
偽史に貶められた方々は、戯使と呼ばれる魂と力だけの存在となります。
私に与えられた役割は、偽史を回収、管理、管轄すること。
そして、戯使となってしまった方を使役するのではなく、私の身体を使って頂くことにより、偽史を回収するお手伝いをして頂いています。
この『偽史倭人伝』にすべての偽史を正しい歴史として記録し、真実の歴史を紡ぐこと、それが私の役割なのです」
棗という男が持つ偽史倭人伝は、千古らが生きた時代、フギにあった邪馬台国の歴史が記されたものと同じ名前であった。
「リバーステラには、邪馬台国やぼくたちについて記された書物は、ひとつしかないらしい。
それは、魏志倭人伝と呼ばれるもので、彼が持つ偽史倭人伝とは異なるものだ。
そして、卑弥呼や壱与については記されていても、ぼくについては名前が記されておらず、迦具夜や千古、それに馬岐耳については名前どころかその存在自体が記されていない」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
異世界転生はうっかり神様のせい⁈
りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。
趣味は漫画とゲーム。
なにかと不幸体質。
スイーツ大好き。
なオタク女。
実は予定よりの早死は神様の所為であるようで…
そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は
異世界⁈
魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界
中々なお家の次女に生まれたようです。
家族に愛され、見守られながら
エアリア、異世界人生楽しみます‼︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる