5 / 44
第5話
しおりを挟む
今日も学校から帰った妹をぼくは部屋に招き入れた。
妹は相変わらず元気がなく、昨夜のようにすべてを見透かしたような笑顔もしてはいなかった。
「どうかしたの?」
「なんでもないよ」
作り笑顔ではぐらかされた。
妹の写真がすべて、携帯からもアルバムからも紛失していることを妹は知っているだろうか。
聞けなかった。
昨夜も夢を見なかった。
たてこもり犯の佐野がぼくと同じなら、ぼくも何かをなくしているのだろうか。
部屋は散らかって足の踏み場もなく、何がなくなってしまったのか確認することさえできない。
ぼくと妹は爪先立ちで移動した。
「なんかすごい部屋になってきたね。自販機は便利だけど」
妹は財布から小銭を出してポカリスウェットを買った。喉がかわいていたのか、ペットボトルの半分を一気に飲んだ。
夏服のセーラーが濡れている。
雨が降っていたのか、と、ぼくは言った。
「朝からだよ」
朝かららしい。
妹はため息をついた。体をぶるぶるっと震わせて両手で半袖から伸びた両腕を抱き締める。
「寒い……」
「風邪ひくよ。着替えてきなよ」
いつのまにか衣替えの季節になっていたのだ。どうりで蒸し暑いはずだ。梅雨入りはもうしたのだろうか。たてこもりはまだ続いている。
「いいの」
妹は言った。
「麻衣が風邪をひいたらお兄ちゃん看病してくれるでしょ?」
いつもの妹だ。
「電話ボックスはいらないなぁ。これもいらない。あれもいらないね。マネキンなんか特にいらない」
文句を言いながらぼくのベッドに腰かける。シーツが濡れた。
「捨てたらいいのに」
「捨てられないんだ。捨てても戻ってくる」
「……机の引き出しの中のもそう?」
シーツの染みが次第に大きくなる。
「拳銃が入ってるよね」
今日も雨が降っている。
今からこんな様子じゃ梅雨が思いやられる。
「今日も刑事さんが外にいたよ」
帰ってきた妹にそう告げられ、ぼくは窓の下を見た。
例の二人組がぼくの部屋をじっと見ていた。さしずめぼくは行方不明事件の次の被害者候補であり、容疑者、といったところなのだろう。
刑事は傘もさしていなかった。
「中に入ってもらう?」
妹が言った。
「いいよ。雨に濡れるのが仕事なんだよ」
ぼくはカーテンを閉めた。
――四ヶ月前に、お父さん、なくなってますね?
なんでも階段から転げ落ちたとか。
お母さんのことも妹さんから聞きました。行方がわからないそうですね。
男の人といっしょにいるからだいじょうぶ、という話だそうですが。
お母さんは後妻で妹さんは連れ子なんでしょう?
ご近所の方から聞きました。
あなた、新しいお母さんとうまくいってなかったそうですね。
妹よりも白い、というよりは青白い腕で、濡れた妹を抱き締めながらぼくは刑事の言葉を思い出していた。
「実は私どもはあなたを疑っているんですよ」
「ねぇ宿題、手伝って」
妹はそう言ってぼくにプリントを差し出す。
日本史のプリントだ。
ぼくはそれを受けとり机の上に広げた。
「いい夢を見る方法?」
妹は雑誌から顔を上げず、ぼくの質問を反復した。
拳銃の出現以来、ぼくを悩ませる一連の妙な出来事は、どうやら夢に関係しているらしい。
そして佐野というたてこもり犯の独白によれば、夢を見なければ大切なものをひとつずつ失うというのだ。
ありえない話だけれど、現実に起きている。
父の死や母の失踪は関係ないだろうけれど、部屋にはがらくたがあふれ、同級生は行方不明になった。妹の写真も消えた。
わかっていることはほとんどないに等しいけれど、今はただ夢を見よう。
夢を見続ければがらくたは増えるけれど何も失わずにすむ。
ぼくはそう考えていた。
妹が見ていたのはローティーン向けのファッション雑誌だった。
ラブ&ベリーの小学生みたいな格好をしてるくせに、とぼくは思う。
中学三年になる妹は、背が小さく幼児体型で童顔で、いまだに小学生に間違われる。
身長はたぶん150センチないだろう。
ぼくも背が低く163センチしかないのだけれど。
「今幸せな人は不幸な夢を見るって聞いたことがあるよ。逆に不幸な人は幸せな夢を見るんだって」
ページをめくりながらそう言った。
「お兄ちゃん、今幸せでしょ? だから不幸な夢しか見ないんじゃない?」
いじわるそうに笑った。
「あとは――枕の下に好きな人の写真を置いて寝ると、その人の夢が見れるんだって聞いたことあるかも。好きな子がいるなら試してみたら?」
「好きな子なんて、いないよ」
「うそつき。こないだ行方不明になった子は何よ」
「あれは、昔の話だよ」
なんだか浮気の言い訳をしているような気分だった。
「この子でいいんじゃない? パソコン使ったら写真くらいすぐに手に入るんだし」
雑誌には妹と同じくらいの年頃のココという名前のモデルが載っていた。
西洋の人形のような、フリルがたくさんついた洋服を着ていた。
「何、この服」
「ロリータじゃないの。よく知らないけど」
「こういうの着てみたいと思ったりする?」
「全然」
モデルが着ている服の値段に、ぼくは絶句した。
「なんでこんなに高いんだ、これ」
軽く十万を越えていた。
「あーもう、そんなこと麻衣になんか聞かずにパソコンで調べたらいいのに」
妹は不機嫌だった。
バスルームで自動湯はりが終了したことを告げるアラーム音が鳴った。
「お風呂沸いたみたい。服脱ぐからあっちいって」
妹は言い終えるより先にセーラーをベッドに脱ぎ捨てた。
「ここ、ぼくの部屋なんだけど」
「うるさい」
ぼくは妹の裸を見ないように布団を被った。
妹が部屋を出て行った後で、ぼくは布団からもぞもぞと顔を出した。
セーラー服が脱ぎ捨てられている。本当にここで脱いでいったのだ。
机の上に開かれたままの雑誌に手を伸ばす。
ロリ服、か。
ぼくは起き上がり、クローゼットを開いた。
中に入ってるロリ服は、先ほどぼくが値段に絶句したものと同じに見える。
エミリーテンプルキュート、というブランドのものだと雑誌を見てわかったが、クローゼットの中のそれはブランド名がわからないようにモザイクがかかっており、相変わらず写真から切り抜いたような違和感があった。
「どうしたものかな」
カントリーマアムを食べながら妹が札束を数えている。妹が数えているのは福沢諭吉だ。
ぼくは五千円札と夏目漱石、それから紫式部を担当した。五千円札の男はいつも名前がわからない。
十枚数えたら十枚目で九枚を挟み、十万の束をひとつ作る。そのたびに妹はカントリーマアムをひとつ食べた。
ぼくが袋に手を伸ばすと叩かれてしまった。
カントリーマアムはあっという間になくなり、結局ぼくは妹の食べかけをひとつもらっただけだった。
「太るよ」
「カントリーマアムで太るなら本望だもん」
一束十万の札束が109束。
それ以外の札束が815万円分。
1824万円あった。
「で、これ、一体どうしたの?」
数え終えた妹が不審そうにそう聞いて、はっと気付いたようにテレビをつけた。
リモコンが見当たらず、テレビ本体でチャンネルを変える。
首相年金問題の争点化けん制、男性患者が女性看護師を刺す、高1の3人が山陽道の車に投石、練習試合で俊輔60分間プレー、カブスのバッテリーが殴り合い、松本監督あいさつ照れっぱなし、「20歳イヤ」長澤まさみ泣く、そんなニュースが紹介されていた。
「銀行強盗とかじゃないから」
そう言ったけれど妹はぼくの机の引き出しに手を伸ばした。
そこには新聞紙にくるまれた拳銃が入っている。弾は六発。リボルバーからは取り出してある。
そういえばリモコンを一週間程見ていないということにぼくは気付いた。携帯電話も最後に見たのはいつだったろう。
汚い部屋だ。
「じゃ何よ、このお金」
新聞紙にくるまった弾の入っていない拳銃を握り、
「それにこの拳銃は何よ」
銃口をぼくに向けた。
ぼくは部屋の至るところにあるガラクタを指差す。
「これとかあれとかそれとおんなじだよ。朝起きたらあったんだ」
ペコちゃんが頭の足りなそうな顔でぼくを見ていた。ロリ服を着たマネキンが居心地悪そうにしている。蛙のマスコットはさっき妹がつまづいて首がとれてそのままだ。
「なんでマネ子がエミキュ着てるの?」
エミリーテンプルキュートの略らしい。
「その服も昨日朝起きたらあったんだよ」
妹はまたため息をついた。
「また夢遊病?」
夢から持ち帰ってきたんだ、と言おうとしたけどやめておいた。
「わかんない」
妹の助言の通り、ぼくは昨夜いい夢を見る方法を試してみた。
枕の下に好きな子の写真を敷いて眠るとその子の夢を見れる、というやつだ。
好きな子の写真の代わりに、ぼくは別の写真を枕の下に敷くことにした。
古いテレビ情報誌の見開きの広告ページを開く。
持ってるだけでお金がざっくざっく入ってくるという、龍の刺繍の入った金の財布。六万円。
「持ってるだけでお金が入ってくるなんてそんなうまい話があるわけがないと思ってたんです」
どうせやらせなんだろうけれど、いかにも成金といった感じの家族が札束風呂に入って悦に入っている、人はここまで醜くなれるという見本のような写真だった。
そしてぼくは夢を見た。
目が覚めたら1824万もの大金を手にしていたというわけだ。
説明するのも何だか馬鹿馬鹿しい。
「使えるのかな、このお金」
中心にちゃんと透かしは入っている。
本物と見比べてみても印刷の具合や大きさが違うということもない。
部屋の自販機では使えたから、偽札ではないのだろうけれど、そもそもこの自販機からして怪しいのだからあてにならない。
紙幣番号にモザイクがかかってるのが厄介だ。
相変わらず切って張り付けたような違和感もある。
「何かほしいものある?」
ぼくは妹にそう言った。
妹は相変わらず元気がなく、昨夜のようにすべてを見透かしたような笑顔もしてはいなかった。
「どうかしたの?」
「なんでもないよ」
作り笑顔ではぐらかされた。
妹の写真がすべて、携帯からもアルバムからも紛失していることを妹は知っているだろうか。
聞けなかった。
昨夜も夢を見なかった。
たてこもり犯の佐野がぼくと同じなら、ぼくも何かをなくしているのだろうか。
部屋は散らかって足の踏み場もなく、何がなくなってしまったのか確認することさえできない。
ぼくと妹は爪先立ちで移動した。
「なんかすごい部屋になってきたね。自販機は便利だけど」
妹は財布から小銭を出してポカリスウェットを買った。喉がかわいていたのか、ペットボトルの半分を一気に飲んだ。
夏服のセーラーが濡れている。
雨が降っていたのか、と、ぼくは言った。
「朝からだよ」
朝かららしい。
妹はため息をついた。体をぶるぶるっと震わせて両手で半袖から伸びた両腕を抱き締める。
「寒い……」
「風邪ひくよ。着替えてきなよ」
いつのまにか衣替えの季節になっていたのだ。どうりで蒸し暑いはずだ。梅雨入りはもうしたのだろうか。たてこもりはまだ続いている。
「いいの」
妹は言った。
「麻衣が風邪をひいたらお兄ちゃん看病してくれるでしょ?」
いつもの妹だ。
「電話ボックスはいらないなぁ。これもいらない。あれもいらないね。マネキンなんか特にいらない」
文句を言いながらぼくのベッドに腰かける。シーツが濡れた。
「捨てたらいいのに」
「捨てられないんだ。捨てても戻ってくる」
「……机の引き出しの中のもそう?」
シーツの染みが次第に大きくなる。
「拳銃が入ってるよね」
今日も雨が降っている。
今からこんな様子じゃ梅雨が思いやられる。
「今日も刑事さんが外にいたよ」
帰ってきた妹にそう告げられ、ぼくは窓の下を見た。
例の二人組がぼくの部屋をじっと見ていた。さしずめぼくは行方不明事件の次の被害者候補であり、容疑者、といったところなのだろう。
刑事は傘もさしていなかった。
「中に入ってもらう?」
妹が言った。
「いいよ。雨に濡れるのが仕事なんだよ」
ぼくはカーテンを閉めた。
――四ヶ月前に、お父さん、なくなってますね?
なんでも階段から転げ落ちたとか。
お母さんのことも妹さんから聞きました。行方がわからないそうですね。
男の人といっしょにいるからだいじょうぶ、という話だそうですが。
お母さんは後妻で妹さんは連れ子なんでしょう?
ご近所の方から聞きました。
あなた、新しいお母さんとうまくいってなかったそうですね。
妹よりも白い、というよりは青白い腕で、濡れた妹を抱き締めながらぼくは刑事の言葉を思い出していた。
「実は私どもはあなたを疑っているんですよ」
「ねぇ宿題、手伝って」
妹はそう言ってぼくにプリントを差し出す。
日本史のプリントだ。
ぼくはそれを受けとり机の上に広げた。
「いい夢を見る方法?」
妹は雑誌から顔を上げず、ぼくの質問を反復した。
拳銃の出現以来、ぼくを悩ませる一連の妙な出来事は、どうやら夢に関係しているらしい。
そして佐野というたてこもり犯の独白によれば、夢を見なければ大切なものをひとつずつ失うというのだ。
ありえない話だけれど、現実に起きている。
父の死や母の失踪は関係ないだろうけれど、部屋にはがらくたがあふれ、同級生は行方不明になった。妹の写真も消えた。
わかっていることはほとんどないに等しいけれど、今はただ夢を見よう。
夢を見続ければがらくたは増えるけれど何も失わずにすむ。
ぼくはそう考えていた。
妹が見ていたのはローティーン向けのファッション雑誌だった。
ラブ&ベリーの小学生みたいな格好をしてるくせに、とぼくは思う。
中学三年になる妹は、背が小さく幼児体型で童顔で、いまだに小学生に間違われる。
身長はたぶん150センチないだろう。
ぼくも背が低く163センチしかないのだけれど。
「今幸せな人は不幸な夢を見るって聞いたことがあるよ。逆に不幸な人は幸せな夢を見るんだって」
ページをめくりながらそう言った。
「お兄ちゃん、今幸せでしょ? だから不幸な夢しか見ないんじゃない?」
いじわるそうに笑った。
「あとは――枕の下に好きな人の写真を置いて寝ると、その人の夢が見れるんだって聞いたことあるかも。好きな子がいるなら試してみたら?」
「好きな子なんて、いないよ」
「うそつき。こないだ行方不明になった子は何よ」
「あれは、昔の話だよ」
なんだか浮気の言い訳をしているような気分だった。
「この子でいいんじゃない? パソコン使ったら写真くらいすぐに手に入るんだし」
雑誌には妹と同じくらいの年頃のココという名前のモデルが載っていた。
西洋の人形のような、フリルがたくさんついた洋服を着ていた。
「何、この服」
「ロリータじゃないの。よく知らないけど」
「こういうの着てみたいと思ったりする?」
「全然」
モデルが着ている服の値段に、ぼくは絶句した。
「なんでこんなに高いんだ、これ」
軽く十万を越えていた。
「あーもう、そんなこと麻衣になんか聞かずにパソコンで調べたらいいのに」
妹は不機嫌だった。
バスルームで自動湯はりが終了したことを告げるアラーム音が鳴った。
「お風呂沸いたみたい。服脱ぐからあっちいって」
妹は言い終えるより先にセーラーをベッドに脱ぎ捨てた。
「ここ、ぼくの部屋なんだけど」
「うるさい」
ぼくは妹の裸を見ないように布団を被った。
妹が部屋を出て行った後で、ぼくは布団からもぞもぞと顔を出した。
セーラー服が脱ぎ捨てられている。本当にここで脱いでいったのだ。
机の上に開かれたままの雑誌に手を伸ばす。
ロリ服、か。
ぼくは起き上がり、クローゼットを開いた。
中に入ってるロリ服は、先ほどぼくが値段に絶句したものと同じに見える。
エミリーテンプルキュート、というブランドのものだと雑誌を見てわかったが、クローゼットの中のそれはブランド名がわからないようにモザイクがかかっており、相変わらず写真から切り抜いたような違和感があった。
「どうしたものかな」
カントリーマアムを食べながら妹が札束を数えている。妹が数えているのは福沢諭吉だ。
ぼくは五千円札と夏目漱石、それから紫式部を担当した。五千円札の男はいつも名前がわからない。
十枚数えたら十枚目で九枚を挟み、十万の束をひとつ作る。そのたびに妹はカントリーマアムをひとつ食べた。
ぼくが袋に手を伸ばすと叩かれてしまった。
カントリーマアムはあっという間になくなり、結局ぼくは妹の食べかけをひとつもらっただけだった。
「太るよ」
「カントリーマアムで太るなら本望だもん」
一束十万の札束が109束。
それ以外の札束が815万円分。
1824万円あった。
「で、これ、一体どうしたの?」
数え終えた妹が不審そうにそう聞いて、はっと気付いたようにテレビをつけた。
リモコンが見当たらず、テレビ本体でチャンネルを変える。
首相年金問題の争点化けん制、男性患者が女性看護師を刺す、高1の3人が山陽道の車に投石、練習試合で俊輔60分間プレー、カブスのバッテリーが殴り合い、松本監督あいさつ照れっぱなし、「20歳イヤ」長澤まさみ泣く、そんなニュースが紹介されていた。
「銀行強盗とかじゃないから」
そう言ったけれど妹はぼくの机の引き出しに手を伸ばした。
そこには新聞紙にくるまれた拳銃が入っている。弾は六発。リボルバーからは取り出してある。
そういえばリモコンを一週間程見ていないということにぼくは気付いた。携帯電話も最後に見たのはいつだったろう。
汚い部屋だ。
「じゃ何よ、このお金」
新聞紙にくるまった弾の入っていない拳銃を握り、
「それにこの拳銃は何よ」
銃口をぼくに向けた。
ぼくは部屋の至るところにあるガラクタを指差す。
「これとかあれとかそれとおんなじだよ。朝起きたらあったんだ」
ペコちゃんが頭の足りなそうな顔でぼくを見ていた。ロリ服を着たマネキンが居心地悪そうにしている。蛙のマスコットはさっき妹がつまづいて首がとれてそのままだ。
「なんでマネ子がエミキュ着てるの?」
エミリーテンプルキュートの略らしい。
「その服も昨日朝起きたらあったんだよ」
妹はまたため息をついた。
「また夢遊病?」
夢から持ち帰ってきたんだ、と言おうとしたけどやめておいた。
「わかんない」
妹の助言の通り、ぼくは昨夜いい夢を見る方法を試してみた。
枕の下に好きな子の写真を敷いて眠るとその子の夢を見れる、というやつだ。
好きな子の写真の代わりに、ぼくは別の写真を枕の下に敷くことにした。
古いテレビ情報誌の見開きの広告ページを開く。
持ってるだけでお金がざっくざっく入ってくるという、龍の刺繍の入った金の財布。六万円。
「持ってるだけでお金が入ってくるなんてそんなうまい話があるわけがないと思ってたんです」
どうせやらせなんだろうけれど、いかにも成金といった感じの家族が札束風呂に入って悦に入っている、人はここまで醜くなれるという見本のような写真だった。
そしてぼくは夢を見た。
目が覚めたら1824万もの大金を手にしていたというわけだ。
説明するのも何だか馬鹿馬鹿しい。
「使えるのかな、このお金」
中心にちゃんと透かしは入っている。
本物と見比べてみても印刷の具合や大きさが違うということもない。
部屋の自販機では使えたから、偽札ではないのだろうけれど、そもそもこの自販機からして怪しいのだからあてにならない。
紙幣番号にモザイクがかかってるのが厄介だ。
相変わらず切って張り付けたような違和感もある。
「何かほしいものある?」
ぼくは妹にそう言った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
人の目嫌い/人嫌い
木月 くろい
ホラー
ひと気の無くなった放課後の学校で、三谷藤若菜(みやふじわかな)は声を掛けられる。若菜は驚いた。自分の名を呼ばれるなど、有り得ないことだったからだ。
◆2020年4月に小説家になろう様にて玄乃光名義で掲載したホラー短編『Scopophobia』を修正し、続きを書いたものになります。
◆やや残酷描写があります。
◆小説家になろう様に同名の作品を同時掲載しています。
逢魔ヶ刻の迷い子2
naomikoryo
ホラー
——それは、封印された記憶を呼び覚ます夜の探索。
夏休みのある夜、中学二年生の六人は学校に伝わる七不思議の真相を確かめるため、旧校舎へと足を踏み入れた。
静まり返った廊下、誰もいないはずの音楽室から響くピアノの音、職員室の鏡に映る“もう一人の自分”——。
次々と彼らを襲う怪異は、単なる噂ではなかった。
そして、最後の七不思議**「深夜の花壇の少女」**が示す先には、**学校に隠された“ある真実”**が眠っていた——。
「恐怖」は、彼らを閉じ込めるために存在するのか。
それとも、何かを伝えるために存在しているのか。
七つの怪談が絡み合いながら、次第に明かされる“過去”と“真相”。
ただの怪談が、いつしか“真実”へと変わる時——。
あなたは、この夜を無事に終えることができるだろうか?
オカルティック・アンダーワールド
アキラカ
ホラー
とある出版社で編集者として働く冴えないアラサー男子・三枝は、ある日突然学術雑誌の編集部から社内地下に存在するオカルト雑誌アガルタ編集部への異動辞令が出る。そこで三枝はライター兼見習い編集者として雇われている一人の高校生アルバイト・史(ふひと)と出会う。三枝はオカルトへの造詣が皆無な為、異動したその日に名目上史の教育係として史が担当する記事の取材へと駆り出されるのだった。しかしそこで待ち受けていたのは数々の心霊現象と怪奇な事件で有名な幽霊団地。そしてそこに住む奇妙な住人と不気味な出来事、徐々に襲われる恐怖体験に次から次へと巻き込まれてゆくのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
トゴウ様
真霜ナオ
ホラー
MyTube(マイチューブ)配信者として伸び悩んでいたユージは、配信仲間と共に都市伝説を試すこととなる。
「トゴウ様」と呼ばれるそれは、とある条件をクリアすれば、どんな願いも叶えてくれるというのだ。
「動画をバズらせたい」という願いを叶えるため、配信仲間と共に廃校を訪れた。
霊的なものは信じないユージだが、そこで仲間の一人が不審死を遂げてしまう。
トゴウ様の呪いを恐れて儀式を中断しようとするも、ルールを破れば全員が呪い殺されてしまうと知る。
誰も予想していなかった、逃れられない恐怖の始まりだった。
「第5回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
他サイト様にも投稿しています。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる