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第11章 第5話
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アシーナという女性が青年のそばからいなくなって、どれくらいの時間が過ぎただろう。
彼女とアレクサやエーベルという女性、それから名前だけ聞いたアマラという女性も、青年の元には誰も戻ってはこなかった。
彼女たちは、自らをアリステラの歴代の女王と名乗っていた。自分たちは奇数翼の穏健派だとも。
奇数翼というのは、彼女たちには翼があり、その枚数が奇数だったということだろうか。
会話を聞くことしかできず、彼女たちの姿を見ることは一度もかなわなかった。
彼女たちは、対立する偶数翼という強硬派と戦争状態にあるようだった。
ここは彼女たちの基地のような場所で、偶数翼の強硬派が攻めてきた。
おそらくここは最前線の基地ではなかった。偶数翼の強硬派が攻めてきたことにアレクサという女性が驚いていたからだ。
本部のような場所でもないだろう。アシーナという、最後まで青年のそばにいた女性はこの基地では一番立場が上の人物のようだったが、彼女が「様」付けで呼ぶステラやピノアという彼女以上の存在がいるようだったからだ。
アシーナたちは、その偶数翼の強硬派に負けてしまったのだろうか。死んでしまったのだろうか。
機械の体だと言っていたから、壊れた、破壊された、と言うべきだろうか。いや、彼女たちには高度な知能があった。体は機械であったかもしれないが間違いなく、人間だった。
だが、たとえそうだとしても、誰も青年がいる医療ポッドのそばにやって来ないばかりか、声も物音も何も聞こえなくなってしまったのはおかしかった。
普通は基地の中に残存する者がいないか確かめるものではないだろうか。足音が聞こえるはずだった。
ひとりではやってこないだろうから、話し声も聞こえるはずだった。
まさかとは思うが、アシーナたち奇数翼の穏健派と、アリーヤといっただろうか、この基地に攻めてきた偶数翼の強硬派は、相討ちのような形で両軍全滅してしまったのだろうか。
サナギの中で蝶になる日を待つ幼虫のように、医療ポッドの中で体中の骨や筋肉や内臓、血液や皮膚までがどろどろに溶けていた青年の体は、徐々に元の姿を取り戻していった。
だが、五感は聴覚以外なかなか取り戻させてくれなかった。
やがて、医療ポッドは青年の体の再構成を終え、ドアを開いた。
医療ポッドのドアが開いたとき、青年は太陽の光のあまりの眩しさに目を細めた。
太陽?
なぜ太陽が空に見える?
ここは基地のような場所ではなかったか?
明るさにようやく目が慣れ、目を開くとそこは基地ではなかった。
基地のような場所ですらなかった。
医療ポッドは地面の上に転がっていた。
そのすぐそばには、翡翠色の日本刀らしきものが地面に突き刺さっていた。
青年には、それが自分の物ではないことや、その持ち主はすでに存在しないこと、そして、かつて自分がそれを手に取り、誰かと戦ったことがあるような気がした。
「君の名前は、『白雪』だったかな……」
間違っていたらごめん、ぼくには記憶がほとんどないんだ、と口にして、久しぶりに自分の声を聞いた。
青年は自分が医療ポッドに入れられてからどれくらいの時間が経過していたかはわからないが、何年も聞いていなかったように感じるほどだった。
「君の本当の持ち主も、君を作った人も、ぼくの大切な人たちだった気がするんだ。気のせいかもしれないけど。
君をここに置いたままにしておくこともぼくには出来るけれど、できれば君と一緒に行きたいな。ついてきてくれるかい?」
白雪という名の、翡翠色の日本刀から返事はなかった。
けれど、白雪もそう願っているように青年は感じた。
白雪を手にした青年の目の前には、地平線が見えるほどどこまでも続く荒野が広がっていた。
その荒野を青年は白雪と共にまっすぐ歩いていった。
彼女とアレクサやエーベルという女性、それから名前だけ聞いたアマラという女性も、青年の元には誰も戻ってはこなかった。
彼女たちは、自らをアリステラの歴代の女王と名乗っていた。自分たちは奇数翼の穏健派だとも。
奇数翼というのは、彼女たちには翼があり、その枚数が奇数だったということだろうか。
会話を聞くことしかできず、彼女たちの姿を見ることは一度もかなわなかった。
彼女たちは、対立する偶数翼という強硬派と戦争状態にあるようだった。
ここは彼女たちの基地のような場所で、偶数翼の強硬派が攻めてきた。
おそらくここは最前線の基地ではなかった。偶数翼の強硬派が攻めてきたことにアレクサという女性が驚いていたからだ。
本部のような場所でもないだろう。アシーナという、最後まで青年のそばにいた女性はこの基地では一番立場が上の人物のようだったが、彼女が「様」付けで呼ぶステラやピノアという彼女以上の存在がいるようだったからだ。
アシーナたちは、その偶数翼の強硬派に負けてしまったのだろうか。死んでしまったのだろうか。
機械の体だと言っていたから、壊れた、破壊された、と言うべきだろうか。いや、彼女たちには高度な知能があった。体は機械であったかもしれないが間違いなく、人間だった。
だが、たとえそうだとしても、誰も青年がいる医療ポッドのそばにやって来ないばかりか、声も物音も何も聞こえなくなってしまったのはおかしかった。
普通は基地の中に残存する者がいないか確かめるものではないだろうか。足音が聞こえるはずだった。
ひとりではやってこないだろうから、話し声も聞こえるはずだった。
まさかとは思うが、アシーナたち奇数翼の穏健派と、アリーヤといっただろうか、この基地に攻めてきた偶数翼の強硬派は、相討ちのような形で両軍全滅してしまったのだろうか。
サナギの中で蝶になる日を待つ幼虫のように、医療ポッドの中で体中の骨や筋肉や内臓、血液や皮膚までがどろどろに溶けていた青年の体は、徐々に元の姿を取り戻していった。
だが、五感は聴覚以外なかなか取り戻させてくれなかった。
やがて、医療ポッドは青年の体の再構成を終え、ドアを開いた。
医療ポッドのドアが開いたとき、青年は太陽の光のあまりの眩しさに目を細めた。
太陽?
なぜ太陽が空に見える?
ここは基地のような場所ではなかったか?
明るさにようやく目が慣れ、目を開くとそこは基地ではなかった。
基地のような場所ですらなかった。
医療ポッドは地面の上に転がっていた。
そのすぐそばには、翡翠色の日本刀らしきものが地面に突き刺さっていた。
青年には、それが自分の物ではないことや、その持ち主はすでに存在しないこと、そして、かつて自分がそれを手に取り、誰かと戦ったことがあるような気がした。
「君の名前は、『白雪』だったかな……」
間違っていたらごめん、ぼくには記憶がほとんどないんだ、と口にして、久しぶりに自分の声を聞いた。
青年は自分が医療ポッドに入れられてからどれくらいの時間が経過していたかはわからないが、何年も聞いていなかったように感じるほどだった。
「君の本当の持ち主も、君を作った人も、ぼくの大切な人たちだった気がするんだ。気のせいかもしれないけど。
君をここに置いたままにしておくこともぼくには出来るけれど、できれば君と一緒に行きたいな。ついてきてくれるかい?」
白雪という名の、翡翠色の日本刀から返事はなかった。
けれど、白雪もそう願っているように青年は感じた。
白雪を手にした青年の目の前には、地平線が見えるほどどこまでも続く荒野が広がっていた。
その荒野を青年は白雪と共にまっすぐ歩いていった。
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