大学デビューに失敗したぼくたちは

雨野 美哉(あめの みかな)

文字の大きさ
上 下
15 / 26

第15話

しおりを挟む
「いらっしゃいませー」
 新歓コンパ前に少し暗い気持ちになってしまった俺たちだったが、コスプレカフェの店員さんに迎えられて店に入った。
「ハ、ハ○ヒだ! 涼宮ハ○ヒだ! な、なつかしい!」
 俺はなぜか店員さんがコスプレしていたキャラの名前を二度連呼してしまった。
 それくらいそのコスプレが似合っていて、何よりかわいかったからだ。
 昨日のメイドカフェもかわいい子ばかりだったが、今日のこの店も負けていない。
 ハ○ヒのコスプレをした店員さん(たまおきちゃんというらしい)に案内され、俺たちは席についた。
 本日のおすすめはどて丼とのこと。どて丼は単品でも700円するが、本日のオススメになるとスープがついて700円とかなりお得になる。
「でも、どて丼て気分じゃないよね……」
 俺たちはそう言いながらもその安さにひかれ、四人そろってとりあえず本日のおすすめを頼んだ。新歓コンパの一品目が人数分のどて丼だなんて、世の中広しといえどこの大学デビュー部くらいのものだろう。
 昨日のメイドカフェにもメイドさんの名前のついたドリンクがあったが、この店にもコスプレ店員さんの名前のついた店員さん考案のオリジナルカクテルがあった。ありがたいことにノンアルコールもあった。
 その中から、昨日と同じように今日出勤している店員さんのノンアルコールカクテルをそれぞれ頼んだ。
 俺は「まひろ」。
 まひろはメニューによれば「冷徹なる終撃(目が霞む・・・)」そうだ。全く意味がわからない。中二病なの?
「宮沢渉、今の子はたまおきちゃんだぞ? ちゃんとたまおきちゃんのカクテルを頼まなくきゃだめじゃないか」
 加藤麻衣にそう言われ、しまったそういうことか! と俺は自分の浅はかさを、爪の甘さをのろった。
 もし、俺がたまおきちゃんに、たまおきちゃんのカクテルを注文していたら……
「キャ☆ たまおきの考えたカクテル選んでくれたんですね☆ たまおきうれしい☆ たまおきね、もうお兄さんのお願い事なんでも聞いてあげちゃう☆」
 なんてことになっていたかもしれない。
「え? たまおきのこの衣装、脱がせたいの? もう、やだ、エッチなんだからー☆ でもいいよ? ちょっとこっちに来て☆ あせっちゃだめ☆ 他のお客さんに気づかれちゃうから☆」
 なんてことになっていたかもしれない。
 俺の胸に飛び込んでこい、たまおき! 抱いてやる!!
 とまぁ、そんな世迷いごとはさておいて、
「宮沢渉、たまおきちゃんの絶対領域ばっかりに見とれてて、名札まで見てなかったな?」
 たまおきちゃんは確かに素晴らしい絶対領域をしていらしたので、俺は加藤麻衣に何の反論もできなかった。
 俺たちが案内されたのは店内の一番入り口側の席。
 奥の席に比べると、コスプレ姿の店員さんたちの姿をあまり堪能することができないのが少し残念である。
 カウンターの位置が高く、カウンターの中でカクテルを作る店員さんたちの姿もお顔を拝むくらいで精一杯だ。
 落ち着いた雰囲気のメイドカフェに比べ、終始アニメソングが流れる店内。
 俺たちは注文したメニューがテーブルに並ぶまでの間、きょろきょろと辺りの様子を伺った。
「宮沢さん、あ○まんが大王のちよちゃんもいますわよ!」
「ほ、本当だ! あ、あの子の絶対領域もいいね! いいね!」
 気がつけば俺の目はもはや絶対領域にしか向けられてはいなかった。
 本日のオススメとカクテルがぼくたちのテーブルに運ばれてきたときも、俺はやっぱり絶対領域しか見ていなかった。
「あの絶対領域を撫で回したい。嘗め回したい」
 そんな台詞まで言って三人をひかせたとかひかせなかったとか。いや、引いてたなあれは。 俺はどうもこの手のお店にくるとたがが外れてしまうようだ。これが男の性というやつだろうか。
 女性陣に嫌われてしまい、大学デビュー部にまで居場所がなくなるのは困るので、俺は少し冷静になるためにもメニューに目を落とすことにした。
 そして俺は、目を疑った。
 俺はメニューのある部分を指差す。
 そこにはこう書かれていた。

 ¥1800~ボトルキープができます。お気軽に店員までお申し付け下さい。
  ただしボトルキープは当店ポイントカードがVIP5以上の方とさせて頂きます。詳しくはスタッフまでお問い合わせ下さい。

「あの、このポイントカードがVIP5以上ってどういう意味です?」
 俺は加藤麻衣に尋ねた。
「この店のシステムを少しだけ説明しよう」
 加藤麻衣はカクテルを一口飲むと言った。
「この店のポイントカードは、1000円ごとの支払いでポイントが貯まる仕組みだ。
 ポイントが20ポイントMAXまで貯まると、お店の女の子全員と記念撮影ができる」
 ポイントカードVIP5以上とはつまり、最低5回は記念撮影をし、最低10万はこの店に注ぎ込んだ猛者たちだということである。
「ぼくたち以外のお客さん、全員ボトルキープみたいなんですけど……」
 店内を見渡して、俺たち以外、全員常連だ……俺はその恐怖にうちひしがれた。
 そんな俺に三人はそれぞれポイントカードを差し出した。
 俺は戦慄を覚えざるをえなかった。三枚ともVIP5と書かれていたからだ。
 朦朧とする意識の中、俺はさらなる光景を見ることになる。
「みなさん、ちょっとあそこの席見てください…。テーブルの上に、テーブルの上に鉄道模型を飾っている人がいるんです……。しかもあの人、昨日メイドカフェにいた人と同じ人ですよね? でもあの人、今日はやたらと四車両目の角度を気にしているんです……」
 昨日は確か三両目の角度を気にされていたはずだ。 
 俺に促されるまま、皆がそのテーブルを見ると、やはり俺の見間違いや錯覚ではないようで、確かにメイドカフェにいたとてもご主人様とは程遠い外見をされたハゲ散らかした方が、鉄道模型の四車両目の角度をやたらと気にしていた。
 注文を伺いにやってきたちよちゃんに、注文そっちのけで鉄道の話をする鉄道模型の四車両目の角度をやたらと気にする男性。
「あ、これ、○○線のなんとか××号ですよね!」
 鉄道オタクのご主人様に話をあわせられるちよちゃんは、まさしくあ○まんが大王のちよちゃんそのままで、俺はまたしてもプロフェッショナルを感じたりしたのだが、俺が見ていたのはただただちよちゃんの絶対領域だった。
 小島雪が言う。
「男ってさ、みんな若い頃は女の胸が好きじゃん? でも段々年を重ねるにつれて、胸からおしりやふとももに興味がうつっていくんだって。それがおじさんになっていくっていうことなんだってさ」
 そんな小島雪の話を聞きながらも、ちらりちらりと店員さんの絶対領域ばかり目がいってしまう俺がいた。
「宮沢って、もうおじさんだよね。キモ」
 まだ18歳だというのに、もうすでに若者ではなくおっさんだと告げられしまった俺は、
「はっはっは、そんなばかな。何を言う。小島さん何を言う」
 ハ○ヒのコスプレをしたたまおきちゃんの絶対領域を眺めながら、たまおきちゃん考案のカクテルとから揚げとポテチのセットを追加注文した。
 
 店内にはカラオケのステージがあった。
 いつの間にか入店から四時間近くが過ぎており、九時が近づく頃、マイク片手にそこに立つちよちゃん。
「それではラストオーダーのお時間になりましたので、お客様のもとにラストオーダーをお伺いにまいります。皆さんにラストオーダーをお伺いしたあとは、恒例のイベントをはじめさせていただきます。皆さんご参加くださいねー」
 こ、こ、恒例のイベントとな!?
 俺はから揚げを食べながら、期待に胸を膨らませた。
 食べ終わったら店を出ようかと話していた俺たちだったが、
「このイベントだけは見て帰りましょうか」
「うん、そうしよ」
 まさかそのイベントが、

 Q1 今年コミケは何周年でしょう? とか、
 Q4 エヴァンゲリオン放送から今年は何年でしょう?

 とか、そんな感じのクイズゲームだとは思いもよらなかった。
 そしてそのクイズゲームが最後までぐだぐだのまま終わるとは思いもしなかった。ちょっとちよちゃん司会下手すぎるんですけど!
 コスプレカフェを出た俺たちは夜のひっそりとした大須の町並みを大須観音駅に向かって歩いていった。
 ちなみに今日のお会計は、新しく作ってもらった俺のポイントカードにはんこを押してもらうことになり、俺は初回にしてVIP1になり、店員さんたちと記念撮影をしてもらった。
 一生の宝物になりそうである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...