上 下
50 / 123

第6章 第4話

しおりを挟む
 この巨漢の暴徒らしき男はショウゴが殺したのだろうか。

 いや、違う。

 ショウゴの拳銃は、彼の正確な射撃で頭を撃ち抜いたとしても、顔の半分が吹き飛ぶまでの威力はない。
 だとしたら、この男は自分のマシンガンで自害したとでもいうのだろうか。

 キャビンと壁に挟まれて死んでいる女性は、タンクローリーが突っ込んできたときに犠牲になったのだろう。
 だが何故その顔が笑っているのだろうか。

 タカミにはその女性に見覚えがあった。
 彼らが住む最上階のすぐ下の階に住んでいる、双子なのか顔がとてもよく似た姉妹のどちらかだった。確か鳳(おおとり)という苗字だった。
 鳳姉妹はタカミたちが最上階に住むようになり、しばらくした頃に引っ越してきた。
 その頃に一度か二度、挨拶を交わしたことがあった。

 巨漢の男がタンクローリーの運転手なのだとすれば、先に死んだのはこの女性だろう。ひかれ、潰されて死んだのだ。
 これは事故で、だから男は自害を選んだということだろうか。
 マシンガンで自分の頭を撃ち抜いて?
 そんなものを所持しているような暴徒が、事故で人を殺したからといって自害などするだろうか。

 この場には別の誰かがいた?
 その誰かがこの男を殺し、マシンガンで自害したように見せかけた?

「タカミさん」

 自分の名前を呼ぶショウゴの声が聞こえた。
 彼はロビーの隅にある管理人室にいた。タカミはほっと胸を撫で下ろした。

「無事でよかったよ」

「でも……」

 ショウゴは、すぐそばのゲーミングチェアに寝かされていた女性に目をやった。
 その椅子を見て、タカミはこのマンションの管理人がまだ若い男だったのをふと思い出した。顔や名前は思い出せないがスマホばかりいじっている人だった。
 女性は寝ているというより、気をうしなっているように見えた。タンクローリーに潰された女性と同じ顔をしていた。

「いきなりタンクローリーが突っ込んできて、アナスタ……じゃなくて、えっと、この人の目の前で、あの人が死んじゃってね……」

 ショウゴは一度、女性の名前を言いかけて、何故かやめた。
 外国人の名前のようだったが、外国人やハーフには見えなかった。
 彼女の名前を自分に告げられない理由でもあるのだろうか。

 ふたりとも怪我をしている様子はなかったから、とりあえず安心した。

「その人は下の階の人だね。一体何があったんだ?」

 タカミの問いに、ショウゴは何と答えていいかわからないという顔をした。

「説明が難しいみたいだね」

「何から話したらいいか……
 たぶん、俺が話すより、監視カメラの映像を見てもらった方が早いと思う」

 ショウゴから使い方がわかるかどうかを聞かれた。
 モニターに何分割もされて映し出されている現在の映像ではなく、記録された映像を見る方法が彼にはわからないということだった。
 タカミも自室のパソコンからのハッキングで過去に何度も記録された映像を見ていたが、機械を直接触るのははじめてだった。
 だが、たぶん説明書を探して読むまでもないだろう。

 マウスを動かし、左クリックをすれば、分割されて表示されている映像のひとつを選んでモニター全体に拡大することができ、右クリックで画面下にメニューが現れる。
 メニューから検索を選び、何月何日何時何分からの映像が見たいかを、キーボードで入力すればいいようだった。

 監視カメラの機能に特化しているだけで、操作自体はマウスとキーボードで行うようだ。パソコンとほとんど変わらなかった。
 録画は1ヶ月を過ぎると自動的に消去されるようになっており、必要に応じてUSBメモリやDVDに映像をコピーすることが出来るようだ。

「あとは管理者用のパスワードさえわかればなんとか」

 ハッキングしていた頃に解析ソフトでパスワードを炙り出していたが、さすがに覚えていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

金色の空は月を抱く 〜最強の魔物に溺愛されているので世界が破滅するかもしれません〜 第1章

永堀詩歩
ファンタジー
 魔力の高さが権力の高さの国、バルカタル帝国。  皇帝の子の中で最も高い魔力を持つ魔物と契約した者が次の皇帝となり、続いて五つの州の長が決まる。  7人の子の中で、大蛇の魔物カオウと契約した第3皇女ツバキだけが何の役職にもつけなかった。  ツバキは惨めな気持ちに……なることはなく、これ幸いと城を抜け出して、少年の姿に変身したカオウと一緒に平民の街や魔物の巣窟と言われる森で遊んだり楽しい日々を送っている。  カオウも契約をなかったことにされて怒り心頭……というわけでもなく、ツバキを見守り続けている。次第に大きくなるツバキへの恋心と、ある重大な秘密を隠して。  そんなある日、皇帝即位の祝賀パレードで皇帝を狙う計画があると知る。しかし手ががりとなる少年たちを探すため向かった先でカオウが重症を負ってしまい、ショックを受けたツバキは自分でも知らなかった力に目覚め……。  1通の脅迫状をきっかけに、ツバキとカオウはテロ事件、精霊の事件、国の陰謀、世界の破滅へと巻き込まれていく。  人・魔物・精霊が共存する世界の均衡が崩れたとき、2人が選んだ未来とは。この恋は世界を救うのか、それとも────  世界を巻き込んだ皇女と魔物の恋を描いた第1章。 ※章ごとに完結します。 ※1章は恋愛要素ありませんが、2章で少年だったカオウが脱皮(蛇だから)してイケメン青年となって戻ってから感情爆発、しかしツバキは政略結婚の予定があるのでジレジレしつつ、5章でイチャイチャ(健全) からの色々あって世界が破滅するかもしれない流れになっております。 ※3章掲載開始しました。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗
ファンタジー
異世界に召喚された5人。性別・年齢も違うそれぞれは、異世界の“キョート”の、5つの国の命運を問う旅へと出発する。 魔法の発達した国『シュロッス・イン・デル・ゾーネ』 サイバーパンクな科学技術大国『United Japanese tea varieties of Iratsuko』 清廉な武士たちが住まう『南山城国』 スチームパンクな北方の大国『テラ・ドス・ヴェルメロス』 ポストアポカリプス後の自然豊かな『バクエット・ド・パクス』 それぞれの国、それぞれの旅人たちの運命は? 異世界系ジャンル越境メタフィクション日本茶ファンタジー、開幕! ※ ※ ※ 日本茶を擬人化した物語です。 異世界に召喚される人物以外は皆、日本茶です。 “キョート”は異世界ですが、登場するそれぞれの国は実際の京都府内の、日本茶の著名な産地をモチーフにしています。 旅をする物語ですが、旅や物語の背景も、実際の日本茶に関する歴史を下敷きにしています。 とは言え勿論、この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。 Fate、刀剣乱舞、艦これ、ウマ娘などの日本茶ver.とでも思っていただければ。 ちなみに筆者は日本茶問屋ですので、日本茶に関する知識についてはガチですが、この物語自体はサブカル成分6:日本茶4です。悪しからず。 ゲーム化を目指し、その分野に強いということでアルファポリス様にて、連載を開始させていただきました! ひぐらしや東方のようにメディアミックスもしたい! 絵師さまも募集中です!

処理中です...