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第10章 第5話
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遣田は死んだ。ユワの体と共に。
ショウゴは、レインと共に女王の間に向かうまでの間に、ユワの体がもし遣田に乗っ取られていたらどうするかについての作戦を考えていたらしかった。
ふたりの計画では、ショウゴの両脚が切断されることは入っておらず、わざと体勢を崩して床に伏せるというものだったらしいが。
だから、レインはショウゴが遣田と戦っている間に、魔法で氷の麒麟を生み出すことができたのだという。
彼がタカミの部屋で見せた取り乱した様子は、敵を騙すにはまずは味方から、というやつらしかった。すっかり騙されてしまった。
エーテルで作られた武具を自在に変化させるコツのようなものも、女王の間へ向かう途中にレインから聞いていたらしい。レインはそのとき、ショウゴの言葉に反応するように刀に細工をしたそうだった。だから白雪が伸びたのだ。
彼は最初から決着は自分の手でつけると決めていたのだ。
「わたくしは念のため、ユワさんの知識や記憶、経験の記録だけは、タカミさんに渡さず、ユワさんの体に戻そうと思っていたのですが……」
ショウゴの両脚を治そうと、治癒魔法をかけていたレインがそう言うと、彼は首を横に振った。
「これでいいんだよ、レイン。ユワは4年前に死んだんだから。
体は千年細胞によって甦らされちゃったし、千年細胞は不老不死を可能にする細胞らしいから、きっとまた再生しちゃう。だからずっと凍ったままの方が……」
悲しそうに、だが微笑みながらレインに優しく話すショウゴを、
「ユワのことは一生忘れられないと思うけど、今の俺にはレインがいてくれるしね。
あ、タカミさんもね」
彼女は愛おしそうに見つめていた。
タカミも、ユワについてはそれでいいと思った。
「すべて終わったみたいな顔してるけど、これからが大変だよ。
すべての魔導人工頭脳は初期化したから災厄の時代は終わるだろうけど、まだ世界中の大陸を攻めている8隻の飛翔艇も残ってる」
新生アリステラの城である城塞戦車は制圧したが、新生アリステラは壊滅したわけではないのだ。
「そういえば、初期化した魔導人工頭脳に、歴代女王の皆さんの知識や記憶、経験の記録をインストールする方はどうなりましたの?」
「インストールはしたよ。でも人格が生まれることはなかった」
そうですか、とレインは残念そうに言った。
「飛翔艇やその中にいる新生アリステラの連中をどうにかしてほしいっていうのが本音だけど、ぼくはそれでよかったと思ってる。
ユワと同じで、ぼくたちの自分勝手な理由で、彼女たちを甦らせるようなことはやっぱりだめだよ」
「そうだね、彼女たちがそれを望んでいるかどうかもわからないんだから」
「体は可愛げのない機械だしね。あ、でも、ヒヒイロカネで出来てるから、本人の好きな見た目に作り替えられるのか」
「みんな、元の自分よりかわいい見た目にしそうですわ。目を二重にしたり、胸を大きくしてみたりとか」
「あ~、やりそうだなぁ。なんだか目に浮かぶよ」
本当は誰ひとり笑える心況ではなかったが、三人はそんな風に笑いながら話していた。
やるべきことは山積みであったが、戦いが一区切りしたことで三人とも油断していた。
だから新たな脅威の襲来に誰も気づけなかった。
タカミやレインの目の前で笑っていたショウゴが消失した。
何の前触れもなく、それは突然訪れた。
ショウゴの痕跡は何もかも床に流れていた血さえも残っておらず、まるでそこにははじめからショウゴなどいなかったようだった。
白雪と名付けられた日本刀だけが残っていた。
あまりの突然の出来事に、
「ショウゴ?」
「ショウゴさん? どこですの?」
タカミもレインも理解が追い付かず、それ以上の言葉が出なかった。
「核兵器のような大量破壊兵器の爆発の範囲を、たったひとりの人間に絞った場合、おふたりは一体どうなると思いますか?」
遣田の口調で話す少年の声がタカミの背中から聞こえた。
「その人間は、彼のようにまるで存在自体がなかったようになるとは思いませんか?」
彼が振り返ると、銀色の髪と赤い瞳、そしてとても白い肌を持つ、見知らぬ少年が立っていた。
「まさか、あんた……」
遣田に間違いなかった。
「もしかして……あなた、大量破壊魔法の範囲を絞って、ショウゴさんに……?」
遣田に憑依されたと思われる少年は拍手をしながら、
「ご名答。なかなかあなた方に本当の名を名乗らせて頂けない遣田ハオトです。
それに、さすがはアリステラの真の最後の女王、アナスタシアさんだ。
今のヒントから、私がアリステラの父ブライが編み出した大量破壊魔法『エーテリオン』の範囲をひとりの人間に絞ったことまでわかるとは」
タカミとレインを称えた。
この男は相変わらず何を言っているのだろうとタカミは思った。
どうせくだらない魔法を使ったに違いないが、一体ショウゴをどこにやってくれたのか、と。
彼は理解できていなかったのだ。遣田とレインの会話は、彼の理解をとうに超えていたからだった。
「死後の世界など存在しないでしょうが、大和ショウゴさんはこれでようやく雨野ユワさんといっしょになれたというわけです。
さぁ、あなた方も同じように、消してさしあげましょう」
ショウゴが、死んだ?
そんな馬鹿な話があるものか。
タカミはそう思い、レインの顔を見た。
だが、レインの顔を見て、それが事実であると彼は悟った。
ショウゴは、レインと共に女王の間に向かうまでの間に、ユワの体がもし遣田に乗っ取られていたらどうするかについての作戦を考えていたらしかった。
ふたりの計画では、ショウゴの両脚が切断されることは入っておらず、わざと体勢を崩して床に伏せるというものだったらしいが。
だから、レインはショウゴが遣田と戦っている間に、魔法で氷の麒麟を生み出すことができたのだという。
彼がタカミの部屋で見せた取り乱した様子は、敵を騙すにはまずは味方から、というやつらしかった。すっかり騙されてしまった。
エーテルで作られた武具を自在に変化させるコツのようなものも、女王の間へ向かう途中にレインから聞いていたらしい。レインはそのとき、ショウゴの言葉に反応するように刀に細工をしたそうだった。だから白雪が伸びたのだ。
彼は最初から決着は自分の手でつけると決めていたのだ。
「わたくしは念のため、ユワさんの知識や記憶、経験の記録だけは、タカミさんに渡さず、ユワさんの体に戻そうと思っていたのですが……」
ショウゴの両脚を治そうと、治癒魔法をかけていたレインがそう言うと、彼は首を横に振った。
「これでいいんだよ、レイン。ユワは4年前に死んだんだから。
体は千年細胞によって甦らされちゃったし、千年細胞は不老不死を可能にする細胞らしいから、きっとまた再生しちゃう。だからずっと凍ったままの方が……」
悲しそうに、だが微笑みながらレインに優しく話すショウゴを、
「ユワのことは一生忘れられないと思うけど、今の俺にはレインがいてくれるしね。
あ、タカミさんもね」
彼女は愛おしそうに見つめていた。
タカミも、ユワについてはそれでいいと思った。
「すべて終わったみたいな顔してるけど、これからが大変だよ。
すべての魔導人工頭脳は初期化したから災厄の時代は終わるだろうけど、まだ世界中の大陸を攻めている8隻の飛翔艇も残ってる」
新生アリステラの城である城塞戦車は制圧したが、新生アリステラは壊滅したわけではないのだ。
「そういえば、初期化した魔導人工頭脳に、歴代女王の皆さんの知識や記憶、経験の記録をインストールする方はどうなりましたの?」
「インストールはしたよ。でも人格が生まれることはなかった」
そうですか、とレインは残念そうに言った。
「飛翔艇やその中にいる新生アリステラの連中をどうにかしてほしいっていうのが本音だけど、ぼくはそれでよかったと思ってる。
ユワと同じで、ぼくたちの自分勝手な理由で、彼女たちを甦らせるようなことはやっぱりだめだよ」
「そうだね、彼女たちがそれを望んでいるかどうかもわからないんだから」
「体は可愛げのない機械だしね。あ、でも、ヒヒイロカネで出来てるから、本人の好きな見た目に作り替えられるのか」
「みんな、元の自分よりかわいい見た目にしそうですわ。目を二重にしたり、胸を大きくしてみたりとか」
「あ~、やりそうだなぁ。なんだか目に浮かぶよ」
本当は誰ひとり笑える心況ではなかったが、三人はそんな風に笑いながら話していた。
やるべきことは山積みであったが、戦いが一区切りしたことで三人とも油断していた。
だから新たな脅威の襲来に誰も気づけなかった。
タカミやレインの目の前で笑っていたショウゴが消失した。
何の前触れもなく、それは突然訪れた。
ショウゴの痕跡は何もかも床に流れていた血さえも残っておらず、まるでそこにははじめからショウゴなどいなかったようだった。
白雪と名付けられた日本刀だけが残っていた。
あまりの突然の出来事に、
「ショウゴ?」
「ショウゴさん? どこですの?」
タカミもレインも理解が追い付かず、それ以上の言葉が出なかった。
「核兵器のような大量破壊兵器の爆発の範囲を、たったひとりの人間に絞った場合、おふたりは一体どうなると思いますか?」
遣田の口調で話す少年の声がタカミの背中から聞こえた。
「その人間は、彼のようにまるで存在自体がなかったようになるとは思いませんか?」
彼が振り返ると、銀色の髪と赤い瞳、そしてとても白い肌を持つ、見知らぬ少年が立っていた。
「まさか、あんた……」
遣田に間違いなかった。
「もしかして……あなた、大量破壊魔法の範囲を絞って、ショウゴさんに……?」
遣田に憑依されたと思われる少年は拍手をしながら、
「ご名答。なかなかあなた方に本当の名を名乗らせて頂けない遣田ハオトです。
それに、さすがはアリステラの真の最後の女王、アナスタシアさんだ。
今のヒントから、私がアリステラの父ブライが編み出した大量破壊魔法『エーテリオン』の範囲をひとりの人間に絞ったことまでわかるとは」
タカミとレインを称えた。
この男は相変わらず何を言っているのだろうとタカミは思った。
どうせくだらない魔法を使ったに違いないが、一体ショウゴをどこにやってくれたのか、と。
彼は理解できていなかったのだ。遣田とレインの会話は、彼の理解をとうに超えていたからだった。
「死後の世界など存在しないでしょうが、大和ショウゴさんはこれでようやく雨野ユワさんといっしょになれたというわけです。
さぁ、あなた方も同じように、消してさしあげましょう」
ショウゴが、死んだ?
そんな馬鹿な話があるものか。
タカミはそう思い、レインの顔を見た。
だが、レインの顔を見て、それが事実であると彼は悟った。
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