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第2章 第1話

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 きっと雨野タカミは、自分が真夜中に出かけていることに気づいているだろう。雨合羽を着て街に出た少年は、そんなことを考えた。

 いくら何もすることがないとはいえ、まだ二十代後半の彼が、毎晩10時に規則正しく就寝するはずがないからだ。入院患者でも消灯と同時には寝ない。
 むしろ眠れない夜を過ごしているはずだった。いつも目の隈がひどかったし、数日に一度、まるで意識を失うように、どこ彼かまわず倒れるように眠りにつくことがあった。きっとあれ以外では眠ることができないのだろう。
 兄は嘘が下手だと、少女からも聞いていた。やましいことがあるときは顔を見ればすぐにわかる、と。
 彼はそういう人だった。

 この雨野市では、一年中降り続く雨のおかげで、市外に比べ疫病の感染率が低く、ほとんどゼロに近い。
 疫病の感染は気にする必要がなく、街を出歩く際に気を付けなければいけないのは暴徒だけだった。

 少年はマンションから5分ほど歩いたところにあるコインロッカーの前で足を止めると、首にかけたネックレスの先についた鍵で、コインロッカーのひとつを開けた。
 中にはサバイバルナイフと拳銃、そのふたつを納められる手製のガンベルトが入っている。少年は雨合羽の下にすばやくそれを装着した。
 護身用などという甘いものではなく、少年は明確な殺意を持って、それを身につけていた。
 雨合羽も、一見武装していることがわからないようにするためであり、雨を避けるためのものではなく、血渋きを避けるためのものだった。

 タカミは少年が真夜中に街で何をしているかまでは知らないだろう。
 だが、薄々勘づいてはいるはずだった。
 夏場に首元の広いタンクトップを着ていた少年が前屈みになったとき、タカミの目の前でコインロッカーの鍵がこぼれ落ちたことがあったからだ。
 あのとき、きっと何かしらには気づいたはずだ。
 街に出かけた際に使用しており、部屋には持ち帰れず、コインロッカーに隠さなければいけないものがあるのだと。

 少年はいつも首に、シルバーのチェーンに少女と買ったペアリングをふたつ引っ掛け、ネックレスにしてかけていた。
 たまに、今夜のように、そのネックレスのチェーンが二重になっていることがある。
 そんな夜は、少年が狩りをする夜だった。

 暴徒は食糧を求めて人間を狩る。

 その暴徒を狩るのが少年だ。

 少年は、人間は大きく二種類に分けられると知っていた。
 金や食糧に困ったときに、他者から奪ってでもそれを手に入れようとする者と、そんな状況下にあっても決してそうはしない者だ。

 少年が愛した少女を生け贄に捧げようとした人々は前者であり、彼らは今暴徒と化している。
 生け贄になるのが、少女から別の対象に移っただけだ。

 少年は、暴徒化するような人間が心から憎かった。
 誰ひとり生かしておこうとはどうしても思えなかった。
 だから、見つけ次第ためらいなく射殺する。あるいは心臓を一突きする、頸動脈を切り裂くと決めていた。


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