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第10章 第3話
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「一条さんには生きていてほしかったが、あんたの不完全な憑依能力じゃ、どのみち助からなかったわけか。
アンナさんの憑依能力の方が、同じ能力でもあんたのよりよっぽど優れてたんじゃないか?
あんたがアナスタシアって呼んでるレインは、彼女に一度憑依されたが全然ピンピンしてるぞ」
タカミの挑発に、遣田はユワの顔をしかめ、彼を睨み付けた。
「あんまりユワの顔で汚い表情をしないでもらえないか。
10万年も生きていたわりには、あんたは感情のコントロールは下手らしいな。
賢者と呼ぶにはやはりふさわしくない。あんたにお似合いの称号は愚者だ」
遣田は両の手のひらに、エーテルを集めはじめた。エーテルの扱いはレインよりもはるかに長けており、一瞬で巨大な火球がふたつ手のひらの上で燃え盛った。
「タカミさん、気をつけてください。
あれはアリステラの父ブライが編み出したものの、そのあまりの威力に封印した魔法のひとつ、『業火連弾(ごうかれんだん)』です」
「ああ、確かにやばそうだな」
「その通り。さすがはアリステラの真の最後の女王、アナスタシアさんですね。なんでもよくご存知だ。
エーテルを炎に変える魔法の中で最上級とされる『インフェルノ』を2発同時に放つことができたのは、アリステラの長い歴史の中でも三人だけ。そのうちのひとりが私です」
ユワの遺体や死を冒涜されることに怒りを覚えていたのはタカミだけではなかった。
「だからどうした?」
レインの注意を聞いていたのか聞く気がなかったのか、ショウゴは彼女がエーテルから精製した日本刀「白雪」を手に、遣田に斬りかかったのだ。
ショウゴがまさか、たとえ遣田に憑依されているとはいえユワの体に斬りかかるとは、タカミもレインも思ってもいなかったことだった。
「自分がタカミさんに言われたような愚者ではなく、賢者だと証明したいのか?」
白雪はふたつの火球を真っ二つに切り裂いていた。ショウゴはユワの体には傷ひとつつけてはいなかった。
「業火連弾を切り裂いただと!?
野蛮なホモサピエンス風情にそんなことができるはずが……」
「でも、できたな。あんたは憑依能力だけじゃなく、もしかして魔法も不完全なんじゃないのか? 何もかも全部」
業火は白雪に燃え移り、炎をまとった魔法剣のようになった。
「そういえば、ゲートを作るのも、体の骨をボキボキ折らなきゃできなかったよな。レインはもっと上手にできたぞ」
ショウゴは業火白雪とでも言うべき燃え盛る刀を、遣田の顔に向けた。
「そういえば、あんたは所詮、あんたが馬鹿にする野蛮なホモサピエンスに滅ぼされたようなネアンデルタール人の出だったもんな」
遣田の顔に冷や汗が浮かんでいた。
だが、その表情にはまだ余裕があるように見えた。
この男は知っているのだ。
ショウゴにはユワの体を傷つけることはできないということを。
「あまり私を怒らせるような発言は控えた方がいいですよ。
この体は、あなたの大切な恋人だった女性の体でしょう?」
やはり、そうだった。
「それに、雨野タカミさんの大切な妹さんの体でもある。
私が小久保ハルミさんか大和ショウゴさん、アナスタシアさん、あるいは雨野タカミさん、この場にいる誰かに憑依した瞬間、あなたの大切な大切な恋人の脳が焼き切れる。
今度こそこの世界から完全にいなくなってしまうんですよ?
私が憑依し続ければ、千年細胞を持つこの体の中で、恋人さんの魂も私と共に永遠に生き続けることができるんですがねぇ」
「ユワは4年前に死んでるんだろ?
その体は、そこにいる小久保ハルミとかいう人が作った千年細胞で無理矢理蘇生させられただけで、中身は空っぽなんだってな」
気づいていましたか、と遣田は嬉しそうに笑った。
「ですが、あなたにはやはり、この体に傷をつけることはできない」
その瞬間、ショウゴの体を無数の真空の刃が襲った。
「私を先ほどちゃんと殺しておかなかいから、あなたは死んでしまうんですよ」
アンナさんの憑依能力の方が、同じ能力でもあんたのよりよっぽど優れてたんじゃないか?
あんたがアナスタシアって呼んでるレインは、彼女に一度憑依されたが全然ピンピンしてるぞ」
タカミの挑発に、遣田はユワの顔をしかめ、彼を睨み付けた。
「あんまりユワの顔で汚い表情をしないでもらえないか。
10万年も生きていたわりには、あんたは感情のコントロールは下手らしいな。
賢者と呼ぶにはやはりふさわしくない。あんたにお似合いの称号は愚者だ」
遣田は両の手のひらに、エーテルを集めはじめた。エーテルの扱いはレインよりもはるかに長けており、一瞬で巨大な火球がふたつ手のひらの上で燃え盛った。
「タカミさん、気をつけてください。
あれはアリステラの父ブライが編み出したものの、そのあまりの威力に封印した魔法のひとつ、『業火連弾(ごうかれんだん)』です」
「ああ、確かにやばそうだな」
「その通り。さすがはアリステラの真の最後の女王、アナスタシアさんですね。なんでもよくご存知だ。
エーテルを炎に変える魔法の中で最上級とされる『インフェルノ』を2発同時に放つことができたのは、アリステラの長い歴史の中でも三人だけ。そのうちのひとりが私です」
ユワの遺体や死を冒涜されることに怒りを覚えていたのはタカミだけではなかった。
「だからどうした?」
レインの注意を聞いていたのか聞く気がなかったのか、ショウゴは彼女がエーテルから精製した日本刀「白雪」を手に、遣田に斬りかかったのだ。
ショウゴがまさか、たとえ遣田に憑依されているとはいえユワの体に斬りかかるとは、タカミもレインも思ってもいなかったことだった。
「自分がタカミさんに言われたような愚者ではなく、賢者だと証明したいのか?」
白雪はふたつの火球を真っ二つに切り裂いていた。ショウゴはユワの体には傷ひとつつけてはいなかった。
「業火連弾を切り裂いただと!?
野蛮なホモサピエンス風情にそんなことができるはずが……」
「でも、できたな。あんたは憑依能力だけじゃなく、もしかして魔法も不完全なんじゃないのか? 何もかも全部」
業火は白雪に燃え移り、炎をまとった魔法剣のようになった。
「そういえば、ゲートを作るのも、体の骨をボキボキ折らなきゃできなかったよな。レインはもっと上手にできたぞ」
ショウゴは業火白雪とでも言うべき燃え盛る刀を、遣田の顔に向けた。
「そういえば、あんたは所詮、あんたが馬鹿にする野蛮なホモサピエンスに滅ぼされたようなネアンデルタール人の出だったもんな」
遣田の顔に冷や汗が浮かんでいた。
だが、その表情にはまだ余裕があるように見えた。
この男は知っているのだ。
ショウゴにはユワの体を傷つけることはできないということを。
「あまり私を怒らせるような発言は控えた方がいいですよ。
この体は、あなたの大切な恋人だった女性の体でしょう?」
やはり、そうだった。
「それに、雨野タカミさんの大切な妹さんの体でもある。
私が小久保ハルミさんか大和ショウゴさん、アナスタシアさん、あるいは雨野タカミさん、この場にいる誰かに憑依した瞬間、あなたの大切な大切な恋人の脳が焼き切れる。
今度こそこの世界から完全にいなくなってしまうんですよ?
私が憑依し続ければ、千年細胞を持つこの体の中で、恋人さんの魂も私と共に永遠に生き続けることができるんですがねぇ」
「ユワは4年前に死んでるんだろ?
その体は、そこにいる小久保ハルミとかいう人が作った千年細胞で無理矢理蘇生させられただけで、中身は空っぽなんだってな」
気づいていましたか、と遣田は嬉しそうに笑った。
「ですが、あなたにはやはり、この体に傷をつけることはできない」
その瞬間、ショウゴの体を無数の真空の刃が襲った。
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