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スピンオフ 二代目花房ルリヲ「イモウトパラレル」
The 3rd day ①
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翌朝ぼくは妹を連れて大学に出かけることにした。
講義は二限目からで十時五十分からだけど、九時頃には大学の正門をくぐり、コンビニで買ったサンドイッチとイチゴオレをふたりで食べながら桜の木が立ち並ぶ道を歩いた。
春になるとその道は桜が咲き乱れ、新入生を勧誘するサークルたちであふれかえり、五月になり新入生たちが自転車を買い藤が丘の駅から自転車通学をするようになるまでの間、夕方はバスを待つ人たちでこの道は長蛇の列ができる。
しかし今は十月で、朝だ。
一限から講義をとろうという物好きも少なく、学生たちの姿はまばらで、どこからどう見ても中学生の、下手したら小学生に見られかねない妹を気にする者はなかった。
さすがにセーラー服姿で大学を歩き回るのはまずかろうということで、ぼくたちは昨日実家からの帰りに名古屋の地下街のエスカで妹の服を何着か買った。
妹はあちら側のお嬢様生活で金銭感覚が少しお馬鹿になっているらしく、店のマネキンに着せられたコーディネートを気に入っては、
「これ、上から下まで全部ください」
次々と買い物袋が増えていった。
四店舗目でぼくのクレジットカード(大学の学生証でもある)は月々10万の限度額を越えてしまい、ぼくはしぶしぶ財布から足りない分を出した。
五店舗目へ向かおうとする妹に、
「ごめんなさい。もう無理です」
ぼくは半泣きでそう言った。
妹は頬を膨らませて唇を尖らせて、
「じゃあ最後に下着屋さんに行こ」
と、ぼくを誘うのだった。
女性ものの下着屋さんに入るのははじめてのことだった。
居心地が悪く入り口付近でうつむいて立っていると、「お兄ちゃん、ほら、こっちこっち」と妹はぼくを手招きした。
「やっぱり上下お揃いじゃないとかわいくないよね」
ねぇ、お兄ちゃんはどっちが好み? と両手に下着のかかったハンガーを持って、ぼくの心中など察するつもりなど毛頭ないように笑いかけるのだった。
「ねぇ、どっち? 右なの? 左なの?」
ぼくは恥ずかしくて妹の持つ下着を直視することさえかなわない。
「……右」
なんとかしぼりだすように答えると、
「それはお兄ちゃんから見て右ってこと? 麻衣から見て右ってこと?」
勘弁してくれとぼくは思った。
そんな苦労もあったから、はじめて見る妹の私服姿はとても感慨深いものがあった。
妹はとてもかわいい。
妹は大学という空間に来たのははじめてらしく、見るものすべてが新鮮といった様子で楽しそうにはしゃいでいた。
ぼくの通う大学はいわゆる私立のマンモス校で、学生の数は数万を数える。ぼくと同じ法学部の二年だけで確か三千人はいたはずだ。
山を切り開いた広い土地に、様々な学部の十以上の校舎が立ち並び、車通学の学生も相当な数のため敷地面積の半分は駐車場が占めている。
食堂は三つあり、ローソンがあり、 マクドナルドまである。
とにかく広いのだ。大学だから毎年春にどの講義を受講するのか決めなくてはいけないのだけれど、休み時間の間に次の講義の教室まで 辿り着けるかどうかも加味して時間割りを立てなくてはならない。
それでも休み時間の多くは移動時間に削られて休む暇もない。
ぼくは三千人いる学生の中では比較的真面目で優秀な部類に位置していたけれど、実は法学部に在籍していながらあまり法律には興味がなかった。
ゼミは法哲学や法思想史を専門とする助教授のゼミを選び、アリストテレスだとかソクラテスだとかとにかく舌を噛みそうな名前の古代の偉人たちのことを学んでいる。
あとは中世ヨーロッパの法律がおもしろい。
魔女狩りの時代の法律の講義はぼくのマイブームと言っても過言じゃない。
親が会社をやってるとか政治家をやってるとか天皇家ゆかりの家のこどもだとか比較的金持ちの学生が多く、彼等が出席をとらない講義ばかりを選んで受講しているのに対し、ぼくは出席をとる講義ばかりを受講していた。
何度か欠席すれば単位を落としてしまいかねないリスクはあるけれど、ちゃんと出席さえしていれば試験の際に出席が得点として加味される。
おかげさまでぼくの前期の単位はオールAだった。
出席を取る講義は少人数制のものばかりだ。さすがに妹を教室まで連れていくわけにはいかない。
しかたないな、とぼくは思い、文化部の部活棟へと歩を進めた。
そこの二階にぼくが所属する文芸部の部室がある。
「ここがお兄ちゃんのシマなのね…」
ゴクリと生唾を飲み込みながら、妹は今日びヤクザくらいしか使わない言葉を使った。
一体だれの影響だろう。
ぼくはそんな言葉は使わないし「ぼく」だってそうだろう。
直木賞作家の父が使うはずがない。
だとすれば母さんかとぼくは思い、少しおかしな気持ちにさせられた。
ともあれ、
「ようこそ、文芸部へ」
と、ぼくは妹を部室に招きいれた。
妹を連れて部室に入ると、まだ一限の時間だというのにすでに何人かの部員がいて、
「加藤くん、誰、その子?」
と、目ざとくぼくの背中に隠れる妹に目をつけた。
同じ二年の佳苗貴子(かなえたかこ)だ。
「彼女ですか?」
後輩の花柳宗也(かりゅうそうや)が訊く。
「まさか加藤に彼女ができるわけないだろ?」
と、失礼にも(事実だけれど)言い放ってくれたのが同じ二年の秋月蓮治(あきつきれんじ)。
「学祭間近のこの時期にあえての入部希望者ですか?」
眼鏡をくいっと指で押し上げながらそう言ったのが氷山昇(ひょうざんのぼる)。後輩だ。
「その子、内倉綾音にそっくりね」
と、部長の宮沢理佳(みやざわりか)が言った。
「誰ですか? それ」
後輩の山羊琴弓(やぎことみ)が部長に尋ねる。
「花房ルリヲの、あ、加藤くんのことじゃなくてね、彼は二代目を勝手に名乗ってるだけだから。
本物の作家の方の奥さんだった人。女優だったの。死んじゃったけどね」
何年かに一度テレビでは母の特別番組が放送されてはいたけれど、ぼくらと同じ世代で内倉綾音を知っている者は少ない。
同時に花房ルリヲを知る者も。
部長はこんな部に置いておくのがもったいないほどの博識家で、心理学部の学生だから偏差値もぼくなんかよりもずっと上で、長い黒髪に眼鏡がよく似合う、文芸部の高嶺の花といったところだ。
「勝手に名乗ってるだけっていうのはひどいな」
ぼくに「二代目花房ルリヲ」を名乗るように言ったのは彼女だった。
部員たちが落ち着きを取り戻したところで、ぼくは背中に隠れる妹を隣に置いて、ぼくの妹だと話した。
部員たちは一瞬沈黙して、ぼくと妹の顔を何度も見比べた。
「に、似てないっすよね……ねぇ?」
花柳が部員たちに同意を求めた。
「加藤くんに妹がいるなんて聞いたことなかったし」
「こんなかわいい子を連れて歩いているのがまず想像できないし」
「お嬢さん、何かこの男に弱みを握られているんじゃありませんか?」
まったくひどい言われようだった。
妹は褒められているくせに、どうもぼくがけなされているのが気に入らないらしく、いつものように頬を膨らませて唇を尖らせていた。
かと思えば、ころりと表情を一転させて、
「いつもお兄ちゃんがお世話になっています。妹の麻衣です」
と、笑顔で挨拶をするのだった。
ぼくは妹がぼくをけなされて怒っていることを嬉しく思う反面、女優という人種のこわさを少しだけかいま見た気がした。
「両親が今海外旅行にでかけちゃって、妹を家にひとりで置いておくのは心配だから、しばらくアパートのぼくの部屋にいっしょに住むことになったんだ」
と、ぼくは少し苦しい言い訳をして、部員たちを妹に紹介した。
女子部員を一通り紹介し終わると、一部の男どもが妙に張り切って自己紹介を始めた。
「どうも、秋月蓮治です。趣味はカメラで、休みの日にはB級アイドルの撮影会によく出かけています。
コミケがあるときとかは、お気に入りのレイヤーさんのカメコをしたりしています。
カメラは一眼レフのわりといいカメラで、50万以上しました。
撮った写真は部屋に飾って、毎日眺めて楽しんでいま す」
ぼくは一単語もわからないでいる様子の妹の耳元で解説をした。
「カメコっていうのは所謂カメラ小僧っていうやつ。
レイヤーさんってのはコスプレをしてる人のことで、コミケっていうのはコミックマーケットの略。
いわゆる、同人誌即売会ってやつね。
漫画とかアニメとかの二次創作の小説や漫画を個人で売買するイベントで、このあたりだとポートメッセ名古屋なんかでよく あるんだけど。
大阪だとインテックス大阪かな。コミケには結構きわどいコスプレした女の子がいたりして、なかなか目の保養になったりならなかったり」
妹は、なんだかよくわからないけどすごいね、と言って苦笑した。
秋月はお洒落に無頓着な奴で、いつもイオンとかヤマナカとかの大型量販店で売ってるような服を着ている。
「なかよくしなくていいからね」
と、ぼくは妹の小さな耳にそう言った。
「こんにちは、麻衣ちゃん。氷山昇です。先日二十歳になりました。
趣味はこれと言って特にないんですけど、ぼくも写真を撮るのが結構好きですね。
ぼくの場合は主に風景写真が多いかな。
あと特技っていうか、パソコン関係には結構強いので、今使ってるパソコンは自作です。
休みの日は大体winnyでエロ動画を収集したり、エロゲーをしたりしています」
やっぱり妹は一単語もわからない様子でいたので、ぼくはまた耳元で解説する。
「えっと、winnyっていうのはときどき顧客情報漏えいとかで問題になってるファイル共有ソフトのことで、winnyがあればご飯以外は何でも手に入ると言われてるんだけど、知らないよね。
エロゲーっていうのは読んで字のごとくというか、18禁のアダルトゲームのこと。
ぼくの友達にはエロゲーの ヒロインを嫁だと言い張っている奴が残念なことに何人もいるんだ……。
あ、ちなみに氷山の嫁って誰だっけ?」
「そうだね、つよきすのなごみんかな。あの子はいいよね。やっぱりツンデレっていいよね」
妹はきょとんとしている。
「ツンデレっていうのは、普段はツンツンしてるのに好きな男の前ではデレデレしちゃうような女の子のこと」
氷山もお洒落に無頓着だ。
一体どこでそのズボン買ってくるのか見当すらつかないボンタンみたいなズボンにシャツをインしている。
同じ部員ながらやめてくれとぼくはいつも思う。
「こいつともなかよくしなくていいからね」
流行語というやつがぼくはあまり好きじゃないのだけれど、初対面でここまでぶっちゃけた自己紹介をする彼らみたいな奴らをKYって言うんだろうなとぼくは思った。
妹は腕を組んで、うーんと頭を悩ませながら、
「ここ、確か文芸部だったよね?」
と、ぼくに聞いた。
はい、一応。
講義は二限目からで十時五十分からだけど、九時頃には大学の正門をくぐり、コンビニで買ったサンドイッチとイチゴオレをふたりで食べながら桜の木が立ち並ぶ道を歩いた。
春になるとその道は桜が咲き乱れ、新入生を勧誘するサークルたちであふれかえり、五月になり新入生たちが自転車を買い藤が丘の駅から自転車通学をするようになるまでの間、夕方はバスを待つ人たちでこの道は長蛇の列ができる。
しかし今は十月で、朝だ。
一限から講義をとろうという物好きも少なく、学生たちの姿はまばらで、どこからどう見ても中学生の、下手したら小学生に見られかねない妹を気にする者はなかった。
さすがにセーラー服姿で大学を歩き回るのはまずかろうということで、ぼくたちは昨日実家からの帰りに名古屋の地下街のエスカで妹の服を何着か買った。
妹はあちら側のお嬢様生活で金銭感覚が少しお馬鹿になっているらしく、店のマネキンに着せられたコーディネートを気に入っては、
「これ、上から下まで全部ください」
次々と買い物袋が増えていった。
四店舗目でぼくのクレジットカード(大学の学生証でもある)は月々10万の限度額を越えてしまい、ぼくはしぶしぶ財布から足りない分を出した。
五店舗目へ向かおうとする妹に、
「ごめんなさい。もう無理です」
ぼくは半泣きでそう言った。
妹は頬を膨らませて唇を尖らせて、
「じゃあ最後に下着屋さんに行こ」
と、ぼくを誘うのだった。
女性ものの下着屋さんに入るのははじめてのことだった。
居心地が悪く入り口付近でうつむいて立っていると、「お兄ちゃん、ほら、こっちこっち」と妹はぼくを手招きした。
「やっぱり上下お揃いじゃないとかわいくないよね」
ねぇ、お兄ちゃんはどっちが好み? と両手に下着のかかったハンガーを持って、ぼくの心中など察するつもりなど毛頭ないように笑いかけるのだった。
「ねぇ、どっち? 右なの? 左なの?」
ぼくは恥ずかしくて妹の持つ下着を直視することさえかなわない。
「……右」
なんとかしぼりだすように答えると、
「それはお兄ちゃんから見て右ってこと? 麻衣から見て右ってこと?」
勘弁してくれとぼくは思った。
そんな苦労もあったから、はじめて見る妹の私服姿はとても感慨深いものがあった。
妹はとてもかわいい。
妹は大学という空間に来たのははじめてらしく、見るものすべてが新鮮といった様子で楽しそうにはしゃいでいた。
ぼくの通う大学はいわゆる私立のマンモス校で、学生の数は数万を数える。ぼくと同じ法学部の二年だけで確か三千人はいたはずだ。
山を切り開いた広い土地に、様々な学部の十以上の校舎が立ち並び、車通学の学生も相当な数のため敷地面積の半分は駐車場が占めている。
食堂は三つあり、ローソンがあり、 マクドナルドまである。
とにかく広いのだ。大学だから毎年春にどの講義を受講するのか決めなくてはいけないのだけれど、休み時間の間に次の講義の教室まで 辿り着けるかどうかも加味して時間割りを立てなくてはならない。
それでも休み時間の多くは移動時間に削られて休む暇もない。
ぼくは三千人いる学生の中では比較的真面目で優秀な部類に位置していたけれど、実は法学部に在籍していながらあまり法律には興味がなかった。
ゼミは法哲学や法思想史を専門とする助教授のゼミを選び、アリストテレスだとかソクラテスだとかとにかく舌を噛みそうな名前の古代の偉人たちのことを学んでいる。
あとは中世ヨーロッパの法律がおもしろい。
魔女狩りの時代の法律の講義はぼくのマイブームと言っても過言じゃない。
親が会社をやってるとか政治家をやってるとか天皇家ゆかりの家のこどもだとか比較的金持ちの学生が多く、彼等が出席をとらない講義ばかりを選んで受講しているのに対し、ぼくは出席をとる講義ばかりを受講していた。
何度か欠席すれば単位を落としてしまいかねないリスクはあるけれど、ちゃんと出席さえしていれば試験の際に出席が得点として加味される。
おかげさまでぼくの前期の単位はオールAだった。
出席を取る講義は少人数制のものばかりだ。さすがに妹を教室まで連れていくわけにはいかない。
しかたないな、とぼくは思い、文化部の部活棟へと歩を進めた。
そこの二階にぼくが所属する文芸部の部室がある。
「ここがお兄ちゃんのシマなのね…」
ゴクリと生唾を飲み込みながら、妹は今日びヤクザくらいしか使わない言葉を使った。
一体だれの影響だろう。
ぼくはそんな言葉は使わないし「ぼく」だってそうだろう。
直木賞作家の父が使うはずがない。
だとすれば母さんかとぼくは思い、少しおかしな気持ちにさせられた。
ともあれ、
「ようこそ、文芸部へ」
と、ぼくは妹を部室に招きいれた。
妹を連れて部室に入ると、まだ一限の時間だというのにすでに何人かの部員がいて、
「加藤くん、誰、その子?」
と、目ざとくぼくの背中に隠れる妹に目をつけた。
同じ二年の佳苗貴子(かなえたかこ)だ。
「彼女ですか?」
後輩の花柳宗也(かりゅうそうや)が訊く。
「まさか加藤に彼女ができるわけないだろ?」
と、失礼にも(事実だけれど)言い放ってくれたのが同じ二年の秋月蓮治(あきつきれんじ)。
「学祭間近のこの時期にあえての入部希望者ですか?」
眼鏡をくいっと指で押し上げながらそう言ったのが氷山昇(ひょうざんのぼる)。後輩だ。
「その子、内倉綾音にそっくりね」
と、部長の宮沢理佳(みやざわりか)が言った。
「誰ですか? それ」
後輩の山羊琴弓(やぎことみ)が部長に尋ねる。
「花房ルリヲの、あ、加藤くんのことじゃなくてね、彼は二代目を勝手に名乗ってるだけだから。
本物の作家の方の奥さんだった人。女優だったの。死んじゃったけどね」
何年かに一度テレビでは母の特別番組が放送されてはいたけれど、ぼくらと同じ世代で内倉綾音を知っている者は少ない。
同時に花房ルリヲを知る者も。
部長はこんな部に置いておくのがもったいないほどの博識家で、心理学部の学生だから偏差値もぼくなんかよりもずっと上で、長い黒髪に眼鏡がよく似合う、文芸部の高嶺の花といったところだ。
「勝手に名乗ってるだけっていうのはひどいな」
ぼくに「二代目花房ルリヲ」を名乗るように言ったのは彼女だった。
部員たちが落ち着きを取り戻したところで、ぼくは背中に隠れる妹を隣に置いて、ぼくの妹だと話した。
部員たちは一瞬沈黙して、ぼくと妹の顔を何度も見比べた。
「に、似てないっすよね……ねぇ?」
花柳が部員たちに同意を求めた。
「加藤くんに妹がいるなんて聞いたことなかったし」
「こんなかわいい子を連れて歩いているのがまず想像できないし」
「お嬢さん、何かこの男に弱みを握られているんじゃありませんか?」
まったくひどい言われようだった。
妹は褒められているくせに、どうもぼくがけなされているのが気に入らないらしく、いつものように頬を膨らませて唇を尖らせていた。
かと思えば、ころりと表情を一転させて、
「いつもお兄ちゃんがお世話になっています。妹の麻衣です」
と、笑顔で挨拶をするのだった。
ぼくは妹がぼくをけなされて怒っていることを嬉しく思う反面、女優という人種のこわさを少しだけかいま見た気がした。
「両親が今海外旅行にでかけちゃって、妹を家にひとりで置いておくのは心配だから、しばらくアパートのぼくの部屋にいっしょに住むことになったんだ」
と、ぼくは少し苦しい言い訳をして、部員たちを妹に紹介した。
女子部員を一通り紹介し終わると、一部の男どもが妙に張り切って自己紹介を始めた。
「どうも、秋月蓮治です。趣味はカメラで、休みの日にはB級アイドルの撮影会によく出かけています。
コミケがあるときとかは、お気に入りのレイヤーさんのカメコをしたりしています。
カメラは一眼レフのわりといいカメラで、50万以上しました。
撮った写真は部屋に飾って、毎日眺めて楽しんでいま す」
ぼくは一単語もわからないでいる様子の妹の耳元で解説をした。
「カメコっていうのは所謂カメラ小僧っていうやつ。
レイヤーさんってのはコスプレをしてる人のことで、コミケっていうのはコミックマーケットの略。
いわゆる、同人誌即売会ってやつね。
漫画とかアニメとかの二次創作の小説や漫画を個人で売買するイベントで、このあたりだとポートメッセ名古屋なんかでよく あるんだけど。
大阪だとインテックス大阪かな。コミケには結構きわどいコスプレした女の子がいたりして、なかなか目の保養になったりならなかったり」
妹は、なんだかよくわからないけどすごいね、と言って苦笑した。
秋月はお洒落に無頓着な奴で、いつもイオンとかヤマナカとかの大型量販店で売ってるような服を着ている。
「なかよくしなくていいからね」
と、ぼくは妹の小さな耳にそう言った。
「こんにちは、麻衣ちゃん。氷山昇です。先日二十歳になりました。
趣味はこれと言って特にないんですけど、ぼくも写真を撮るのが結構好きですね。
ぼくの場合は主に風景写真が多いかな。
あと特技っていうか、パソコン関係には結構強いので、今使ってるパソコンは自作です。
休みの日は大体winnyでエロ動画を収集したり、エロゲーをしたりしています」
やっぱり妹は一単語もわからない様子でいたので、ぼくはまた耳元で解説する。
「えっと、winnyっていうのはときどき顧客情報漏えいとかで問題になってるファイル共有ソフトのことで、winnyがあればご飯以外は何でも手に入ると言われてるんだけど、知らないよね。
エロゲーっていうのは読んで字のごとくというか、18禁のアダルトゲームのこと。
ぼくの友達にはエロゲーの ヒロインを嫁だと言い張っている奴が残念なことに何人もいるんだ……。
あ、ちなみに氷山の嫁って誰だっけ?」
「そうだね、つよきすのなごみんかな。あの子はいいよね。やっぱりツンデレっていいよね」
妹はきょとんとしている。
「ツンデレっていうのは、普段はツンツンしてるのに好きな男の前ではデレデレしちゃうような女の子のこと」
氷山もお洒落に無頓着だ。
一体どこでそのズボン買ってくるのか見当すらつかないボンタンみたいなズボンにシャツをインしている。
同じ部員ながらやめてくれとぼくはいつも思う。
「こいつともなかよくしなくていいからね」
流行語というやつがぼくはあまり好きじゃないのだけれど、初対面でここまでぶっちゃけた自己紹介をする彼らみたいな奴らをKYって言うんだろうなとぼくは思った。
妹は腕を組んで、うーんと頭を悩ませながら、
「ここ、確か文芸部だったよね?」
と、ぼくに聞いた。
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