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第四部 春霞(はるがすみ)
プロローグ
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2008年に、小説家二代目花房ルリヲが「加藤麻衣」や「鬼頭結衣」の名義で発表した「夏雲」と「秋雨」という、2冊のケータイ小説。
続編として冬と春の物語があると、四部作の構想が示唆されていながら、しかし、前半部分にあたる二作しか書かれることはなかった。
それだけでなく、二代目花房ルリヲはこの12年間、一冊の小説も発表することはなかった。
一時期は死亡説までネットに流れた彼は、12年の時を経て、彼の妻の旧姓である「久東羽衣」名義で、第三部にあたる「冬晴」を発表した。
「冬晴」は、久東羽衣の物語でありながら、前二作同様、ヴィランである夏目メイの物語でもあった。
同時に、彼がなぜこの12年間、小説家として活動ができなかったのかについて言及されていた。
「冬晴」は、本来の構想になかった、存在しないはずのイレギュラーな物語であり、物語としても前二作と比べると短く、そう言った意味だけで考えれば第2.5部とも言うべき物語だ。
しかし、その内容は、夏目メイの正体に迫るものであり、前二作の内容を根本からひっくり返しかねないものであった。
まさに起承転結の転にあたる。
結となる第四部であるこの「春霞」の語り部は、本来なら夏目メイの物語になるはずだった。
しかし、夏目メイは、夏目メイというきぐるみを脱ぎ捨て、山汐芽衣になってしまった。
だから、彼は、本来の四部作の構想を一度なかったことにした。
五部作になるか、六部作になるかさえ、いまはまだわからないと言う。
いっそのこと、スター・ウォーズのように九部作にしてみたら?
と言ったわたしに、彼はそれも悪くないかもね、と言った。
世代交代はしないけど、と笑いながら。
でも、ベイダー卿のようでもあった夏目メイの物語は三部までで終わって、アナキンと違って暗黒面から解放された本当の山汐芽衣の物語が始まるわけだし、と彼はまじめに考えはじめていた。
「冬晴」は、最終話で2020年を描いていたけれど、この物語は「冬晴」の最終話の一話前、その数ヵ月後になる。
久東羽衣が、あちら側から帰還した加藤麻衣(二代目内倉綾音)に、兄である加藤学(二代目花房ルリヲ)が、なぜ入院し、意識が戻らないのか、そこまでの顛末を話して聞かせたのは、2008年のクリスマスイブの夜だった。
それから一週間後に年が明け、2009年を迎えた。
そして冬が終わり、春が来た。
新三部作、になるかどうかはまだわからないけれど、山汐芽衣の物語の最初の語り部に選ばれたわたしの名前は、■■■■■。
わけあっていまはまだ、その名前を明かすことができないのだけれど。
この世界とは別の世界のわたしの物語が2020年の10月31日をもって終わる。
そして、一足早く、この世界でのわたしの物語が始まる。
続編として冬と春の物語があると、四部作の構想が示唆されていながら、しかし、前半部分にあたる二作しか書かれることはなかった。
それだけでなく、二代目花房ルリヲはこの12年間、一冊の小説も発表することはなかった。
一時期は死亡説までネットに流れた彼は、12年の時を経て、彼の妻の旧姓である「久東羽衣」名義で、第三部にあたる「冬晴」を発表した。
「冬晴」は、久東羽衣の物語でありながら、前二作同様、ヴィランである夏目メイの物語でもあった。
同時に、彼がなぜこの12年間、小説家として活動ができなかったのかについて言及されていた。
「冬晴」は、本来の構想になかった、存在しないはずのイレギュラーな物語であり、物語としても前二作と比べると短く、そう言った意味だけで考えれば第2.5部とも言うべき物語だ。
しかし、その内容は、夏目メイの正体に迫るものであり、前二作の内容を根本からひっくり返しかねないものであった。
まさに起承転結の転にあたる。
結となる第四部であるこの「春霞」の語り部は、本来なら夏目メイの物語になるはずだった。
しかし、夏目メイは、夏目メイというきぐるみを脱ぎ捨て、山汐芽衣になってしまった。
だから、彼は、本来の四部作の構想を一度なかったことにした。
五部作になるか、六部作になるかさえ、いまはまだわからないと言う。
いっそのこと、スター・ウォーズのように九部作にしてみたら?
と言ったわたしに、彼はそれも悪くないかもね、と言った。
世代交代はしないけど、と笑いながら。
でも、ベイダー卿のようでもあった夏目メイの物語は三部までで終わって、アナキンと違って暗黒面から解放された本当の山汐芽衣の物語が始まるわけだし、と彼はまじめに考えはじめていた。
「冬晴」は、最終話で2020年を描いていたけれど、この物語は「冬晴」の最終話の一話前、その数ヵ月後になる。
久東羽衣が、あちら側から帰還した加藤麻衣(二代目内倉綾音)に、兄である加藤学(二代目花房ルリヲ)が、なぜ入院し、意識が戻らないのか、そこまでの顛末を話して聞かせたのは、2008年のクリスマスイブの夜だった。
それから一週間後に年が明け、2009年を迎えた。
そして冬が終わり、春が来た。
新三部作、になるかどうかはまだわからないけれど、山汐芽衣の物語の最初の語り部に選ばれたわたしの名前は、■■■■■。
わけあっていまはまだ、その名前を明かすことができないのだけれど。
この世界とは別の世界のわたしの物語が2020年の10月31日をもって終わる。
そして、一足早く、この世界でのわたしの物語が始まる。
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