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第10章 第4話

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「ですが、あなたにはやはり、この体に傷をつけることはできない。
 私を先ほどちゃんと殺しておかなかいから、あなたは死んでしまうんですよ」

 その瞬間、ショウゴの体を無数の真空の刃が襲った。

「私が両の手のひらにエーテルを集めていたのは知っていたはずですが、まさかふたつとも『業火連弾』に使ってしまったと思っていたのですか?」

 真空の刃に襲われるショウゴを見ながら、遣田は笑っていた。

「賢者である私が? まさか、ありえないことです」

 そう思っていたタカミは、改めて遣田という男の恐ろしさを垣間見た。

 業火連弾は確かに両手から放たれていたからだ。
 魔法発動の準備が整ったエーテルをひとつ隠し持っていたということだった。

「さっき使ったのはひとつだけなんですよ。
 そして、もうひとつがこの『窮奇鎌鼬(きゅうきかまいたち)』」

 ショウゴはレインがエーテルで作ってくれた雨合羽でそれを防ごうとしたが、雨合羽以外の部分を無数の真空の刃で切り裂かれてしまった。

 魔法の名の由来となった鎌鼬は、つむじ風に乗って現われて人を切りつけるという。
 これに出遭った者は刃物で切られたような鋭い傷を受けるが、痛みはなく、傷からは血も出ないともされていたが、

「うがぁぁぁぁああああっ!!」

「ショウゴ!!」

 切り刻まれ絶叫するショウゴの体からは血しぶきが飛び散っていた。

 だが、彼の両足が切断され、床に崩れ落ちた瞬間、

「レイン、今だ! やってくれ!」

 ショウゴは叫んだ。
 まるで、そうなることを見越していたかのように。
 先ほどの絶叫は芝居であったかのように。

 ショウゴと遣田にばかり気をとられていたタカミは、そばにいるレインが何をしていたのか見ていなかった。

 レインは氷で作られた、背丈が5メートルはある動物の彫刻のようなものを産み出していた。

 麒麟(きりん)という、古代中国の想像上の動物がいる。
 無論、動物園にいるあの首の長くかわいらしい動物とは異なる存在だ。
 鹿に似た体と、牛の尾と馬の蹄をもち、毛は黄色で、背毛は五色に彩られ美しい。
 身体には鱗があり、龍に似た顔を持つ。
 一本角、もしくは角の無い姿で描かれることが多いが、二本角や三本角で描かれている場合もある。
 東京の日本橋にある麒麟像には翼があるそうだが、あれは日本の道路の起点となる日本橋から飛び立つというイメージから翼がつけられているだけであり、本来の麒麟には翼はないらしい。
 そのため、レインが作り出した氷の彫刻の麒麟には翼はなく、そのかわりに角が3本あった。

「お行きなさい、『結氷麒麟(けっぴょうきりん)』!!」

 氷の麒麟は床に転がるショウゴを飛び越え、遣田に向かっていった。その頭に生えた3本の角が遣田の、ユワの体に突き刺さった。
 角はユワの体を貫通し、玉座だけでなく、その後ろにあるヒヒイロカネの壁にまで突き刺さっていた。

「どうやらこれは抜けそうもないですね……さすがの私も油断していたようです……」

 ユワの体は角が刺さった部分からみるみる内に凍り始めていっていた。

「自分や雨野タカミさんでは、いくら私を殺したくとも、雨野ユワさんの体に傷をつけることができない……
 だからアナスタシアさんにやらせたというわけですか……
 野蛮なホモサピエンスが考えそうなことですね……」

 遣田は、ショウゴを挑発することで、時間稼ぎをしているようにタカミには見えた。
 ユワの体はもはや使い捨てるしかなかったが、一番身体能力に長けていたショウゴの体は両脚が切断されており、もはや動くこともままならない。
 ハルミか、レインか、それともタカミか、憑依する相手を吟味しているのだ。
 この男に残されていたたったひとつの方法は、ここにいる3人のうちの2人に次々と転移しては脳を焼き切り、3人目の体を自分のものにした後でショウゴにとどめをさすしかない。

 遣田は、ショウゴを甘く見すぎていた。


「伸びろ、白雪!!」


 ヒヒイロカネによって作られた彼の日本刀は、彼の脳の微弱な電気信号によってその長さを変化させ、ユワの額を貫いていた。

「あえっ?」

 何が起きたのか、遣田は全く理解していなかった。
 それもそのはずだろう。
 ショウゴがユワの体に傷をつけることや、ましてやたとえその中身が空っぽであり、ユワでなかったとしても、彼がもう一度ユワを殺すことなど、タカミにすら想像がつかなかったことだからだ。

「終わりだよ、あんたはもう。
 俺は4年前にユワから頼まれたんだ」


--わたしが死んで、本当に世界が救われるなら、わたしを殺して。


「4年前は誰も救えなかったけど、今度こそ世界を救えそうだ。
 あんたがとんでもなく間抜けだったおかげでね」

 ショウゴはそう言いながら、涙を流していた。
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