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第2話 プロローグⅡ 女王暗殺命令 ②
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そこにいたのは女だった。
甲冑を身にまとっており、その手には槍があった。
顔は甲冑の面に隠れてわからなかった。
だがその甲冑は、竜騎士が身にまとうものとは形状が明らかに異なっていた。
「ペインの戦乙女か」
ペインとは、ニーズヘッグの祖国であるランスの南に位置し、戦乙女とネクロマンサーが存在する国だった。
「そうよ。ご一緒させて頂いてもよろしいかしら?」
「君の目的もぼくと同じだということか」
「違うわ。わたしたちはふたりの女王の命を守るために来た」
それは、彼女は彼の敵だということだった。
ニーズヘッグは再び身構えたが、
「でも、あなたたちからではないの。
この国のふたりの女王と相反する存在から、女王を守るために来ただけ」
あなたたちが女王暗殺を命じられているなんて思いもよらなかった、と戦乙女は言ったため、彼は構えを解いた。
「今は説明する時間がないわ。
生き残ることができたら、後でゆっくりお話ししましょう?」
戦乙女は陰陽エレベーターを再び最上階に向けて起動させると、
「でも、ひとつだけ教えてあげる。
エーテルが失われたのに、この国のマキナが動いているのは、この島国自体に龍脈と呼ばれるものが存在するからよ。
この国のシャーマンや陰陽師たちは、精霊たちの力を借りていたわけでも、エーテルを使ってシャーマニズムや陰陽道を使っていたわけではなかった」
それはつまり、この国がエーテルや精霊たちの力を独占したわけではなかったということだった。
だとすれば、ニーズヘッグが受けた命令自体が誤りであっただけでなく、彼は何の罪もない人々の命を奪ってしまったのだ。
「それにしても、エウロペに危機あればランスが、っていう1000年前の約束がまだ生きていたのね。
17年前に即位したエウロペの女王は、戦を好まない方だったはずだけれど」
エウロペは魔法大国と呼ばれており、ランスの西に位置する同盟国だった。
「エウロペに危機あればランスが駆けつけ、ランスに危機あればエウロペが助ける」
そんな約束が1000年前の同盟の際に交わされていた。
魔法大国であるエウロペにとって、魔法やエーテル、精霊たちの消失は、国の存亡を脅かす危機であった。
しかし、17年前に即位した女王は、即位後まもなく世界から魔法が失われたが、魔法に頼らない国政や生活に切り替えていくことを宣言していた。
現在は完全に魔法がなくても生きていけるだけの国になっていた。
しかし、
「エウロペの大賢者が、つい先日、女王や王配、王女たちの目の前で、突然消えたそうだ」
王配とは女王の配偶者、つまりは夫に与えられる称号だ。
「納得。大賢者は、確か女王の妹だったわね。姉だったかしら?
いくら魔法が失われたとはいえ、この世界の森羅万象を知り尽くす存在である大賢者にそんなことができるのは、『太陽の巫女』と呼ばれ『世界の理を変える力』を持つ者……つまりは、この国のふたりの女王以外にはいない、女王と王配はそう考えてしまったというわけね」
この国もまた、ニーズヘッグの祖国と同じで、その国の同盟国だった。
だからこそ、ふたりの女王が持つという力に怯えた、ということだろうか。
ニーズヘッグには戦乙女の言葉のほとんどが理解できなかったが、自分がすべきことは女王の命を奪うことではなく、守ることだということは理解した。
戦乙女は先ほど自分のことを「わたしたち」と言った。
つまり、戦乙女は最低もうひとりはおり、白璧の塔の最上階にいるもうひとりの女王を守ろうとしているはずだ。
そちらに向かわせた四人の部下は、四人ともニーズヘッグの兄たちだった。
兄たちは四人がかりでもニーズヘッグにかなわないような実力しかなかった。
目の前の戦乙女の実力は自分以上であるのはわかっていたから、兄たちの身が心配ではあった。
だが、彼らもまたこの命令には抵抗感を持っていたようであったから、うまくやってくれているはずだと信じるしか今はなかった。
「でも、聖竜騎士様がいてくれて助かったわ。
あなたが来ていなければ、わたしはひとりで女王を守りながら、『太陽の巫女』と相反する存在である『月の審神者(さにわ)』を倒さなければいけなかったから」
陰陽エレベーターが最上階に着いた。
「ぼくはニーズヘッグ・ファフニールだ。聖竜騎士様はやめてくれ。ニーズヘッグでいい」
戦乙女は、甲冑の面を外し、
「わたしは、アルマ・ステュム・パーリデ」
その名を名乗った。
その顔とその名を、ニーズヘッグは知っていた。
彼女はペインの王女だった。
「わたしのことは、アルマ様でも王女様でも、アルマって呼び捨てできるものなら呼び捨てしてもいいわよ、ニーズヘッグ」
と、アルマは冗談まじりにそう言った。
扉が開いた瞬間、ふたりの目に飛び込んできたのは、「月の審神者」であろう存在によって、十字架ではなく鉤十字(ハーケンクロイツ)、あるいはこの国の家紋などに使われている「卍(まんじ)」というものに磔にされ、宙に浮かぶ返璧マヨリの姿であった。
「女王を守るぞ、アルマ」
ニーズヘッグがアルマを呼び捨てにすると、
「喜んで。聖竜騎士様」
アルマは彼をまたそのように呼び、「月の審神者」に向かって行った。
甲冑を身にまとっており、その手には槍があった。
顔は甲冑の面に隠れてわからなかった。
だがその甲冑は、竜騎士が身にまとうものとは形状が明らかに異なっていた。
「ペインの戦乙女か」
ペインとは、ニーズヘッグの祖国であるランスの南に位置し、戦乙女とネクロマンサーが存在する国だった。
「そうよ。ご一緒させて頂いてもよろしいかしら?」
「君の目的もぼくと同じだということか」
「違うわ。わたしたちはふたりの女王の命を守るために来た」
それは、彼女は彼の敵だということだった。
ニーズヘッグは再び身構えたが、
「でも、あなたたちからではないの。
この国のふたりの女王と相反する存在から、女王を守るために来ただけ」
あなたたちが女王暗殺を命じられているなんて思いもよらなかった、と戦乙女は言ったため、彼は構えを解いた。
「今は説明する時間がないわ。
生き残ることができたら、後でゆっくりお話ししましょう?」
戦乙女は陰陽エレベーターを再び最上階に向けて起動させると、
「でも、ひとつだけ教えてあげる。
エーテルが失われたのに、この国のマキナが動いているのは、この島国自体に龍脈と呼ばれるものが存在するからよ。
この国のシャーマンや陰陽師たちは、精霊たちの力を借りていたわけでも、エーテルを使ってシャーマニズムや陰陽道を使っていたわけではなかった」
それはつまり、この国がエーテルや精霊たちの力を独占したわけではなかったということだった。
だとすれば、ニーズヘッグが受けた命令自体が誤りであっただけでなく、彼は何の罪もない人々の命を奪ってしまったのだ。
「それにしても、エウロペに危機あればランスが、っていう1000年前の約束がまだ生きていたのね。
17年前に即位したエウロペの女王は、戦を好まない方だったはずだけれど」
エウロペは魔法大国と呼ばれており、ランスの西に位置する同盟国だった。
「エウロペに危機あればランスが駆けつけ、ランスに危機あればエウロペが助ける」
そんな約束が1000年前の同盟の際に交わされていた。
魔法大国であるエウロペにとって、魔法やエーテル、精霊たちの消失は、国の存亡を脅かす危機であった。
しかし、17年前に即位した女王は、即位後まもなく世界から魔法が失われたが、魔法に頼らない国政や生活に切り替えていくことを宣言していた。
現在は完全に魔法がなくても生きていけるだけの国になっていた。
しかし、
「エウロペの大賢者が、つい先日、女王や王配、王女たちの目の前で、突然消えたそうだ」
王配とは女王の配偶者、つまりは夫に与えられる称号だ。
「納得。大賢者は、確か女王の妹だったわね。姉だったかしら?
いくら魔法が失われたとはいえ、この世界の森羅万象を知り尽くす存在である大賢者にそんなことができるのは、『太陽の巫女』と呼ばれ『世界の理を変える力』を持つ者……つまりは、この国のふたりの女王以外にはいない、女王と王配はそう考えてしまったというわけね」
この国もまた、ニーズヘッグの祖国と同じで、その国の同盟国だった。
だからこそ、ふたりの女王が持つという力に怯えた、ということだろうか。
ニーズヘッグには戦乙女の言葉のほとんどが理解できなかったが、自分がすべきことは女王の命を奪うことではなく、守ることだということは理解した。
戦乙女は先ほど自分のことを「わたしたち」と言った。
つまり、戦乙女は最低もうひとりはおり、白璧の塔の最上階にいるもうひとりの女王を守ろうとしているはずだ。
そちらに向かわせた四人の部下は、四人ともニーズヘッグの兄たちだった。
兄たちは四人がかりでもニーズヘッグにかなわないような実力しかなかった。
目の前の戦乙女の実力は自分以上であるのはわかっていたから、兄たちの身が心配ではあった。
だが、彼らもまたこの命令には抵抗感を持っていたようであったから、うまくやってくれているはずだと信じるしか今はなかった。
「でも、聖竜騎士様がいてくれて助かったわ。
あなたが来ていなければ、わたしはひとりで女王を守りながら、『太陽の巫女』と相反する存在である『月の審神者(さにわ)』を倒さなければいけなかったから」
陰陽エレベーターが最上階に着いた。
「ぼくはニーズヘッグ・ファフニールだ。聖竜騎士様はやめてくれ。ニーズヘッグでいい」
戦乙女は、甲冑の面を外し、
「わたしは、アルマ・ステュム・パーリデ」
その名を名乗った。
その顔とその名を、ニーズヘッグは知っていた。
彼女はペインの王女だった。
「わたしのことは、アルマ様でも王女様でも、アルマって呼び捨てできるものなら呼び捨てしてもいいわよ、ニーズヘッグ」
と、アルマは冗談まじりにそう言った。
扉が開いた瞬間、ふたりの目に飛び込んできたのは、「月の審神者」であろう存在によって、十字架ではなく鉤十字(ハーケンクロイツ)、あるいはこの国の家紋などに使われている「卍(まんじ)」というものに磔にされ、宙に浮かぶ返璧マヨリの姿であった。
「女王を守るぞ、アルマ」
ニーズヘッグがアルマを呼び捨てにすると、
「喜んで。聖竜騎士様」
アルマは彼をまたそのように呼び、「月の審神者」に向かって行った。
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