85 / 192
第四部 春霞(はるがすみ)
第4話
しおりを挟む
わたしが、茶色い紙袋に入った四台の携帯電話を手渡すと、
「みかなは、青西高校だったよね」
おにーちゃんは言った。
そうだよ、とわたしは言った。
「夏休みの間に3つも事件が起きて、レイプされた女の子や、売春を強要されてた女の子と同じクラス」
聞かれてもいないのに、そんなことまで言った。
きっと、これから先、通っていた高校を聞かれる度に、人から指摘される前にそう答えるんだろうなと思った。
自分から先に言ってしまった方が、きっと後から質問責めをされたりしなくてすんで楽だと思った。
おにーちゃんは、携帯電話を紙袋から一台ずつ取り出すと、裏返して並べはじめた。
「この4つの名前に見覚えや聞き覚えがある名前はある?」
携帯電話は一台ずつ機種が違い、その裏側には名前が書かれたシールが貼ってあった。
ゴテゴテにラインストーンでデコレーションされた、THE JK って感じのものには、「内藤美嘉」。
G-SHOCKに良く似たものには、「夏目メイ」。
シルバーの折り畳み式で、四台の中で一番特徴がなく普通なものには、「山汐 紡」。
錦鯉をイメージしたっていう、すごくかわいいものには、「山汐 凛」。
ひとりだけ、知ってる名前があった。
わたしは、錦鯉をイメージしたらしいデザインの携帯電話を指差し、
「この山汐凛って子」
と、言った。
おにーちゃんは、そっか、と言った。
どうして、山汐凛の携帯電話がここにあるのか、「あの人」がそれをおにーちゃんに届けたのか、「あの人」は誰なのか、おにーちゃんとどういう関係なのか、おにーちゃんは言わなかった。
訊いたらきっと教えてくれたと思う。
でも、訊いてはいけないような気がした。
それに、他にも聞き覚えがある名前があった。
「でも、加藤さんが、山汐さんを、この名前と、この名前で呼んでるのを聞いたことがあるような気がする……」
わたしは、内藤美嘉と夏目メイって書かれていた携帯電話を指差した。
「その加藤さんっていうのは、売春を強要されてた加藤麻衣のこと?」
わたしは、こくりとうなづいた。
「苗字まではわからないけど、この美嘉とメイって名前には聞き覚えがあるよ。
加藤さんが山汐さんをそう呼んでたのを確かに聞いたことがあるよ」
おにーちゃんは、そっか、とまた言った。
それから、四台の携帯電話に合ったUSB用の充電ケーブルを差すと、パソコンのUSBハブに差していった。
「この4人の中で、みかなの携帯番号を知ってる人はいる?」
「いないよ」
「本当に?」
「本当だよ。みかなはおにーちゃんに嘘はつかないよ」
わたしは本当に、その4人の携帯番号を知らないし、わたしの番号を教えたりもしていなかった。
おにーちゃんは、すごく安心したみたいだった。
だけど、
「これから先、知らない番号や公衆電話からとか、非通知でかかってきた電話には絶対に出ちゃいけないよ」
と言った。
どうして?
とは、わたしは聞かなかった。
おにーちゃんがそんな忠告めいたことを言うときは、いつもわたしを思ってのことだと、わたしは知っていたから。
たしか、わたしの携帯電話は、アドレス帳に登録してない番号や、公衆電話や非通知の電話を着信拒否にできたはずだった。
だから、わたしは、おにーちゃんの目の前でその設定をした。
「ねぇ、おにーちゃん」
わたしは、どうしても訊かないといけないことだけを、訊いておくことにした。
「危ないことはしてないよね?」
おにーちゃんは、
「してないよ」
と言った。
わたしはおにーちゃんに嘘はつかないけれど、おにーちゃんはわたしに嘘をつく。
その嘘は、わたしのためを思ってつく嘘。
「みかなのそばからいなくなったりしないでね」
わたしに言えるのは、それだけだった。
「みかなは、青西高校だったよね」
おにーちゃんは言った。
そうだよ、とわたしは言った。
「夏休みの間に3つも事件が起きて、レイプされた女の子や、売春を強要されてた女の子と同じクラス」
聞かれてもいないのに、そんなことまで言った。
きっと、これから先、通っていた高校を聞かれる度に、人から指摘される前にそう答えるんだろうなと思った。
自分から先に言ってしまった方が、きっと後から質問責めをされたりしなくてすんで楽だと思った。
おにーちゃんは、携帯電話を紙袋から一台ずつ取り出すと、裏返して並べはじめた。
「この4つの名前に見覚えや聞き覚えがある名前はある?」
携帯電話は一台ずつ機種が違い、その裏側には名前が書かれたシールが貼ってあった。
ゴテゴテにラインストーンでデコレーションされた、THE JK って感じのものには、「内藤美嘉」。
G-SHOCKに良く似たものには、「夏目メイ」。
シルバーの折り畳み式で、四台の中で一番特徴がなく普通なものには、「山汐 紡」。
錦鯉をイメージしたっていう、すごくかわいいものには、「山汐 凛」。
ひとりだけ、知ってる名前があった。
わたしは、錦鯉をイメージしたらしいデザインの携帯電話を指差し、
「この山汐凛って子」
と、言った。
おにーちゃんは、そっか、と言った。
どうして、山汐凛の携帯電話がここにあるのか、「あの人」がそれをおにーちゃんに届けたのか、「あの人」は誰なのか、おにーちゃんとどういう関係なのか、おにーちゃんは言わなかった。
訊いたらきっと教えてくれたと思う。
でも、訊いてはいけないような気がした。
それに、他にも聞き覚えがある名前があった。
「でも、加藤さんが、山汐さんを、この名前と、この名前で呼んでるのを聞いたことがあるような気がする……」
わたしは、内藤美嘉と夏目メイって書かれていた携帯電話を指差した。
「その加藤さんっていうのは、売春を強要されてた加藤麻衣のこと?」
わたしは、こくりとうなづいた。
「苗字まではわからないけど、この美嘉とメイって名前には聞き覚えがあるよ。
加藤さんが山汐さんをそう呼んでたのを確かに聞いたことがあるよ」
おにーちゃんは、そっか、とまた言った。
それから、四台の携帯電話に合ったUSB用の充電ケーブルを差すと、パソコンのUSBハブに差していった。
「この4人の中で、みかなの携帯番号を知ってる人はいる?」
「いないよ」
「本当に?」
「本当だよ。みかなはおにーちゃんに嘘はつかないよ」
わたしは本当に、その4人の携帯番号を知らないし、わたしの番号を教えたりもしていなかった。
おにーちゃんは、すごく安心したみたいだった。
だけど、
「これから先、知らない番号や公衆電話からとか、非通知でかかってきた電話には絶対に出ちゃいけないよ」
と言った。
どうして?
とは、わたしは聞かなかった。
おにーちゃんがそんな忠告めいたことを言うときは、いつもわたしを思ってのことだと、わたしは知っていたから。
たしか、わたしの携帯電話は、アドレス帳に登録してない番号や、公衆電話や非通知の電話を着信拒否にできたはずだった。
だから、わたしは、おにーちゃんの目の前でその設定をした。
「ねぇ、おにーちゃん」
わたしは、どうしても訊かないといけないことだけを、訊いておくことにした。
「危ないことはしてないよね?」
おにーちゃんは、
「してないよ」
と言った。
わたしはおにーちゃんに嘘はつかないけれど、おにーちゃんはわたしに嘘をつく。
その嘘は、わたしのためを思ってつく嘘。
「みかなのそばからいなくなったりしないでね」
わたしに言えるのは、それだけだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡
雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!
【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。
どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。
婚約破棄ならぬ許嫁解消。
外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。
※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。
R18はマーク付きのみ。
完堕ち女子大生~愛と哀しみのナポリタン~
ミロ
恋愛
うぶだったが故に騙され
奥手だったが故に堕とされる
父親よりも年上のセックスモンスターに
十九歳のしなやかな肉体は
なす術なく開発されていく
快楽の底なし沼に引きずり込まれていく
暴走する歪んだ愛に翻弄される女子大生が
辿り着いた先にあるのは絶望か
それともーー
【R18】禁断の家庭教師
幻田恋人
恋愛
私ことセイジは某有名私立大学在学の2年生だ。
私は裕福な家庭の一人娘で、女子高2年生であるサヤカの家庭教師を引き受けることになった。
サヤカの母親のレイコは美しい女性だった。
私は人妻レイコにいつしか恋心を抱くようになっていた。
ある日、私の行動によって私のレイコへの慕情が彼女の知るところとなる。
やがて二人の間は、娘サヤカの知らないところで禁断の関係へと発展してしまう。
童貞である私は憧れの人妻レイコによって…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる