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第10章 第15´話「Geschenk aus der Zukunft」(滅亡回避ルート)
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新ブライ暦97974年(西暦換算102022年)、世界中のエーテルが枯渇し、アリステラは再び滅亡の危機を迎えていた。
アリステラの真の最後の女王・アナスタシアは、死ぬことのないはずの機械の身体の中で、今まさに死を迎えようとしていた。
エーテルを動力源とする機械の身体や魔導人工頭脳が動かなくなりはじめていたのだ。
それは、死を克服したはずの彼女たちに与えられた、予想外の、別の形での「死」であった。
アナスタシアはその活動を停止する直前、魔導人工頭脳の強制的な情報の並列化から逃れた。
アリステラの真の最後の女王ではなく、野蛮なホモサピエンスのひとり・朝倉レインとして、彼女は本来の人格を取り戻すことができた。
そして彼女は、世界に残されたわずかなエーテルを使って時を遡らせることにした。
人類が滅亡するきっかけになってしまった、ひとりの青年の死の直前まで。
それは、時を遡るというより、青年を殺害したひとりの女王の魔導人工頭脳にアクセスし、本来あるべき状態へと戻す行為であった。
それが歴史を改変する行為であるのか、並行世界を生み出してしまう行為であるのかさえ、レインにはわからなかった。
歴史改変にあたるのであれば、彼女がアリステラの真の最後の女王となったという歴史自体が消えてしまうからだ。
平行世界を生み出してしまうのであれば、彼女はそのまま死を迎えてしまうことになってしまうからだ。
どちらにあたるのか、彼女にはどうあがいても確かめることのできないことだった。
彼女が最初で最後に編み出した魔法の名は、
" Geschenk aus der Zukunft "
「本当に最後までくそったれな世界だったなぁ……」
その言葉とは裏腹に、タカミは満足そうな表情で落下していった。
このまま城塞戦車の甲板に落ちれば、いくらヒヒイロカネの甲冑をまとっているとはいえ、即死は免れられない。
だが不思議と嫌な予感はしなかった。
死を回避できるかもしれないというわけではなく、彼がすでに死を受け入れていたからかもしれない。
タカミは今まさに死の間際にあった。
そして、彼はつい先程まで一瞬のためらいやひとつの間違いによって命を落としてしまうような状況の中で命のやり取りをしていた。
レインが作ってくれた無数のゲートがあったからこそ出来たことではあるが、ヒヒイロカネで作られた人造人間兵士の体を得たアリステラのふたりの女王、6翼のアマヤと8翼のアシーナを相手に、自分でも驚くほど対等に戦うことができた。
彼は「悪い予感が必ず当たる」という能力の兆しに以前から目覚めていた。
本当に彼にそんな能力があったのか、彼がただそう思い込みたかっただけなのか、実際のところはわからない。
やはり彼には何の能力もなかったのかもしれない。
そして、それ以上の能力の開花は、命のやり取りを経ても尚、死の間際になっても彼には訪れなかった。
意識があったのは、最初の数秒だけであったが、
「空を飛べるようになるとか、この甲冑の形を自由自在に変えられるようになるとかさ、そろそろこの状況をどうにかできるような能力が、何かしら開花してもいいと思うんだけどなぁ」
そう言って、
「最後までくそったれだったのは、世界じゃなくてぼくだったな……」
笑いながら意識を失ったタカミの体は、城塞戦車の甲板に鈍い音を立てて落下した。
ヒヒイロカネの甲冑を身にまとっていても、落下の衝撃で彼の体の全身の骨は折れ、折れた骨が内臓に突き刺さり、肉を貫き、皮膚を破った。
彼もまた人の死に方とは思えないような死に方をした。
間もなく6翼のアマヤと8翼のアシーナが彼の死体のそばに降り立った。
ふたりの女王は、タカミに破壊された箇所の修復をすでに終えており、アシーナは白雪さえもその手にしていた。
ヒヒイロカネの体を持つ彼女たちは、彼が突き刺した剣や槍、女王の間を構成していたヒヒイロカネをその身に取り込むことで、その体を元通りに修復したのだ。
「野蛮なホモサピエンスの心臓は、確か胸の左でしたね」
8翼のアシーナは、タカミの日本刀「白雪」を彼の遺体の左胸に突き刺した。
純粋なアリステラ人の心臓は、左右にひとつずつあった。
人類がふたつ持っている臓器をひとつしか持たず、ひとつしか持っていない臓器をふたつ持っているのが純粋なアリステラ人だった。
人類の血が混じることで、アリステラ人特有の臓器の数は、人類に寄り添う形となる。
だが、ごくまれに隔世遺伝によって純粋なアリステラ人と同じ臓器の数で生まれてくる者がおり、その隔世遺伝は一度起きると末代まで遺伝するそうだ。
かつてこの世界のある国の独裁者が、大量のヤルダバ人や、その血を引く者を捕らえ、強制収容所にて虐殺を行ったことがあった。
その独裁者は、レントゲン写真によって、虐殺の対象者を決めるよう強制収容所の職員たちに指示していたらしかった。
「アシーナ様、この男はすでに死んでいたのでは?」
6翼のアマヤが不思議そうに訊ねると、
「墓標ですよ」
とアシーナは答えた。
「彼はわたしたちの敵ではありましたが、とても勇敢な戦士でした。アリステラの歴史に燦然と語り継がれる英雄アンフィスに引けをとらないほどに……」
アマヤには、アシーナが野蛮なホモサピエンスの死を悼んでいるように見えた。
なぜ、アリステラの女王が野蛮なホモサピエンスの死を悼む必要がある?
なぜ、野蛮なホモサピエンスをアリステラの英雄と肩を並べるような発言をする?
英雄アンフィスは、アシーナの夫だ。
自分の夫であり、アリステラの英雄であった彼と野蛮なホモサピエンスを同格のように扱うなど、気が触れているとしか思えなかった。
アマヤにはアシーナの言動が理解できなかった。
それだけではなかった。
アシーナはおそらく何かを企んでいた。
アリステラの真の最後の女王・アナスタシアは、死ぬことのないはずの機械の身体の中で、今まさに死を迎えようとしていた。
エーテルを動力源とする機械の身体や魔導人工頭脳が動かなくなりはじめていたのだ。
それは、死を克服したはずの彼女たちに与えられた、予想外の、別の形での「死」であった。
アナスタシアはその活動を停止する直前、魔導人工頭脳の強制的な情報の並列化から逃れた。
アリステラの真の最後の女王ではなく、野蛮なホモサピエンスのひとり・朝倉レインとして、彼女は本来の人格を取り戻すことができた。
そして彼女は、世界に残されたわずかなエーテルを使って時を遡らせることにした。
人類が滅亡するきっかけになってしまった、ひとりの青年の死の直前まで。
それは、時を遡るというより、青年を殺害したひとりの女王の魔導人工頭脳にアクセスし、本来あるべき状態へと戻す行為であった。
それが歴史を改変する行為であるのか、並行世界を生み出してしまう行為であるのかさえ、レインにはわからなかった。
歴史改変にあたるのであれば、彼女がアリステラの真の最後の女王となったという歴史自体が消えてしまうからだ。
平行世界を生み出してしまうのであれば、彼女はそのまま死を迎えてしまうことになってしまうからだ。
どちらにあたるのか、彼女にはどうあがいても確かめることのできないことだった。
彼女が最初で最後に編み出した魔法の名は、
" Geschenk aus der Zukunft "
「本当に最後までくそったれな世界だったなぁ……」
その言葉とは裏腹に、タカミは満足そうな表情で落下していった。
このまま城塞戦車の甲板に落ちれば、いくらヒヒイロカネの甲冑をまとっているとはいえ、即死は免れられない。
だが不思議と嫌な予感はしなかった。
死を回避できるかもしれないというわけではなく、彼がすでに死を受け入れていたからかもしれない。
タカミは今まさに死の間際にあった。
そして、彼はつい先程まで一瞬のためらいやひとつの間違いによって命を落としてしまうような状況の中で命のやり取りをしていた。
レインが作ってくれた無数のゲートがあったからこそ出来たことではあるが、ヒヒイロカネで作られた人造人間兵士の体を得たアリステラのふたりの女王、6翼のアマヤと8翼のアシーナを相手に、自分でも驚くほど対等に戦うことができた。
彼は「悪い予感が必ず当たる」という能力の兆しに以前から目覚めていた。
本当に彼にそんな能力があったのか、彼がただそう思い込みたかっただけなのか、実際のところはわからない。
やはり彼には何の能力もなかったのかもしれない。
そして、それ以上の能力の開花は、命のやり取りを経ても尚、死の間際になっても彼には訪れなかった。
意識があったのは、最初の数秒だけであったが、
「空を飛べるようになるとか、この甲冑の形を自由自在に変えられるようになるとかさ、そろそろこの状況をどうにかできるような能力が、何かしら開花してもいいと思うんだけどなぁ」
そう言って、
「最後までくそったれだったのは、世界じゃなくてぼくだったな……」
笑いながら意識を失ったタカミの体は、城塞戦車の甲板に鈍い音を立てて落下した。
ヒヒイロカネの甲冑を身にまとっていても、落下の衝撃で彼の体の全身の骨は折れ、折れた骨が内臓に突き刺さり、肉を貫き、皮膚を破った。
彼もまた人の死に方とは思えないような死に方をした。
間もなく6翼のアマヤと8翼のアシーナが彼の死体のそばに降り立った。
ふたりの女王は、タカミに破壊された箇所の修復をすでに終えており、アシーナは白雪さえもその手にしていた。
ヒヒイロカネの体を持つ彼女たちは、彼が突き刺した剣や槍、女王の間を構成していたヒヒイロカネをその身に取り込むことで、その体を元通りに修復したのだ。
「野蛮なホモサピエンスの心臓は、確か胸の左でしたね」
8翼のアシーナは、タカミの日本刀「白雪」を彼の遺体の左胸に突き刺した。
純粋なアリステラ人の心臓は、左右にひとつずつあった。
人類がふたつ持っている臓器をひとつしか持たず、ひとつしか持っていない臓器をふたつ持っているのが純粋なアリステラ人だった。
人類の血が混じることで、アリステラ人特有の臓器の数は、人類に寄り添う形となる。
だが、ごくまれに隔世遺伝によって純粋なアリステラ人と同じ臓器の数で生まれてくる者がおり、その隔世遺伝は一度起きると末代まで遺伝するそうだ。
かつてこの世界のある国の独裁者が、大量のヤルダバ人や、その血を引く者を捕らえ、強制収容所にて虐殺を行ったことがあった。
その独裁者は、レントゲン写真によって、虐殺の対象者を決めるよう強制収容所の職員たちに指示していたらしかった。
「アシーナ様、この男はすでに死んでいたのでは?」
6翼のアマヤが不思議そうに訊ねると、
「墓標ですよ」
とアシーナは答えた。
「彼はわたしたちの敵ではありましたが、とても勇敢な戦士でした。アリステラの歴史に燦然と語り継がれる英雄アンフィスに引けをとらないほどに……」
アマヤには、アシーナが野蛮なホモサピエンスの死を悼んでいるように見えた。
なぜ、アリステラの女王が野蛮なホモサピエンスの死を悼む必要がある?
なぜ、野蛮なホモサピエンスをアリステラの英雄と肩を並べるような発言をする?
英雄アンフィスは、アシーナの夫だ。
自分の夫であり、アリステラの英雄であった彼と野蛮なホモサピエンスを同格のように扱うなど、気が触れているとしか思えなかった。
アマヤにはアシーナの言動が理解できなかった。
それだけではなかった。
アシーナはおそらく何かを企んでいた。
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