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第二部 秋雨(あきさめ)
第7話 ①
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ナオとハルと秋葉原へ行った日、その後あたしたちははまんだらけというお店に向かった。
1階がカードゲームやテレビゲーム、2階がフィギュア、3階が同人誌やアダルトゲームのフロアになっていた。4階はここもイベントスペースのようだった。
ここの3階でも、ふたりはやっぱりあたしをそっちのけで、
「ナオさん、お祓いお姉さん!~弟を誘惑しなさいっ~が出てますよ!」
「な、なんだと、それは本当か、ハル!」
熱い18禁アダルトゲーム談義を繰り広げるふたり。
「あぁぁぁ、姦熟姉妹~母ふたり乳搾りもでてる!」
「ハル、それは本当か、ハル!!」
もう我慢できない。
話についていけない。
あたしはおそるおそる、ふたりが夢中になっているエロゲーというものを一切やったことがないことを説明した。
だからもうその手の話はやめてほしい、と。
「え、お嬢様、エロゲーやったことないんですか!?」
「何を我慢してるんだよ、結衣。やりなよ!」
え、あ、いや、別に何か我慢とかしてるわけじゃ……。
「ていうか、女の子にエロゲーとか薦めるな!」
まんだらけの中心であたしは絶叫がこだました。
ナオはまんだらけで、ひぐらしのなく頃にというゲームを作った竜騎士07さんという人の新作同人ゲーム「うみねこのなく頃に」というものを買っていた。
何年も前からこどもに変な名前をつける親がたくさんいるけどテレビではよく言っていたけれど、なんだかインターネットのハンドルネームの延長のようなおかしなペンネームの作家も最近増えてきているような気がした。
あたしたちはその後、ハルのオススメの秋葉原最大級のフィギュアショップで、ふたりは美少女フィギュアを堪能し、ナオは苺ましまろ水着編のセットを購入し、かなりご満悦の表情だった。
そろそろあたしたちの名前が呼ばれる頃だろうと、グッドウィルのビルの地下のメイドカフェへと戻った。
メイドカフェへと戻ったのは、午後三時半を回る頃だった。
ナオが入り口で鈴を鳴らし、メイドさんを呼びつけると、
「三名の鬼頭なんですけど、あと何組くらいですか?」
そう訊ねた。
あたしは予約があたしの名前でされていたことに驚いた。
予約したハルを睨みつけると、関係ない、知らないという顔をしていた。
「三名の鬼頭様ですね。少々お待ちください。鬼頭様、鬼頭様、鬼頭様……あっ!」
メイドさんは突然大きな声を出した。
「大変申し訳ございません。2時45分におよびしたのですが、ご主人様がいらっしゃらず、それから30分が経過しましたので、キャンセルとさせていただきました」
メイドさんはアニメ声で大変申し訳なさそうに、あたしたちにそう告げた。
「な、なんですと」
ナオが時代劇の町人のような台詞で言った。
「た、大変申し訳ございません!」
あと20分早く帰ってきていれば……、ナオは口惜しそうに呟いた。
「お嬢様をめくるめくメイドカフェにご案内することができたのに……」
そう、まんだらけでやめておけば、フィギュアショップになんて行かなければ、ナオが苺ましまろ水着編など購入しなければ、あたしはメイドカフェを満喫できたはずだった。
「まんだらけだけでやめておけば……。
ぼくが欲を出してしまったばっかりに……。
苺ましまろ水着編とお風呂編がほしかったばっかりに……。
水着編しか見当たらずに何十分もかけてお風呂編を探していたせいだ……」
すみません、お嬢様!
ナオはそう言ってメイドカフェの入り口であたしに土下座をした。
まわりにいた人たちがぎょっとした顔であたしたちを見ていた。
「あ、あのね、別にいいから、全然。あたしそんなにメイドカフェに来たかったわけじゃないから」
あたしはナオをなんとか励まそうと、土下座だけはやめてもらおうと、そんな言葉をつむいでしまった。
まわりにいた人たちが、今度はぎろりとあたしを睨んだ。
メイドカフェでまさかの予約キャンセルをされたあたしたちは、隣接するコスプレカフェが店の制服の営業からコスプレ衣装での営業に変わる5時までをゲームセンターでつぶすことにした。
あたしとデートのときだけじゃなく、ハルはゲームセンターに足しげく通っているらしかった。
あたしはハルに教えてもらいながら、せっかくゲーセンに来たのだからと、ストリートファイターに挑戦してみたところ、はじめてすぐに対戦を申し込まれて初心者潰しにあってしまった。
「あたしは! もうここではお金は使わない!」
と涙目になりつつ、黙ってハルがプレイする姿を眺めることに決め込んだ。
ハルがよく出す、手から何か出る技すら出せないままあたしをコテンパンにした相手を、ハルは一度も殴られたり蹴られたりせず十秒も立たないうちにやっつけてしまった。
ゲームからは「ユーウィン! パーフェクト!!」と、ハルを誉めたたえる声が聞こえた。
一体何が起こっているかさえよくわからない画面を眺めながら、ふと横目でナオを見ると、彼は煙草を吸いながら、ぼんやりと遠くを見て何か考えている様子だった。
あたしは、どうしたの、と尋ねた。
「あ、いや、異世界に召喚されたいなぁなんて考えてたんですけど」
まだメイドカフェのことを気にしているのかもしれないと、心配したあたしが馬鹿だった。
「そろそろぼくも召喚されてもいい頃だと思うんです。
バイストンウェルに始まり、リィンバウム、セフィーロ、四神天地書の中、ヴィルガスト界、ファンタズマゴリア、エルハザード、ラ・ギアス、エターナリア、鉄骨にぶつかると行ける世界、かつて多くの少年少女たちが異世界に召喚されていきました。
事故、自発、誘発、偶然――方法はなんでもいいけれど、ぼくもそろそろ異世界に召喚されてもいい頃だと思うのです。
ぼくはそれなりにその世界でいい仕事をすると思うんです」
27歳の現場監督、18禁アダルトゲームのヒロインとの結婚を真剣に考えるバツイチは、そんなことを夢見る少年の顔であたしに言った。
だけどあたしは、グッドウィルビルの5階で見た、柔和で、温和で、いつも優しそうな微笑を浮かべていた彼の、野獣のような性欲がむき出しになったらんらんと輝く両の眼を、一生忘れることはないだろなと思った。
コスプレカフェが制服営業からコスプレ営業に変わる5時までをゲームセンターでつぶすことにしたあたしたちだったけれど、5時ちょっと前に店に入れば制服営業とコスプレ営業を両方楽しめるのではないかというハルの発案で、あたしたちは5時前の入店をすることにした。
「ここの制服がまたいやらしい絶対領域をしているのです」
ナオがそう言ったけど、あたしにはその絶対領域というのが何なのかわからなかったし、別に知りたいとも思わなかった。
「前にここに来たときは、涼宮ハルヒが、あずまんが大王のちよちゃんが、またいやらしい絶対領域をしていたのです」
ナオは本当にどうでもいいことばかりあたしに説明した。
「このお店は、絶対領域カフェとも呼んでも過言ではない、絶対領域を楽しむ場所なのです」
「残念だったね、メイドカフェ……」
あたしがそう言うと、ナオはまた暗い顔をして黙りこんだ。
ハルが制服姿の女の子を呼び止めて、かのんちゃんという店員さんが考案したチョコレートベースのカクテル「スナックかのん限定品~ママの味~」を注文した。
まだ16にもなっていないハルが当たり前のようにお酒を注文したのであたしは驚いた。
お酒が飲めないというナオはろぜちゃんという店の女の子がが考えたというノンアルコールカクテルの「ろぜ☆すた」を、未成年のあたしも同じくノンアルコールカクテルを注文した。
お酒のおつまみに、唐揚げ&ポテチ、フライドポテト、チーズの盛り合わせを頼んで、
「とりあえず以上で」
時刻はいよいよ5時になろうとしていた。
制服姿の女の子と入れ替わり、颯爽と登場したのは、
「ユウナだ! ファイナルファンタジー10-2のユウナだ!」
フロアリーダーらしい、たまおきちゃんという女の子が非常に露出度の高いコスプレ衣装で現れた。
短パンから伸びた生足がなまめかしく、
「ゲームで見たときはなんとも思わなかったけど、なんていやらしい格好なんだ!」
ハルが興奮のあまり声を荒げていた。
「まさか今日はファイナルファンタジー10-2あわせの日なのか!?」
それにナオが続いた。
「リュックは!? ぼくの嫁もいるのか!?」
あんたの嫁はなごみだろ。
期待に胸を膨らませるハルとナオの前に次に現れたコスプレ店員さんは、ふたりにすら何のコスプレかさっぱりわからないらしい格好をしていた。
ふたりの期待は見事に裏切られた。
「あの、それ、何のコスプレなんですか?」
ナオが訊ねた。
「えーっと、これはサムライディーパーKYOって漫画の真田幸村っていう実在の人物で。戦国無双とか戦国バサラとかに出てくる衣装とはちょっと違うんですけど」
「そんなことはどうでもいい!リュックを出せ!
10-2の格好がいやらしすぎて無理なら10の格好で出せ!
そしてユウナのコスをしたたまおきちゃんを『ユウナん』ってアルベド語訛りで呼べ!!」
ナオのあまりのエキサイトぶりに、女の子は泣きだしてしまって、あたしたちはもう少しで店からつまみだされるところだった。
1階がカードゲームやテレビゲーム、2階がフィギュア、3階が同人誌やアダルトゲームのフロアになっていた。4階はここもイベントスペースのようだった。
ここの3階でも、ふたりはやっぱりあたしをそっちのけで、
「ナオさん、お祓いお姉さん!~弟を誘惑しなさいっ~が出てますよ!」
「な、なんだと、それは本当か、ハル!」
熱い18禁アダルトゲーム談義を繰り広げるふたり。
「あぁぁぁ、姦熟姉妹~母ふたり乳搾りもでてる!」
「ハル、それは本当か、ハル!!」
もう我慢できない。
話についていけない。
あたしはおそるおそる、ふたりが夢中になっているエロゲーというものを一切やったことがないことを説明した。
だからもうその手の話はやめてほしい、と。
「え、お嬢様、エロゲーやったことないんですか!?」
「何を我慢してるんだよ、結衣。やりなよ!」
え、あ、いや、別に何か我慢とかしてるわけじゃ……。
「ていうか、女の子にエロゲーとか薦めるな!」
まんだらけの中心であたしは絶叫がこだました。
ナオはまんだらけで、ひぐらしのなく頃にというゲームを作った竜騎士07さんという人の新作同人ゲーム「うみねこのなく頃に」というものを買っていた。
何年も前からこどもに変な名前をつける親がたくさんいるけどテレビではよく言っていたけれど、なんだかインターネットのハンドルネームの延長のようなおかしなペンネームの作家も最近増えてきているような気がした。
あたしたちはその後、ハルのオススメの秋葉原最大級のフィギュアショップで、ふたりは美少女フィギュアを堪能し、ナオは苺ましまろ水着編のセットを購入し、かなりご満悦の表情だった。
そろそろあたしたちの名前が呼ばれる頃だろうと、グッドウィルのビルの地下のメイドカフェへと戻った。
メイドカフェへと戻ったのは、午後三時半を回る頃だった。
ナオが入り口で鈴を鳴らし、メイドさんを呼びつけると、
「三名の鬼頭なんですけど、あと何組くらいですか?」
そう訊ねた。
あたしは予約があたしの名前でされていたことに驚いた。
予約したハルを睨みつけると、関係ない、知らないという顔をしていた。
「三名の鬼頭様ですね。少々お待ちください。鬼頭様、鬼頭様、鬼頭様……あっ!」
メイドさんは突然大きな声を出した。
「大変申し訳ございません。2時45分におよびしたのですが、ご主人様がいらっしゃらず、それから30分が経過しましたので、キャンセルとさせていただきました」
メイドさんはアニメ声で大変申し訳なさそうに、あたしたちにそう告げた。
「な、なんですと」
ナオが時代劇の町人のような台詞で言った。
「た、大変申し訳ございません!」
あと20分早く帰ってきていれば……、ナオは口惜しそうに呟いた。
「お嬢様をめくるめくメイドカフェにご案内することができたのに……」
そう、まんだらけでやめておけば、フィギュアショップになんて行かなければ、ナオが苺ましまろ水着編など購入しなければ、あたしはメイドカフェを満喫できたはずだった。
「まんだらけだけでやめておけば……。
ぼくが欲を出してしまったばっかりに……。
苺ましまろ水着編とお風呂編がほしかったばっかりに……。
水着編しか見当たらずに何十分もかけてお風呂編を探していたせいだ……」
すみません、お嬢様!
ナオはそう言ってメイドカフェの入り口であたしに土下座をした。
まわりにいた人たちがぎょっとした顔であたしたちを見ていた。
「あ、あのね、別にいいから、全然。あたしそんなにメイドカフェに来たかったわけじゃないから」
あたしはナオをなんとか励まそうと、土下座だけはやめてもらおうと、そんな言葉をつむいでしまった。
まわりにいた人たちが、今度はぎろりとあたしを睨んだ。
メイドカフェでまさかの予約キャンセルをされたあたしたちは、隣接するコスプレカフェが店の制服の営業からコスプレ衣装での営業に変わる5時までをゲームセンターでつぶすことにした。
あたしとデートのときだけじゃなく、ハルはゲームセンターに足しげく通っているらしかった。
あたしはハルに教えてもらいながら、せっかくゲーセンに来たのだからと、ストリートファイターに挑戦してみたところ、はじめてすぐに対戦を申し込まれて初心者潰しにあってしまった。
「あたしは! もうここではお金は使わない!」
と涙目になりつつ、黙ってハルがプレイする姿を眺めることに決め込んだ。
ハルがよく出す、手から何か出る技すら出せないままあたしをコテンパンにした相手を、ハルは一度も殴られたり蹴られたりせず十秒も立たないうちにやっつけてしまった。
ゲームからは「ユーウィン! パーフェクト!!」と、ハルを誉めたたえる声が聞こえた。
一体何が起こっているかさえよくわからない画面を眺めながら、ふと横目でナオを見ると、彼は煙草を吸いながら、ぼんやりと遠くを見て何か考えている様子だった。
あたしは、どうしたの、と尋ねた。
「あ、いや、異世界に召喚されたいなぁなんて考えてたんですけど」
まだメイドカフェのことを気にしているのかもしれないと、心配したあたしが馬鹿だった。
「そろそろぼくも召喚されてもいい頃だと思うんです。
バイストンウェルに始まり、リィンバウム、セフィーロ、四神天地書の中、ヴィルガスト界、ファンタズマゴリア、エルハザード、ラ・ギアス、エターナリア、鉄骨にぶつかると行ける世界、かつて多くの少年少女たちが異世界に召喚されていきました。
事故、自発、誘発、偶然――方法はなんでもいいけれど、ぼくもそろそろ異世界に召喚されてもいい頃だと思うのです。
ぼくはそれなりにその世界でいい仕事をすると思うんです」
27歳の現場監督、18禁アダルトゲームのヒロインとの結婚を真剣に考えるバツイチは、そんなことを夢見る少年の顔であたしに言った。
だけどあたしは、グッドウィルビルの5階で見た、柔和で、温和で、いつも優しそうな微笑を浮かべていた彼の、野獣のような性欲がむき出しになったらんらんと輝く両の眼を、一生忘れることはないだろなと思った。
コスプレカフェが制服営業からコスプレ営業に変わる5時までをゲームセンターでつぶすことにしたあたしたちだったけれど、5時ちょっと前に店に入れば制服営業とコスプレ営業を両方楽しめるのではないかというハルの発案で、あたしたちは5時前の入店をすることにした。
「ここの制服がまたいやらしい絶対領域をしているのです」
ナオがそう言ったけど、あたしにはその絶対領域というのが何なのかわからなかったし、別に知りたいとも思わなかった。
「前にここに来たときは、涼宮ハルヒが、あずまんが大王のちよちゃんが、またいやらしい絶対領域をしていたのです」
ナオは本当にどうでもいいことばかりあたしに説明した。
「このお店は、絶対領域カフェとも呼んでも過言ではない、絶対領域を楽しむ場所なのです」
「残念だったね、メイドカフェ……」
あたしがそう言うと、ナオはまた暗い顔をして黙りこんだ。
ハルが制服姿の女の子を呼び止めて、かのんちゃんという店員さんが考案したチョコレートベースのカクテル「スナックかのん限定品~ママの味~」を注文した。
まだ16にもなっていないハルが当たり前のようにお酒を注文したのであたしは驚いた。
お酒が飲めないというナオはろぜちゃんという店の女の子がが考えたというノンアルコールカクテルの「ろぜ☆すた」を、未成年のあたしも同じくノンアルコールカクテルを注文した。
お酒のおつまみに、唐揚げ&ポテチ、フライドポテト、チーズの盛り合わせを頼んで、
「とりあえず以上で」
時刻はいよいよ5時になろうとしていた。
制服姿の女の子と入れ替わり、颯爽と登場したのは、
「ユウナだ! ファイナルファンタジー10-2のユウナだ!」
フロアリーダーらしい、たまおきちゃんという女の子が非常に露出度の高いコスプレ衣装で現れた。
短パンから伸びた生足がなまめかしく、
「ゲームで見たときはなんとも思わなかったけど、なんていやらしい格好なんだ!」
ハルが興奮のあまり声を荒げていた。
「まさか今日はファイナルファンタジー10-2あわせの日なのか!?」
それにナオが続いた。
「リュックは!? ぼくの嫁もいるのか!?」
あんたの嫁はなごみだろ。
期待に胸を膨らませるハルとナオの前に次に現れたコスプレ店員さんは、ふたりにすら何のコスプレかさっぱりわからないらしい格好をしていた。
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「そんなことはどうでもいい!リュックを出せ!
10-2の格好がいやらしすぎて無理なら10の格好で出せ!
そしてユウナのコスをしたたまおきちゃんを『ユウナん』ってアルベド語訛りで呼べ!!」
ナオのあまりのエキサイトぶりに、女の子は泣きだしてしまって、あたしたちはもう少しで店からつまみだされるところだった。
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