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第21話

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「宮沢さんのお気に入りの子、なんて言いましたっけ?」
「あ、サコちゃん? 今日は……いない、みたいですね……」

 コスプレカフェに入店したものの、一気にテンションの下がる俺。
「どうします、宮沢さん。ここは生絞り、いきますか?」
 この店には店員さんの名前がついたカクテルの他に、店員さんが目の前で果物を生絞りしてくれるサワーがある。
「いや、いいです……サコちゃん今日いないし……」
 俺のテンションの下がりぶりは筆舌に尽くしがたいほどだった。
「改めて聞きますけど、藤本さんはオタクじゃないの? 腐女子なの?」
 という、俺の問いに、
「いいえ、オタクではありません。腐女子です」
 と、またも平然と答える藤本花梨。

「今にもレイプされそうな女の子を助けるとするじゃないですか。
『あのお名前を……』
 そう訪ねられたりするじゃないですか。
 わたしはそのときこう答えます。
『いえ、名乗るほどのものではありません。
 ただの腐女子です!』」

 意味不明なエピソードもさることながら、21歳の女の子が、再び肉声でレイプ。大事なことだから2回言ったのだろうか。
 そんな彼女は生搾りに興味がある様子で、
「わたし、ここはひとつ生絞りいってみたいと思うんです」
 生絞りオレンジチューハイを頼んだ。
 漫画ローゼンメイデンの作者PEACH-PIT先生の、ローゼンメイデンじゃないマイナーな漫画のコスをした店員のみちさんがぼくたちのテーブルに生絞りにやってきた。
「お客様は今日ははじめてのご来店ですか?」 
 と店員さんに聞かれ、
「あ、二度目です」
 と、俺。
「VIP5(ポイントカード6枚目)ですわ!」
 藤本花梨は、みちさんにVサインした。
「それでは生絞りさせていただきます」
 Vサインは無視されて、生絞りが始まり、

 ぎゅっぎゅっ。

 みちさんの白く細い指がオレンジを生絞りしていく。

 ぎゅっぎゅっ。

 その手をじっと見つめる俺。
「すみません。こちらのお客様、めっちゃガン見してるんですけど」
 と、藤本花梨にみちさん。
「あ、この人こういう人なんで……」
 と、みちさんに藤本花梨。
「いやぁ、いいですね、生搾りは見てるだけで幸せな気持ちになりますね。
 みちさんの細い指で、ぎゅっぎゅってオレンジがしぼられる、ぼくのために絞ってくれてるって考えるだけでゾクゾクします」
「宮沢さんのためじゃないです……みちさんはわたしのために生搾りを……」
「ゾクゾクします!」
 みちさんは少し震えながら後ずさりをするように俺たちのテーブルをあとにした。

 このお店、長居する客が多いせいか、お水はご自由にお飲みください、と、店の入り口にどんと置かれていたりする。
 藤本花梨は気遣いのよくできる女の子で、俺の空になったグラスにお水を注いでくれた。
「はい、渉お兄ちゃん」
 と、グラスを手渡され、俺は2秒で藤本花梨に恋に落ちた。まぁ、嘘だけど。
 しかしながら、我ながら俺を落とすのはとても簡単だと思う。
 俺はグラスを受け取りながら、
「ももも、もう一回、もう一回お兄ちゃんて呼んで!」
 お兄ちゃんの一言で、俺はもう藤本花梨にメロメロになってしまったのだった。年上だけど。

 ところで、この店にはスタッフ気まぐれパフェというものがある。
 月変わりで変わり、質問するとどんなパフェか普通に答えてくれる、あまり気まぐれではないパフェがあるのだ。
 いい塩梅に酔いもまわってきて、おなかも膨れてきた頃、そろそろスタッフ気まぐれパフェでも頼んで、おいとましましょうかという話になった。
「パフェをふたりでレイプする感じで食べましょう!」
 どうやら藤本花梨はレイプと言いたくて仕方がないお年頃のようだ。
 それならばと、
「レイプ」
「レイパー」
「レイペスト」
 の掛け声で俺たちは雪だるまの形をしたアイスクリームに、スプーンをざくりざくりと突き刺したのだった。
「レイプ」
「レイパー」
「レイペスト」
 雪だるまが崩れていきます。
「レイプ」
「レイパー」
「レイペスト」
 生クリームをスプーンですくい、
「あら、こんなにクリームを出しちゃって」
 と、藤本花梨。
「ここか? ここにスプーンがほしいのか?
 わたしの大事なところにスプーンをいれてくださいって言いなさい!」
 俺はこの日、藤本花梨の本性を見た。
「腐女子自重しろ」
 という言葉を俺が口にしたのは、生まれてはじめてのことだった。
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