大学デビューに失敗したぼくたちは

雨野 美哉(あめの みかな)

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第13話

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 二階建ての小さな建物の、二階にガ○プラ喫茶はあります。
 小奇麗な、だけど生活感が少し感じられるような、まるで自分の部屋のような佇まいのお店。
 まさにそこは隠れ家です。
 お店の女の子たちは、連邦軍やジオンの制服を着ているわけではありません。
 ごくごく普通の、セーラー服がよく似合う妹です。
「おかえりなさい、お姉ちゃん」
 ガンプラ喫茶は、お姉ちゃん(お客様)をそんな風におもてなしします。
「ねー、今日もリサとガ○ダム作ってくれる?」
 妹たちは、お兄ちゃんの腕に抱きついて、見上げるようにおねだりします。


 ガ○プラ喫茶の話をしながら、実際におねだりするぶりぶりの妹演技を加藤麻衣がしたのだが、普段の彼女とのギャップがすごくて俺は寒気がした。
 この人、大学デビューのためにメイドカフェ通いしてるんじゃなくて、メイドさんとか妹とかただかわいい女の子が好きなだけなんじゃないだろうか。レズなの?


 いっしょにメニューを見ながら、
「今日はデステニーガ○ダムを作りたいな」
 お姉ちゃんは妹といっしょに作りたいガンプラを選びます。
「えー、これ、なんだか難しそうだよぅ。それよりもこれにしよ。HGじゃなくてMGにしよ。それか、このデン○ロビウムっていうの作ろうよー」
 妹たちは言葉巧みに、高価なMGシリーズを買わせようと、おねだりします。
「じゃぁ、ガ○ダムとジュースとってくるから、ちょっと待っててね、お姉ちゃん」
 そう言って、妹たちは部屋を出て階段をきしませながら1階に下りていきます。
 1階にはガ○プラを並べる倉庫があり、厨房があります。
「おまたせ、お兄ちゃん。はい、お兄ちゃんの好きなキリ○レモンだよ」
 家の台所の冷蔵庫からとってきた、そんな風に妹たちはお兄ちゃんにジュースを差し出します。
 ジュースを飲みながら、おしゃべりをしながら、お姉ちゃんと妹はなかよくガ○プラを組み立てます。
 妹は慣れない、ぎこちない手つきで一生懸命とても楽しそうにガ○プラを組み立てます。
 1時間が、2時間が経過しました。
「今日はこれくらいにしよっか?」
  妹は言います。
  ガ○プラはまだ完成ていませんが、妹たちは明日学校に行かなければいけないし、宿題もしなくてはいけません。
「またリサとガ○プラ作ってくれるよね?」
 お姉ちゃんは、うんうん、と頷きます。
 妹たちは、麻衣お姉ちゃん、とお姉ちゃんの名前を箱に書き、
「それまで、このガ○プラはリサのお部屋においておくからね」
 これが、ボトルキープならぬガ○プラキープ。
「お兄ちゃん、またリサと遊んでね」
 名残惜しそうに、妹たちはお姉ちゃんに別れを告げます。


 ガ○プラキープ……。
 俺は今、偉大な思想が生まれた瞬間に立ち会った気がする。
 それにしても「HGじゃなくてMGにしよ」って、ずいぶんとあざといな。HGはモビ○スーツの設定上の大きさの144分の1サイズで、塗装などをせず組み立てるだけなら1時間程度のプラモデルだが、MGは100分の1サイズでパーツ数も値段も製作時間も段違いなのだ。
 しかも、「それか、このデン○ロビウムっていうの作ろうよー」とは……。デン○ロビウムは、簡単に言えばガ○ダムの強化装備にあたるものなのだが、人間が操縦するガ○ダムが乗り込み、ガ○ダムで操縦するさらに大型のロボットのようなもので、144分の1サイズのガ○ダムが15センチ程度の大きさであるのに対し、デン○ロビウムは全長1メートルほどはあるプラモデルなのだ。加藤麻衣の言う店のシステムでそれを完成させようと思ったら、3ヶ月か半年か、相当店に通いつめないと無理だろう。それにガ○プラ自体が相当な値段になるからどうしてもキープして完成させなきゃいけない。この女、鬼だ。

「絶対流行ると思うんだ……」

 加藤麻衣は目を輝かせて言った。

「セーラー服以外では、大型量販店で買えるレベルのそこそこの普段着とかもありだ。
 そこらへんはお好みで。時刻によって着替え休憩をいれてもいいかもしれない。
 帰宅直後の時間ならセーラー。それ以降なら普段着みたいな」
「自分の改造技術を褒めてほしい寂しいモデラーとか多そうですね。店内の空調をしっかりしとかないと爆発とかしそうですけど」
 意外なことに藤本花梨がプラモデルの知識を披露した。
 確かに、サス吹きとか塗りの専門的な道具も用意しとけば、初心者はそれを使うために来る。そういう客にはお姉さんキャラの店員が優しく教えるとか、ツンデレ店員が罵倒しながら教えてくれたりするのもいいかもしれない。
「どう思う? 宮沢」
 めずらしく小島雪が俺に話を振った。
「とりあえず、麻衣お姉ちゃんは、ガノタで種死が好きということがわかりました。しかも途中で主役を前作主人公にとって代わられたガ○ダム史上一番かなしい主人公が好きっていう」
「そういうことじゃなくてさ」
 小島雪が何かを言いかけたところで、加藤麻衣がビッと俺を指差した。
「宮沢渉、貴様、ス○ロボZをやってないだろう」
 確かに。俺はRPGは好きなのだが、シミュレーションが苦手で、ロボットアニメが好きなくせに様々なロボットアニメのロボットや主人公が一同に介するス○ロボシリーズを一度もやったことがなかった。
「あれはいいぞ。あの最後までだめだめだったシンがな、ちゃんと成長するんだよ……。あれこそがデステニーの正史だ……。続編映画の製作発表から10年、一切続報がないまま、脚本家さんまで亡くなられてしまって、もう続編は望めない今、あのゲームだけが私の救いだ。ちなみに私はブルーレイボックスについていたドラマCDは正史とは認めていない」
 俺もガ○ダムは好きだが、宇宙世紀もの、特にユニコーンが最高傑作だと思っているので、話を聞いているふりをして、何もそんな店を開かなくても、加藤麻衣がセーラー服でガ○プラ組み立ててる動画をユー○ューブにアップするだけで大金稼げるんじゃないかなぁなんて考えていた。ほら、ユー○ューバーってバズればもうかるんでしょ。

「わたしには夢があるんだ」
 加藤麻衣は今度はうっとりとした目をして言った。
「わたしは店のオーナーだが、お姉ちゃんのふりをして、店で一番かわいい妹と一日中ガンプラを作るんだ……」
 俺は思った。
 こいつ、いかれてやがる。
「そうだ、今度みんなで妹カフェにいこう」
 京都行くみたいな感じで言うな。
 っていうか、妹カフェなんていうものまであるのかよ。連れて行く以上俺がハマっちゃったら責任とってくれないと困る。

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