「もしイセ。」~もしも、えっちなことをしてる途中で異世界転移しちゃったら。【異世界転移奇譚 NAYUTA 1,2】~

あめの みかな

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第17話 月読馬岐耳(つくよみのやきみ)

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 この女は、私の「世界の理を変える力」の干渉を受けない存在、つまりは「特異点」だということか。

 大賢者ピノア・オーダー・ダハーカを目の前に、月の審神者のひとり、月読馬岐耳(つくよみのやきみ)は思った。

 そして、ピノアについて検索をし、彼女がステラ・コスモス・ダハーカのただの双子の妹ではないと知った。

 ステラは、魔人の中でも1000年に一度しか生まれない、アルビノの魔人という存在であった。
 そして、そのアルビノの魔人の中でも、大厄災が起きる1~20年前に、その前兆として産まれる特別な存在であった。

 産まれる際には、母親の身体に火傷や凍傷といった様々な傷を負わせ、死に至らしめる。
 そして、彼女自身もまた、その力を制御できず、父親がその力を2つに分けなければ、自らが持つ力でその身を滅ぼしていた。

 ピノアは、ステラから分かたれた力が自我を持ち肉体までをも作り出した、彼女の半身ともいうべき存在であった。

 彼女たちの父親の名は、ブライ・アジ・ダハーカ。
 母親の名は、アリス・テレス・ダハーカ。旧姓はカーバンクル。

 大厄災とは、それを起こした者以外のすべての人と、人が存在した痕跡さえも跡形もなく消す、という人災であり、この世界ではすでにそれが10回も起きている。
 それは、月読馬岐耳も知っていた。

 だが、ステラもピノアも、11番目のこの世界に産まれた者ではなかった。大厄災によって滅んだ10番目の世界に産まれた者だった。
 レンジという異世界人もまた、10番目の世界に召喚された者であった。

 現在の11番目の世界では、ステラは生後まもなく、力を2つにわけなければいけなかった父親が妻の死に絶望し自害してしまったため、彼女もまた自らが持つ力によってその身を滅ぼしていた。

 大厄災によって人の歴史はすべてなかったことになり、大厄災を起こした者が神となり自らに似せて人を作ることによって、新たな人の歴史が始まる。
 その新世界には、前の世界と同じ人間が産まれることもあるが、同じ人間が同じ世界にふたり存在することができないという世界の理が存在する。

 ピノアは前の世界で起きた大厄災を生き延びた。

 そのため、新たな世界ではステラは産まれることができなかったというわけだ。

 ステラやピノアたちは、大厄災を止めることができたと思い込み、レンジや大和ショウゴ、雨野タカミや雨野ミカナといった異世界人たちを元いた世界へと帰した。
 レンジに対し愛などというくだらない感情を持ち、その子どもを孕んでいたステラを、ピノアはレンジたちの世界に送り出した。

 その一ヶ月後、止めたはずの大厄災が起きた。

 10回も大厄災が起きたこの世界の歴史は、「我々」という組織や「匣」という存在が数万年にも渡り操り続けていた。

 大厄災を起こす者が実際にそれを起こした世界もあるが、失敗に終わった世界もある。
 10番目の世界では、大厄災を起こす者は、ステラやピノアの父親であるブライであった。
 ブライは彼女たちとの戦いに敗れ、大厄災を起こすことができず失敗に終わった。

 しかし、大厄災を起こす者がそれを起こせなくても、「我々」という組織が必ずそれを起こす。
 10番目の世界では、この世界ともうひとつの世界を自由に行き来する「我々」に、家族を人質にとられていたレンジの父・サトシが大厄災を起こすことになった。

 その「我々」さえも、「匣」に操られているに過ぎなかった。

 それを事前に予知していた精霊たちは、タカミやミカナは異世界へと帰したが、レンジたちだけを11番目のこの世界に飛ばした。

 そして17年前に、彼女たちは今度こそ大厄災を止め、「我々」を壊滅させ、「匣」をすべて破壊し、大厄災が二度と起こることのない世界ができた。


 まったく、どこまでも役に立たない愚かな姉だ、と月読馬岐耳は思った。

 11番目の世界には、10番目の世界に存在した竜騎士や戦乙女は存在しなかった。
 竜騎士や戦乙女は、10番目の世界のはじまりの男とはじまりの女が、自らの意思で楽園に住むドラゴンにまたがり、後にランスやペインとなる土地に降りたったことによって産まれた、10番目の世界だけの存在であった。

 11番目の世界では、はじまりの男女は異なる歴史を歩んだため、竜騎士や戦乙女という存在は産まれなかった。

 竜騎士を手駒として使うために世界の理を変え、この世界に存在するようにしたが、それにより戦乙女もまた存在するようになってしまった。

 迦具夜は、ジパングの女王の暗殺に失敗しただけでなかった。
 異世界から雨野ナユタとピノアを召喚させることを許しただけでなく、ナユタという少年に力を譲り渡し、ピノアを力の干渉をうけない特異点とすることまで許したというわけだ。

 思えば1800年前に、自分たちがあの忌々しい月に封印されることになったのも、迦具夜の愚かな言動のせいだった。

 だが、もはやこの世界にこだわる必要はない。

 まもなく、ここにいる救厄の聖者たちは、エウロペの民たちを守るためにピノアとナユタだけを残し、異世界へと転移する。
 自分は、今取り憑いている者の身体と共に異世界に渡ることができる。

 その世界では邪馬台国はすでに滅亡しているようだが、日本という竜の形をした島国があり、この力の源である龍脈も存在する。

 たとえ、迦具夜や千古がこの世界を望む世界に変えることができなかったとしても、異世界を自分が変えることができればそれでいい。

 異世界に渡るまで、ナユタやピノアたちに自分の存在を気づれないようにするだけだ。

 たとえ気づかれたとしても、この者たちはステラ・コスモス・ダハーカを殺すことはできない。
 彼女を殺さなければ、この者たちは自分を引き剥がすことはできない。


「あなたが、月の審神者のひとり、月読馬岐耳さんですよね?」

 しかし、馬岐耳はすでに引き剥がされてしまっていた。

 ナユタは、すでにそこまで力を扱えるようになっていたのだ。

「ステラさんと共に異世界に渡るつもりだったところ、大変申し訳ないのですが、あなたにはここで消えてもらいます」

 馬岐耳は、姉のことを悪くは言えないな、と思った。
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