大学デビューに失敗したぼくたちは

雨野 美哉(あめの みかな)

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第15話

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「いらっしゃいませー」
 新歓コンパ前に少し暗い気持ちになってしまった俺たちだったが、コスプレカフェの店員さんに迎えられて店に入った。
「ハ、ハ○ヒだ! 涼宮ハ○ヒだ! な、なつかしい!」
 俺はなぜか店員さんがコスプレしていたキャラの名前を二度連呼してしまった。
 それくらいそのコスプレが似合っていて、何よりかわいかったからだ。
 昨日のメイドカフェもかわいい子ばかりだったが、今日のこの店も負けていない。
 ハ○ヒのコスプレをした店員さん(たまおきちゃんというらしい)に案内され、俺たちは席についた。
 本日のおすすめはどて丼とのこと。どて丼は単品でも700円するが、本日のオススメになるとスープがついて700円とかなりお得になる。
「でも、どて丼て気分じゃないよね……」
 俺たちはそう言いながらもその安さにひかれ、四人そろってとりあえず本日のおすすめを頼んだ。新歓コンパの一品目が人数分のどて丼だなんて、世の中広しといえどこの大学デビュー部くらいのものだろう。
 昨日のメイドカフェにもメイドさんの名前のついたドリンクがあったが、この店にもコスプレ店員さんの名前のついた店員さん考案のオリジナルカクテルがあった。ありがたいことにノンアルコールもあった。
 その中から、昨日と同じように今日出勤している店員さんのノンアルコールカクテルをそれぞれ頼んだ。
 俺は「まひろ」。
 まひろはメニューによれば「冷徹なる終撃(目が霞む・・・)」そうだ。全く意味がわからない。中二病なの?
「宮沢渉、今の子はたまおきちゃんだぞ? ちゃんとたまおきちゃんのカクテルを頼まなくきゃだめじゃないか」
 加藤麻衣にそう言われ、しまったそういうことか! と俺は自分の浅はかさを、爪の甘さをのろった。
 もし、俺がたまおきちゃんに、たまおきちゃんのカクテルを注文していたら……
「キャ☆ たまおきの考えたカクテル選んでくれたんですね☆ たまおきうれしい☆ たまおきね、もうお兄さんのお願い事なんでも聞いてあげちゃう☆」
 なんてことになっていたかもしれない。
「え? たまおきのこの衣装、脱がせたいの? もう、やだ、エッチなんだからー☆ でもいいよ? ちょっとこっちに来て☆ あせっちゃだめ☆ 他のお客さんに気づかれちゃうから☆」
 なんてことになっていたかもしれない。
 俺の胸に飛び込んでこい、たまおき! 抱いてやる!!
 とまぁ、そんな世迷いごとはさておいて、
「宮沢渉、たまおきちゃんの絶対領域ばっかりに見とれてて、名札まで見てなかったな?」
 たまおきちゃんは確かに素晴らしい絶対領域をしていらしたので、俺は加藤麻衣に何の反論もできなかった。
 俺たちが案内されたのは店内の一番入り口側の席。
 奥の席に比べると、コスプレ姿の店員さんたちの姿をあまり堪能することができないのが少し残念である。
 カウンターの位置が高く、カウンターの中でカクテルを作る店員さんたちの姿もお顔を拝むくらいで精一杯だ。
 落ち着いた雰囲気のメイドカフェに比べ、終始アニメソングが流れる店内。
 俺たちは注文したメニューがテーブルに並ぶまでの間、きょろきょろと辺りの様子を伺った。
「宮沢さん、あ○まんが大王のちよちゃんもいますわよ!」
「ほ、本当だ! あ、あの子の絶対領域もいいね! いいね!」
 気がつけば俺の目はもはや絶対領域にしか向けられてはいなかった。
 本日のオススメとカクテルがぼくたちのテーブルに運ばれてきたときも、俺はやっぱり絶対領域しか見ていなかった。
「あの絶対領域を撫で回したい。嘗め回したい」
 そんな台詞まで言って三人をひかせたとかひかせなかったとか。いや、引いてたなあれは。 俺はどうもこの手のお店にくるとたがが外れてしまうようだ。これが男の性というやつだろうか。
 女性陣に嫌われてしまい、大学デビュー部にまで居場所がなくなるのは困るので、俺は少し冷静になるためにもメニューに目を落とすことにした。
 そして俺は、目を疑った。
 俺はメニューのある部分を指差す。
 そこにはこう書かれていた。

 ¥1800~ボトルキープができます。お気軽に店員までお申し付け下さい。
  ただしボトルキープは当店ポイントカードがVIP5以上の方とさせて頂きます。詳しくはスタッフまでお問い合わせ下さい。

「あの、このポイントカードがVIP5以上ってどういう意味です?」
 俺は加藤麻衣に尋ねた。
「この店のシステムを少しだけ説明しよう」
 加藤麻衣はカクテルを一口飲むと言った。
「この店のポイントカードは、1000円ごとの支払いでポイントが貯まる仕組みだ。
 ポイントが20ポイントMAXまで貯まると、お店の女の子全員と記念撮影ができる」
 ポイントカードVIP5以上とはつまり、最低5回は記念撮影をし、最低10万はこの店に注ぎ込んだ猛者たちだということである。
「ぼくたち以外のお客さん、全員ボトルキープみたいなんですけど……」
 店内を見渡して、俺たち以外、全員常連だ……俺はその恐怖にうちひしがれた。
 そんな俺に三人はそれぞれポイントカードを差し出した。
 俺は戦慄を覚えざるをえなかった。三枚ともVIP5と書かれていたからだ。
 朦朧とする意識の中、俺はさらなる光景を見ることになる。
「みなさん、ちょっとあそこの席見てください…。テーブルの上に、テーブルの上に鉄道模型を飾っている人がいるんです……。しかもあの人、昨日メイドカフェにいた人と同じ人ですよね? でもあの人、今日はやたらと四車両目の角度を気にしているんです……」
 昨日は確か三両目の角度を気にされていたはずだ。 
 俺に促されるまま、皆がそのテーブルを見ると、やはり俺の見間違いや錯覚ではないようで、確かにメイドカフェにいたとてもご主人様とは程遠い外見をされたハゲ散らかした方が、鉄道模型の四車両目の角度をやたらと気にしていた。
 注文を伺いにやってきたちよちゃんに、注文そっちのけで鉄道の話をする鉄道模型の四車両目の角度をやたらと気にする男性。
「あ、これ、○○線のなんとか××号ですよね!」
 鉄道オタクのご主人様に話をあわせられるちよちゃんは、まさしくあ○まんが大王のちよちゃんそのままで、俺はまたしてもプロフェッショナルを感じたりしたのだが、俺が見ていたのはただただちよちゃんの絶対領域だった。
 小島雪が言う。
「男ってさ、みんな若い頃は女の胸が好きじゃん? でも段々年を重ねるにつれて、胸からおしりやふとももに興味がうつっていくんだって。それがおじさんになっていくっていうことなんだってさ」
 そんな小島雪の話を聞きながらも、ちらりちらりと店員さんの絶対領域ばかり目がいってしまう俺がいた。
「宮沢って、もうおじさんだよね。キモ」
 まだ18歳だというのに、もうすでに若者ではなくおっさんだと告げられしまった俺は、
「はっはっは、そんなばかな。何を言う。小島さん何を言う」
 ハ○ヒのコスプレをしたたまおきちゃんの絶対領域を眺めながら、たまおきちゃん考案のカクテルとから揚げとポテチのセットを追加注文した。
 
 店内にはカラオケのステージがあった。
 いつの間にか入店から四時間近くが過ぎており、九時が近づく頃、マイク片手にそこに立つちよちゃん。
「それではラストオーダーのお時間になりましたので、お客様のもとにラストオーダーをお伺いにまいります。皆さんにラストオーダーをお伺いしたあとは、恒例のイベントをはじめさせていただきます。皆さんご参加くださいねー」
 こ、こ、恒例のイベントとな!?
 俺はから揚げを食べながら、期待に胸を膨らませた。
 食べ終わったら店を出ようかと話していた俺たちだったが、
「このイベントだけは見て帰りましょうか」
「うん、そうしよ」
 まさかそのイベントが、

 Q1 今年コミケは何周年でしょう? とか、
 Q4 エヴァンゲリオン放送から今年は何年でしょう?

 とか、そんな感じのクイズゲームだとは思いもよらなかった。
 そしてそのクイズゲームが最後までぐだぐだのまま終わるとは思いもしなかった。ちょっとちよちゃん司会下手すぎるんですけど!
 コスプレカフェを出た俺たちは夜のひっそりとした大須の町並みを大須観音駅に向かって歩いていった。
 ちなみに今日のお会計は、新しく作ってもらった俺のポイントカードにはんこを押してもらうことになり、俺は初回にしてVIP1になり、店員さんたちと記念撮影をしてもらった。
 一生の宝物になりそうである。
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