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第八話 ②
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「まさか飛行機事故にあうなんてな……」
「高志くんも行方不明なんでしょ?」
「まったくなんて不幸続きなの……一体どうなっているのかしら……」
学と麻衣の両親は、飛行機事故で死んだ。ひとかけらの肉片も遺品も何一つ見つからなかった。
遺体のない葬儀が終わった後、喪服姿の学と麻衣は自宅に戻った。
麻衣は泣きじゃくっていた。飛行機事故のテロップを見てからずっと泣いていた。この数日、ずっと寝てもいなかった。
「麻衣……」
学、玄関先で崩れ落ちた麻衣を抱きしめた。
「前に約束したよな、俺はずっと麻衣のそばにいるって。これからは俺がお前を守る」
学は言った。
「俺……働くよ。中卒の俺なんかが働ける仕事なんて簡単には見つからないかもしれないけど、どんな仕事でも……」
もう父も母もいない。自分以外の誰も麻衣を守ってくれない。
「お兄ちゃん……」
また涙を流す麻衣を、学は強く抱きしめた。
「だいじょうぶ……、だいじょうぶだから……」
だから学は麻衣を命をかけて守ろうと決意した。
13評議会では、
「城南大学生化学研究室の加藤教授を始末するためだけに、ジャンボジェット機を墜落させたのはいささかやりすぎではなくて?」
評議会員を前にイズミが苦言を呈していた。
「四八のマスカレイドアバターシステムが完成し、はじまりのマスカレイドアバターと同義の存在である日向葵が目覚めた今、彼はもはや用済みだったからな」
そのために何百人もの乗客が犠牲になったか……。
イエスの使者として、イズミは彼らと同じく二千年の時を生きてきた。その悠久の時の中で、いつしか人の命が失われることに彼らは何も感じなくなってしまっていた。彼らはもはや人ではなかった。
「ミサ女史の反乱はいささか想定外ではあったがね」
「まさか、加藤教授が四九番目のマスカレイドアバターを極秘裏に開発していたとは……」
「何、すべて想定内の出来事だ……。ディスにすべての部位を集めさせるつもりだったが、それの役割がヴァージンに移り変わったにすぎない」
「あとはタイプゼロが、パナギアを始末して彼がはじまりのマスカレイドアバターと同義の存在になれば我々の長きにわたる計画はようやく達成される」
「そのタイプゼロだが……、どうやら我々の計画をいますぐ遂行するつもりがないようだ」
「彼は今どこに?」
イズミが問う。
「イズミくん、君のペットのところだよ」
13評議会の会議場がある国立デュルケーム研究所の地下13階にマスカレイドアバターベルセルクであった者、秋月蓮治は眠っていた。
蓮治は目を覚まし、
「ここ……は……?」
体を起こす。
「うっ、頭が痛い……。体が重い……」
体中にいろとりどりのチューブが刺さっており、それらは大きな機械につながっていた。
「おはよう、マスカレイドアバターベルセルク」
蓮治は声がした方を見やる。知らない少年がいた。
「……おまえは?」
「ぼくが誰か何てことは君が知る必要はないよ。君にはそれよりも知らなくてはいけないことがあるんじゃないかな」
少年にそう言われて、蓮治は思い出した。
「……そうだ……俺は……確か……死んだはずじゃ……」
「その通り。君は確かに一度死んだ。だけど今、こうして生きている」
少年の言っていることの意味がよくわからなかった。人は死んだらそれで終わりじゃないのか? 自分は輪廻転生でもしたのだろうか? あんなものは古代の宗教家の妄想だと思っていた。
「……どうして?」
蓮治は少年に問う。
「13評議会は貴重なサンプルである君まで失うわけにはいかなかったようだよ。君は四六体ものサンプルを再生不可能なまでに破壊してしまったからね。だから連中は、君を再生したっていうわけ。自分たちが二千年の時を永らえてきた神の子の技術でね」
少年の言っていることはまったく意味がよくわからなかった。
「秋月蓮治という人間はもう死んだということだよ。君はもう人間じゃない。13評議会の連中と同じ、機械仕掛けの人形だ。永遠に生き続けることのできる、ね。君の存在は今、秋月蓮治としてではなく、マスカレイドアバターベルセルクとしてだけある」
少年の言葉が確かなら、
「改造人間ってわけかよ……。ますますマスカレイドアバターっぽくなってきたな」
蓮治はそう言って笑った。昭和の時代のテレビのマスカレイドアバターはみんな改造人間という設定だった。平成になって改造人間という設定がテレビ的にNGになりその設定は廃止され、普通の人間が変身ベルトを使って変身するという設定になっていた。もっともそのNGになってしまった設定よりも、こども向けの番組で派手なバイクアクションをする方がよっぽどNGだと思うのだが、テレビの倫理観というのは彼にはよくわからなかった。
少年は、ベルセルクのベルトを蓮治に差し出した。
「これは……」
「君のだろう?」
蓮治はそれを受け取ると言う。
「ああ……、こいつがあるってことは、ここはどうやら天国とか地獄ってわけじゃなさそうだな」
「悪夢の続きってところかな」
そう言って、少年は笑った。
確かに、現実なんて悪い夢でしかない。
「で、俺をこんな体にしてまで生き返らせて、一体何をさせるつもりだ?」
「別に何も」
少年は言った。
「君の好きに生きたらいい。だけど、その前にひとつだけ仕事をしてもらいたいな」
「仕事?」
少年は、今度は別のベルトを差し出した。蓮治のものとは色が違うだけのものだった。
「これは……?」
そう尋ねた蓮治に、
「君を殺したミサ、マスカレイドアバターパナギアが破壊してしまったディスのベルトのプロトタイプだよ。君のベルトもそうだけれど、ベルトのコア、つまりイエスの四八の部位はすべてパナギアに奪われてしまった。だから以前ほどの力はない。でもコアがなくても一応変身はできるみたいだからね」
少年は言った。
「これをマスカレイドアバターディス、加藤学に渡してくれるだけでいい」
マスカレイドアバターディス?
加藤学?
あいつが……ディス?
蓮治には信じられなかった。
「高志くんも行方不明なんでしょ?」
「まったくなんて不幸続きなの……一体どうなっているのかしら……」
学と麻衣の両親は、飛行機事故で死んだ。ひとかけらの肉片も遺品も何一つ見つからなかった。
遺体のない葬儀が終わった後、喪服姿の学と麻衣は自宅に戻った。
麻衣は泣きじゃくっていた。飛行機事故のテロップを見てからずっと泣いていた。この数日、ずっと寝てもいなかった。
「麻衣……」
学、玄関先で崩れ落ちた麻衣を抱きしめた。
「前に約束したよな、俺はずっと麻衣のそばにいるって。これからは俺がお前を守る」
学は言った。
「俺……働くよ。中卒の俺なんかが働ける仕事なんて簡単には見つからないかもしれないけど、どんな仕事でも……」
もう父も母もいない。自分以外の誰も麻衣を守ってくれない。
「お兄ちゃん……」
また涙を流す麻衣を、学は強く抱きしめた。
「だいじょうぶ……、だいじょうぶだから……」
だから学は麻衣を命をかけて守ろうと決意した。
13評議会では、
「城南大学生化学研究室の加藤教授を始末するためだけに、ジャンボジェット機を墜落させたのはいささかやりすぎではなくて?」
評議会員を前にイズミが苦言を呈していた。
「四八のマスカレイドアバターシステムが完成し、はじまりのマスカレイドアバターと同義の存在である日向葵が目覚めた今、彼はもはや用済みだったからな」
そのために何百人もの乗客が犠牲になったか……。
イエスの使者として、イズミは彼らと同じく二千年の時を生きてきた。その悠久の時の中で、いつしか人の命が失われることに彼らは何も感じなくなってしまっていた。彼らはもはや人ではなかった。
「ミサ女史の反乱はいささか想定外ではあったがね」
「まさか、加藤教授が四九番目のマスカレイドアバターを極秘裏に開発していたとは……」
「何、すべて想定内の出来事だ……。ディスにすべての部位を集めさせるつもりだったが、それの役割がヴァージンに移り変わったにすぎない」
「あとはタイプゼロが、パナギアを始末して彼がはじまりのマスカレイドアバターと同義の存在になれば我々の長きにわたる計画はようやく達成される」
「そのタイプゼロだが……、どうやら我々の計画をいますぐ遂行するつもりがないようだ」
「彼は今どこに?」
イズミが問う。
「イズミくん、君のペットのところだよ」
13評議会の会議場がある国立デュルケーム研究所の地下13階にマスカレイドアバターベルセルクであった者、秋月蓮治は眠っていた。
蓮治は目を覚まし、
「ここ……は……?」
体を起こす。
「うっ、頭が痛い……。体が重い……」
体中にいろとりどりのチューブが刺さっており、それらは大きな機械につながっていた。
「おはよう、マスカレイドアバターベルセルク」
蓮治は声がした方を見やる。知らない少年がいた。
「……おまえは?」
「ぼくが誰か何てことは君が知る必要はないよ。君にはそれよりも知らなくてはいけないことがあるんじゃないかな」
少年にそう言われて、蓮治は思い出した。
「……そうだ……俺は……確か……死んだはずじゃ……」
「その通り。君は確かに一度死んだ。だけど今、こうして生きている」
少年の言っていることの意味がよくわからなかった。人は死んだらそれで終わりじゃないのか? 自分は輪廻転生でもしたのだろうか? あんなものは古代の宗教家の妄想だと思っていた。
「……どうして?」
蓮治は少年に問う。
「13評議会は貴重なサンプルである君まで失うわけにはいかなかったようだよ。君は四六体ものサンプルを再生不可能なまでに破壊してしまったからね。だから連中は、君を再生したっていうわけ。自分たちが二千年の時を永らえてきた神の子の技術でね」
少年の言っていることはまったく意味がよくわからなかった。
「秋月蓮治という人間はもう死んだということだよ。君はもう人間じゃない。13評議会の連中と同じ、機械仕掛けの人形だ。永遠に生き続けることのできる、ね。君の存在は今、秋月蓮治としてではなく、マスカレイドアバターベルセルクとしてだけある」
少年の言葉が確かなら、
「改造人間ってわけかよ……。ますますマスカレイドアバターっぽくなってきたな」
蓮治はそう言って笑った。昭和の時代のテレビのマスカレイドアバターはみんな改造人間という設定だった。平成になって改造人間という設定がテレビ的にNGになりその設定は廃止され、普通の人間が変身ベルトを使って変身するという設定になっていた。もっともそのNGになってしまった設定よりも、こども向けの番組で派手なバイクアクションをする方がよっぽどNGだと思うのだが、テレビの倫理観というのは彼にはよくわからなかった。
少年は、ベルセルクのベルトを蓮治に差し出した。
「これは……」
「君のだろう?」
蓮治はそれを受け取ると言う。
「ああ……、こいつがあるってことは、ここはどうやら天国とか地獄ってわけじゃなさそうだな」
「悪夢の続きってところかな」
そう言って、少年は笑った。
確かに、現実なんて悪い夢でしかない。
「で、俺をこんな体にしてまで生き返らせて、一体何をさせるつもりだ?」
「別に何も」
少年は言った。
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「仕事?」
少年は、今度は別のベルトを差し出した。蓮治のものとは色が違うだけのものだった。
「これは……?」
そう尋ねた蓮治に、
「君を殺したミサ、マスカレイドアバターパナギアが破壊してしまったディスのベルトのプロトタイプだよ。君のベルトもそうだけれど、ベルトのコア、つまりイエスの四八の部位はすべてパナギアに奪われてしまった。だから以前ほどの力はない。でもコアがなくても一応変身はできるみたいだからね」
少年は言った。
「これをマスカレイドアバターディス、加藤学に渡してくれるだけでいい」
マスカレイドアバターディス?
加藤学?
あいつが……ディス?
蓮治には信じられなかった。
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