上 下
55 / 61

第55話「西日野亜美」④ 加筆修正版

しおりを挟む
「じ、実はわたし、さらば文学賞を頂いた3年前にライトノベルの賞をとってて……あ、はい、同じ集米社さんです。
 まだ中学2年のときなんですけど、ひのにし みあってペンネームで本も出させてもらってて……
 全然売れなくて、すぐにそのときの担当さんと連絡がつかなくなって……
 パソコンの中に当時書いてた続きが8冊分残ってたから、当時のペンネームか、破魔矢梨沙以外のペンネームで、当時受賞して本にしてもらった分も含めて、ネットで発表したいなって思ってるんですけど……
 作品の権利ってどうなってるのかなって……」

 もしかしたら、また俺は彼女に無理をさせてしまったのかもしれない。
 亜美は電話を切ると、

「なんか、すごくびっくりしてた。あと、よくわからないけど怒ってた」

 と言った。

「俺の思いつきで、また面倒なことさせちゃってごめん」

 まさか彼女が怒られるとは思わなかった。悪いことをしてしまった。

「あ、ちがうの。今の担当さんが怒ってたのは、そのときの担当さんに対して。
 5年も前にわたしを見つけてたなら、どうして受賞作だけ本にして、そのあとほったらかしてたんだって」

 それは俺も思う。マジで思う。バカなんじゃないのって思う。

「でも、そのおかげで破魔矢梨沙がうまれたわけだろ?」

「そうなんだけどね。
 今の担当さん、わたしのこと娘みたいに思ってるところあるから。わたしがA県の大学に行くって言ってときなんか、うちの親より泣いてた」

 ま、ベテランの編集者さんで男の人だったら40過ぎくらいだろうから、こんなにかわいい作家の担当をしてたら、そうなるだろうな、と思った。

 電話はすぐに折り返しかかってきた。

「ネットで発表してもいいって。
 ちゃんと集米社の許可済みであることと、別のペンネームにする場合は『ひのにし みあ』と同一人物だって書いたらいいみたい」

 つまりは、とりにくチキンとして発表してもいいというわけだ。

「破魔矢梨沙の名前は伏せたままでいいんだな?」

「ええ。ひのにし みあがとりにくチキンだってことになれば、破魔矢梨沙だとバレることはまずなさそうね。
 それと、どこかの出版社から書籍化の声がかかってきたときは真っ先に教えてって。そのときはデビルエクスマキナだけは集米社から改めて出させてほしいって言ってた」

 その担当さんもまさか、破魔矢梨沙がすでに別の名前で別のラノベを書いているとは思わなかったのだろう。
 知っていたならキヅイセも確保したことだろう。

「あと、ラノベの編集部にまだそのときの担当さんがいたみたい。
 あいつには二度と小説の編集の仕事はさせないようにしてやるってめちゃくちゃ怒ってた」

 亜美が嬉しそうに話していたのは、デビルエクスマキナをネットで発表してもいいと言われたからだろうか。
 それとも当時の担当が編集部から外されるかもしれないということだろうか。
 俺はまたひとつ彼女の知らない一面を知ったような気がした。

 とりにくチキンは、この週末から「キヅイセ」と「デビルエクスマキナ」の二作品を同時に連載することになった。
 デビルエクスマキナは、
「不治の病で死にかけていた俺は、機械仕掛けの体と悪魔の力を手に入れた代わりに機械仕掛けの神々と戦うことになった」
 に改題された。略してフジキカだ。

「本作品の第1部は、2016年10月9日に集米社ライト文庫より刊行された『デビルエクスマキナ』と同一の内容であり、集米社の許可を得て公開しています。
 なお、『とりにくチキン』はデビルエクスマキナの作者『ひのにし みあ』と同一人物です」

 という注意書もつき、ネットに数百人ほどいたレアでコアなひのにし みあファンを大いに喜ばせることになる。


 そして、その週末、俺と亜美はN駅の有名な待ち合わせスポットである時計台の前で待ち合わせていた。

 珠莉から、亜美は地下鉄に乗ってN駅までいくことはできるが、別の電車に乗り換えることは無理だと言われたため、N駅まで俺が迎えにいくことになったのだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

愛しくない、あなた

野村にれ
恋愛
結婚式を八日後に控えたアイルーンは、婚約者に番が見付かり、 結婚式はおろか、婚約も白紙になった。 行き場のなくした思いを抱えたまま、 今度はアイルーンが竜帝国のディオエル皇帝の番だと言われ、 妃になって欲しいと願われることに。 周りは落ち込むアイルーンを愛してくれる人が見付かった、 これが運命だったのだと喜んでいたが、 竜帝国にアイルーンの居場所などなかった。

ようこそ!アニマル商店街へ~愛犬べぇの今日思ったこと~

歩く、歩く。
キャラ文芸
 皆さん初めまして、私はゴールデンレトリバーのべぇと申します。今年で五歳を迎えました。  本日はようこそ、当商店街へとお越しいただきました。主人ともども心から歓迎いたします。  私の住まいは、東京都某市に造られた大型商業地区、「アニマル商店街」。  ここには私を始め、多くの動物達が放し飼いにされていて、各々が自由にのびのびと過ごしています。なんでも、「人と動物が共生できる環境」を目指して造られた都市計画だそうですね。私は犬なのでよくわからないのですが。  私の趣味は、お散歩です。いつもアメリカンショートヘアーのちゃこさんさんと一緒に、商店街を回っては、沢山の動物さん達とお話するのが私の日常です。色んな動物さん達と過ごす日々は、私にとって大事な大事な時間なのです。  さて、今日はどんな動物さんと出会えるのでしょうか。

【完結】龍神の生贄

高瀬船
キャラ文芸
何の能力も持たない湖里 緋色(こさと ひいろ)は、まるで存在しない者、里の恥だと言われ過ごして来た。 里に住む者は皆、不思議な力「霊力」を持って生まれる。 緋色は里で唯一霊力を持たない人間。 「名無し」と呼ばれ蔑まれ、嘲りを受ける毎日だった。 だが、ある日帝都から一人の男性が里にやって来る。 その男性はある目的があってやって来たようで…… 虐げられる事に慣れてしまった緋色は、里にやって来た男性と出会い少しずつ笑顔を取り戻して行く。 【本編完結致しました。今後は番外編を更新予定です】

梅子ばあちゃんのゆったりカフェヘようこそ!(東京都下の高尾の片隅で)

なかじまあゆこ
キャラ文芸
『梅子ばあちゃんのカフェへようこそ!』は梅子おばあちゃんの作る美味しい料理で賑わっています。そんなカフェに就職活動に失敗した孫のるり子が住み込みで働くことになって……。 おばあちゃんの家には変わり者の親戚が住んでいてるり子は戸惑いますが、そのうち馴れてきて溶け込んでいきます。 カフェとるり子と個性的な南橋一家の日常と時々ご当地物語です。 どうぞよろしくお願いします(^-^)/ エブリスタでも書いています。

処理中です...