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第55話「西日野亜美」④ 加筆修正版
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「じ、実はわたし、さらば文学賞を頂いた3年前にライトノベルの賞をとってて……あ、はい、同じ集米社さんです。
まだ中学2年のときなんですけど、ひのにし みあってペンネームで本も出させてもらってて……
全然売れなくて、すぐにそのときの担当さんと連絡がつかなくなって……
パソコンの中に当時書いてた続きが8冊分残ってたから、当時のペンネームか、破魔矢梨沙以外のペンネームで、当時受賞して本にしてもらった分も含めて、ネットで発表したいなって思ってるんですけど……
作品の権利ってどうなってるのかなって……」
もしかしたら、また俺は彼女に無理をさせてしまったのかもしれない。
亜美は電話を切ると、
「なんか、すごくびっくりしてた。あと、よくわからないけど怒ってた」
と言った。
「俺の思いつきで、また面倒なことさせちゃってごめん」
まさか彼女が怒られるとは思わなかった。悪いことをしてしまった。
「あ、ちがうの。今の担当さんが怒ってたのは、そのときの担当さんに対して。
5年も前にわたしを見つけてたなら、どうして受賞作だけ本にして、そのあとほったらかしてたんだって」
それは俺も思う。マジで思う。バカなんじゃないのって思う。
「でも、そのおかげで破魔矢梨沙がうまれたわけだろ?」
「そうなんだけどね。
今の担当さん、わたしのこと娘みたいに思ってるところあるから。わたしがA県の大学に行くって言ってときなんか、うちの親より泣いてた」
ま、ベテランの編集者さんで男の人だったら40過ぎくらいだろうから、こんなにかわいい作家の担当をしてたら、そうなるだろうな、と思った。
電話はすぐに折り返しかかってきた。
「ネットで発表してもいいって。
ちゃんと集米社の許可済みであることと、別のペンネームにする場合は『ひのにし みあ』と同一人物だって書いたらいいみたい」
つまりは、とりにくチキンとして発表してもいいというわけだ。
「破魔矢梨沙の名前は伏せたままでいいんだな?」
「ええ。ひのにし みあがとりにくチキンだってことになれば、破魔矢梨沙だとバレることはまずなさそうね。
それと、どこかの出版社から書籍化の声がかかってきたときは真っ先に教えてって。そのときはデビルエクスマキナだけは集米社から改めて出させてほしいって言ってた」
その担当さんもまさか、破魔矢梨沙がすでに別の名前で別のラノベを書いているとは思わなかったのだろう。
知っていたならキヅイセも確保したことだろう。
「あと、ラノベの編集部にまだそのときの担当さんがいたみたい。
あいつには二度と小説の編集の仕事はさせないようにしてやるってめちゃくちゃ怒ってた」
亜美が嬉しそうに話していたのは、デビルエクスマキナをネットで発表してもいいと言われたからだろうか。
それとも当時の担当が編集部から外されるかもしれないということだろうか。
俺はまたひとつ彼女の知らない一面を知ったような気がした。
とりにくチキンは、この週末から「キヅイセ」と「デビルエクスマキナ」の二作品を同時に連載することになった。
デビルエクスマキナは、
「不治の病で死にかけていた俺は、機械仕掛けの体と悪魔の力を手に入れた代わりに機械仕掛けの神々と戦うことになった」
に改題された。略してフジキカだ。
「本作品の第1部は、2016年10月9日に集米社ライト文庫より刊行された『デビルエクスマキナ』と同一の内容であり、集米社の許可を得て公開しています。
なお、『とりにくチキン』はデビルエクスマキナの作者『ひのにし みあ』と同一人物です」
という注意書もつき、ネットに数百人ほどいたレアでコアなひのにし みあファンを大いに喜ばせることになる。
そして、その週末、俺と亜美はN駅の有名な待ち合わせスポットである時計台の前で待ち合わせていた。
珠莉から、亜美は地下鉄に乗ってN駅までいくことはできるが、別の電車に乗り換えることは無理だと言われたため、N駅まで俺が迎えにいくことになったのだ。
まだ中学2年のときなんですけど、ひのにし みあってペンネームで本も出させてもらってて……
全然売れなくて、すぐにそのときの担当さんと連絡がつかなくなって……
パソコンの中に当時書いてた続きが8冊分残ってたから、当時のペンネームか、破魔矢梨沙以外のペンネームで、当時受賞して本にしてもらった分も含めて、ネットで発表したいなって思ってるんですけど……
作品の権利ってどうなってるのかなって……」
もしかしたら、また俺は彼女に無理をさせてしまったのかもしれない。
亜美は電話を切ると、
「なんか、すごくびっくりしてた。あと、よくわからないけど怒ってた」
と言った。
「俺の思いつきで、また面倒なことさせちゃってごめん」
まさか彼女が怒られるとは思わなかった。悪いことをしてしまった。
「あ、ちがうの。今の担当さんが怒ってたのは、そのときの担当さんに対して。
5年も前にわたしを見つけてたなら、どうして受賞作だけ本にして、そのあとほったらかしてたんだって」
それは俺も思う。マジで思う。バカなんじゃないのって思う。
「でも、そのおかげで破魔矢梨沙がうまれたわけだろ?」
「そうなんだけどね。
今の担当さん、わたしのこと娘みたいに思ってるところあるから。わたしがA県の大学に行くって言ってときなんか、うちの親より泣いてた」
ま、ベテランの編集者さんで男の人だったら40過ぎくらいだろうから、こんなにかわいい作家の担当をしてたら、そうなるだろうな、と思った。
電話はすぐに折り返しかかってきた。
「ネットで発表してもいいって。
ちゃんと集米社の許可済みであることと、別のペンネームにする場合は『ひのにし みあ』と同一人物だって書いたらいいみたい」
つまりは、とりにくチキンとして発表してもいいというわけだ。
「破魔矢梨沙の名前は伏せたままでいいんだな?」
「ええ。ひのにし みあがとりにくチキンだってことになれば、破魔矢梨沙だとバレることはまずなさそうね。
それと、どこかの出版社から書籍化の声がかかってきたときは真っ先に教えてって。そのときはデビルエクスマキナだけは集米社から改めて出させてほしいって言ってた」
その担当さんもまさか、破魔矢梨沙がすでに別の名前で別のラノベを書いているとは思わなかったのだろう。
知っていたならキヅイセも確保したことだろう。
「あと、ラノベの編集部にまだそのときの担当さんがいたみたい。
あいつには二度と小説の編集の仕事はさせないようにしてやるってめちゃくちゃ怒ってた」
亜美が嬉しそうに話していたのは、デビルエクスマキナをネットで発表してもいいと言われたからだろうか。
それとも当時の担当が編集部から外されるかもしれないということだろうか。
俺はまたひとつ彼女の知らない一面を知ったような気がした。
とりにくチキンは、この週末から「キヅイセ」と「デビルエクスマキナ」の二作品を同時に連載することになった。
デビルエクスマキナは、
「不治の病で死にかけていた俺は、機械仕掛けの体と悪魔の力を手に入れた代わりに機械仕掛けの神々と戦うことになった」
に改題された。略してフジキカだ。
「本作品の第1部は、2016年10月9日に集米社ライト文庫より刊行された『デビルエクスマキナ』と同一の内容であり、集米社の許可を得て公開しています。
なお、『とりにくチキン』はデビルエクスマキナの作者『ひのにし みあ』と同一人物です」
という注意書もつき、ネットに数百人ほどいたレアでコアなひのにし みあファンを大いに喜ばせることになる。
そして、その週末、俺と亜美はN駅の有名な待ち合わせスポットである時計台の前で待ち合わせていた。
珠莉から、亜美は地下鉄に乗ってN駅までいくことはできるが、別の電車に乗り換えることは無理だと言われたため、N駅まで俺が迎えにいくことになったのだ。
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