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第8章 第11話
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レインがタカミやショウゴという雨野ユワの意識に引っ掛かりそうな名前を口にしても、彼女の表情が変わることはなかった。
よく見ると唇がかすかに動いていた。声が小さくレインには聞こえなかったが、早口で何かを喋り続けているようだった。
「ユワさん? 何をお話ししていますの?」
レインはユワのそばに近づいて聞き耳を立ててみることにした。
「紀元前100,000年頃ブライ暦元年地球から56億7000万光年先の宇宙に存在するイミハギヲ銀河の中心から約13,000光年離れたカノレカア腕の中に位置するチウラエ系第8惑星ツクヨエにおいてヨエレスイ大陸の西部にアリステラ王国が建国される」
彼女が話しているのは、アリステラが存在した遠い宇宙の星の歴史のようだった。なぜそんなことを話しているのかわからなかったが、それはまるで句読点のない文章を、抑揚もなければ意味もなくただただ暗唱しているようだった。
「ユワさん? わたくしの声が聞こえませんの?」
やはり返事はない。彼女には意識や精神、人格、魂と呼べるものはもはやないのだろうか。
「ブライ暦23年、アリステラ王国の初代王ブライが万能物質エーテルの軍事転用を開始。ブライの兄ラーガルによりエーテルを炎や氷、風や土、雷に変化させるエーテライズ(魔法)、弟レオナルドにより結晶化したエーテル(ヒヒイロカネ)を武具へと変化させる技術が編み出される。
翌24年、アリステラはエーテルを推進力にした城塞戦車キャッスルチャリオットを開発開始。
翌25年、キャッスルチャリオットと操縦補佐用魔導人工頭脳プロトタイプ・シドα(アルファ)の試験運用に成功。チャリオットキャッスルの量産開始。また飛翔艇の開発に着手。
27年、飛翔艇オルフェウスと魔導人工頭脳テストタイプ・シドβ(ベータ)の開発に成功。チャリオットキャッスルとオルフェウスによって陸と空から近隣諸国を蹂躙。ヨエレスイ大陸全土に進行開始。
翌28年、魔導人工頭脳の量産を前提として作られた先行量産機シドγ(ガンマ)、シドΔ(デルタ)が完成。シドγ・Δを内蔵した人造人間サタナハマアカの開発に成功、サタナハマアカの量産に着手。
翌29年、完全量産型シドε(イプシロン)が量産され、1000体の人造人間サタナハマアカを量産完了。チャリオットキャッスルとオルフェウス、サタナハマアカの活躍によりヨエレスイ大陸全土を支配し、イヘノレキ大陸へ進行開始。
翌30年、イヘノレキ大陸全土を支配する」
どうやら本当に彼女にはもう意識と呼べるものは存在していないようだった。
「ブライ暦33年、初代王ブライが66歳で崩御。第一皇女イリスが17歳で初代女王に即位。これ以降アリステラは代々女性君主制となり、ブライは『アリステラの父』、その妻アリスは『アリステラの母』として神格化されるようになる」
彼女はもう、彼女の姿を形作るエーテルに記録されたアリステラの歴史を暗唱しつづけることしかできないのだ。
「ユワさん……地球で今何が起こっているかご存知ですか? あなたの遺体を利用して、女王に担ぎ上げて、アリステラを再興をしようとしている人達がいるんです。タカミさんやショウゴさんは、あなたがまだ生きていると信じて、あなたをアリステラから連れ戻そうと必死に……」
何を話しても無駄だということはわかっていた。
だが、タカミやショウゴのことを思うとやりきれない気持ちにさせられた。
どうしても彼女に意識を取り戻してほしかった。
「紀元前99,000年頃、アリステラ王国の建国から1000年、機械仕掛けの魔女ディローネが、恒星チウラエに超新星爆発の兆候を観測する。
ディローネは3~5000年以内に超新星爆発が起き、ツクヨエは超新星爆発に巻き込まれ崩壊するか、崩壊せずとも生物が住めない星になると、第43代女王ステラに報告。
女王ステラは、ディローネに移住可能な惑星の探査と、妹である大賢者ピノアに移住方法の確立を命じる」
やはり、何も伝わらなかった。
彼女はただ抑揚のない声でアリステラの歴史を暗唱するだけで、表情ひとつ変えることはなかった。
タカミやショウゴはこんな子を新生アリステラから連れ戻そうと必死になっていたのか。
そう思うと、レインはただただ悲しい気持ちになった。
よく見ると唇がかすかに動いていた。声が小さくレインには聞こえなかったが、早口で何かを喋り続けているようだった。
「ユワさん? 何をお話ししていますの?」
レインはユワのそばに近づいて聞き耳を立ててみることにした。
「紀元前100,000年頃ブライ暦元年地球から56億7000万光年先の宇宙に存在するイミハギヲ銀河の中心から約13,000光年離れたカノレカア腕の中に位置するチウラエ系第8惑星ツクヨエにおいてヨエレスイ大陸の西部にアリステラ王国が建国される」
彼女が話しているのは、アリステラが存在した遠い宇宙の星の歴史のようだった。なぜそんなことを話しているのかわからなかったが、それはまるで句読点のない文章を、抑揚もなければ意味もなくただただ暗唱しているようだった。
「ユワさん? わたくしの声が聞こえませんの?」
やはり返事はない。彼女には意識や精神、人格、魂と呼べるものはもはやないのだろうか。
「ブライ暦23年、アリステラ王国の初代王ブライが万能物質エーテルの軍事転用を開始。ブライの兄ラーガルによりエーテルを炎や氷、風や土、雷に変化させるエーテライズ(魔法)、弟レオナルドにより結晶化したエーテル(ヒヒイロカネ)を武具へと変化させる技術が編み出される。
翌24年、アリステラはエーテルを推進力にした城塞戦車キャッスルチャリオットを開発開始。
翌25年、キャッスルチャリオットと操縦補佐用魔導人工頭脳プロトタイプ・シドα(アルファ)の試験運用に成功。チャリオットキャッスルの量産開始。また飛翔艇の開発に着手。
27年、飛翔艇オルフェウスと魔導人工頭脳テストタイプ・シドβ(ベータ)の開発に成功。チャリオットキャッスルとオルフェウスによって陸と空から近隣諸国を蹂躙。ヨエレスイ大陸全土に進行開始。
翌28年、魔導人工頭脳の量産を前提として作られた先行量産機シドγ(ガンマ)、シドΔ(デルタ)が完成。シドγ・Δを内蔵した人造人間サタナハマアカの開発に成功、サタナハマアカの量産に着手。
翌29年、完全量産型シドε(イプシロン)が量産され、1000体の人造人間サタナハマアカを量産完了。チャリオットキャッスルとオルフェウス、サタナハマアカの活躍によりヨエレスイ大陸全土を支配し、イヘノレキ大陸へ進行開始。
翌30年、イヘノレキ大陸全土を支配する」
どうやら本当に彼女にはもう意識と呼べるものは存在していないようだった。
「ブライ暦33年、初代王ブライが66歳で崩御。第一皇女イリスが17歳で初代女王に即位。これ以降アリステラは代々女性君主制となり、ブライは『アリステラの父』、その妻アリスは『アリステラの母』として神格化されるようになる」
彼女はもう、彼女の姿を形作るエーテルに記録されたアリステラの歴史を暗唱しつづけることしかできないのだ。
「ユワさん……地球で今何が起こっているかご存知ですか? あなたの遺体を利用して、女王に担ぎ上げて、アリステラを再興をしようとしている人達がいるんです。タカミさんやショウゴさんは、あなたがまだ生きていると信じて、あなたをアリステラから連れ戻そうと必死に……」
何を話しても無駄だということはわかっていた。
だが、タカミやショウゴのことを思うとやりきれない気持ちにさせられた。
どうしても彼女に意識を取り戻してほしかった。
「紀元前99,000年頃、アリステラ王国の建国から1000年、機械仕掛けの魔女ディローネが、恒星チウラエに超新星爆発の兆候を観測する。
ディローネは3~5000年以内に超新星爆発が起き、ツクヨエは超新星爆発に巻き込まれ崩壊するか、崩壊せずとも生物が住めない星になると、第43代女王ステラに報告。
女王ステラは、ディローネに移住可能な惑星の探査と、妹である大賢者ピノアに移住方法の確立を命じる」
やはり、何も伝わらなかった。
彼女はただ抑揚のない声でアリステラの歴史を暗唱するだけで、表情ひとつ変えることはなかった。
タカミやショウゴはこんな子を新生アリステラから連れ戻そうと必死になっていたのか。
そう思うと、レインはただただ悲しい気持ちになった。
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