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第八話 ③
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秋月蓮治が死に、ミサが裏切り、そして学と麻衣の両親が死んで、一ヶ月が過ぎていた。
学は八十三町のラブホテルでベッドメイキングのアルバイトを始めた。
もうひきこもりでも、ニートでもない。マスカレイドアバターでもない。
麻衣にとって、それは妹としてとても喜ばしいことなのかもしれなかった。
けれど麻衣には、兄がまるでマスカレイドアバターだったことを忘れようとしているように見えた。
仕事を終え、ラブホテルの従業員出入り口から出てきた学は、
「さすがに……十六年も引きこもってた体には肉体労働はこたえるな……」
と大きくため息をついた。
「時給八五〇円、週に六日、一日八時間働いても給料は十六万くらいか……。まぁそのうち親父とお袋の生命保険とか慰謝料も下りるし、麻衣とふたりだけの生活ならなんとかなるか……。ちゃんと大学、行かせてやらないとな……。俺がしっかりしなきゃ……。麻衣を守れるのは俺だけなんだ……」
独り言を言う癖はまだ直っていなかった。
「おひさしぶりね、加藤学」
ミサの声がした。
学がその声に振り返ると、そこには金髪のゴスロリ姿のミサがいた。
「ミサ……か? その格好……どうしたんだ? いや、それよりも無事だったんだな。よかった。俺はてっきりあの男にやられたんだと……」
一ヶ月ぶりに見るミサは以前とはだいぶ違って見えた。格好だけではなかった。雰囲気が違っていた。もう人ではない、そういう感じがした。
「わたしなら平気よ。彼はまだマスカレイドアバターとして覚醒するつもりがないようだから。まだはじまりのマスカレイドアバターの四八の部位はわたしの中にある。スーツは組織の制服のようなものだったから、組織を裏切った今のわたしには必要ないわ」
「言ってることの半分も理解できないけど、それでゴスロリってわけか……。派手にイメチェンしたもんだ。まさかそういう趣味をお持ちとは思わなかったよ」
「マスカレイドアバターの格好でコンビニに入ろうとしてたあなたには言われたくはないけど」
皮肉に皮肉で返された。ミサらしさがまだ残っていたことに学は少し安堵した。
「悪かったな。で、そのマスカレイドアバターじゃなくなった俺にいまさら何の用だ?」
「あなたにひとつ真実を教えてあげておこうと思って」
「真実?」
学はいまさらマスカレイドアバターのどんな真実を聞かされても驚かない自信があった。
しかしミサが次に口にしたのは驚愕に値する言葉だった。
「旅客機の墜落に見せかけて、加藤教授とその夫人、あなたのお父様とお母様を殺したのは組織よ」
両親の死は事故ではなかったのだ。ミサがいた組織に殺されたのだ。けれどそれを知ったところで、学にはもう何も出来なかった。
「わたしはいつかマスカレイドアバターとして覚醒し、13評議会も、はじまりのマスカレイドアバターのコピーであるあの少年さえも超越した、王の中の王になる。あなたがもしわたしの味方になってくれるなら、世界の半分をあなたにあげてもいいわ。どうかしら? 加藤学、あなた、わたしの味方にならない?」
「どうして俺が……」
「簡単なことよ。消去法。この世界に残されたマスカレイドアバターはもうあなたとわたししかいないんだもの」
「でも俺は、もう……」
マスカレイドアバターではない。だから両親が組織に殺されたと今更知らされても何もできない。
「マスカレイドアバターは、二千年前、イエスがこの星を訪れたときにはすでに進化の袋小路にさしかかっていた人類を強制的に進化させるためのものだった、ということは以前話したわよね? けれど、13評議会が、千のコスモの会が二千年かけて作り上げたマスカレイドアバターは、わたしも含めてたったの49体。そしてそのうち47体はすでに死亡した。しかし、約束の時はまもなく訪れる。進化できなかった旧人類はすべて滅び、あなたとわたしだけが生き残ることになる」
「……あんた、どうしちまったんだ? まるで話がかみあわない」
その瞬間、頭上から飛び降りてくる男の姿があった。男は大剣をふりかざし、ミサに斬りかかった。
「その女にたぶらかされるなよ」
秋月蓮治だった。大剣はベルセルクのものだった。
ミサは最小限の動作でひらりとその大剣をかわした。
「お前は……どうして……」
蓮治は次々と大剣でミサに斬りかかった。マスカレイドアバターの姿でもないのに、大剣を片手で軽々と操っていた。しかし大剣がミサをとらえることはなかった。
「死んだはずだったんだけどね……組織ってやつに生き返らせられちまった。それにしても、お前がディスだったなんてな」
「お前こそ……ベルセルクだったなんて……」
「ま、つもる話はあとにしようぜ。今はこいつを倒す」
そう言って、蓮治は変身ベルトを装着した。
「システム起動、ベルセルク!」
「変身!」
「マスカレイドアバター!」
蓮治はマスカレイドアバターベルセルクに変身した。
学は八十三町のラブホテルでベッドメイキングのアルバイトを始めた。
もうひきこもりでも、ニートでもない。マスカレイドアバターでもない。
麻衣にとって、それは妹としてとても喜ばしいことなのかもしれなかった。
けれど麻衣には、兄がまるでマスカレイドアバターだったことを忘れようとしているように見えた。
仕事を終え、ラブホテルの従業員出入り口から出てきた学は、
「さすがに……十六年も引きこもってた体には肉体労働はこたえるな……」
と大きくため息をついた。
「時給八五〇円、週に六日、一日八時間働いても給料は十六万くらいか……。まぁそのうち親父とお袋の生命保険とか慰謝料も下りるし、麻衣とふたりだけの生活ならなんとかなるか……。ちゃんと大学、行かせてやらないとな……。俺がしっかりしなきゃ……。麻衣を守れるのは俺だけなんだ……」
独り言を言う癖はまだ直っていなかった。
「おひさしぶりね、加藤学」
ミサの声がした。
学がその声に振り返ると、そこには金髪のゴスロリ姿のミサがいた。
「ミサ……か? その格好……どうしたんだ? いや、それよりも無事だったんだな。よかった。俺はてっきりあの男にやられたんだと……」
一ヶ月ぶりに見るミサは以前とはだいぶ違って見えた。格好だけではなかった。雰囲気が違っていた。もう人ではない、そういう感じがした。
「わたしなら平気よ。彼はまだマスカレイドアバターとして覚醒するつもりがないようだから。まだはじまりのマスカレイドアバターの四八の部位はわたしの中にある。スーツは組織の制服のようなものだったから、組織を裏切った今のわたしには必要ないわ」
「言ってることの半分も理解できないけど、それでゴスロリってわけか……。派手にイメチェンしたもんだ。まさかそういう趣味をお持ちとは思わなかったよ」
「マスカレイドアバターの格好でコンビニに入ろうとしてたあなたには言われたくはないけど」
皮肉に皮肉で返された。ミサらしさがまだ残っていたことに学は少し安堵した。
「悪かったな。で、そのマスカレイドアバターじゃなくなった俺にいまさら何の用だ?」
「あなたにひとつ真実を教えてあげておこうと思って」
「真実?」
学はいまさらマスカレイドアバターのどんな真実を聞かされても驚かない自信があった。
しかしミサが次に口にしたのは驚愕に値する言葉だった。
「旅客機の墜落に見せかけて、加藤教授とその夫人、あなたのお父様とお母様を殺したのは組織よ」
両親の死は事故ではなかったのだ。ミサがいた組織に殺されたのだ。けれどそれを知ったところで、学にはもう何も出来なかった。
「わたしはいつかマスカレイドアバターとして覚醒し、13評議会も、はじまりのマスカレイドアバターのコピーであるあの少年さえも超越した、王の中の王になる。あなたがもしわたしの味方になってくれるなら、世界の半分をあなたにあげてもいいわ。どうかしら? 加藤学、あなた、わたしの味方にならない?」
「どうして俺が……」
「簡単なことよ。消去法。この世界に残されたマスカレイドアバターはもうあなたとわたししかいないんだもの」
「でも俺は、もう……」
マスカレイドアバターではない。だから両親が組織に殺されたと今更知らされても何もできない。
「マスカレイドアバターは、二千年前、イエスがこの星を訪れたときにはすでに進化の袋小路にさしかかっていた人類を強制的に進化させるためのものだった、ということは以前話したわよね? けれど、13評議会が、千のコスモの会が二千年かけて作り上げたマスカレイドアバターは、わたしも含めてたったの49体。そしてそのうち47体はすでに死亡した。しかし、約束の時はまもなく訪れる。進化できなかった旧人類はすべて滅び、あなたとわたしだけが生き残ることになる」
「……あんた、どうしちまったんだ? まるで話がかみあわない」
その瞬間、頭上から飛び降りてくる男の姿があった。男は大剣をふりかざし、ミサに斬りかかった。
「その女にたぶらかされるなよ」
秋月蓮治だった。大剣はベルセルクのものだった。
ミサは最小限の動作でひらりとその大剣をかわした。
「お前は……どうして……」
蓮治は次々と大剣でミサに斬りかかった。マスカレイドアバターの姿でもないのに、大剣を片手で軽々と操っていた。しかし大剣がミサをとらえることはなかった。
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「お前こそ……ベルセルクだったなんて……」
「ま、つもる話はあとにしようぜ。今はこいつを倒す」
そう言って、蓮治は変身ベルトを装着した。
「システム起動、ベルセルク!」
「変身!」
「マスカレイドアバター!」
蓮治はマスカレイドアバターベルセルクに変身した。
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