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第四部 春霞(はるがすみ)
第16話
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「孝道(たかみ)も、みかなちゃんも大きくなったね」
一条さん(仮名)は嬉しそうにそう言った。
10年前に一度見ただけの彼をわたしが覚えていたように、彼もわたしのことを覚えていてくれたのだ。
「孝道から、みかなちゃんのことはよく聞いてたけど、本当にきれいになったね」
「おにーちゃんがわたしのことを?」
おにーちゃんは、急に慌てはじめて、「何にも言ってないよな? な?」と、一条さんに詰めよった。
「こいつ、みかなちゃんが学校に行ってる間とか、寂しくなると俺に電話してくるんだよ。こっちは仕事中だってのにさ。
大体いつも、みかなちゃんの話ばっかりだ。もう24のくせに、中学生の息子の恋愛相談に乗ってるような気分だよ」
おにーちゃんは顔を真っ赤にしていた。
だから、わたしは、
「その中学生の息子さんから今度恋愛相談を受けたら、みかなって子も息子さんのこと好きみたいだぞ、って伝えてもらえますか?」
と、言った。
「息子さんがかっこよすぎて、そのくせかわいいところもいっぱいあるし、他の男の子なんか目に入らないくらいだって伝えてもらえたら、うれしいかな。
それから、息子さんみたいな素敵な男の子がそばにいるから、その子はずっとフリーだし、ちゃんと告白してくれるのをずっと待ってるみたいだよって」
「だってさ、頑張れよ。中学生の息子さん」
一条さんは、楽しそうに笑った。
おにーちゃんは、
「おまえらなぁ」
と、ちょっと怒ったように言って、
「そのうち、ちゃんと言うよ」
小さな声でそう言った。
「なぁ、一条さん、もうひとつ話しておかなきゃいけないことがあるんだ」
芽衣をちらりと見て言った。
わたしは、芽衣の気をそらすために、
「芽衣ちゃん? お姉ちゃんとおにーちゃんはね、今、芽衣ちゃんといっしょに住める新しいおうちを探してるんだけど、芽衣ちゃんはどういう家がいい?」
パソコンで、横浜市内のマンションや借家の一軒家をふたりで見ることにした。
「おかしのいえ!!」
「そっかー、おかしのいえかー。
ねぇ、おかしのいえ以外だったら何がいい?」
「青西高校や城戸女学園で起きた事件なら、公安の俺には管轄外だよ」
一条さんはそう言った。
「もちろん、二代目花房ルリヲの事件もな」
管轄外と言いながらも、芽衣の顔を見たときから気づいていたのだろう。
「管轄外だから、俺はその事件の犯人の顔を知らない。
仮に知っていたとしても、その犯人とその子は名前は違う。
見た目は同じでも、精神年齢が違いすぎるしな。
現行犯逮捕じゃない限り、警察は逮捕状がなければ逮捕もできない。
警察署に連れていくだけなら、任意同行とか、やり方はいろいろあるけどな。
他の部署が追ってる事件の容疑者にそんな真似をしたら、面倒なことにもなりかねない」
「ありがとう」
おにーちゃんは、一条さんに頭を下げた。
「お礼を言われるようなこと、何かしたか?」
彼は、こどもみたいな顔で笑った。
「その様子だと、ふたりであの子を連れて家を出たみたいだな」
「あぁ、みかなやあの子が気に入るマンションか一軒家を借りようと思ってる」
「そうか。おまえももう大人だ。
せっかくあの部屋から出られたんだ。
大好きな女の子といっしょに。
これからはお前が好きなように生きろ。
まぁ、これまで通り、厄介な事件が起きたときは捜査協力してもらうことになるだろうけどな」
お幸せに、と言って、一条さんは部屋を出ていった。
「いろいろあったし、明日っていうか、もう今日だけど、1日だけ学校休んでいい?」
わたしはおにーちゃんに聞いた。
「あ、そうだな。うん。1日くらいなら別に。うん」
おにーちゃんは、一条さんやわたしに言われたことでかなりテンパッていた。
芽衣はいつの間にか眠ってしまっていた。
「ねぇ、おにーちゃん」
わたしは、
「みかなもおにーちゃんのこと大好きだよ」
おにーちゃんにキスをした。
一条さん(仮名)は嬉しそうにそう言った。
10年前に一度見ただけの彼をわたしが覚えていたように、彼もわたしのことを覚えていてくれたのだ。
「孝道から、みかなちゃんのことはよく聞いてたけど、本当にきれいになったね」
「おにーちゃんがわたしのことを?」
おにーちゃんは、急に慌てはじめて、「何にも言ってないよな? な?」と、一条さんに詰めよった。
「こいつ、みかなちゃんが学校に行ってる間とか、寂しくなると俺に電話してくるんだよ。こっちは仕事中だってのにさ。
大体いつも、みかなちゃんの話ばっかりだ。もう24のくせに、中学生の息子の恋愛相談に乗ってるような気分だよ」
おにーちゃんは顔を真っ赤にしていた。
だから、わたしは、
「その中学生の息子さんから今度恋愛相談を受けたら、みかなって子も息子さんのこと好きみたいだぞ、って伝えてもらえますか?」
と、言った。
「息子さんがかっこよすぎて、そのくせかわいいところもいっぱいあるし、他の男の子なんか目に入らないくらいだって伝えてもらえたら、うれしいかな。
それから、息子さんみたいな素敵な男の子がそばにいるから、その子はずっとフリーだし、ちゃんと告白してくれるのをずっと待ってるみたいだよって」
「だってさ、頑張れよ。中学生の息子さん」
一条さんは、楽しそうに笑った。
おにーちゃんは、
「おまえらなぁ」
と、ちょっと怒ったように言って、
「そのうち、ちゃんと言うよ」
小さな声でそう言った。
「なぁ、一条さん、もうひとつ話しておかなきゃいけないことがあるんだ」
芽衣をちらりと見て言った。
わたしは、芽衣の気をそらすために、
「芽衣ちゃん? お姉ちゃんとおにーちゃんはね、今、芽衣ちゃんといっしょに住める新しいおうちを探してるんだけど、芽衣ちゃんはどういう家がいい?」
パソコンで、横浜市内のマンションや借家の一軒家をふたりで見ることにした。
「おかしのいえ!!」
「そっかー、おかしのいえかー。
ねぇ、おかしのいえ以外だったら何がいい?」
「青西高校や城戸女学園で起きた事件なら、公安の俺には管轄外だよ」
一条さんはそう言った。
「もちろん、二代目花房ルリヲの事件もな」
管轄外と言いながらも、芽衣の顔を見たときから気づいていたのだろう。
「管轄外だから、俺はその事件の犯人の顔を知らない。
仮に知っていたとしても、その犯人とその子は名前は違う。
見た目は同じでも、精神年齢が違いすぎるしな。
現行犯逮捕じゃない限り、警察は逮捕状がなければ逮捕もできない。
警察署に連れていくだけなら、任意同行とか、やり方はいろいろあるけどな。
他の部署が追ってる事件の容疑者にそんな真似をしたら、面倒なことにもなりかねない」
「ありがとう」
おにーちゃんは、一条さんに頭を下げた。
「お礼を言われるようなこと、何かしたか?」
彼は、こどもみたいな顔で笑った。
「その様子だと、ふたりであの子を連れて家を出たみたいだな」
「あぁ、みかなやあの子が気に入るマンションか一軒家を借りようと思ってる」
「そうか。おまえももう大人だ。
せっかくあの部屋から出られたんだ。
大好きな女の子といっしょに。
これからはお前が好きなように生きろ。
まぁ、これまで通り、厄介な事件が起きたときは捜査協力してもらうことになるだろうけどな」
お幸せに、と言って、一条さんは部屋を出ていった。
「いろいろあったし、明日っていうか、もう今日だけど、1日だけ学校休んでいい?」
わたしはおにーちゃんに聞いた。
「あ、そうだな。うん。1日くらいなら別に。うん」
おにーちゃんは、一条さんやわたしに言われたことでかなりテンパッていた。
芽衣はいつの間にか眠ってしまっていた。
「ねぇ、おにーちゃん」
わたしは、
「みかなもおにーちゃんのこと大好きだよ」
おにーちゃんにキスをした。
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