13 / 26
第13話
しおりを挟む
二階建ての小さな建物の、二階にガ○プラ喫茶はあります。
小奇麗な、だけど生活感が少し感じられるような、まるで自分の部屋のような佇まいのお店。
まさにそこは隠れ家です。
お店の女の子たちは、連邦軍やジオンの制服を着ているわけではありません。
ごくごく普通の、セーラー服がよく似合う妹です。
「おかえりなさい、お姉ちゃん」
ガンプラ喫茶は、お姉ちゃん(お客様)をそんな風におもてなしします。
「ねー、今日もリサとガ○ダム作ってくれる?」
妹たちは、お兄ちゃんの腕に抱きついて、見上げるようにおねだりします。
ガ○プラ喫茶の話をしながら、実際におねだりするぶりぶりの妹演技を加藤麻衣がしたのだが、普段の彼女とのギャップがすごくて俺は寒気がした。
この人、大学デビューのためにメイドカフェ通いしてるんじゃなくて、メイドさんとか妹とかただかわいい女の子が好きなだけなんじゃないだろうか。レズなの?
いっしょにメニューを見ながら、
「今日はデステニーガ○ダムを作りたいな」
お姉ちゃんは妹といっしょに作りたいガンプラを選びます。
「えー、これ、なんだか難しそうだよぅ。それよりもこれにしよ。HGじゃなくてMGにしよ。それか、このデン○ロビウムっていうの作ろうよー」
妹たちは言葉巧みに、高価なMGシリーズを買わせようと、おねだりします。
「じゃぁ、ガ○ダムとジュースとってくるから、ちょっと待っててね、お姉ちゃん」
そう言って、妹たちは部屋を出て階段をきしませながら1階に下りていきます。
1階にはガ○プラを並べる倉庫があり、厨房があります。
「おまたせ、お兄ちゃん。はい、お兄ちゃんの好きなキリ○レモンだよ」
家の台所の冷蔵庫からとってきた、そんな風に妹たちはお兄ちゃんにジュースを差し出します。
ジュースを飲みながら、おしゃべりをしながら、お姉ちゃんと妹はなかよくガ○プラを組み立てます。
妹は慣れない、ぎこちない手つきで一生懸命とても楽しそうにガ○プラを組み立てます。
1時間が、2時間が経過しました。
「今日はこれくらいにしよっか?」
妹は言います。
ガ○プラはまだ完成ていませんが、妹たちは明日学校に行かなければいけないし、宿題もしなくてはいけません。
「またリサとガ○プラ作ってくれるよね?」
お姉ちゃんは、うんうん、と頷きます。
妹たちは、麻衣お姉ちゃん、とお姉ちゃんの名前を箱に書き、
「それまで、このガ○プラはリサのお部屋においておくからね」
これが、ボトルキープならぬガ○プラキープ。
「お兄ちゃん、またリサと遊んでね」
名残惜しそうに、妹たちはお姉ちゃんに別れを告げます。
ガ○プラキープ……。
俺は今、偉大な思想が生まれた瞬間に立ち会った気がする。
それにしても「HGじゃなくてMGにしよ」って、ずいぶんとあざといな。HGはモビ○スーツの設定上の大きさの144分の1サイズで、塗装などをせず組み立てるだけなら1時間程度のプラモデルだが、MGは100分の1サイズでパーツ数も値段も製作時間も段違いなのだ。
しかも、「それか、このデン○ロビウムっていうの作ろうよー」とは……。デン○ロビウムは、簡単に言えばガ○ダムの強化装備にあたるものなのだが、人間が操縦するガ○ダムが乗り込み、ガ○ダムで操縦するさらに大型のロボットのようなもので、144分の1サイズのガ○ダムが15センチ程度の大きさであるのに対し、デン○ロビウムは全長1メートルほどはあるプラモデルなのだ。加藤麻衣の言う店のシステムでそれを完成させようと思ったら、3ヶ月か半年か、相当店に通いつめないと無理だろう。それにガ○プラ自体が相当な値段になるからどうしてもキープして完成させなきゃいけない。この女、鬼だ。
「絶対流行ると思うんだ……」
加藤麻衣は目を輝かせて言った。
「セーラー服以外では、大型量販店で買えるレベルのそこそこの普段着とかもありだ。
そこらへんはお好みで。時刻によって着替え休憩をいれてもいいかもしれない。
帰宅直後の時間ならセーラー。それ以降なら普段着みたいな」
「自分の改造技術を褒めてほしい寂しいモデラーとか多そうですね。店内の空調をしっかりしとかないと爆発とかしそうですけど」
意外なことに藤本花梨がプラモデルの知識を披露した。
確かに、サス吹きとか塗りの専門的な道具も用意しとけば、初心者はそれを使うために来る。そういう客にはお姉さんキャラの店員が優しく教えるとか、ツンデレ店員が罵倒しながら教えてくれたりするのもいいかもしれない。
「どう思う? 宮沢」
めずらしく小島雪が俺に話を振った。
「とりあえず、麻衣お姉ちゃんは、ガノタで種死が好きということがわかりました。しかも途中で主役を前作主人公にとって代わられたガ○ダム史上一番かなしい主人公が好きっていう」
「そういうことじゃなくてさ」
小島雪が何かを言いかけたところで、加藤麻衣がビッと俺を指差した。
「宮沢渉、貴様、ス○ロボZをやってないだろう」
確かに。俺はRPGは好きなのだが、シミュレーションが苦手で、ロボットアニメが好きなくせに様々なロボットアニメのロボットや主人公が一同に介するス○ロボシリーズを一度もやったことがなかった。
「あれはいいぞ。あの最後までだめだめだったシンがな、ちゃんと成長するんだよ……。あれこそがデステニーの正史だ……。続編映画の製作発表から10年、一切続報がないまま、脚本家さんまで亡くなられてしまって、もう続編は望めない今、あのゲームだけが私の救いだ。ちなみに私はブルーレイボックスについていたドラマCDは正史とは認めていない」
俺もガ○ダムは好きだが、宇宙世紀もの、特にユニコーンが最高傑作だと思っているので、話を聞いているふりをして、何もそんな店を開かなくても、加藤麻衣がセーラー服でガ○プラ組み立ててる動画をユー○ューブにアップするだけで大金稼げるんじゃないかなぁなんて考えていた。ほら、ユー○ューバーってバズればもうかるんでしょ。
「わたしには夢があるんだ」
加藤麻衣は今度はうっとりとした目をして言った。
「わたしは店のオーナーだが、お姉ちゃんのふりをして、店で一番かわいい妹と一日中ガンプラを作るんだ……」
俺は思った。
こいつ、いかれてやがる。
「そうだ、今度みんなで妹カフェにいこう」
京都行くみたいな感じで言うな。
っていうか、妹カフェなんていうものまであるのかよ。連れて行く以上俺がハマっちゃったら責任とってくれないと困る。
小奇麗な、だけど生活感が少し感じられるような、まるで自分の部屋のような佇まいのお店。
まさにそこは隠れ家です。
お店の女の子たちは、連邦軍やジオンの制服を着ているわけではありません。
ごくごく普通の、セーラー服がよく似合う妹です。
「おかえりなさい、お姉ちゃん」
ガンプラ喫茶は、お姉ちゃん(お客様)をそんな風におもてなしします。
「ねー、今日もリサとガ○ダム作ってくれる?」
妹たちは、お兄ちゃんの腕に抱きついて、見上げるようにおねだりします。
ガ○プラ喫茶の話をしながら、実際におねだりするぶりぶりの妹演技を加藤麻衣がしたのだが、普段の彼女とのギャップがすごくて俺は寒気がした。
この人、大学デビューのためにメイドカフェ通いしてるんじゃなくて、メイドさんとか妹とかただかわいい女の子が好きなだけなんじゃないだろうか。レズなの?
いっしょにメニューを見ながら、
「今日はデステニーガ○ダムを作りたいな」
お姉ちゃんは妹といっしょに作りたいガンプラを選びます。
「えー、これ、なんだか難しそうだよぅ。それよりもこれにしよ。HGじゃなくてMGにしよ。それか、このデン○ロビウムっていうの作ろうよー」
妹たちは言葉巧みに、高価なMGシリーズを買わせようと、おねだりします。
「じゃぁ、ガ○ダムとジュースとってくるから、ちょっと待っててね、お姉ちゃん」
そう言って、妹たちは部屋を出て階段をきしませながら1階に下りていきます。
1階にはガ○プラを並べる倉庫があり、厨房があります。
「おまたせ、お兄ちゃん。はい、お兄ちゃんの好きなキリ○レモンだよ」
家の台所の冷蔵庫からとってきた、そんな風に妹たちはお兄ちゃんにジュースを差し出します。
ジュースを飲みながら、おしゃべりをしながら、お姉ちゃんと妹はなかよくガ○プラを組み立てます。
妹は慣れない、ぎこちない手つきで一生懸命とても楽しそうにガ○プラを組み立てます。
1時間が、2時間が経過しました。
「今日はこれくらいにしよっか?」
妹は言います。
ガ○プラはまだ完成ていませんが、妹たちは明日学校に行かなければいけないし、宿題もしなくてはいけません。
「またリサとガ○プラ作ってくれるよね?」
お姉ちゃんは、うんうん、と頷きます。
妹たちは、麻衣お姉ちゃん、とお姉ちゃんの名前を箱に書き、
「それまで、このガ○プラはリサのお部屋においておくからね」
これが、ボトルキープならぬガ○プラキープ。
「お兄ちゃん、またリサと遊んでね」
名残惜しそうに、妹たちはお姉ちゃんに別れを告げます。
ガ○プラキープ……。
俺は今、偉大な思想が生まれた瞬間に立ち会った気がする。
それにしても「HGじゃなくてMGにしよ」って、ずいぶんとあざといな。HGはモビ○スーツの設定上の大きさの144分の1サイズで、塗装などをせず組み立てるだけなら1時間程度のプラモデルだが、MGは100分の1サイズでパーツ数も値段も製作時間も段違いなのだ。
しかも、「それか、このデン○ロビウムっていうの作ろうよー」とは……。デン○ロビウムは、簡単に言えばガ○ダムの強化装備にあたるものなのだが、人間が操縦するガ○ダムが乗り込み、ガ○ダムで操縦するさらに大型のロボットのようなもので、144分の1サイズのガ○ダムが15センチ程度の大きさであるのに対し、デン○ロビウムは全長1メートルほどはあるプラモデルなのだ。加藤麻衣の言う店のシステムでそれを完成させようと思ったら、3ヶ月か半年か、相当店に通いつめないと無理だろう。それにガ○プラ自体が相当な値段になるからどうしてもキープして完成させなきゃいけない。この女、鬼だ。
「絶対流行ると思うんだ……」
加藤麻衣は目を輝かせて言った。
「セーラー服以外では、大型量販店で買えるレベルのそこそこの普段着とかもありだ。
そこらへんはお好みで。時刻によって着替え休憩をいれてもいいかもしれない。
帰宅直後の時間ならセーラー。それ以降なら普段着みたいな」
「自分の改造技術を褒めてほしい寂しいモデラーとか多そうですね。店内の空調をしっかりしとかないと爆発とかしそうですけど」
意外なことに藤本花梨がプラモデルの知識を披露した。
確かに、サス吹きとか塗りの専門的な道具も用意しとけば、初心者はそれを使うために来る。そういう客にはお姉さんキャラの店員が優しく教えるとか、ツンデレ店員が罵倒しながら教えてくれたりするのもいいかもしれない。
「どう思う? 宮沢」
めずらしく小島雪が俺に話を振った。
「とりあえず、麻衣お姉ちゃんは、ガノタで種死が好きということがわかりました。しかも途中で主役を前作主人公にとって代わられたガ○ダム史上一番かなしい主人公が好きっていう」
「そういうことじゃなくてさ」
小島雪が何かを言いかけたところで、加藤麻衣がビッと俺を指差した。
「宮沢渉、貴様、ス○ロボZをやってないだろう」
確かに。俺はRPGは好きなのだが、シミュレーションが苦手で、ロボットアニメが好きなくせに様々なロボットアニメのロボットや主人公が一同に介するス○ロボシリーズを一度もやったことがなかった。
「あれはいいぞ。あの最後までだめだめだったシンがな、ちゃんと成長するんだよ……。あれこそがデステニーの正史だ……。続編映画の製作発表から10年、一切続報がないまま、脚本家さんまで亡くなられてしまって、もう続編は望めない今、あのゲームだけが私の救いだ。ちなみに私はブルーレイボックスについていたドラマCDは正史とは認めていない」
俺もガ○ダムは好きだが、宇宙世紀もの、特にユニコーンが最高傑作だと思っているので、話を聞いているふりをして、何もそんな店を開かなくても、加藤麻衣がセーラー服でガ○プラ組み立ててる動画をユー○ューブにアップするだけで大金稼げるんじゃないかなぁなんて考えていた。ほら、ユー○ューバーってバズればもうかるんでしょ。
「わたしには夢があるんだ」
加藤麻衣は今度はうっとりとした目をして言った。
「わたしは店のオーナーだが、お姉ちゃんのふりをして、店で一番かわいい妹と一日中ガンプラを作るんだ……」
俺は思った。
こいつ、いかれてやがる。
「そうだ、今度みんなで妹カフェにいこう」
京都行くみたいな感じで言うな。
っていうか、妹カフェなんていうものまであるのかよ。連れて行く以上俺がハマっちゃったら責任とってくれないと困る。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる