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第8章 第6話
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その夜は、ベッドに寝転んでもタカミはなかなか眠れなかった。
アリステラには帰るべき世界がもはや存在しない。
レインの母親が幼い彼女にしてくれたというおとぎ話からそれがわかったのは、今後の方針を左右する貴重な情報だった。
レインが国家規模の巨大なゲートを作る必要がなくなり、彼女が現在作れるゲートで明日にでもアリステラに乗り込むことが可能だった。
一条の身体を奪った遣田ハオトの動向も気になっていた。
超巨大台風の目の中にあるアリステラには、あの男が奪ったヘリでは近づけはしない。だが、すでにそのすぐそばにまではたどり着き、次の策を練っていることだろう。
タカミが遣田ならどうするだろうか。
そんなことは仮定の話でも考えたくはなかったが、どうせ今夜は眠れない。
考えておいて損はないだろう。
遣田が一条の身体をどうするつもりなのかによって、3つの策が考えられた。
まずは、一条の身体を気に入っており、今後も使い続けるつもりの場合だ。
何の罪もない者を襲い、生かしたまま全身の骨を折った後で、一度その者の身体に憑依する。
その身体で人がひとり入れるだけの円を作りゲートを作った後、一条の身体に戻り、そのゲートをくぐってアリステラの城内に侵入するだろう。
一条が持つ高い身体能力や技、戦闘経験と、遣田が持っているであろう肉体や脳のリミッターを外し、痛覚などの邪魔な感覚をシャットアウトすることが可能な能力をかけあわせれば、遣田は人類最強といっても過言ではない戦士になるだろう。
城内にいるであろう兵士たちが、たとえレインが見せてくれたようなヒヒイロカネによって作られた武器や防具で武装していたとしても、十分に戦うことができるだろうし、その武装を奪うこともできるだろう。
もっとも、そんな戦い方をすれば、一条の身体はあっという間にボロボロになってしまうだろうが。
しかし、千年細胞を持つ者さえ見つければ、その者を殺してその肉を喰らうことで、千年細胞をも手に入れることが可能だ。
千年細胞は驚異的な再生能力を持っている。一条の身体は遣田の能力にも耐えることが可能となり、脳や肉体へのダメージを考慮する必要がなくなる。
まさに最強の戦士の誕生だ。
2つ目は、遣田が一条の身体に何ら執着もなく、すぐにでも使い捨てるつもりの場合だ。
他者への憑依能力の範囲がどこまであるのかにもよるが、現在地から近場にいる他者の身体への憑依を繰り返すことで、いつかは城の門番や城内の兵士に憑依することができる。
手間はかかるが、比較的簡単に城内への侵入が可能だろう。
その後も憑依を繰り返せば、最終的に女王のそばにいる小久保ハルミや兵士らに憑依して女王を殺すことができるし、女王に憑依し自害させることもできるだろう。
タカミが思いついた3つの策の中で、3つ目がもっとも厄介だった。
アリステラの城内に侵入するまでは一条の身体を使い、侵入後に使い捨てる場合だ。
1つ目の策で城内に侵入はするが、一条の身体のままでは、目立ち過ぎてしまう。
だから2つ目の策で、兵士から兵士へと憑依を繰り返し、最終的には女王のそばにいる小久保ハルミや兵士らに憑依して女王を殺すか、女王に憑依し自害させる。
その後は、再び憑依を繰り返し、城から脱出する。
遣田なら、この3つ目のもっとも厄介な策をとりかねなかった。
そして、あの男ははいつでもこの策を実行に移せるのだ。今まさに実行中でもおかしくはなかった。
すでに実行済みという可能性も十分に考えられるが、あまり考えたくはなかった。
その場合、女王もハルミももはや生きてはいないだろうからだ。
女王がユワであったのか、そうでなかったのかさえわからないままになってしまうだけでなく、アリステラを滅ぼした遣田は、疫病や天変地異などではなく、もっとも恐ろしい方法で人類を滅ぼすだろう。
クルヌギアのおとぎ話にある、遣田と思われる賢者が、仲間であるはずの3人の賢者と3つの島、多くのクルヌギアの民の末裔にしたように。
残された30億人あまりの人類はすべて、クルヌギアの聖石だけが漂う常闇の宇宙空間に放り出されてしまうだろう。
アリステラには帰るべき世界がもはや存在しない。
レインの母親が幼い彼女にしてくれたというおとぎ話からそれがわかったのは、今後の方針を左右する貴重な情報だった。
レインが国家規模の巨大なゲートを作る必要がなくなり、彼女が現在作れるゲートで明日にでもアリステラに乗り込むことが可能だった。
一条の身体を奪った遣田ハオトの動向も気になっていた。
超巨大台風の目の中にあるアリステラには、あの男が奪ったヘリでは近づけはしない。だが、すでにそのすぐそばにまではたどり着き、次の策を練っていることだろう。
タカミが遣田ならどうするだろうか。
そんなことは仮定の話でも考えたくはなかったが、どうせ今夜は眠れない。
考えておいて損はないだろう。
遣田が一条の身体をどうするつもりなのかによって、3つの策が考えられた。
まずは、一条の身体を気に入っており、今後も使い続けるつもりの場合だ。
何の罪もない者を襲い、生かしたまま全身の骨を折った後で、一度その者の身体に憑依する。
その身体で人がひとり入れるだけの円を作りゲートを作った後、一条の身体に戻り、そのゲートをくぐってアリステラの城内に侵入するだろう。
一条が持つ高い身体能力や技、戦闘経験と、遣田が持っているであろう肉体や脳のリミッターを外し、痛覚などの邪魔な感覚をシャットアウトすることが可能な能力をかけあわせれば、遣田は人類最強といっても過言ではない戦士になるだろう。
城内にいるであろう兵士たちが、たとえレインが見せてくれたようなヒヒイロカネによって作られた武器や防具で武装していたとしても、十分に戦うことができるだろうし、その武装を奪うこともできるだろう。
もっとも、そんな戦い方をすれば、一条の身体はあっという間にボロボロになってしまうだろうが。
しかし、千年細胞を持つ者さえ見つければ、その者を殺してその肉を喰らうことで、千年細胞をも手に入れることが可能だ。
千年細胞は驚異的な再生能力を持っている。一条の身体は遣田の能力にも耐えることが可能となり、脳や肉体へのダメージを考慮する必要がなくなる。
まさに最強の戦士の誕生だ。
2つ目は、遣田が一条の身体に何ら執着もなく、すぐにでも使い捨てるつもりの場合だ。
他者への憑依能力の範囲がどこまであるのかにもよるが、現在地から近場にいる他者の身体への憑依を繰り返すことで、いつかは城の門番や城内の兵士に憑依することができる。
手間はかかるが、比較的簡単に城内への侵入が可能だろう。
その後も憑依を繰り返せば、最終的に女王のそばにいる小久保ハルミや兵士らに憑依して女王を殺すことができるし、女王に憑依し自害させることもできるだろう。
タカミが思いついた3つの策の中で、3つ目がもっとも厄介だった。
アリステラの城内に侵入するまでは一条の身体を使い、侵入後に使い捨てる場合だ。
1つ目の策で城内に侵入はするが、一条の身体のままでは、目立ち過ぎてしまう。
だから2つ目の策で、兵士から兵士へと憑依を繰り返し、最終的には女王のそばにいる小久保ハルミや兵士らに憑依して女王を殺すか、女王に憑依し自害させる。
その後は、再び憑依を繰り返し、城から脱出する。
遣田なら、この3つ目のもっとも厄介な策をとりかねなかった。
そして、あの男ははいつでもこの策を実行に移せるのだ。今まさに実行中でもおかしくはなかった。
すでに実行済みという可能性も十分に考えられるが、あまり考えたくはなかった。
その場合、女王もハルミももはや生きてはいないだろうからだ。
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