あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。完全版 (旧題・夏雲 女子高生売春強要事件)

雨野 美哉(あめの みかな)

文字の大きさ
上 下
81 / 192
第四部 春霞(はるがすみ)

プロローグ

しおりを挟む
 2008年に、小説家二代目花房ルリヲが「加藤麻衣」や「鬼頭結衣」の名義で発表した「夏雲」と「秋雨」という、2冊のケータイ小説。

 続編として冬と春の物語があると、四部作の構想が示唆されていながら、しかし、前半部分にあたる二作しか書かれることはなかった。

 それだけでなく、二代目花房ルリヲはこの12年間、一冊の小説も発表することはなかった。

 一時期は死亡説までネットに流れた彼は、12年の時を経て、彼の妻の旧姓である「久東羽衣」名義で、第三部にあたる「冬晴」を発表した。

「冬晴」は、久東羽衣の物語でありながら、前二作同様、ヴィランである夏目メイの物語でもあった。
 同時に、彼がなぜこの12年間、小説家として活動ができなかったのかについて言及されていた。

「冬晴」は、本来の構想になかった、存在しないはずのイレギュラーな物語であり、物語としても前二作と比べると短く、そう言った意味だけで考えれば第2.5部とも言うべき物語だ。

 しかし、その内容は、夏目メイの正体に迫るものであり、前二作の内容を根本からひっくり返しかねないものであった。

 まさに起承転結の転にあたる。

 結となる第四部であるこの「春霞」の語り部は、本来なら夏目メイの物語になるはずだった。

 しかし、夏目メイは、夏目メイというきぐるみを脱ぎ捨て、山汐芽衣になってしまった。

 だから、彼は、本来の四部作の構想を一度なかったことにした。

 五部作になるか、六部作になるかさえ、いまはまだわからないと言う。

 いっそのこと、スター・ウォーズのように九部作にしてみたら?

 と言ったわたしに、彼はそれも悪くないかもね、と言った。

 世代交代はしないけど、と笑いながら。

 でも、ベイダー卿のようでもあった夏目メイの物語は三部までで終わって、アナキンと違って暗黒面から解放された本当の山汐芽衣の物語が始まるわけだし、と彼はまじめに考えはじめていた。


「冬晴」は、最終話で2020年を描いていたけれど、この物語は「冬晴」の最終話の一話前、その数ヵ月後になる。

 久東羽衣が、あちら側から帰還した加藤麻衣(二代目内倉綾音)に、兄である加藤学(二代目花房ルリヲ)が、なぜ入院し、意識が戻らないのか、そこまでの顛末を話して聞かせたのは、2008年のクリスマスイブの夜だった。

 それから一週間後に年が明け、2009年を迎えた。

 そして冬が終わり、春が来た。


 新三部作、になるかどうかはまだわからないけれど、山汐芽衣の物語の最初の語り部に選ばれたわたしの名前は、■■■■■。


 わけあっていまはまだ、その名前を明かすことができないのだけれど。

 この世界とは別の世界のわたしの物語が2020年の10月31日をもって終わる。

 そして、一足早く、この世界でのわたしの物語が始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

パーティー中に婚約破棄された私ですが、実は国王陛下の娘だったようです〜理不尽に婚約破棄した伯爵令息に陛下の雷が落ちました〜

雪島 由
恋愛
生まれた時から家族も帰る場所もお金も何もかもがない環境で生まれたセラは幸運なことにメイドを務めていた伯爵家の息子と婚約を交わしていた。 だが、貴族が集まるパーティーで高らかに宣言されたのは婚約破棄。 平民ごときでは釣り合わないらしい。 笑い者にされ、生まれた環境を馬鹿にされたセラが言い返そうとした時。パーティー会場に聞こえた声は国王陛下のもの。 何故かその声からは怒りが溢れて出ていた。

妹から冷酷非情と恐れられる婚約者を押し付けられたけど、実は優しい男でした

平山和人
恋愛
伯爵令嬢のエレナは、生まれつき「加護」を持たず、そのせいで蔑まれながらも、国立魔法学校に奨学生として通っていた。そんなある日、義妹が「婚約者とは結婚したくない」と駄々をこねたせいで、代わりにエレナが婚約者へと差し出されることになったのだ。父親は可愛い妹を守るために、加護無しのエレナを犠牲にすることを選んだ。 しかし、エレナにとってそれはむしろ好都合だった。父や義妹とは縁を切りたかったし、家を出る絶好の機会でもある。そうして彼女は、恐れられる婚約者の元へと嫁ぐことを決意する。 その相手――レオン=フォン=ラインハルトは、王国最強の騎士にして、「雷帝」と称される男だった。彼の視線は稲妻のように鋭く、戦場では一切の情けをかけない苛烈な性格。敵だけでなく、味方からも恐れられている存在だった。 だが、エレナはレオンをまったく怖がらず、夫を支える妻として接し続けた。始めは拒絶していたレオンだが、彼女に心を開き始め、冷酷だった態度も少しずつ和らいでいく。そして、気づけば二人は愛し合うようになっていた。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...