ひとりの少女を守るために70億の命を犠牲になんてできないから、ひとりの少女を犠牲にしてみた結果、事態がさらに悪化した件。

雨野 美哉(あめの みかな)

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第7章 第10話

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 結論として、街頭テレビに映し出された女王の映像や音声を拾っていた監視カメラは見つからなかった。

 監視カメラもまたアリステラによる電波ジャックやハッキングの対象となっていたからだ。
 監視カメラは本来映すべきものを映していなかった。
 その代わりに女王の映像をレコーダーに送信しており、レコーダーにはその映像がしっかりと残っていた。

 ショウゴの読みこそ外れていたが、違う形で放送された映像そのものが手に入った。
 彼に言われなければ監視カメラの映像をチェックすることはなかったから、彼のおかげだった。

 タカミは、女王が語ったアリステラと野蛮なホモサピエンスの10万年の歴史の中に何か、アリステラが元々存在した異世界のヒントがあるような気がしていた。
 決して確信があるわけではなく、直感でしかないと思っていたのだが、

 アリステラは異世界から転移してきた。
 その異世界には、その後こちら側に存在していたアトランティス島やムー大陸、レムリア大陸などが、逆に転移している。

 女王の口からしっかりとヒントは語られていた。

 レムリアは、アトランティスやムーに比べるといささか知名度が低く、タカミもよくは知らなかったが、調べてみて驚かされた。

 レムリア大陸とは、かつて太平洋をまたがって赤道を半周するほどの巨大な大陸だったという。
 その面積は現在のユーラシア大陸とほとんど変わらないというから、相当大きな大陸が太平洋にあったということになる。
 だが、レムリアは7万5千年という長い年月にわたる地殻変動によって、その大半が減少していき、最後には日本列島の東にオーストラリア程度の大陸が2つ残すだけになってしまったそうだ。

 そのふたつの大陸のうちのひとつはレムリアの名を継ぎ、もうひとつがなんとムー大陸になったという。

 最初の大きな大陸こそがムー大陸だったとする説もあるが、どちらにせよレムリアとムーは元々はひとつの巨大な大陸の一部であり、最後に残ったふたつの大陸の名がレムリアとムーであることに変わりはなかった。

 ムー大陸は、世界でも類を見ないほどの栄華な文明を誇ったとされている。
 これは、ルーツを同じくするレムリア大陸もまた同じであっただろう。
 だが、約1万2000年前に巨大地震などの天変地異が起こり、一夜にして水没したという。
 レムリア大陸も、おそらくそのときムー大陸と共に水没したのだろう。

 高度な文明が一夜にして、しかも同時期に水没したのは、ムーやレムリアだけでなく、アトランティスもまた同様だった。

 アトランティス島は、資源の宝庫で、そこにある帝国は豊かであり、強い軍事力を持っていたとされる。大西洋を中心に地中海西部を含んだ広大な領土を支配していたという。
 侵略者であるアトランティス帝国に対し、近隣諸国は連合して戦い、辛くも勝利した。
 その直後、アトランティス島は海中に沈み、滅亡したとされている。

 それが約1万2000年前の出来事だ。

 約1万2000年前という同時期に、3つの大陸が水没したということから、聖書にある大洪水と方舟のエピソードの元になった世界規模の水害がこの時期にあったのではないかと考える学者が多数存在していたが、タカミの考えは違った。

 当時の人々には、水没したとしか考えられなかっただけだったのではないか。
 実際は異世界に転移した。あるいは、させられた。
 それはアリステラの女王の言葉からも間違いなかった。
 突然大きな島や大陸が消失すれば水害も起きるだろうし、何も知らない人々には水没したように見えただろう。

 1万2000年前という時代は、アリステラの滅亡から8万年以上が経過しており、エーテルもまた女王となる資質を持つアリステラの王族の末裔の体の中にしか存在しない時代だった。
 そんな時代にふたつの大陸とひとつの島を異世界に転移させられるのは、女王となる資質を持つ王族の末裔だけだ。

 当時の王族の末裔は、アリステラが存在した異世界がどこにあるか知っていたに違いなかった。
 アトランティスやムー、レムリアの異世界への転移は、アリステラを元の世界に帰す前に行われた実験だったのではないだろうか。

 そう考えると、ひとつの島とふたつの大陸が異世界に転移したことを、女王が知っていてもおかしくはなかった。
 しかし同時に疑問も浮かんだ。

 では何故アリステラはまだこの世界にいるのか。
 何故この世界に今後も居座り続けるつもりなのだろうか。

 アリステラが帰るべき異世界がどこにあるのか、たどり着けそうな気がしたが、まだタカミにはたどり着くことはできなかった。
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