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第57話「西日野亜美」⑥ 加筆修正版

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 N駅は、ZRやN鉄、市営地下鉄をはじめ、様々な鉄道会社が交差している。
 俺の地元のY市に向かうにはK鉄とN鉄があるが、K鉄の方が圧倒的に本数が多く利用しやすい。

「迷子にならないように、ちゃんと握ってて」

 俺は亜美の手を握ると、

「わたし、今、手汗いっぱいかいてるから恥ずかしい」

「俺の方がもっとかいてるから大丈夫だ」

 お互いにそんなことを言って、ふたりとも顔を真っ赤にしながらK鉄に向かった。

 いつもとは違い、すれ違う人々の視線が妙に気になった。
 初デート感が全開に出てるからか? とも思ったが、どうやらそうではないらしかった。

 皆、亜美ばかりを見ていたからだ。
 改めて彼女の顔や服装を見て、俺は彼女が俺の理想のヒロインであるピノアのイメージ通りの女の子というだけではなかったことに気づいた。
 昨晩テレビで放送されていた実写版「かぐや姫に振られたい」のヒロイン役を演じていた、千年にひとりの美少女・橋本円環(はしもと まどか)に、顔も髪型も、セーラー服っぽいパーカーやスカートまで何もかもそっくりだったからだ。
 おそらく珠莉が狙って彼女に着させたのだろうが、それにしてもどうして今まで気づかなかったのだろう。親バカならぬピノアバカになっていたからだろうか。

「みんな、章くんばかり見てる」

 だが亜美は俺が考えていたことと真逆のことを言った。

「俺にはみんな亜美ばかり見てるように見えるんだが」

「男の人は確かにそんな感じね。でも女の人は章くんばかり見てるわ」

 それが本当だとしたら、元々須田将利似の顔をしていた俺が、妹のせいでさらに須田将利に寄せていくような服しか持っていなかったからかもしれない。

 あれ? じゃあ今の俺たちは端から見たら、実写版「銅魂」の新七と可楽を演じたふたりがプライベートで手を繋いで歩いてるみたいってこと?
 なんで銅さん役の大栗旬くん似のヤツいないんだよ。いや、いたらいたで邪魔なんだけど。あえて、いろ。

 キヅイセの主人公のレンジは俺に似ているという裏設定があるから、あの作品が実写映画になるときは是非とも須田将利くんと橋本円環ちゃんに、レンジ役とピノア役をお願いしたいものだ。
 円環ちゃんにはお姉ちゃんの凛音(りんね)ちゃんがいるから、きっとステラ役がぴったりだろう。
 監督も銅魂の福田雄雌監督がいいか……いや、背景がギャラクシーウォーズ並みにほとんどCGになるだろうから山崎貴一監督の方がいいかもしれない。原作へのリスペクトが常に感じられる小友啓志監督も捨てがたい……

 あ、素人の悪い癖だ、これ。
 アニメ化どころか書籍化すら決まってないのに、声優は誰がいいかとか、製作会社はどこがいいかとか考えちゃうよね。実写化したときのことまで考えちゃうよね。
 ちなみに俺は、実写化には結構肯定的なオタクです。だってどんなに失敗したとしても、ハリウッド版のドラゴンセブンボールズよりひどいものが出来ることはないから。


「Y駅までの切符はいくら?」

 彼女の分の切符はすでに買っていたから、俺はポケットから取り出して渡した。
 彼女はそれを受け取ると、

「残念。地下鉄は珠莉のSusucaだったから、生まれてはじめて切符を買えるって楽しみにしてたのに」

 でもありがとう、と言った。
 K鉄でもSusucaは使えるから、どちらにせよ切符はいらなかったわけだが、

「まさかとは思うが、一回も電車の切符を買ったことがないわけじゃないよな?」

 はじめてっていうのは、K鉄の切符を、って意味だよな?

「え? 一度もないけど?」

 ですよね!
 あなたの地元じゃSusucaの普及もきっと早かったでしょうしね! 

「電車自体数えるほどしか乗ったことないもの。数えるまでもないくらい」

 高校は自転車通学だったとしても、C県の実家から都内の出版社に顔を出すときとかどうしていたのだろう。
 全部電話やネットで済ませていたのだろうか。

 俺には彼女がこれまでどうやって生きてこられたのか不思議でならなかった。

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