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第10章 第2話

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 女王の間へと続く道は、新生アリステラの兵士たちの死体が教えてくれた。
 無論、死体がしゃべりタカミに道順を教えてくれたというわけではない。

 城塞戦車への侵入に成功した者から、兵士たちは女王を守ろうと必死に警護を固めた結果、逆に女王の間へ続く道を教えてしまることになってしまったのだ。
 次々と侵入者の憑依能力の犠牲になり、脳を破壊された兵士たちの亡骸は、今度はタカミという侵入者にも女王の間へと続く道を教えてしまっていた。
 おそらくショウゴやレインにも。

 レインが話してくれたクルヌギアのおとぎ話にあった王族の末裔と4人の賢者の話が実話であったなら、遣田ハオトは1万2000年前に、アトランティスやムー、レムリアといった、おそらくはアリステラ人の末裔が築いたであろう古代文明を滅亡させている。
 ただ滅亡させただけではない。
 遣田は、他の3人の賢者たちをそそのかし、ゲートによってそれらの古代文明ごとアリステラの母星に帰還させるよう仕向けた。実際には8万年も前の超新星爆発に巻き込まれ、すでに宇宙の散りと化し、母星などどこにもない宇宙空間に3人の賢者たちと3つの古代文明を放り出すといった非道な手段を取った。
 そんな男が、この10万年もの間に栄えた他のいくつもの文明の滅亡に関与していないはずがなかった。
 人類やアリステラの末裔の歴史を裏でずっと操り続けてきた可能性があった。
 新生アリステラの設立や、小久保ハルミや国際テロ組織「九頭龍獄」の残党がそれに組みしていることも、遣田が仕組んだ可能性も大いにあるのではないだろうか。

 アンナを殺し、一条の体を奪っただけでなく、新生アリステラも人類も滅ぼし、この星に自分だけの王国を築こうとしているあの男だけはタカミは許すことができなかった。


 無数の屍を乗り越えて、タカミは女王の間にたどりついた。
 ショウゴやレインもまた、すでにその場所にたどりついていた。

「タカミさん……」

「タカミさんも来てくださいと言いましたが、あなたはここに来てはいけなかったかもしれませんわ」

 ふたりはタカミの顔を見ると、暗い表情でそう言った。

 玉座には、新生アリステラの女王が座っていた。
 ゴシックロリータにスチームパンクを掛け合わせたようなドレスを身にまとった、あの放送のときと同じ格好の女王は、脚を組み、ひじ掛けに右ひじを置いて、その手の甲に顔をもたれかけさせており、いかにも退屈そうにしていたが、タカミの姿を見るや否や立ち上がった。

「ようこそ、雨野タカミさん。
 あなたが来てくださるのを、先ほどからずっとお待ちしていたんですよ。
 大和ショウゴさんやアナスタシアさんにも待って頂いていました」

 女王は立ち上がり、ユワのきれいな顔に下卑た笑顔を浮かべながら、ユワの声を使って、タカミの来訪を喜んだ。

「遣田ハオトだな?」

 女王の間へと続く道の途中、無数の兵士の屍を見ていたから、ユワかあるいは小久保ハルミの体に遣田が憑依しているであろうことはある程度覚悟はしていた。
 覚悟していたことだったが、実際に目の前にすると、タカミははらわたが煮えくり返る思いだった。

 女王のまわりには、他の兵士たちとは明らかに異なる形状の甲冑をまとった親衛隊らしき者たちの死体が転がっていた。
 女王の他にいた生者は、ショウゴやレインを除けば、小久保ハルミだけだった。
 ハルミは部屋の隅の床に腰を下ろし、顔を伏せていた。遣田の口からタカミの名前が上がっても、それに反応を示すことはなかった。

「遣田ハオト? ああ、あなたたちにはまだ、私の本当の名をお教えしていませんでしたね」

「そのうっとうしい喋り方は、フリーザ様かゲマでも意識してるのか?」

 タカミは慣れない仕種で鞘から剣を引き抜くと、剣先を遣田に向けた。

「あんたの本当の名前なんてどうでもいい。今すぐその体から出ていってくれないか。こっちはあんたを殺したくて、さっきからうずうずしてるんだよ」

 彼のその声も口調も、ショウゴやレインが一度も聞いたことのない、冷たく暗い、凄みを感じさせるものだった。

「どうでもいいとは酷いですね。でも、いいんですか?
 私の憑依能力は不完全でしてね、一度憑依した相手から別の憑依対象に移るときに、どうやら脳を焼き切ってしまうようなんですよ」

 城内に無数の兵士たちの死体が転がっていたのは、そういう理由だったというわけだ。

「たまーに、憑依した瞬間に精神を焼き切ってしまうこともあるんですがね。
 その場合は、脳を焼き切ることなく自由に出入りさせてもらうことができるんですよ」

 一条ソウマさんがそうでした、と遣田は笑った。
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