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第9話
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汗をかきすぎたせいだろうか、喉がやたら渇いていた。
俺はたまたま近くにあった自動販売機でお茶を買い、蓋を開けると口に含んだ。
つめたいお茶が喉を流れて気持ちよかった。
「宮沢渉」
どうやら加藤麻衣が俺の名前を呼ぶときはフルネームがデフォルトらしい。
「この大須には我々と同じ人種に身を置きながらも、驚異的なコミュニケーション能力を持つ人間がいる。それが誰だかわかるか?」
加藤麻衣にそう問われたが、もちろん俺にはわかるはずもない。
「これから君には彼女たちに会ってもらう」
彼女たちという言葉から察するに、女の子、それも複数なのだろうが俺にはまったくぴんとくるものがなかった。
大須にそんな子たちいたっけ?
そして俺は、
「それはな、メイドさんだ」
加藤麻衣の口から出た言葉に、口に含んでいたお茶を思い切り噴き出した。予想もしなかった言葉にそのままむせかえる。
「なんでメイドさんなんですか!?」
「わからんか? そうだな、お前にはまだわからないだろうな。
彼女たちは、メイドさんは、我々と同じオタクという人種でありながら、無数の客、いわゆるご主人様お嬢様を相手に、軽快なトークで笑いをとり、ご主人様たちを萌えさせ、高い人気を誇っている。これは相当なコミュニケーション能力だ。ニュータイプと言っても過言ではないかもしれない」
さすがにそれは過言だと俺は思ったし、正直そういうお店には行くのは恥ずかしかった。
ただでさえ女の子が苦手だというのに、初対面のメイドさんと一体何の話をしたらいいのかわからなかった。メイド服は好きだが。大好きなんだが。いつか彼女ができたら、絶対着せたいのだが。
それに、俺は今、男1対女3というぱっと見ラノベのハーレム主人公のようなパーティで行動しているのだ。メイドカフェの客は大半が男の客だろうし、敵意をむき出しにされそうでこわかった。
しかし、加藤麻衣はそんな嫌がる俺の手を握ると、けっして離さない。女子とは思えないような力で俺の手を引き、メイドカフェへ向かって引きずっていく。
思えばこれが、俺が中学校のフォークダンス以来はじめて触れる女の子の手だったのだけれど、俺はそのことにそのときは気づかなかった。いや、よくよく思い出してみると、フォークダンスのときの女子たちは、しかたなく、いやいや、という顔で俺と手をつなぐふりや、指をつまむだけという感じだったから、生まれて初めて女の子と手をつないだ瞬間だった。
「みんなお昼は食べてきてるな?」
加藤麻衣の言葉に、「はーい」「もちろんです」と手を上げる小島雪と藤本花梨。釣られて手を上げる俺。
「大須にはメイドカフェは何店舗もあるが……」
加藤麻衣は少し悩んだ顔をして、
「今日ははじめての奴もいるし、無難なところにしておこうか」
俺の顔を見てそう言った。
「念のために確認しておくが、メイドカフェははじめてだな?」
と尋ねられ首を縦に振る俺。
これだけ嫌がっておいてなんだが、実はメイドカフェには一度行ってみたいという気持ちはあるにはあったのだが、ひとりではとてもじゃないけれど行けなかった。
まさかはじめてのメイドカフェが女の子三人といっしょに行くことになるとは思いもよらなかったが。
「そんなに何店舗もあるんですか?」
「昔は1軒だけだったんだがな」
俺の問いに答えた加藤麻衣の話では、この数年でメイドカフェをはじめとするコンセプトカフェはこの大須に次々と出来ているらしい。
「一番奇抜なのは猫耳メイドカフェだ」
「メイドさんが人間ではなく錬金術によって生まれたドール、つまり人形という設定のお店です」
藤本花梨が続いた。鞄から財布を取り出すと、店のポイントカードを出して俺に渡してきた。
『ドールは錬金の際に猫の魂を半分使用するため、猫の耳としっぽがついているのが特徴です。
ドールは人間の言葉は理解できるものの、感情面ではまだまだ未熟。
そのためオース王国の守り神、巨大招き猫サキュロス様の下で人間が集うカフェを作り、勉強をすることになりました』
読んでいて頭が痛くなったのは俺だけじゃないだろう。
「ずいぶん設定が凝ってるんですね……」
「だから普通ならご主人様お嬢様って呼ばれるところを『マスター』『プリンセス』って呼ばれるんだっけ」
『ドールはコミュニケーションをとることによって心を開き、成長していきます。
「心」を得たドールは耳としっぽがとれて人間になると言われています。
ドールの成長に深く携わった人間は伝説のドールマスターとして
「*******」と呼ばれます』
なんと呼ばれるようになるのか気になるところではあるが、それ以前にマスターやプリンセスがドールに名前を覚えてもらい呼んでもらうためには、最低でもポイントカードを一枚マックスにするくらいの常連になる必要があるようだ。これは、よく考えてある、のか……?
「今日行くところは名古屋の老舗だ。日本全国でも二店舗目で、『おかえりなさいませご主人様』のフレーズはその店から生まれたらしい。奇抜な設定はないが、老舗だけあって本格的なメイドカフェが味わえるぞ」
うれしいだろ? と言わんばかりの加藤麻衣のドヤ顔。
「うれしいです……」
一応そう返しておいた。
どうやら目的のメイドカフェは家電を扱うビルの地下にあるようなのだが、平日の昼間だというのに店の入り口には人、人、人。
どうやら大変込み合っているようである。そして皆さん、くたびれた表情で、くたびれた服を着ている。およそお洒落とはかけ離れた格好のご主人様とお嬢様たちがベンチに座り首を長くしてメイドさんから名前を呼ばれるのを待っていた。
メイドさんから説明を聞くと、どうやら10組以上お待ちなんだとか。
「ご予約のお名前は?」
「宮沢で」
「なんで!? 超恥ずかしいんですけど!」
メイドさんの問いに即答した加藤麻衣に俺が突っ込む。
「いつもわたしの名前が使われていたから助かります」
なぜか藤本さんには感謝されてるし。
俺たちがご予約を済ませると、お店からは大変ご満悦の表情の、よきにはからえと言わんばかりのご主人様が出てきたところだった。
「いってらっしゃいませー。ご主人様ー」
きっとあのご主人様も入店前はくたびれた表情で、くたびれた服を着ていたはずだ。くたびれた服はそのままだが、あの表情……。一体中では何が行われているのか……。
ま、まさか、萌え萌えじゃんけんか!
萌え萌えじゃんけん、じゃんけん、ぴょん、か!!
今ではおそらくそんなことをしているメイドカフェは日本中探してもどこにもないと思うのだが、俺がまだ中学生、メイドカフェがテレビで紹介されはじめた頃に、一番印象に残っているのが、その萌え萌えじゃんけんじゃんけんぴょんだった。ただメイドさんとじゃんけんするだけのゲームだった、と思う。
妄想の中でメイドさんと萌え萌えじゃんけんをはじめてしまった俺は、もういてもたってもいられなかった。
「藤本さん……」
俺はベンチの隣に座る藤本花梨に重苦しい口調で話しかけた。
「もしぼくがメイドさんにのめりこみそうな痛々しい感じになったら、現実に連れ戻してください」
頼れるのは3人の大学デビュー部の中で唯一まともそうな彼女だけだった。
「ええ、わかりましたわ」
藤本花梨のその言葉のなんと心強かったことか!
ひとりで来なくて、ひとりで来る勇気がなくて本当によかったと思った。
そのときのことである。
「1名様でお待ちのレンニン様ー。レンニン様、いらっしゃいませんかー」
レンニン様!?
ハンドルネームでご予約のご主人様がいるぅぅぅぅぅ!!!
恥ずかしい!恥ずかしいよ! レンニン様!
しかもレンニン様は長い待ち時間に痺れをきらし、店の前を外していらっしゃった!
きっと近くにあるまん○らけとか、ゲー○ーズとかに行っているに違いない。
「1名様でお待ちのレンニン様ー。レンニン様、いらっしゃいませんかー」
自分の恥ずかしいハンドルネームが連呼されていることも知らず、美少女フィギュア片手にニヘラニヘラしているに違いなかった。
「1名様でお待ちのレンニン様ー。レンニン様、いらっしゃいませんかー」
いい加減聞いているこっちが恥ずかしいよ! レンニン様!
俺はあまりの恥ずかしさからもういっそ、「レンニン様ですが何か?」と名乗りを上げようかとも考えたのだが、レンニン様は1名様なので、それでは加藤麻衣たちを置き去りにしてひとり先にご帰宅することになってしまう。
俺の苗字が呼ばれたときに、ちょうどまん○らけからフィギュア片手に帰ってきたレンニン様と加藤麻衣たちがいっしょにお帰りなさいませすることになりかねない。
俺は恥ずかしさをぐっとこらえることにした。
「4名様でお待ちの宮沢様ー」
そしていよいよ、俺のメイドカフェデビューの瞬間が訪れたのだった。
俺たちはメイドさんに案内されて四人がけの席についた。
店内はとても落ち着いた雰囲気だった。
誰も萌え萌えじゃんけんなどしていない。テレビでよく見ていた秋葉原のメイドカフェとは若干お店の雰囲気が異なるようだ。
サラリーマン風のご主人様が、胸ポケットに入れたスカーフを「素敵です、ご主人様」メイドさんに誉められていた。
就職活動帰りのお嬢様が、「もういやんなっちゃうわ。全然内定もらえないし」メイドさんに愚痴をこぼしていた。
学生風のご主人様が参考書とノートと電卓をテーブルに広げて、ひたすら勉強をしていた。
がむしゃらに小説を読んでいるご主人様もいた。
何をしにきてるんだ! あんたたちは!! 萌え萌えじゃんけんをしにきたんじゃないのか!
そんなことを考えていると、
「言っておくが、この店では萌え萌えじゃんけんなどないぞ」
加藤麻衣が呆れたように俺に言った。
やはり彼女は大エスパー様なのかもしれない。
そして俺は、信じられないものを目にした。
そのご主人様は、ガンプラを組み立てていた。
メイドカフェでだ。
メイドカフェでガンプラを組み立てていたのだ。
俺はたまたま近くにあった自動販売機でお茶を買い、蓋を開けると口に含んだ。
つめたいお茶が喉を流れて気持ちよかった。
「宮沢渉」
どうやら加藤麻衣が俺の名前を呼ぶときはフルネームがデフォルトらしい。
「この大須には我々と同じ人種に身を置きながらも、驚異的なコミュニケーション能力を持つ人間がいる。それが誰だかわかるか?」
加藤麻衣にそう問われたが、もちろん俺にはわかるはずもない。
「これから君には彼女たちに会ってもらう」
彼女たちという言葉から察するに、女の子、それも複数なのだろうが俺にはまったくぴんとくるものがなかった。
大須にそんな子たちいたっけ?
そして俺は、
「それはな、メイドさんだ」
加藤麻衣の口から出た言葉に、口に含んでいたお茶を思い切り噴き出した。予想もしなかった言葉にそのままむせかえる。
「なんでメイドさんなんですか!?」
「わからんか? そうだな、お前にはまだわからないだろうな。
彼女たちは、メイドさんは、我々と同じオタクという人種でありながら、無数の客、いわゆるご主人様お嬢様を相手に、軽快なトークで笑いをとり、ご主人様たちを萌えさせ、高い人気を誇っている。これは相当なコミュニケーション能力だ。ニュータイプと言っても過言ではないかもしれない」
さすがにそれは過言だと俺は思ったし、正直そういうお店には行くのは恥ずかしかった。
ただでさえ女の子が苦手だというのに、初対面のメイドさんと一体何の話をしたらいいのかわからなかった。メイド服は好きだが。大好きなんだが。いつか彼女ができたら、絶対着せたいのだが。
それに、俺は今、男1対女3というぱっと見ラノベのハーレム主人公のようなパーティで行動しているのだ。メイドカフェの客は大半が男の客だろうし、敵意をむき出しにされそうでこわかった。
しかし、加藤麻衣はそんな嫌がる俺の手を握ると、けっして離さない。女子とは思えないような力で俺の手を引き、メイドカフェへ向かって引きずっていく。
思えばこれが、俺が中学校のフォークダンス以来はじめて触れる女の子の手だったのだけれど、俺はそのことにそのときは気づかなかった。いや、よくよく思い出してみると、フォークダンスのときの女子たちは、しかたなく、いやいや、という顔で俺と手をつなぐふりや、指をつまむだけという感じだったから、生まれて初めて女の子と手をつないだ瞬間だった。
「みんなお昼は食べてきてるな?」
加藤麻衣の言葉に、「はーい」「もちろんです」と手を上げる小島雪と藤本花梨。釣られて手を上げる俺。
「大須にはメイドカフェは何店舗もあるが……」
加藤麻衣は少し悩んだ顔をして、
「今日ははじめての奴もいるし、無難なところにしておこうか」
俺の顔を見てそう言った。
「念のために確認しておくが、メイドカフェははじめてだな?」
と尋ねられ首を縦に振る俺。
これだけ嫌がっておいてなんだが、実はメイドカフェには一度行ってみたいという気持ちはあるにはあったのだが、ひとりではとてもじゃないけれど行けなかった。
まさかはじめてのメイドカフェが女の子三人といっしょに行くことになるとは思いもよらなかったが。
「そんなに何店舗もあるんですか?」
「昔は1軒だけだったんだがな」
俺の問いに答えた加藤麻衣の話では、この数年でメイドカフェをはじめとするコンセプトカフェはこの大須に次々と出来ているらしい。
「一番奇抜なのは猫耳メイドカフェだ」
「メイドさんが人間ではなく錬金術によって生まれたドール、つまり人形という設定のお店です」
藤本花梨が続いた。鞄から財布を取り出すと、店のポイントカードを出して俺に渡してきた。
『ドールは錬金の際に猫の魂を半分使用するため、猫の耳としっぽがついているのが特徴です。
ドールは人間の言葉は理解できるものの、感情面ではまだまだ未熟。
そのためオース王国の守り神、巨大招き猫サキュロス様の下で人間が集うカフェを作り、勉強をすることになりました』
読んでいて頭が痛くなったのは俺だけじゃないだろう。
「ずいぶん設定が凝ってるんですね……」
「だから普通ならご主人様お嬢様って呼ばれるところを『マスター』『プリンセス』って呼ばれるんだっけ」
『ドールはコミュニケーションをとることによって心を開き、成長していきます。
「心」を得たドールは耳としっぽがとれて人間になると言われています。
ドールの成長に深く携わった人間は伝説のドールマスターとして
「*******」と呼ばれます』
なんと呼ばれるようになるのか気になるところではあるが、それ以前にマスターやプリンセスがドールに名前を覚えてもらい呼んでもらうためには、最低でもポイントカードを一枚マックスにするくらいの常連になる必要があるようだ。これは、よく考えてある、のか……?
「今日行くところは名古屋の老舗だ。日本全国でも二店舗目で、『おかえりなさいませご主人様』のフレーズはその店から生まれたらしい。奇抜な設定はないが、老舗だけあって本格的なメイドカフェが味わえるぞ」
うれしいだろ? と言わんばかりの加藤麻衣のドヤ顔。
「うれしいです……」
一応そう返しておいた。
どうやら目的のメイドカフェは家電を扱うビルの地下にあるようなのだが、平日の昼間だというのに店の入り口には人、人、人。
どうやら大変込み合っているようである。そして皆さん、くたびれた表情で、くたびれた服を着ている。およそお洒落とはかけ離れた格好のご主人様とお嬢様たちがベンチに座り首を長くしてメイドさんから名前を呼ばれるのを待っていた。
メイドさんから説明を聞くと、どうやら10組以上お待ちなんだとか。
「ご予約のお名前は?」
「宮沢で」
「なんで!? 超恥ずかしいんですけど!」
メイドさんの問いに即答した加藤麻衣に俺が突っ込む。
「いつもわたしの名前が使われていたから助かります」
なぜか藤本さんには感謝されてるし。
俺たちがご予約を済ませると、お店からは大変ご満悦の表情の、よきにはからえと言わんばかりのご主人様が出てきたところだった。
「いってらっしゃいませー。ご主人様ー」
きっとあのご主人様も入店前はくたびれた表情で、くたびれた服を着ていたはずだ。くたびれた服はそのままだが、あの表情……。一体中では何が行われているのか……。
ま、まさか、萌え萌えじゃんけんか!
萌え萌えじゃんけん、じゃんけん、ぴょん、か!!
今ではおそらくそんなことをしているメイドカフェは日本中探してもどこにもないと思うのだが、俺がまだ中学生、メイドカフェがテレビで紹介されはじめた頃に、一番印象に残っているのが、その萌え萌えじゃんけんじゃんけんぴょんだった。ただメイドさんとじゃんけんするだけのゲームだった、と思う。
妄想の中でメイドさんと萌え萌えじゃんけんをはじめてしまった俺は、もういてもたってもいられなかった。
「藤本さん……」
俺はベンチの隣に座る藤本花梨に重苦しい口調で話しかけた。
「もしぼくがメイドさんにのめりこみそうな痛々しい感じになったら、現実に連れ戻してください」
頼れるのは3人の大学デビュー部の中で唯一まともそうな彼女だけだった。
「ええ、わかりましたわ」
藤本花梨のその言葉のなんと心強かったことか!
ひとりで来なくて、ひとりで来る勇気がなくて本当によかったと思った。
そのときのことである。
「1名様でお待ちのレンニン様ー。レンニン様、いらっしゃいませんかー」
レンニン様!?
ハンドルネームでご予約のご主人様がいるぅぅぅぅぅ!!!
恥ずかしい!恥ずかしいよ! レンニン様!
しかもレンニン様は長い待ち時間に痺れをきらし、店の前を外していらっしゃった!
きっと近くにあるまん○らけとか、ゲー○ーズとかに行っているに違いない。
「1名様でお待ちのレンニン様ー。レンニン様、いらっしゃいませんかー」
自分の恥ずかしいハンドルネームが連呼されていることも知らず、美少女フィギュア片手にニヘラニヘラしているに違いなかった。
「1名様でお待ちのレンニン様ー。レンニン様、いらっしゃいませんかー」
いい加減聞いているこっちが恥ずかしいよ! レンニン様!
俺はあまりの恥ずかしさからもういっそ、「レンニン様ですが何か?」と名乗りを上げようかとも考えたのだが、レンニン様は1名様なので、それでは加藤麻衣たちを置き去りにしてひとり先にご帰宅することになってしまう。
俺の苗字が呼ばれたときに、ちょうどまん○らけからフィギュア片手に帰ってきたレンニン様と加藤麻衣たちがいっしょにお帰りなさいませすることになりかねない。
俺は恥ずかしさをぐっとこらえることにした。
「4名様でお待ちの宮沢様ー」
そしていよいよ、俺のメイドカフェデビューの瞬間が訪れたのだった。
俺たちはメイドさんに案内されて四人がけの席についた。
店内はとても落ち着いた雰囲気だった。
誰も萌え萌えじゃんけんなどしていない。テレビでよく見ていた秋葉原のメイドカフェとは若干お店の雰囲気が異なるようだ。
サラリーマン風のご主人様が、胸ポケットに入れたスカーフを「素敵です、ご主人様」メイドさんに誉められていた。
就職活動帰りのお嬢様が、「もういやんなっちゃうわ。全然内定もらえないし」メイドさんに愚痴をこぼしていた。
学生風のご主人様が参考書とノートと電卓をテーブルに広げて、ひたすら勉強をしていた。
がむしゃらに小説を読んでいるご主人様もいた。
何をしにきてるんだ! あんたたちは!! 萌え萌えじゃんけんをしにきたんじゃないのか!
そんなことを考えていると、
「言っておくが、この店では萌え萌えじゃんけんなどないぞ」
加藤麻衣が呆れたように俺に言った。
やはり彼女は大エスパー様なのかもしれない。
そして俺は、信じられないものを目にした。
そのご主人様は、ガンプラを組み立てていた。
メイドカフェでだ。
メイドカフェでガンプラを組み立てていたのだ。
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