33 / 123
第4章 第4話
しおりを挟む
「おお、こわいこわい。どうする? 俺を撃つか? 撃ってもいいぞ。
その前に自宅警備員がひとり死ぬだけだ。かわいそうにな。お前のせいで、今度はお前が殺した彼女の兄貴が死ぬぞ。もちろん、外せばお前も死ぬぞ」
「あんたにタカミさんを撃てるのか?」
「撃てないと思われていることに、むしろ驚きすら覚えるよ」
「違うよ。安全装置がかかったままの銃で、人が撃てるのかを俺はあんたに聞いてるんだよ」
一条は舌打ちした。図星だった。
「あんたはさっきタカミさんをその銃で殴った。
素人ならまだしも、安全装置がかかってなかったら暴発する可能性があることくらい、銃の扱いに長けた元刑事さんならよくわかってるはずだ」
「ガキのくせに、まったくよく見ていやがる」
タカミもこのガキも、ろくに世間も知らないくせに、昔からそこらへんの下手な大人たちより目ざといのが気に入らなかった。
さっさと始末しておくべきだった。
「セーフティロックを解除している間に、俺はお前に撃たれて終わりか……
まさかこの俺がこんなガキにな……」
一条は死を覚悟した。そんな風に見えるよう装った。
タカミがそばにいる限り、目の前の雨合羽のガキが自分を撃ってくることはないだろう。必ず拳銃を奪い取ろうと近づいてくる。そのときがチャンスだった。
拳銃を逆に奪い取ることは容易い。ついでに両腕をへし折ってやればいい。それには2秒もかからない。首の骨をへし折るのをオプションでつけてやってもコンマ数秒加算されるだけだ。
一条は警察学校でただ訓練を受けただけではない。主席で卒業した。その後も公安の連中やSP、時には自衛官を相手に学んだ技を磨き上げていた。
相手を徹底的に無力化、あるいは殺害するために必要な筋肉だけを鍛え、他の不要な箇所の筋肉がそぎおとされたその身体は、一見華奢に見えるがもはや全身が凶器だった。
その瞬間、脱ぎ捨てられた雨合羽が、一条の顔を覆った。
間髪入れず、拳銃を持つ手と、利き足を撃ち抜かれた。
冗談だろ、と思った。まさかこんなガキが、と。
利き足に撃たれた銃弾は正確に関節を撃ち抜いてきていた。
右手はもう拳銃を握るどころか、ペンを握ることさえ難しいかもしれない。そういう場所を撃ち抜いてきていた。
「冗談で拳銃を人に向ける奴がいるのか?
俺はガキだけど、昔の不良が持ってたバタフライナイフとは、これを持つ訳が違うんだよ」
思考さえも読まれていた。
冗談だろ、と思いはしたが、口にした覚えはなかった。
一体どれだけの修羅場を経験してきたら、まだ18歳の少年が命のやりとりで自分をこうも簡単に負かすことができるのか。
少年の背丈や顔立ちや声が、4年前とまるで変わっていないことが逆に恐ろしかった。
普通は命のやりとりをいくつも経験すれば、顔つきや声色が変わるものだ。
人の命を奪うということはそういうことだった。
一条がそうだった。
奪ってきた命を背負っているつもりは彼にはなかった。警察官である彼に命を奪われるということは、それだけのことをしたのだ。だから背負う必要はない。そう考えていた。
だがそれでも、顔つきや声色は自分の意思に反して勝手に変わっていくものだ。
こいつは、人の命を奪うことについて考えたことすらないということか。
「ユワを殺したときに70億人分考えた。それ以上考える必要はもうないだろ」
また思考を読まれた。
「確かにそれ以上考える必要はないよな……」
そうだった。
一条が一度だけこの少年に会ったとき、彼はすでに恋人をその手にかけた後だった。
だから一条が知る4年前の彼と今の彼は何も変わっていないのだ。
体勢を崩した瞬間、さらに2発銃弾を撃ち込まれた。今度は両脚の神経を正確に撃ち抜かれた。
「あんたがタカミさんを裏切るなら、俺はあんたを容赦しない」
この両脚はもう二度と動くことはないだろう。
医療機関はとうに機能していない。機能していたとしても、神経を撃ち抜かれてしまったら、ブラックジャックのような天才外科医にでも頼まなければどうしようもなかった。
「だったら、なぜ殺さない?」
殺してくれ、と思った。
ハルミを追いかけることもできなくなったこの身体にもう意味はない。
「タカミさんが悲しむからだ」
そんな理由か。
一条はもはや笑うしかなかった。
その前に自宅警備員がひとり死ぬだけだ。かわいそうにな。お前のせいで、今度はお前が殺した彼女の兄貴が死ぬぞ。もちろん、外せばお前も死ぬぞ」
「あんたにタカミさんを撃てるのか?」
「撃てないと思われていることに、むしろ驚きすら覚えるよ」
「違うよ。安全装置がかかったままの銃で、人が撃てるのかを俺はあんたに聞いてるんだよ」
一条は舌打ちした。図星だった。
「あんたはさっきタカミさんをその銃で殴った。
素人ならまだしも、安全装置がかかってなかったら暴発する可能性があることくらい、銃の扱いに長けた元刑事さんならよくわかってるはずだ」
「ガキのくせに、まったくよく見ていやがる」
タカミもこのガキも、ろくに世間も知らないくせに、昔からそこらへんの下手な大人たちより目ざといのが気に入らなかった。
さっさと始末しておくべきだった。
「セーフティロックを解除している間に、俺はお前に撃たれて終わりか……
まさかこの俺がこんなガキにな……」
一条は死を覚悟した。そんな風に見えるよう装った。
タカミがそばにいる限り、目の前の雨合羽のガキが自分を撃ってくることはないだろう。必ず拳銃を奪い取ろうと近づいてくる。そのときがチャンスだった。
拳銃を逆に奪い取ることは容易い。ついでに両腕をへし折ってやればいい。それには2秒もかからない。首の骨をへし折るのをオプションでつけてやってもコンマ数秒加算されるだけだ。
一条は警察学校でただ訓練を受けただけではない。主席で卒業した。その後も公安の連中やSP、時には自衛官を相手に学んだ技を磨き上げていた。
相手を徹底的に無力化、あるいは殺害するために必要な筋肉だけを鍛え、他の不要な箇所の筋肉がそぎおとされたその身体は、一見華奢に見えるがもはや全身が凶器だった。
その瞬間、脱ぎ捨てられた雨合羽が、一条の顔を覆った。
間髪入れず、拳銃を持つ手と、利き足を撃ち抜かれた。
冗談だろ、と思った。まさかこんなガキが、と。
利き足に撃たれた銃弾は正確に関節を撃ち抜いてきていた。
右手はもう拳銃を握るどころか、ペンを握ることさえ難しいかもしれない。そういう場所を撃ち抜いてきていた。
「冗談で拳銃を人に向ける奴がいるのか?
俺はガキだけど、昔の不良が持ってたバタフライナイフとは、これを持つ訳が違うんだよ」
思考さえも読まれていた。
冗談だろ、と思いはしたが、口にした覚えはなかった。
一体どれだけの修羅場を経験してきたら、まだ18歳の少年が命のやりとりで自分をこうも簡単に負かすことができるのか。
少年の背丈や顔立ちや声が、4年前とまるで変わっていないことが逆に恐ろしかった。
普通は命のやりとりをいくつも経験すれば、顔つきや声色が変わるものだ。
人の命を奪うということはそういうことだった。
一条がそうだった。
奪ってきた命を背負っているつもりは彼にはなかった。警察官である彼に命を奪われるということは、それだけのことをしたのだ。だから背負う必要はない。そう考えていた。
だがそれでも、顔つきや声色は自分の意思に反して勝手に変わっていくものだ。
こいつは、人の命を奪うことについて考えたことすらないということか。
「ユワを殺したときに70億人分考えた。それ以上考える必要はもうないだろ」
また思考を読まれた。
「確かにそれ以上考える必要はないよな……」
そうだった。
一条が一度だけこの少年に会ったとき、彼はすでに恋人をその手にかけた後だった。
だから一条が知る4年前の彼と今の彼は何も変わっていないのだ。
体勢を崩した瞬間、さらに2発銃弾を撃ち込まれた。今度は両脚の神経を正確に撃ち抜かれた。
「あんたがタカミさんを裏切るなら、俺はあんたを容赦しない」
この両脚はもう二度と動くことはないだろう。
医療機関はとうに機能していない。機能していたとしても、神経を撃ち抜かれてしまったら、ブラックジャックのような天才外科医にでも頼まなければどうしようもなかった。
「だったら、なぜ殺さない?」
殺してくれ、と思った。
ハルミを追いかけることもできなくなったこの身体にもう意味はない。
「タカミさんが悲しむからだ」
そんな理由か。
一条はもはや笑うしかなかった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう
やまたけ
ファンタジー
左腕と左目に最先端の技術を組み込まれたサイボーグ、彼女の名は大島美玖。その下の名から親しい友人からは「ミーク」というあだ名で呼ばれていた。
彼女は西暦3000年は経過した地球にて、人類の愚かな所業により、破滅まで後一歩のところまで来ていた中、自身に備え付けられた最新鋭の武器を用いながら必死に抗い生き延びていた。だがその抵抗虚しく、大量の自動攻撃型ドローンの一斉攻撃に遭い絶命してしまう。
しかし死んだ筈の彼女は目を覚ます。するとそこは、これまで見た事の無い、魔法や魔物が存在する世界だった。
近未来サイボーグが異世界で様々なトラブルに巻き込まれながら、とある想いを捨てきれずも精一杯生きていく物語。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
私をこき使って「役立たず!」と理不尽に国を追放した王子に馬鹿にした《聖女》の力で復讐したいと思います。
水垣するめ
ファンタジー
アメリア・ガーデンは《聖女》としての激務をこなす日々を過ごしていた。
ある日突然国王が倒れ、クロード・ベルト皇太子が権力を握る事になる。
翌日王宮へ行くと皇太子からいきなり「お前はクビだ!」と宣告された。
アメリアは聖女の必要性を必死に訴えるが、皇太子は聞く耳を持たずに解雇して国から追放する。
追放されるアメリアを馬鹿にして笑う皇太子。
しかし皇太子は知らなかった。
聖女がどれほどこの国に貢献していたのか。どれだけの人を癒やしていたのか。どれほど魔物の力を弱体化させていたのかを……。
散々こき使っておいて「役立たず」として解雇されたアメリアは、聖女の力を使い国に対して復讐しようと決意する。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる