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第31話 好きになってしまいそう
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「千古さんて言ったね。
あなたは、あなたの持つ力で、まだ力をうまく使いこなせないぼくが、使いこなせるようにできたりするの?」
だが、どれだけスケールが大きかろうが、どれだけ馬鹿馬鹿しかろうが、解決法は簡単だった。
「可能だ。今、お前が那由他の力を完全に扱えるようにした」
「ありがとう。なんとなくだけど、さっきまでと違う感じがする」
もうひとりの月の審神者、月読迦具夜は、まだアンサーに洗脳されている状態にある。
いつ世界の理を変えられてしまうかわからない。
すでに、今まさに、変えられている可能性だってあった。
「千古さん、それにピノアちゃん、ふたりに確認したいことがあるんだけど」
ナユタはずっと気になっていたことがあった。
「ピノアちゃんもステラさんたちも知っていた、ジパングで行方不明になった竜騎士さんや戦乙女さんは、迦具夜って人に存在を消されたんだよね?
ジパングのふたりの女王も」
「そのはずだ」
「存在が消されるってことは、この世界の歴史そのものから消されて、その人たちは生まれてこなったことになるはずだよね。
その人のことは特異点であるピノアちゃんしか覚えていないはずだよね」
確かにそうだ、何かがおかしい、とピノアは思った。
ステラやレンジたち、みんながニーズヘッグやアルマ、マヨリやリサのことを覚えているわけがなかった。
「私も覚えている。
だから、特異点となる者だけでなく、同じ力を持つ者の記憶からも消えることはないのだろうな」
「でも、ピノアちゃんだけでなく、みんなが覚えていた。
それに、千古さんが取り憑いていたランスの王様の息子の王子さんも。
これってたぶん、ステラさんやレンジさんたちは、ピノアちゃんがそばにいたからで、ランスの王子さんは千古さんがそばにいたからだよね」
そうかもしれない、としか千古には言えなかった。
考えたこともなかった。
アカシックレコードにアクセスしても、特異点の存在はイレギュラーであり、その力は未知数であったようで、まだデータベース化されていなかった。
「つまり、ピノアちゃんが持つ特異点の力や、千古さんやぼくが持つ世界の理を変える力は、まわりにいる人たちも、必ずではないかもしれないけど、世界の理を変える力の干渉を受けなくなるってことなんだと思う。
ぼくの那由他の力を使って、ピノアちゃんの持つ力を世界規模に拡大すれば、この世界のすべてが特異点になる。
迦具夜さんがこれから何を変えようとしても、何も変わらないことになるよね?」
「そっか。そのときにアンサーってやつらの存在だけを除外すれば」
「アンサーの存在を消せる……」
それだけじゃなく、銀河間戦争の存在自体を消せるかもしれなかった。
「お前は、すごい男だな……」
千古ははじめて笑った。
ナユタだけでなく、ピノアも、かわいい笑顔だな、と思った。
「お高く止まって、むすっとしてるよりその顔の方がかわいいじゃん」
ピノアにそう言われ、
「私は今、笑っていたのか?」
千古は驚いていた。
最後に笑ったのがいつだったのかさえ、彼女はもう覚えてはいなかった。
嬉しいな、と思った。
嬉しい? 嬉しいとはどんな感情だったろうか。
ここに来たのは、自分がランスでしでかしてしまったことを後悔し、懺悔の気持ちからだった。
迦具夜だけなら自分でもどうにかなるかもしれない。
だが、アンサーという存在はどうにもならない。
自分にはもはやどうすることもできないアンサーをふたりに止めて欲しかっただけだった。
洗脳され善悪の区別さえつかなくなっていた自分を、ランスの王や王子は、民や父を愛する強い気持ちによって、洗脳から解いてくれた。
そして、ナユタとピノアは、封印されている間に忘れてしまっていた、笑うことや嬉しいという気持ちを思いださせてくれた。
邪馬台国で、卑弥呼がアンサーによって洗脳されてしまう前は、皆で民のことを考えていた。
政(まつりごと)を行うことは簡単なことではなかったが、千古は姉たちや兄や妹とも大変仲がよく、毎日よく笑い、毎日が幸せだった。
民に子がうまれるたびに心から喜んだ。
幸せだった。
あの頃にはもう戻れない。
だが、もう一度笑うことができた。
「もう、思い残すことはない……」
千古がそう言うと、
「いやいや、あんたも手伝ってよ。
なんでわたしたちに殺される気マンマンよ。殺さないし。消さないし」
「うん、ぼくたちが何をすべきかはわかったけど、これから何が起きるかわからないしさ、千古さんがいっしょにいてくれたら心強いな」
ふたりは、千古に手を差し出した。
「洗脳されていたからしかたないじゃすまないことかもしれないけど……
あ、責めてるわけじゃないよ。
千古さんが、自分がしたことを後悔してるなら、死んで罪を償うんじゃなくて、生きてこの世界のためになることをいっしょにしようよ」
ふたりはまるで袂をわかつ前の姉と兄のようだった。
特にナユタは、兄によく似ているような気がした。
千古が大好きだった、和多流に。
好きになってしまいそうだ。
と、千古は涙を流しながらそう思った。
あなたは、あなたの持つ力で、まだ力をうまく使いこなせないぼくが、使いこなせるようにできたりするの?」
だが、どれだけスケールが大きかろうが、どれだけ馬鹿馬鹿しかろうが、解決法は簡単だった。
「可能だ。今、お前が那由他の力を完全に扱えるようにした」
「ありがとう。なんとなくだけど、さっきまでと違う感じがする」
もうひとりの月の審神者、月読迦具夜は、まだアンサーに洗脳されている状態にある。
いつ世界の理を変えられてしまうかわからない。
すでに、今まさに、変えられている可能性だってあった。
「千古さん、それにピノアちゃん、ふたりに確認したいことがあるんだけど」
ナユタはずっと気になっていたことがあった。
「ピノアちゃんもステラさんたちも知っていた、ジパングで行方不明になった竜騎士さんや戦乙女さんは、迦具夜って人に存在を消されたんだよね?
ジパングのふたりの女王も」
「そのはずだ」
「存在が消されるってことは、この世界の歴史そのものから消されて、その人たちは生まれてこなったことになるはずだよね。
その人のことは特異点であるピノアちゃんしか覚えていないはずだよね」
確かにそうだ、何かがおかしい、とピノアは思った。
ステラやレンジたち、みんながニーズヘッグやアルマ、マヨリやリサのことを覚えているわけがなかった。
「私も覚えている。
だから、特異点となる者だけでなく、同じ力を持つ者の記憶からも消えることはないのだろうな」
「でも、ピノアちゃんだけでなく、みんなが覚えていた。
それに、千古さんが取り憑いていたランスの王様の息子の王子さんも。
これってたぶん、ステラさんやレンジさんたちは、ピノアちゃんがそばにいたからで、ランスの王子さんは千古さんがそばにいたからだよね」
そうかもしれない、としか千古には言えなかった。
考えたこともなかった。
アカシックレコードにアクセスしても、特異点の存在はイレギュラーであり、その力は未知数であったようで、まだデータベース化されていなかった。
「つまり、ピノアちゃんが持つ特異点の力や、千古さんやぼくが持つ世界の理を変える力は、まわりにいる人たちも、必ずではないかもしれないけど、世界の理を変える力の干渉を受けなくなるってことなんだと思う。
ぼくの那由他の力を使って、ピノアちゃんの持つ力を世界規模に拡大すれば、この世界のすべてが特異点になる。
迦具夜さんがこれから何を変えようとしても、何も変わらないことになるよね?」
「そっか。そのときにアンサーってやつらの存在だけを除外すれば」
「アンサーの存在を消せる……」
それだけじゃなく、銀河間戦争の存在自体を消せるかもしれなかった。
「お前は、すごい男だな……」
千古ははじめて笑った。
ナユタだけでなく、ピノアも、かわいい笑顔だな、と思った。
「お高く止まって、むすっとしてるよりその顔の方がかわいいじゃん」
ピノアにそう言われ、
「私は今、笑っていたのか?」
千古は驚いていた。
最後に笑ったのがいつだったのかさえ、彼女はもう覚えてはいなかった。
嬉しいな、と思った。
嬉しい? 嬉しいとはどんな感情だったろうか。
ここに来たのは、自分がランスでしでかしてしまったことを後悔し、懺悔の気持ちからだった。
迦具夜だけなら自分でもどうにかなるかもしれない。
だが、アンサーという存在はどうにもならない。
自分にはもはやどうすることもできないアンサーをふたりに止めて欲しかっただけだった。
洗脳され善悪の区別さえつかなくなっていた自分を、ランスの王や王子は、民や父を愛する強い気持ちによって、洗脳から解いてくれた。
そして、ナユタとピノアは、封印されている間に忘れてしまっていた、笑うことや嬉しいという気持ちを思いださせてくれた。
邪馬台国で、卑弥呼がアンサーによって洗脳されてしまう前は、皆で民のことを考えていた。
政(まつりごと)を行うことは簡単なことではなかったが、千古は姉たちや兄や妹とも大変仲がよく、毎日よく笑い、毎日が幸せだった。
民に子がうまれるたびに心から喜んだ。
幸せだった。
あの頃にはもう戻れない。
だが、もう一度笑うことができた。
「もう、思い残すことはない……」
千古がそう言うと、
「いやいや、あんたも手伝ってよ。
なんでわたしたちに殺される気マンマンよ。殺さないし。消さないし」
「うん、ぼくたちが何をすべきかはわかったけど、これから何が起きるかわからないしさ、千古さんがいっしょにいてくれたら心強いな」
ふたりは、千古に手を差し出した。
「洗脳されていたからしかたないじゃすまないことかもしれないけど……
あ、責めてるわけじゃないよ。
千古さんが、自分がしたことを後悔してるなら、死んで罪を償うんじゃなくて、生きてこの世界のためになることをいっしょにしようよ」
ふたりはまるで袂をわかつ前の姉と兄のようだった。
特にナユタは、兄によく似ているような気がした。
千古が大好きだった、和多流に。
好きになってしまいそうだ。
と、千古は涙を流しながらそう思った。
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