大学デビューに失敗したぼくたちは

雨野 美哉(あめの みかな)

文字の大きさ
上 下
12 / 26

第12話

しおりを挟む
 翌日の昼休み。
 俺の大学デビュー部での活動二日目。
 昨日は興奮状態にあったが、家に帰り冷静になってみると、メイドカフェにただ行っただけで、大学デビューとは程遠い活動だった気がする。
 今日こそそれらしい活動をしてくれることを祈りながら、俺は昨日買ったばかりのおしゃれ靴を履き、宇宙考古学研究会の部室に顔を出した。
 すでに加藤麻衣と小島雪、藤本花梨がいた。
 セリカとタカコというまだ見ぬ部員の姿は今日もなかった。
 3人は何やら会話に夢中で俺がやってきたことに気づいているかどうかも怪しい。今日は空気椅子で座れと言われることもなかったので空いている席に腰を下ろし、俺は彼女たちの会話に耳を傾けた。
「あのね、わたしやってみたいことがあってね」
 小島雪が言った。
「メイド漫画喫茶ってどうかな?
 メイドさんが漫画を読んで聞かせてくれるの」

 ズコー!

 俺は豪快に椅子から転げ落ちた。
「またメイドカフェの話ですか!?」
 大学デビューはどうなった。
 それでようやく三人は俺の存在に気づいたようで、
「あぁ君か。いたのか」
 と加藤麻衣。
「ごきげんよう」
 藤本花梨が優しく微笑んでくれた。
「ちっ」
 小島雪は舌打ち。俺、この人に何か嫌われるようなことしただろうか。
 先ほどの小島雪の言葉に、
「ふむ」
 加藤麻衣はじっくりと考えているようで、
「読み聞かせは実は結構難しい技術だし、漫画は一人でゆっくり読みたいって人の方が多いと思う」
 そう言った。
「それに客1:1メイドになっちゃうからコスト的に無理だと思う」
「そっかー」
 小島雪は残念そうにうなだれた。
「ですが、漫画喫茶の店員が全員メイドさんっていうのは絶対当たると思いますわ」
 藤本花梨がフォローした。
「ターゲットにする層がほぼイコールですし、漫画喫茶ならある程度客をほっておけますから、シフトに入れるメイドの数もそれ程多くなくて済みますし。
 何より『今まで誰も一緒に行ってくれる人がいないがためになかなかメイド喫茶に行けないでいた友達ゼロおたく』どもを獲り込めます」
 藤本花梨がちらりと俺を見る。や、俺、別に、そんなんじゃないこともないです。
「なんで?」
「だって漫画喫茶はカラオケやファミレスと違って一人で入るのがフツーの店ですもの。恥ずかしくないですから。もっとも最近はカラオケにひとりで行く人も多いみたいですけど。
 それに基本は漫画喫茶なのですから、リピーターも当然多い。というより新刊が出れば自動的に来ますわよね。
 漫画喫茶はゲームができたりもしますから、オプションとして一緒に対戦ゲームってのを付ければいいんですよ。
 マッサージサービスを付けてもいいかもしれませんね。漫画喫茶には寝に来るお客さんも多いですから。皆疲れてるんですね……。
 ただ漫画喫茶は基本個室ですから、個室ペアシートにお客さんとメイドさんを二人っきりにするのが怖いっていう不安要素はありますわね」
 だめだ、こいつら、マジでメイドを使った新事業について話し合ってやがる……。
 俺は嘆息せざるをえなかった。
「では、こういった店はどうだろうか?」
 続いて口を開いたのは加藤麻衣だった。
「わたしは大須にガ○プラ喫茶なるお店をオープンさせたい」
 おい、メイド関係なくなってるぞ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...