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第3章 第3話

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 タカミには、彼女がまるで自分に話しかけているように見えた。

 彼女は、自分がユワの、アリステラの王族の最後の末裔の、血の繋がらない兄だということを、最初から知っていたに違いなかった。
 だから、かつて自分に近づいてきたのだ。

 だとしたら。

 ユワの存在を知っており、その居場所も把握していたであろう彼女が、自分に近づいてきた理由は何だ?
 そんなことをあえてする必要が一体どこにあったのか、タカミにはわからなかった。

 彼女が自分に教えてくれたことや、自分に語ったことの中に、もしかしたらこれから起きるさらなる災厄を回避するためのヒントがあるのかもしれない。
 いや、自分ならそんな風に考えるだろうという、彼女の仕掛けたトラップのひとつに過ぎないのかもしれない。


「俺が、ユワを殺してしまったから……?
 だから……世界が……終わる……?」

 ショウゴは、虚ろな目をしてタカミを見ていた。
 だが、その瞳にタカミの姿は映ってはいなかった。
 何も見えていないように見えた。

 逃げることに疲れ果てていたふたりが、いつまでも逃げ続けることが出来たとは思えなかった。

 ショウゴが殺さなくとも、タカミの両親が暴徒化した人々にされたように、別の誰かがユワを殺していただろう。

 絞殺が楽な死に方だとは決して言えないが、相手がショウゴでなければ、ユワはどんな目に遭い、どんな殺され方をすることになかったかわからない。

 だが、それを彼に告げたとして、彼がユワを殺したという事実が変わることはない。どんな言葉をかけたとしても慰めの言葉になりはしない。

 この数年間、ショウゴは何度自ら命を絶とうとしたかわからなかった。

 ユワを殺したことで、世界があらゆる災厄から免れられたなら、彼のしたことには意味があり、彼は救世主や英雄と呼ばれていたかもしれない。
 だが、そうはならなかった。
 災厄は収まるどころか、悪化し続け、たった数年で人が人を喰らわなければ生きていけないような世界になってしまった。

 今になって、アリステラの仕掛けたトラップのカラクリを知らされることが、ショウゴにどれだけの絶望を与えたか、タカミには想像もつかなかった。

 ユワを守ってあげられなかったタカミと、ユワを直接手にかけたショウゴとでは、背負っているものがあまりにも違いすぎた。

 ショウゴは、ユワと一緒に死なせてやるべきだったのかもしれない。
 それは、この数年ずっと考えてきたことだった。
 そして、それはきっと今からでも遅くはない。
 ショウゴのこの先の人生に待っているのは、更なる絶望だけだ。

 タカミの考えが正しければ、一筋の希望もないわけではない。
 だが、もしそれが希望でもなんでもないものであったとしたら。

 タカミはもう一度部屋に戻ることにした。
 護身用に念のため手に入れていたそれを、本当に使うときが来ることになるとはタカミは想像もしていなかった。
 いや、少しは想像していた。
 だが、それは自分ではなく、ショウゴを守るための想像だった。
 ショウゴを殺すために使うことこそ全く想像したことがなかった。

「今、楽にしてあげるよ」

 部屋から戻ってきたタカミは、その手に握った拳銃をショウゴに向けた。
 乾いた銃声が響いた瞬間、


「今日この時、わたくし、アリステラピノアの名において、アリステラ王国の再興を宣言致します」


 アリステラピノアは、ユワの顔と声で、そう高らかに宣言した。

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