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第3章 第8話
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新生アリステラ王国の女王、アリステラピノアは、テレビ画面の中で演説を続けていた。
「まずは今、世界中の皆さんが疑問に思っているであろうことを説明させて頂きます」
冷静に、淡々と話すその様子は、明るい性格だったユワと同一人物であるとは思えなかった。
やはり、千年細胞はテセウスの船なのか。姿形はそのままでも別人を生み出してしまうのだろうか。彼女はもうユワではないのだろうか。
「なぜ世界中が深刻な電力不足にあえいでいる中、あらゆる映像端末が起動し、この映像が映し出されているのかについてです」
女王は、彼女の周りにゆっくりと浮かぶ、無数の蛍のような翡翠色の淡い光に視線を向けた。
ショウゴがその光を知っているかのような反応を見せた。
「知っているのか?」
タカミは真夜中に街に出ることがなかったため、それを目にしたことがなかったが、
「ユワが死んでから、この街に雨が降り続くようになって、それから真夜中によく見かけるようになったんだ」
ショウゴはその光をよく知っていた。それから、あっ、という顔をしたので、君が夜中に出かけていることくらい気づいてたよ、とタカミは伝えた。
「アリステラには、電力に代わる物質が大気中に存在します。
それが、この淡い光です。
この光は蛍のように見えるかもしれませんが、そうではありません。
アリステラにのみ存在する『エーテル』と呼ばれている万能物質です。
エーテルは、アリステラの清き水の流れからのみ生まれ、このように淡い光を放つのは、ほんの少しの間だけ。
やがて大気に溶け、酸素や二酸化炭素などといった大気中の成分と同様に、人の目には見えなくなります。
エーテルは大気中に存在するだけで、電子機器に必要な電力を与えます」
現代以上の科学力を持つ超古代文明というより、まるで異世界の魔法の話を聞かされているようだった。あまりに高度な科学力は魔法のように見えるということだろうか。
「大和ショウゴさんによる雨野ユワの殺害以降、彼女が殺害された雨野市に、一年中雨が降り続けていることは皆さんもご存知のことでしょう」
ショウゴは、ユワの顔と声で語られるその言葉に、苦悶の表情を浮かべた。
彼女がユワならば、この放送を見ているだろう彼を傷つけるような表現やユワの死を他人事のように表現することはないはずだった。
こいつはユワじゃないと言ってやりたかった。
だが、それは一筋の希望を、光を、ろうそくに灯った灯りを吹き消す言葉だった。そのろうそくは死神が吹き消すショウゴの命のろうそくだった。
「あるいは、この数年の間に、世界各地で記録的な降水量を記録した大雨。
これらの雨はすべて、アリステラの清き水。
それが川から海へと流れ出て行き、4年の歳月をかけて、エーテルが満ち満ちた今の世界を作り出したのです」
彼女がユワなのか、そうではないのか、現時点ではどれだけ考えたところで答えは出ない。憶測の域を出ない。情報があまりにも少なすぎた。
ユワは洗脳されてしまったのだとも考えられるし、女王はユワの双子の姉妹やクローンという可能性も考えられた。
どちらにせよタカミもショウゴも彼女がユワ自身であることを何よりも望んでいた。彼女を取り戻したいと考えていた。
「わたしは先ほど、エーテルは万能物質であるとお伝えしました。
つまり、電力となるだけでなく、他にも様々な活用方法があるということです。
そのひとつが電波としての活用。
わたしがこのように世界中の映像端末にリアルタイムで映像を配信できているのもまた、エーテルが電波の役割を果たしているからです」
だからスマホやパソコンがインターネットに繋がるというわけだ。
それに電力と電波は決して無関係というわけではない。電波とは電磁波の一種であり、空間を伝わる電気エネルギーの波のことだからだ。
「そして、この放送は、アリステラの言語でお届けしています。
世界中の皆さんは今、わたしが話すアリステラ語を通訳を必要とせずご理解頂いていらっしゃるはず。
これもまた、エーテルによる作用です。
呼吸により体内に取り込まれ、酸素と共に脳内に運ばれたエーテルが一定量に達すると、脳があらゆる言語を自動的に翻訳するようになります。
アリステラ語だけでなく、皆さんは今、世界中の言語を互いに理解できるのです」
「まずは今、世界中の皆さんが疑問に思っているであろうことを説明させて頂きます」
冷静に、淡々と話すその様子は、明るい性格だったユワと同一人物であるとは思えなかった。
やはり、千年細胞はテセウスの船なのか。姿形はそのままでも別人を生み出してしまうのだろうか。彼女はもうユワではないのだろうか。
「なぜ世界中が深刻な電力不足にあえいでいる中、あらゆる映像端末が起動し、この映像が映し出されているのかについてです」
女王は、彼女の周りにゆっくりと浮かぶ、無数の蛍のような翡翠色の淡い光に視線を向けた。
ショウゴがその光を知っているかのような反応を見せた。
「知っているのか?」
タカミは真夜中に街に出ることがなかったため、それを目にしたことがなかったが、
「ユワが死んでから、この街に雨が降り続くようになって、それから真夜中によく見かけるようになったんだ」
ショウゴはその光をよく知っていた。それから、あっ、という顔をしたので、君が夜中に出かけていることくらい気づいてたよ、とタカミは伝えた。
「アリステラには、電力に代わる物質が大気中に存在します。
それが、この淡い光です。
この光は蛍のように見えるかもしれませんが、そうではありません。
アリステラにのみ存在する『エーテル』と呼ばれている万能物質です。
エーテルは、アリステラの清き水の流れからのみ生まれ、このように淡い光を放つのは、ほんの少しの間だけ。
やがて大気に溶け、酸素や二酸化炭素などといった大気中の成分と同様に、人の目には見えなくなります。
エーテルは大気中に存在するだけで、電子機器に必要な電力を与えます」
現代以上の科学力を持つ超古代文明というより、まるで異世界の魔法の話を聞かされているようだった。あまりに高度な科学力は魔法のように見えるということだろうか。
「大和ショウゴさんによる雨野ユワの殺害以降、彼女が殺害された雨野市に、一年中雨が降り続けていることは皆さんもご存知のことでしょう」
ショウゴは、ユワの顔と声で語られるその言葉に、苦悶の表情を浮かべた。
彼女がユワならば、この放送を見ているだろう彼を傷つけるような表現やユワの死を他人事のように表現することはないはずだった。
こいつはユワじゃないと言ってやりたかった。
だが、それは一筋の希望を、光を、ろうそくに灯った灯りを吹き消す言葉だった。そのろうそくは死神が吹き消すショウゴの命のろうそくだった。
「あるいは、この数年の間に、世界各地で記録的な降水量を記録した大雨。
これらの雨はすべて、アリステラの清き水。
それが川から海へと流れ出て行き、4年の歳月をかけて、エーテルが満ち満ちた今の世界を作り出したのです」
彼女がユワなのか、そうではないのか、現時点ではどれだけ考えたところで答えは出ない。憶測の域を出ない。情報があまりにも少なすぎた。
ユワは洗脳されてしまったのだとも考えられるし、女王はユワの双子の姉妹やクローンという可能性も考えられた。
どちらにせよタカミもショウゴも彼女がユワ自身であることを何よりも望んでいた。彼女を取り戻したいと考えていた。
「わたしは先ほど、エーテルは万能物質であるとお伝えしました。
つまり、電力となるだけでなく、他にも様々な活用方法があるということです。
そのひとつが電波としての活用。
わたしがこのように世界中の映像端末にリアルタイムで映像を配信できているのもまた、エーテルが電波の役割を果たしているからです」
だからスマホやパソコンがインターネットに繋がるというわけだ。
それに電力と電波は決して無関係というわけではない。電波とは電磁波の一種であり、空間を伝わる電気エネルギーの波のことだからだ。
「そして、この放送は、アリステラの言語でお届けしています。
世界中の皆さんは今、わたしが話すアリステラ語を通訳を必要とせずご理解頂いていらっしゃるはず。
これもまた、エーテルによる作用です。
呼吸により体内に取り込まれ、酸素と共に脳内に運ばれたエーテルが一定量に達すると、脳があらゆる言語を自動的に翻訳するようになります。
アリステラ語だけでなく、皆さんは今、世界中の言語を互いに理解できるのです」
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