114 / 123
最終章 第5話
しおりを挟む
その夜は、レインがエーテルを結晶化させて作った、ログハウスのような建物で過ごすことになった。
翡翠色の建物は綺麗だが、内装まで翡翠色だと落ち着かなかった。ログハウスなんて泊まったこともなかったが、やっぱり木目の方がいいなとタカミは思った。
タカミは彼のために用意された部屋でひとり、手のひらの上に集めたエーテルを結晶化させたり、気化させたり、結晶化させたものの形を変えてみたりしながら、ユワが何故機械の体と翼を持ち黄泉返っているのか、本人に訊いていいものかどうか迷っていた。
医療ポッドというサナギの中で一度どろどろに溶けた後、ヒヒイロカネや千年細胞を取り込み再構築された彼の体は、エーテルをある程度操れるようになっていた。
翡翠色の日本刀「白雪」を片手に、荒野を歩いていた間も、彼はそうやってエーテルの扱い方を反復練習し続けていた。今では随分と上達した。
彼がまとっているパワードスーツのような甲冑「紅薔薇(べにばら)」も、彼がエーテルから作り出したものだった。
新生アリステラの兵士たちや親衛隊のものに形はよく似ていたが、その性能は全く異なっていた。
飛翔艇に使われている、エーテルを推進力とするエンジンを可能な限り小型化したものを搭載しており、両腕や両脚、背中などにスラスターを持つ。
ホバー走行による高速機動や、低空ではあるが飛行すること、高所から落下した際には落下速度を落とすこともまた可能としていた。
エンジンやスラスターの構造は、飛翔艇の残骸の部品を見て覚えた。足りない部分は脳内で自ら補完し、小型化に関しても彼が自ら考案した技術が取り入れられていた。
彼が一度死んでしまったとき、その死の間際に願ったのは、城塞戦車から落下し死を待つだけの自分をどうにかできる能力が欲しい、というものだった。
7翼のアシーナは、彼のその願いを叶えられる力を持つ新たな体を彼に与えると言ってくれていたが、本当だった。
紅薔薇はまだ開発途中の段階だった。
いずれは腕部にパソコンやスマホのような情報端末を内臓させ、ハッキングをも可能とし、人工衛星をも戦闘時だけでなく平時にも利用可能にする、そんなプランがあった。
タカミが、ユワが何故機械の体と翼を持ち黄泉返っているのか、本人に訊いていいものかどうか迷っていたのには理由があった。
3年前、タカミは新生アリステラの城塞戦車や飛翔艇、人造人間兵士たちの魔導人工頭脳を初期化した後、レインの頭の中にある「知恵の舘バイトゥルヒクマ」に存在する歴代の女王たちの記録をインストールした。
その際にレインは、ユワの記録だけは本人の体に戻すために残したと言っていた。
だが、ショウゴやレインに続きタカミが城塞戦車の女王の間にたどり着いたとき、ユワの体はすでに遣田ハオトに憑依されてしまっていた。
遣田をユワの体から追い出すためには、あの場にいた誰かの体に、一度遣田を憑依させなければいけなかった。
だが、遣田の他者の肉体への憑依は不完全な能力で、彼に一度憑依された体は、彼が次の憑依先に移った瞬間、脳が焼ききれてしまうようなものだった。憑依された瞬間に対象者の精神が焼ききれてしまうこともあるものだった。
ユワの体はその蘇生にすでに千年細胞が使われていたから、全身の細胞が千年細胞に置き換わっていた。
だからたとえ脳が焼ききれてしまったとしてもユワは脳の再生が可能だった。
しかし、あの場にいた遣田の憑依先の候補者の中には、彼の能力に耐えられる千年細胞の持ち主はハルミしかいなかった。
だから、ユワの体ごと遣田を殺すしか、彼を止めることはできなかった。
ユワの体に戻すはずの記録は、レインが今もバイトゥルヒクマに持っているはずだった。
彼女を黄泉返らせたのはレインなのか。それとも別の誰なのか。レインならば知っているだろう。
翡翠色の建物は綺麗だが、内装まで翡翠色だと落ち着かなかった。ログハウスなんて泊まったこともなかったが、やっぱり木目の方がいいなとタカミは思った。
タカミは彼のために用意された部屋でひとり、手のひらの上に集めたエーテルを結晶化させたり、気化させたり、結晶化させたものの形を変えてみたりしながら、ユワが何故機械の体と翼を持ち黄泉返っているのか、本人に訊いていいものかどうか迷っていた。
医療ポッドというサナギの中で一度どろどろに溶けた後、ヒヒイロカネや千年細胞を取り込み再構築された彼の体は、エーテルをある程度操れるようになっていた。
翡翠色の日本刀「白雪」を片手に、荒野を歩いていた間も、彼はそうやってエーテルの扱い方を反復練習し続けていた。今では随分と上達した。
彼がまとっているパワードスーツのような甲冑「紅薔薇(べにばら)」も、彼がエーテルから作り出したものだった。
新生アリステラの兵士たちや親衛隊のものに形はよく似ていたが、その性能は全く異なっていた。
飛翔艇に使われている、エーテルを推進力とするエンジンを可能な限り小型化したものを搭載しており、両腕や両脚、背中などにスラスターを持つ。
ホバー走行による高速機動や、低空ではあるが飛行すること、高所から落下した際には落下速度を落とすこともまた可能としていた。
エンジンやスラスターの構造は、飛翔艇の残骸の部品を見て覚えた。足りない部分は脳内で自ら補完し、小型化に関しても彼が自ら考案した技術が取り入れられていた。
彼が一度死んでしまったとき、その死の間際に願ったのは、城塞戦車から落下し死を待つだけの自分をどうにかできる能力が欲しい、というものだった。
7翼のアシーナは、彼のその願いを叶えられる力を持つ新たな体を彼に与えると言ってくれていたが、本当だった。
紅薔薇はまだ開発途中の段階だった。
いずれは腕部にパソコンやスマホのような情報端末を内臓させ、ハッキングをも可能とし、人工衛星をも戦闘時だけでなく平時にも利用可能にする、そんなプランがあった。
タカミが、ユワが何故機械の体と翼を持ち黄泉返っているのか、本人に訊いていいものかどうか迷っていたのには理由があった。
3年前、タカミは新生アリステラの城塞戦車や飛翔艇、人造人間兵士たちの魔導人工頭脳を初期化した後、レインの頭の中にある「知恵の舘バイトゥルヒクマ」に存在する歴代の女王たちの記録をインストールした。
その際にレインは、ユワの記録だけは本人の体に戻すために残したと言っていた。
だが、ショウゴやレインに続きタカミが城塞戦車の女王の間にたどり着いたとき、ユワの体はすでに遣田ハオトに憑依されてしまっていた。
遣田をユワの体から追い出すためには、あの場にいた誰かの体に、一度遣田を憑依させなければいけなかった。
だが、遣田の他者の肉体への憑依は不完全な能力で、彼に一度憑依された体は、彼が次の憑依先に移った瞬間、脳が焼ききれてしまうようなものだった。憑依された瞬間に対象者の精神が焼ききれてしまうこともあるものだった。
ユワの体はその蘇生にすでに千年細胞が使われていたから、全身の細胞が千年細胞に置き換わっていた。
だからたとえ脳が焼ききれてしまったとしてもユワは脳の再生が可能だった。
しかし、あの場にいた遣田の憑依先の候補者の中には、彼の能力に耐えられる千年細胞の持ち主はハルミしかいなかった。
だから、ユワの体ごと遣田を殺すしか、彼を止めることはできなかった。
ユワの体に戻すはずの記録は、レインが今もバイトゥルヒクマに持っているはずだった。
彼女を黄泉返らせたのはレインなのか。それとも別の誰なのか。レインならば知っているだろう。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
ファンタジー
いつだってボクはボクが嫌いだった。
弱虫で、意気地なしで、誰かの顔色ばかりうかがって、愛想笑いするしかなかったボクが。
もうモブとして生きるのはやめる。
そう決めた時、ボクはなりたい自分を探す旅に出ることにした。
昔、異世界人によって動画配信が持ち込まれた。
その日からこの国の人々は、どうにかしてあんな動画を共有することが出来ないかと躍起になった。
そして魔法のネットワークを使って、通信網が世界中に広がる。
とはいっても、まだまだその技術は未熟であり、受信機械となるオーブは王族や貴族たちなど金持ちしか持つことは難しかった。
配信を行える者も、一部の金持ちやスポンサーを得た冒険者たちだけ。
中でもストーリー性がある冒険ものが特に人気番組になっていた。
転生者であるボクもコレに参加させられている一人だ。
昭和の時代劇のようなその配信は、一番強いリーダが核となり悪(魔物)を討伐していくというもの。
リーダー、サブリーダーにお色気担当、そしてボクはただうっかりするだけの役立たず役。
本当に、どこかで見たことあるようなパーティーだった。
ストーリー性があるというのは、つまりは台本があるということ。
彼らの命令に従い、うっかりミスを起こし、彼らがボクを颯爽と助ける。
ボクが獣人であり人間よりも身分が低いから、どんなに嫌な台本でも従うしかなかった。
そんな中、事故が起きる。
想定よりもかなり強いモンスターが現れ、焦るパーティー。
圧倒的な敵の前に、パーティーはどうすることも出来ないまま壊滅させられ――
【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました! ~いざなわれし魔の手~
高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーの主人公は、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった!
主人公は、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!
~いざなわれし魔の手~ かつての仲間を探しに旅をしているララク。そこで天使の村を訪れたのだが、そこには村の面影はなくさら地があるだけだった。消滅したあるはずの村。その謎を追っていくララクの前に、恐るべき魔の手が迫るのだった。
あなたを、愛したかった
やんどら
恋愛
ヤンデレの恋愛もの。セカイ系とでもいうのでしょうか、哲学的な要素もふんだんに取り入れています。
なるべく専門用語は平易にかみ砕いていますが、つたないところもあり、地に足のつかないところがあるかもしれません。
処女作ではありませんが、執筆のスキルを上げるために毎日投稿をめざします。
主人公とヤンデレ少女の恋愛物語。愛とは何か、この世界とは何か、愛するとはどういうことか、そういったものがテーマになります。
異世界でスローライフを満喫する為に
美鈴
ファンタジー
ホットランキング一位本当にありがとうございます!
【※毎日18時更新中】
タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です!
※カクヨム様にも投稿しております
※イラストはAIアートイラストを使用
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
【完結】剣聖の娘はのんびりと後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる