大学デビューに失敗したぼくたちは

雨野 美哉(あめの みかな)

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第20話

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「宮沢さん、この間麻衣さんとアリスカフェに行かれたそうですね?
 今度はぜひ私とふたりで大須に遊びにいきませんか?」

 藤本花梨からのメールに誘われて、大須へと繰り出したのは翌週末の土曜のことだった。

「ただしその日は就活イベントの帰りのため、わたしはリクルートスーツ仕様になりますが……」

 加藤麻衣や小島雪よりひとつ年上、3年生の藤本花梨はすでに就職活動中をはじめており、リクルートスーツで来るとのことだった。
 面接ごっこ的な新しいプレイを開拓できるかもしれないと思ったのは内緒だ。

「普段の私を考えると斬新な格好になりますが、ピザデブ腐女子なのでスーツをレイプしてしまってる可能性が……」

 レイプて。
 21歳の女の子が男子とのメールのやりとりでレイプて。
 しかし当日になって、やむにやまれぬ用事があり就活イベントを諦めた藤本花梨は私服でやってくると連絡があった。
 やむにやまれぬ用事が何なのかは聞かないでおくことにした。
 どうせろくでもない用事に決まっている。
 しかし、藤本花梨も、加藤麻衣や小島雪に負けない、お洒落で小さくかわいらしい女の子で、
「なぜリクルートスーツで着てくれなかったんですか……」
 それが俺の第一声だった。
 本当に、面接ごっこ的な新しい遊びを開拓できたかもしれないのに!
「お酒でも飲みに行きましょう」
 藤本花梨に誘われて、俺たちは再びコスプレカフェへ向かうことになった。
 俺には前回行ったときにお気に入りの女の子ができていた。
 あずまんが大王のちよちゃんのコスプレをしていた女の子だ。
 家に帰ってから、ちゃんとネットで調べたのだがサコちゃんというらしい。
 コモックへ向かう道中で、
「そういえば、加藤さんとずいぶん仲がいいみたいですけど、藤本さんも腐女子なんですか?」
 という、俺の問いに、
「はい、腐女子です」
 と平然と答える藤本花梨。
「というより、麻衣さんに腐女子を感染されました」
 藤本花梨は笑いながら言った。
 加藤麻衣が宇宙考古学研究会を乗っ取ってすぐ(藤本花梨は決してそんな言い方はしないが実際にはそう見るのが普通である)、藤本花梨のマンションにはBL同人誌が大量に詰め込まれたダンボール箱が送られてきたのだという。
「おかげさまで今では知識は麻衣さんにも負けませんよ」
 藤本花梨は自慢げにそう言った。

「今にもレイプされそうな女の子を助けるとするじゃないですか。
『あのお名前を……』
 そう訪ねられたりするじゃないですか。
 わたしはそのときこう答えます。
『いえ、名乗るほどのものではありません。
 ただの腐女子です!』」

 意味不明なエピソードもさることながら、21歳の女の子が、レイプである。
 今度はメールではなく、肉声でレイプである。

「消しゴムと鉛筆の関係がわたしたちの腐女子の永遠のテーマだと思うんです。
 わたしは消しゴムの童貞攻めだと思うんですけど、でも消しゴムの誘い受けだって言われたら否定できないわたしがいるんです」

「わたしはオヤジ好きで、プロ野球選手ものや、政界ものにぐっとくるものがあるんですよ。
 プー○ン大統領は誘い受け、ローマ○王はヘタレ攻めだとわたしはよく妄想をして楽しんでいたりします。
 その妄想だけで一日過ごせてしまう自分が少し怖いです」

 藤本花梨はかなり誇らしげの表情で、さすが加藤麻衣の友人だけあるなと思った。
 そんな彼女はカウボーイビバップのジェットが嫁だそうだ。
 ジェットの嫁じゃなくて、ジェットが嫁なのだそうだ。

 まだ五時過ぎ。
 飲むには少し早い時間だった。
 コモックに向かう途中にあるゲーマーズの前で、
「折角だから抱き枕でも見ていきましょうか?」
 という俺の提案に、
「み、み、み、見たいです!」
 藤本花梨まさかの食いつきぶり。
 いつかアニメキャラクターの抱き枕を買うのが、高校時代からの俺の夢だった。
 俺は早速ゲーマーズの三階で、
「これがぼくがいつか買おうと思ってる抱き枕なんですが……」
 その抱き枕は、ダカーポというエロゲーのヒロインだ。
 俺はまだそのエロゲーどころかエロゲーというもの自体やったことがない。エロゲーとネトゲには手を出さないと決めていた。一度手を出したら、俺は確実に廃人になることが自分でよくわかっていたからだ。
 そんな俺だったが、数ヶ月前そのキャラクターに一目ぼれしてしまった。
「この抱き枕、裏返すとこんないやらしい格好をしてるわけなんですけど……」
「ほうほう」
「このリボンをね、口にくわえてるのがグッときませんか?
 リボンを口にくわえてるのがグッときませんか!?」
 なぜか二度言う俺に、
「グッときます!」
 藤本花梨がサムズアップで返してきた。
「これとこれも、裏返すとこんないやらしい格好をしてるわけなんだけど……」
「ふむふむ」
「この片手に持った持った携帯に、グッとくるものがない?」
「グッときます!」
「その携帯でどんな写メをとられたいんだい?
 どんな動画をニコ動にアップされたいんだい?ひっひっひっ」
「…………」

 ……ひくなよ、腐女子。

 そしていよいよ俺たちはコスプレカフェへ。


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