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第三部 冬晴(ふゆばれ)

第16話

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「わたしは、憑依し続けていけば、永遠に死ぬことがない。
 時間は無限にある。
 だからね、羽衣。
 人類が滅びるようなことをわたしがしたとしても、それはただの暇潰しなんだよ」

 夏目メイは言った。


 彼女は、元々人として生を受けたわけではなく、人として生を受けた山汐凛の別人格として生まれた。

 だからだろうか。

 彼女が、人という存在を、まるで神か何かのように見下(みお)ろして、見下(みくだ)しているように思えてしまうのは。


「やっぱり、男の身体は不便ね」

 夏目メイはため息をついた。

「あんたの身体をもらおうかなって思ってたけど、携帯電話を触媒にしないと、あんたの中にわたしが入る器も作ることができない。
 あんたはわたしからの電話には絶対に出てくれないだろうしね。

 山汐凛の身体はもう飽きたし、あんたにやられた怪我がまだ直ってないし……
 アリスの身体は、この身体より不便だから……」


 夏目メイは、おそらく自分が人だという認識すらないのだろう。

 だから、人の身体を、替えのきく道具のようにしか思っていないのだ。


「ゆきか、麻衣か、どっちにしようかな」

 ゆきというのは、城戸女学園で夏目メイやアリスといっしょにいた、小島ゆきのことだろう。
 小島ゆきは、漢字では「幸」と書き、不登校でひきこもりの双子の姉だか妹だかが確かいた。その姉だか妹だかも同じ「幸」で「さち」と読む。

 麻衣とは、もちろん加藤麻衣のことだ。


 彼女たちは、何度も夏目メイと電話をしている。

 電話ひとつで憑依できるように、夏目メイの人格を受け入れる器が頭の中に作られていても、なんら不思議なことではなかった。


「でも、麻衣の身体って汚いよね。
 何十人もの男に抱かれてさ。
 その中に、あんたの兄貴もいたわけだけど」


 本来なら、あんたが売春を強要したせいだろう、と怒るところだと思う。

 加藤麻衣は、山汐凛を本当に大切に思っていて、山汐紡や内藤美嘉、それに夏目メイのことまで、山汐凛のすべてを受け入れようとしていたのに。

 けれど、わたしは、かわいそうな子だな、と思った。

 加藤麻衣ではなく、夏目メイが。

 彼女は、恋愛や友情、家族といった、人が当たり前に持つ、人を好きになるということは、これまでもこれからもないのだろう。

 彼女が言う「友達」は、「自分の思い通りに動く駒」か、「めちゃくちゃにしてやりたいと思えるようなオモチャ」か、そのどちらかでしかないのだ。

 だから、どちらも、飽きたらただ棄てるだけ。



 夏目メイは、小島ゆきに電話をかけていた。

 だが、何度コールしても、ゆきは電話に出なかったようだ。


「折り返し電話がかかってくるだろうから、それまでわたしの暇潰しに付き合ってよ」

 夏目メイは言った。


「暇潰し?」

「そう、暇潰し。話し相手になってよ」

「聞きたいことがあるんだけど、答えてくれる?」

「別にいいよ」


「あんたやツムギや美嘉は、どうして別人格として生まれてきたの?」





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